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第02話 過去のレティツィア④-①★境遇
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レティツィアはクラン侯爵家の次女だが母親はメイド。
所謂庶子である。
父の侯爵は、認知こそしてくれたが正妻の手前、取り分けて手を掛けてくれることはなかったし生活も敷地内にある別宅。
付けられていた使用人は高齢の下男が1人のみだった。
侯爵令嬢でありながら自分で家事全般をしなければ誰もしてくれなかった。
侯爵家で生きていくには絶対的な不可侵領域を犯さないこと。
簡単な事だ。侯爵夫人に関わらないだった。
重婚は出来ないので、同じ敷地に4つの愛人の家族が同居する奇妙な5世帯。完全なる政略結婚で侯爵とは冷え切った関係の侯爵夫人は愛人が敷地内に4人も同居している事には何も言わなかった。
過去には「私が愛されている」と侯爵夫人の元に怒鳴り込んだ愛人もいた。
『愛されているのは私よ!お気の毒様!』
意気揚々と怒鳴り込んだが、侯爵夫人は侯爵の帰宅を待って「どうなさるの?」と静かに問う。侯爵が出した結論は「子供を置いて出て行け」と愛人を追い出すことだった。
侯爵はどの口が言うと使用人の誰もが思ったが「節度のある関係」を求めているだけで、侯爵夫人と離縁する気も無ければ替えの利く愛人に肩入れする事もなかった。
家の結びつきで政略結婚をした正妻の立場は強かった。
生涯日陰の身で過ごす愛人たちには社交が出来るわけではない。社交場に出れば笑い者になるだけだ。
夫の寵愛を受けていようがそもそもで恋愛感情が無いので嫉妬する事もない。
愛人を囲う事は趣味のウサギ狩りやダーツとレベルが同じで小遣いの範囲で面倒見てやればいいと全く興味が無かった。
なにより夫の死後に財産を手にするのは正妻と正妻から生まれた子供のみ。
何人の子供を認知していようと夫は生きている間は養育出来ても亡くなってしまえば正妻が愛人や愛人の子供の面倒を見る義理はない。
勝ち組の余裕なのか。
「お好きにどうぞ」と本宅に怒鳴り込んでくれば追い出すという対応もするが基本は我関せずだった。
4人いる愛人は入れ替わりもあったがレティツィアの母親はとても美しかった。
その美しさ故に物心ついた時から男性にはちやほやされてきた。
男が自分に向かって貢物を持って来るのは当たり前だったし、「こうしたい」「あぁしたい」と言えば鼻の下を伸ばしてホイホイという事を聞いてくれるのも当たり前。
「美人って得だわ。生きてるだけで勝ち組だもの。ふふふっ」
だからこそ余計に腹立たしく思うのは実家の貧乏具合だった。
あくせくと働いて、ぺこぺこと頭を下げるなんて絶対に嫌だった。
この美貌があるのだからと、いつも成り上がるチャンスを狙っていた。
男爵家の4女だったので、侯爵家当主のお手付きとなり身籠った時は天下を取ったかのような振る舞い。
クラン侯爵も自分の子を身籠っているとなれば捨て置く事も出来ず、敷地内別居となるがと断りを入れて呼び寄せた。
「結婚するの。持参金の用意、お願いね?娘が侯爵家に嫁ぐのよ?恥をかかせないで」
実家の男爵家は借金して金を工面したのだが金を受け取ると母親は「貧乏人に用はない」と男爵家から籍を抜いた。
「子供が出来た」「屋敷に呼びよせた」この2点で侯爵は正妻と離縁し自分が正妻となる、侯爵家に入り込めばこちらのものだと思いこんでしまった。
しかし蓋を開けてみれば侯爵が別宅に訪れるのも週に1度。
自分以外にもお手付きになったメイドや、貴族でも次女、3女と美しさだけが売りの愛人が他にいて同じように敷地内にある別宅で子供と共に押し込まれて、たまに通ってくる侯爵の相手をしていた。
正妻に一言、物申してやろうとしたが目の前で何人かの愛人が追い出されるのを見てやめた。
レティツィアを難産で産んだまでは良かった。
侯爵が認知したためレティツィアには相続権はないものの侯爵籍があるが、母親は結婚をしてくれるわけでもなく、ただ侯爵家の敷地内に住まうだけの娼婦のようなもの。
男爵家から先走って籍を抜いたため身分は平民となってしまっていた。
