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第06話 それは善意のお手伝い
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王都に戻ってきたスナーチェは叔母のいるゼスト公爵家へ挨拶に出向いた。
「まぁ、スナーチェ。すっかり大人になったわね」
「叔母様、ご無沙汰をしておりました」
「婚約したそうね。おめでとう。ムウトン伯爵家だったわね。貴女は良かったの?」
「これで父の肩の荷も下りたかしら。貴族の娘として当然ですわ」
「相変わらずの物言いね。気をつけなさいな」
やんわりと注意をするゼスト公爵夫人にスナーチェは笑って言った。
「叔母様?今はサバサバ系女子が持て囃される時代ですのよ?」
面倒な事にスナーチェは【自称サバサバ系女子】と成長してしまっていた。
ゼスト公爵夫人は格下に嫁ぐ事ではなく、知らぬ者はいないというフェルメルが夫だと言う事に年頃の女性としてどうなのか。と思ったのだ。
選民思考は薄くても、女性として見た目はやはり気になる。仕方のない事だ。
「叔母様もまだスカッドやスペリアーズのお相手探しは大変でしょう?」
10歳になる少し前に王都を出たスナーチェはありし日の2人を思い浮かべる。
同じ年のスカッド。7歳のスペリアーズ。記憶の中の2人はまだ子供だった。
「母上、お客様ですか?」
夫人と話をしている所に王宮で大臣を務める父ゼスト公爵の補佐をし始めた14歳の次男スペリアーズが帰宅し声を掛けた。
スペリアーズはお世辞にも美丈夫・・・とは言えないが、父親の公爵によく似た強面。
ただ、顔は強面だが体躯は細めで騎士向きではなかった。
強面でも醜男ではないスペリアーズは公爵家の後継ではないにしても、家を離れる際は伯爵家の権利を持っており家を興すため優良物件。令嬢にはよくモテる。
「アーズなの?すっかりおじさんじゃないの!?」
久しぶりの再会にスナーチェは甲高い声をあげた。
すっかりおじさんと言っても年齢はスナーチェのほうが上。
気安く話しかけるスナーチェにスペリアーズも誰なのかを認識し顔が綻んだ。
「この子はまだお相手を決めないのよ。来年はデヴュタントだというのに。書類とばかり付き合って」
「いいじゃないですか。兄上はもう安泰なんだから」
「安泰?スカッドは結婚したの?え?出来ないわよね?20歳になってないもの!」
素っ頓狂な声をあげるスナーチェに夫人は「婚約が本物になっただけ」と告げた。
スカッドがへリンと婚約をしたのはスナーチェが領地に引っ越しをした後のこと。
女の子は早熟。スナーチェはそれまで女性である従姉妹の婚約が決まる度にちょっかいを出していたので、男性の従兄弟の婚約が決まったとなれば、何をされるか判らない。
姉の婚約が決まった時ですら、姉の婚約者に家族しか知り得ない姉の痴態を暴露してしまって、あわや破談になりかけた。不貞などではなく人として生きていくなら生理的に起こる現象を語ってしまうのだ。
誰だって【お腹を壊して下痢をした状況説明】【くしゃみをしたら鼻水が勢いよく飛び出た】【放屁をした】などわざわざ知らせて欲しくはない。
姉の婚約者は「人間だからね」と寛容だったが、姉は暫く引き籠って破談にしてくれと泣いた。
スナーチェに知らせてしまってボーン子爵家に不幸の手紙でも送りつけようものなら、金を借りるための手段としたゼスト公爵家も困ってしまう。婚約当時のゼスト公爵家の事情を鑑み、誰もスナーチェに知らせなかったのだ。破談となってしまえば、もうボーン子爵家以外に巨額の貸し付けをしてくれる家は無かったのだから。
「そう・・・スカッドが・・・お相手は?まさか王女殿下?」
「いいえ。普通の貴族のお嬢さんよ。とてもいい子なの。今度の茶会で紹介するわ」
公爵夫人が「ウフフ♡」とまだスナーチェの見たことがないスカッドの相手を褒める。
婚約に至った経緯を知らないスナーチェは顔で笑って心の中では美少年だったスカッドの相手となる令嬢に小さな嫉妬心を抱いた。
奪い取ってやろう。そんな気持ちではない。
――いいなぁ。私なんかあんな醜男なのに――
