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第21話 ヴィルフレードがやって来た
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「ありゃ?気絶した?」
首を椅子の背凭れにがっくりと後ろ向けに気を飛ばしたレティツィアを見て、「どうしよ?!」と狼狽えたのは泣く子も黙るロッソ辺境部隊を率いる辺境伯ヴィルフレード。
テオドロとチッチョが「どうしたんだ?!何があった?!」とまるで敵の奇襲を受けて報告に転がり込んできた伝令兵の如くボロボロになって戻って来た。
聞けば川で女の子を拾ったけどどう対処していいか解らずアマニーの所に預けてきた・・・と省略もいいところ!な説明をした事で、慌ててやって来た。
アマニーはヴィルフレードの乳母。
ヴィルフレードが辺境に養子に行く事になった時、即答で一緒に行くと決めた女性。
ヴィルフレードの父だった先代国王の専属御殿医だった夫も「妻が行くというので」と専属御殿医から軍医になった。
悪魔ですらベソをかいて「ごめんなさい」と謝る。そう言われるくらいにアマニーはとても厳しく、そして優しい乳母だった。大人になってからもアマニーには頭が上がらない。
それは辺境伯と言う重い肩書を背負ってからも同じだった。
「アマニーに押し付けてきただと?!こうしちゃいられない!!」
「あ、あの…押し付けたって言うか動かせナイ・・・」
テオドロとチッチョの言葉などもう聞いている時間はない。
辺境からアマニーの家までは馬で1週間はかかる。
愛馬が出産をしたばかりのヴィルフレードは小隊を率いて馬を乗り継ぎほぼ4日を寝ずに馬で駆けてきたのだ。
そこにあるのは「アマニーを怒らせたら大変!」という思いだけ。
勇んで駆け付けたは良かったが、アマニーは指先でテーブルをトントン。
音に合わせて体と心臓はビクッビクッと跳ね上がる。
「ヴィル、何時も教えていたはずです。来る時は?」
「さ、先触れ・・・」
「部屋に入る時は!」
「ノ、ノック・・・」
「女の子に触れる時は?」
「女の子??えぇーっと…あれ?教えて貰ってナイ・・・」
「手を洗う!顔を洗う!体を洗う!髭を剃る!身なりを整えるッ!」
「ハッ、ハイッ!!」
プッと噴き出す一緒に来た兵士たちにもアマニーは一喝するのを忘れない。
「アンタたちも!獣臭ならいざ知らず、男臭さを漂わせてんじゃないよ!湯殿で汗と垢を流しといでッ!」
<< イェス、マムッ!! >>
その後マルムズ夫妻は気を飛ばしたレティツィアを2人でソファに運び横たえると、サッパリしたヴィルフレード達を待った。
★~★
「アマニー。マルムズ軍医。テオドロとチッチョが迷惑をかけた。申し訳ない」
湯殿で汚れを落とし、ついでに髭も剃り、アマニーとレティツィアが用意をした全員がお揃いの寝間着に着替えたヴィルフレードはペコリと頭を下げた。
「殿下、彼女は少々訳アリのようです」
「訳アリ?」
事の詳細は調べさせれば解るとしても数日はかかってしまう。
集めた情報を精査すればさらに数日。しかし結果が解るまでマルムズ夫妻に迷惑をかけることは出来ない。
マルムズ夫妻がテオドロとチッチョから聞き取った保護の状況。そして10日間、面倒を見ながら様子を見たレティツィアの現状。
「王都に戻すのは宜しくないな。危険しかない」
「殿下、同意見です。記憶と言うのはそう簡単に遮断されるものじゃない。ましてや斬りつけられた痕跡の他に‥」
「他に何かあるのか?」
「かなり古い傷ではありますが火傷の痕も御座いました。それも数カ所」
「ヴィル、その痕が服を脱がねば見えない位置にある。その点が大問題よ」
「なんだと?!」
哀しい事に未だに兵士の間でも弱い者に対しての憂さ晴らしの暴行は報告を受ける。辺境部隊では厳しく罰しているが、何事にも優劣をつけ勝った負けたとするのは人間の性なのか無くならない。
時に自分が誰なのか相手に解らなければ何をしてもいいなど愚かな考えを正当化する悪質性の高いクズもいるのだ。ぱっと見で解らない部位を執拗に攻撃したりするのはクズの中のクズ。
レティツィアの年齢は20歳前後。身なりからしてそこそこ資産のある貴族の令嬢と思われた。家名を名乗ったら叱られると極限の状態で答えるとすれば言葉に嘘はない。そこから考えると古傷をつけたのは誰なのか。おのずと答えは出る。
貴族の娘であれば保護したと届ければ直ぐに家の者が迎えに来る。
助けたつもりで地獄に叩き落とす行為に成り兼ねなかった。
「彼女は辺境に連れて行く。王都に戻りたいのであれば頃合いを見計らって危害が及ばないと判断したら戻すようにしよう。兄上だけには簡単に状況を説明した書簡を出しておく。手間を掛けさせてすまなかった」