レティツィアの母親は次第に焦り始めた。
産後の肥立ちが悪く、侯爵の相手が数年出来なかったその間に自分と同じ境遇の愛人は2人目、中には3人目と子供を産んでいるのに自分はレティツィア1人。
何を意味するかと言えば、侯爵の渡りがそれだけ少ないという事。
そして男児は家督を継げる権利がある。正妻にも男女で子供がいるのでお鉢が回ってくる可能性は限りなく低いが男児なら可能性はあるのに女児はゼロ。
他の愛人が男児を産んだと知ると更にレティツィアの母親は焦りレティツィアの顔を見る度に「何故男に生まれて来なかった」「立場がない」「穀潰し」「役立たず」とレティツィアを責めた。
レティツィアを意味なく叱責しながらも母親は「自分だけを愛してくれ」と侯爵への執着が激しくする。
必死になればなるほどに侯爵は距離を取る。
レティツィアが5歳になる事には「前に来たのは何時だったか?」と考えるほどに足は遠退いてしまっていた。
更なる恐怖が母親を襲った。
人間は誰しも年を取る。
気が付けば若さだけが取り柄の愛人の中で古参となってしまっていた。
愛されているのは自分。そんな驕りはとうに消えてなくなった。
侯爵に取り入って子供を生めばと浅はかな考えをしていたが、子供を産んだところで扱いが変わる訳でなく、侯爵を独占出来るわけでもない。
侯爵は正妻と離縁する気もない。ただ若い女と性的処理が安全に出来ればそれでいいと気が付き、子供を連れて出た愛人も居れば、子供を残し出て行った愛人もいる。
レティツィアの母親は自身の年齢と老いていく容姿を見て考えた。
侯爵に取り入った時は23歳だった。
レティツィアを生んだのは24歳。
そして今年で30歳になる。
もうこの年齢で新しい男と言っても簡単に見つかるはずもないし、何よりここを出れば、いやでなくても男爵家の籍を抜けた自分は平民。
生活感溢れる粗末な家、着るものも食べるものも今よりランクが落ちた生活など考えるだけ身震いする。
切り札と言えるのはレティツィアだけだった。
如何に自分の産んだ子がクラン侯爵家の為になったのかと恩を売ろうと画策し、格下にはなるが王家の覚えも目出度い伯爵家との縁談に首を縦に振った。
所謂庶子である。
父の侯爵は、認知こそしてくれたが正妻の手前、取り分けて手を掛けてくれることはなかったし生活も敷地内にある別宅。
付けられていた使用人は高齢の下男が1人のみだった。
侯爵令嬢でありながら自分で家事全般をしなければ誰もしてくれなかった。
侯爵家で生きていくには絶対的な不可侵領域を犯さないこと。
簡単な事だ。侯爵夫人に関わらないだった。
重婚は出来ないので、同じ敷地に4つの愛人の家族が同居する奇妙な5世帯。完全なる政略結婚で侯爵とは冷え切った関係の侯爵夫人は愛人が敷地内に4人も同居している事には何も言わなかった。
過去には「私が愛されている」と侯爵夫人の元に怒鳴り込んだ愛人もいた。
『愛されているのは私よ!お気の毒様!』
意気揚々と怒鳴り込んだが、侯爵夫人は侯爵の帰宅を待って「どうなさるの?」と静かに問う。侯爵が出した結論は「子供を置いて出て行け」と愛人を追い出すことだった。
侯爵はどの口が言うと使用人の誰もが思ったが「節度のある関係」を求めているだけで、侯爵夫人と離縁する気も無ければ替えの利く愛人に肩入れする事もなかった。
家の結びつきで政略結婚をした正妻の立場は強かった。
生涯日陰の身で過ごす愛人たちには社交が出来るわけではない。社交場に出れば笑い者になるだけだ。
夫の寵愛を受けていようがそもそもで恋愛感情が無いので嫉妬する事もない。
愛人を囲う事は趣味のウサギ狩りやダーツとレベルが同じで小遣いの範囲で面倒見てやればいいと全く興味が無かった。
なにより夫の死後に財産を手にするのは正妻と正妻から生まれた子供のみ。
何人の子供を認知していようと夫は生きている間は養育出来ても亡くなってしまえば正妻が愛人や愛人の子供の面倒を見る義理はない。
勝ち組の余裕なのか。
「お好きにどうぞ」と本宅に怒鳴り込んでくれば追い出すという対応もするが基本は我関せずだった。
4人いる愛人は入れ替わりもあったがレティツィアの母親はとても美しかった。