恋愛対象外と言ってもスカッドは美丈夫。そんなスカッドを夫にする令嬢が羨ましかった。
そんな時。
「母上はいるか?」
廊下で声がした。正式な婚約となる為、スカッドは宝飾品店に自ら加工前の原石を見せてもらうために出向いていて帰宅をしたのだ。
サロンに顔を出したスカッドを見て、スナーチェは声にならない声をあげた。
幼少期から美少年と言われてきたが、成長し17歳となったスカッドは化粧を施した女性よりも美しかった。
切れ長の青い目。王家の血も引くからか風に吹かれればハープの音が聞こえそうな金髪。
スペリアーズとは似ていないのは母方の血を濃く引いたのか高い上背に余分なものがない肢体。足も長く何を身に纏っても絵になる。そんなスカッドに見惚れてしまった。
が、惚れたわけでは無い。スナーチェにとってスカッドもスペリアーズも従兄弟であり恋愛対象にはなり得ないのだ。
「スカッド、お客様にご挨拶が先よ」
「母上、兄上だってスナーチェ相手に今更の挨拶なんか出来ないさ」
公爵夫人の言葉をスペリアーズが打ち消すが、スカッドはスナーチェの前に来てそれは丁寧な挨拶をした。
挨拶の後、頭をあげるや否やスカッドは公爵夫人に愚痴をこぼした。
「母上、工房に出向きましたがこの時期は見合うものが採掘出来ないと」
「全く無かったの?」
「あるにはありましたが・・・不満の残る石しか無くて」
「貴方だけでは判らないと言ったでしょう?いい加減無粋なのに」
スカッドは加工する工房にまで出向いたのだが「これ」と思う石には出会えなかった。既に加工された宝石は台座に嵌められていて、手を加えれば小さくなってしまう。
何より誰も買えないような値札が付いていたとしても、人の目に晒された宝飾品をへリンに贈る事がスカッドにとっては屈辱に感じられた。
公爵夫人は一緒に行くと言ったのだが、スカッドが自分で選びたいと同行を固辞したのだ。
むくむくとスナーチェの心に「盛大な善意とちょっぴりの顕示欲」が頭を擡げた。
「スカッドは男性だからよ。宝石は実際に身に着ける側の女性の方がその価値が判るものよ?」
スカッドの贈り物選びをスナーチェは「手伝ってあげる」と手を挙げたのだった。
「まぁ、スナーチェ。すっかり大人になったわね」
「叔母様、ご無沙汰をしておりました」
「婚約したそうね。おめでとう。ムウトン伯爵家だったわね。貴女は良かったの?」
「これで父の肩の荷も下りたかしら。貴族の娘として当然ですわ」
「相変わらずの物言いね。気をつけなさいな」
やんわりと注意をするゼスト公爵夫人にスナーチェは笑って言った。
「叔母様?今はサバサバ系女子が持て囃される時代ですのよ?」
面倒な事にスナーチェは【自称サバサバ系女子】と成長してしまっていた。
ゼスト公爵夫人は格下に嫁ぐ事ではなく、知らぬ者はいないというフェルメルが夫だと言う事に年頃の女性としてどうなのか。と思ったのだ。
選民思考は薄くても、女性として見た目はやはり気になる。仕方のない事だ。
「叔母様もまだスカッドやスペリアーズのお相手探しは大変でしょう?」
10歳になる少し前に王都を出たスナーチェはありし日の2人を思い浮かべる。
同じ年のスカッド。7歳のスペリアーズ。記憶の中の2人はまだ子供だった。
「母上、お客様ですか?」
夫人と話をしている所に王宮で大臣を務める父ゼスト公爵の補佐をし始めた14歳の次男スペリアーズが帰宅し声を掛けた。
スペリアーズはお世辞にも美丈夫・・・とは言えないが、父親の公爵によく似た強面。
ただ、顔は強面だが体躯は細めで騎士向きではなかった。
強面でも醜男ではないスペリアーズは公爵家の後継ではないにしても、家を離れる際は伯爵家の権利を持っており家を興すため優良物件。令嬢にはよくモテる。
「アーズなの?すっかりおじさんじゃないの!?」
久しぶりの再会にスナーチェは甲高い声をあげた。
すっかりおじさんと言っても年齢はスナーチェのほうが上。
気安く話しかけるスナーチェにスペリアーズも誰なのかを認識し顔が綻んだ。
「この子はまだお相手を決めないのよ。来年はデヴュタントだというのに。書類とばかり付き合って」