ヴィルフレードは再度マルムズ夫妻に頭を下げ、礼を言った。
首を椅子の背凭れにがっくりと後ろ向けに気を飛ばしたレティツィアを見て、「どうしよ?!」と狼狽えたのは泣く子も黙るロッソ辺境部隊を率いる辺境伯ヴィルフレード。
テオドロとチッチョが「どうしたんだ?!何があった?!」とまるで敵の奇襲を受けて報告に転がり込んできた伝令兵の如くボロボロになって戻って来た。
聞けば川で女の子を拾ったけどどう対処していいか解らずアマニーの所に預けてきた・・・と省略もいいところ!な説明をした事で、慌ててやって来た。
アマニーはヴィルフレードの乳母。
ヴィルフレードが辺境に養子に行く事になった時、即答で一緒に行くと決めた女性。
ヴィルフレードの父だった先代国王の専属御殿医だった夫も「妻が行くというので」と専属御殿医から軍医になった。
悪魔ですらベソをかいて「ごめんなさい」と謝る。そう言われるくらいにアマニーはとても厳しく、そして優しい乳母だった。大人になってからもアマニーには頭が上がらない。
それは辺境伯と言う重い肩書を背負ってからも同じだった。
「アマニーに押し付けてきただと?!こうしちゃいられない!!」
「あ、あの…押し付けたって言うか動かせナイ・・・」
テオドロとチッチョの言葉などもう聞いている時間はない。
辺境からアマニーの家までは馬で1週間はかかる。
愛馬が出産をしたばかりのヴィルフレードは小隊を率いて馬を乗り継ぎほぼ4日を寝ずに馬で駆けてきたのだ。
そこにあるのは「アマニーを怒らせたら大変!」という思いだけ。
勇んで駆け付けたは良かったが、アマニーは指先でテーブルをトントン。
音に合わせて体と心臓はビクッビクッと跳ね上がる。
「ヴィル、何時も教えていたはずです。来る時は?」
「さ、先触れ・・・」
「部屋に入る時は!」
「ノ、ノック・・・」
「女の子に触れる時は?」
「女の子??えぇーっと…あれ?教えて貰ってナイ・・・」
「手を洗う!顔を洗う!体を洗う!髭を剃る!身なりを整えるッ!」
「ハッ、ハイッ!!」
プッと噴き出す一緒に来た兵士たちにもアマニーは一喝するのを忘れない。
「アンタたちも!獣臭ならいざ知らず、男臭さを漂わせてんじゃないよ!湯殿で汗と垢を流しといでッ!」
<< イェス、マムッ!! >>
その後マルムズ夫妻は気を飛ばしたレティツィアを2人でソファに運び横たえると、サッパリしたヴィルフレード達を待った。
★~★
「アマニー。マルムズ軍医。テオドロとチッチョが迷惑をかけた。申し訳ない」
湯殿で汚れを落とし、ついでに髭も剃り、アマニーとレティツィアが用意をした全員がお揃いの寝間着に着替えたヴィルフレードはペコリと頭を下げた。
「殿下、彼女は少々訳アリのようです」
「訳アリ?」
事の詳細は調べさせれば解るとしても数日はかかってしまう。
集めた情報を精査すればさらに数日。しかし結果が解るまでマルムズ夫妻に迷惑をかけることは出来ない。
マルムズ夫妻がテオドロとチッチョから聞き取った保護の状況。そして10日間、面倒を見ながら様子を見たレティツィアの現状。
「王都に戻すのは宜しくないな。危険しかない」
「殿下、同意見です。記憶と言うのはそう簡単に遮断されるものじゃない。ましてや斬りつけられた痕跡の他に‥」
「他に何かあるのか?」
「かなり古い傷ではありますが火傷の痕も御座いました。それも数カ所」
「ヴィル、その痕が服を脱がねば見えない位置にある。その点が大問題よ」
「なんだと?!」
哀しい事に未だに兵士の間でも弱い者に対しての憂さ晴らしの暴行は報告を受ける。辺境部隊では厳しく罰しているが、何事にも優劣をつけ勝った負けたとするのは人間の性なのか無くならない。
時に自分が誰なのか相手に解らなければ何をしてもいいなど愚かな考えを正当化する悪質性の高いクズもいるのだ。ぱっと見で解らない部位を執拗に攻撃したりするのはクズの中のクズ。
レティツィアの年齢は20歳前後。身なりからしてそこそこ資産のある貴族の令嬢と思われた。家名を名乗ったら叱られると極限の状態で答えるとすれば言葉に嘘はない。そこから考えると古傷をつけたのは誰なのか。おのずと答えは出る。
貴族の娘であれば保護したと届ければ直ぐに家の者が迎えに来る。
助けたつもりで地獄に叩き落とす行為に成り兼ねなかった。
「彼女は辺境に連れて行く。王都に戻りたいのであれば頃合いを見計らって危害が及ばないと判断したら戻すようにしよう。兄上だけには簡単に状況を説明した書簡を出しておく。手間を掛けさせてすまなかった」
ヴィルフレードは再度マルムズ夫妻に頭を下げ、礼を言った。
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