その美しさ故に物心ついた時から男性にはちやほやされてきた。
男が自分に向かって貢物を持って来るのは当たり前だったし、「こうしたい」「あぁしたい」と言えば鼻の下を伸ばしてホイホイという事を聞いてくれるのも当たり前。
「美人って得だわ。生きてるだけで勝ち組だもの。ふふふっ」
だからこそ余計に腹立たしく思うのは実家の貧乏具合だった。
あくせくと働いて、ぺこぺこと頭を下げるなんて絶対に嫌だった。
この美貌があるのだからと、いつも成り上がるチャンスを狙っていた。
男爵家の4女だったので、侯爵家当主のお手付きとなり身籠った時は天下を取ったかのような振る舞い。
クラン侯爵も自分の子を身籠っているとなれば捨て置く事も出来ず、敷地内別居となるがと断りを入れて呼び寄せた。
「結婚するの。持参金の用意、お願いね?娘が侯爵家に嫁ぐのよ?恥をかかせないで」
実家の男爵家は借金して金を工面したのだが金を受け取ると母親は「貧乏人に用はない」と男爵家から籍を抜いた。
「子供が出来た」「屋敷に呼びよせた」この2点で侯爵は正妻と離縁し自分が正妻となる、侯爵家に入り込めばこちらのものだと思いこんでしまった。
しかし蓋を開けてみれば侯爵が別宅に訪れるのも週に1度。
自分以外にもお手付きになったメイドや、貴族でも次女、3女と美しさだけが売りの愛人が他にいて同じように敷地内にある別宅で子供と共に押し込まれて、たまに通ってくる侯爵の相手をしていた。
正妻に一言、物申してやろうとしたが目の前で何人かの愛人が追い出されるのを見てやめた。
レティツィアを難産で産んだまでは良かった。
侯爵が認知したためレティツィアには相続権はないものの侯爵籍があるが、母親は結婚をしてくれるわけでもなく、ただ侯爵家の敷地内に住まうだけの娼婦のようなもの。
男爵家から先走って籍を抜いたため身分は平民となってしまっていた。
レティツィアの母親は次第に焦り始めた。
産後の肥立ちが悪く、侯爵の相手が数年出来なかったその間に自分と同じ境遇の愛人は2人目、中には3人目と子供を産んでいるのに自分はレティツィア1人。
何を意味するかと言えば、侯爵の渡りがそれだけ少ないという事。
そして男児は家督を継げる権利がある。正妻にも男女で子供がいるのでお鉢が回ってくる可能性は限りなく低いが男児なら可能性はあるのに女児はゼロ。
他の愛人が男児を産んだと知ると更にレティツィアの母親は焦りレティツィアの顔を見る度に「何故男に生まれて来なかった」「立場がない」「穀潰し」「役立たず」とレティツィアを責めた。
レティツィアを意味なく叱責しながらも母親は「自分だけを愛してくれ」と侯爵への執着が激しくする。
必死になればなるほどに侯爵は距離を取る。
レティツィアが5歳になる事には「前に来たのは何時だったか?」と考えるほどに足は遠退いてしまっていた。
更なる恐怖が母親を襲った。
人間は誰しも年を取る。
気が付けば若さだけが取り柄の愛人の中で古参となってしまっていた。
愛されているのは自分。そんな驕りはとうに消えてなくなった。
侯爵に取り入って子供を生めばと浅はかな考えをしていたが、子供を産んだところで扱いが変わる訳でなく、侯爵を独占出来るわけでもない。
侯爵は正妻と離縁する気もない。ただ若い女と性的処理が安全に出来ればそれでいいと気が付き、子供を連れて出た愛人も居れば、子供を残し出て行った愛人もいる。
レティツィアの母親は自身の年齢と老いていく容姿を見て考えた。
侯爵に取り入った時は23歳だった。
レティツィアを生んだのは24歳。
そして今年で30歳になる。
もうこの年齢で新しい男と言っても簡単に見つかるはずもないし、何よりここを出れば、いやでなくても男爵家の籍を抜けた自分は平民。
生活感溢れる粗末な家、着るものも食べるものも今よりランクが落ちた生活など考えるだけ身震いする。
切り札と言えるのはレティツィアだけだった。
如何に自分の産んだ子がクラン侯爵家の為になったのかと恩を売ろうと画策し、格下にはなるが王家の覚えも目出度い伯爵家との縁談に首を縦に振った。
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