「いいじゃないですか。兄上はもう安泰なんだから」
「安泰?スカッドは結婚したの?え?出来ないわよね?20歳になってないもの!」
素っ頓狂な声をあげるスナーチェに夫人は「婚約が本物になっただけ」と告げた。
スカッドがへリンと婚約をしたのはスナーチェが領地に引っ越しをした後のこと。
女の子は早熟。スナーチェはそれまで女性である従姉妹の婚約が決まる度にちょっかいを出していたので、男性の従兄弟の婚約が決まったとなれば、何をされるか判らない。
姉の婚約が決まった時ですら、姉の婚約者に家族しか知り得ない姉の痴態を暴露してしまって、あわや破談になりかけた。不貞などではなく人として生きていくなら生理的に起こる現象を語ってしまうのだ。
誰だって【お腹を壊して下痢をした状況説明】【くしゃみをしたら鼻水が勢いよく飛び出た】【放屁をした】などわざわざ知らせて欲しくはない。
姉の婚約者は「人間だからね」と寛容だったが、姉は暫く引き籠って破談にしてくれと泣いた。
スナーチェに知らせてしまってボーン子爵家に不幸の手紙でも送りつけようものなら、金を借りるための手段としたゼスト公爵家も困ってしまう。婚約当時のゼスト公爵家の事情を鑑み、誰もスナーチェに知らせなかったのだ。破談となってしまえば、もうボーン子爵家以外に巨額の貸し付けをしてくれる家は無かったのだから。
「そう・・・スカッドが・・・お相手は?まさか王女殿下?」
「いいえ。普通の貴族のお嬢さんよ。とてもいい子なの。今度の茶会で紹介するわ」
公爵夫人が「ウフフ♡」とまだスナーチェの見たことがないスカッドの相手を褒める。
婚約に至った経緯を知らないスナーチェは顔で笑って心の中では美少年だったスカッドの相手となる令嬢に小さな嫉妬心を抱いた。
奪い取ってやろう。そんな気持ちではない。
――いいなぁ。私なんかあんな醜男なのに――
恋愛対象外と言ってもスカッドは美丈夫。そんなスカッドを夫にする令嬢が羨ましかった。
そんな時。
「母上はいるか?」
廊下で声がした。正式な婚約となる為、スカッドは宝飾品店に自ら加工前の原石を見せてもらうために出向いていて帰宅をしたのだ。
サロンに顔を出したスカッドを見て、スナーチェは声にならない声をあげた。
幼少期から美少年と言われてきたが、成長し17歳となったスカッドは化粧を施した女性よりも美しかった。
切れ長の青い目。王家の血も引くからか風に吹かれればハープの音が聞こえそうな金髪。
スペリアーズとは似ていないのは母方の血を濃く引いたのか高い上背に余分なものがない肢体。足も長く何を身に纏っても絵になる。そんなスカッドに見惚れてしまった。
が、惚れたわけでは無い。スナーチェにとってスカッドもスペリアーズも従兄弟であり恋愛対象にはなり得ないのだ。
「スカッド、お客様にご挨拶が先よ」
「母上、兄上だってスナーチェ相手に今更の挨拶なんか出来ないさ」
公爵夫人の言葉をスペリアーズが打ち消すが、スカッドはスナーチェの前に来てそれは丁寧な挨拶をした。
挨拶の後、頭をあげるや否やスカッドは公爵夫人に愚痴をこぼした。
「母上、工房に出向きましたがこの時期は見合うものが採掘出来ないと」
「全く無かったの?」
「あるにはありましたが・・・不満の残る石しか無くて」
「貴方だけでは判らないと言ったでしょう?いい加減無粋なのに」
スカッドは加工する工房にまで出向いたのだが「これ」と思う石には出会えなかった。既に加工された宝石は台座に嵌められていて、手を加えれば小さくなってしまう。
何より誰も買えないような値札が付いていたとしても、人の目に晒された宝飾品をへリンに贈る事がスカッドにとっては屈辱に感じられた。
公爵夫人は一緒に行くと言ったのだが、スカッドが自分で選びたいと同行を固辞したのだ。
むくむくとスナーチェの心に「盛大な善意とちょっぴりの顕示欲」が頭を擡げた。
「スカッドは男性だからよ。宝石は実際に身に着ける側の女性の方がその価値が判るものよ?」
スカッドの贈り物選びをスナーチェは「手伝ってあげる」と手を挙げたのだった。
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