では、こちらに署名を。☆伯爵夫人はもう騙されない☆

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最終章☆それぞれの立ち位置(22話)

ライアル伯爵家、親子の相違

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架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。

この章は最終章となりますので第一章から第四章のインシュアの保険販売とは読んだ時の受け取り方(感じ方)が変わるかも知れません。

中間にあるライアル伯爵家日記に近いと思って頂いて構いません。

架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。




◇~◇~◇

ベンジャーが憤慨しているもう一つの理由はヨハンのデヴュタントである。

ライアル伯爵は何度も王宮に問い合わせをしたが回答は【審査中】でありそれ以上は踏み込めなかった。招待をするかしないかは参加する貴族側が決める事ではなく、最終の承認は国王と王太子が行うのだ。

「何時になりますか」「どこまで審査は進んでいますか」など急かす事は言えない。
直接的な言葉にしていないだけで国王と王太子の仕事が遅いと批判している事と同じになってしまうからである。流石のライアル伯爵もそこまで読めない男ではない。



該当する年齢の子供が居ない貴族もあるが親戚の誰かはデヴュタントを迎える。一番参加の多かった王太子の息子の時は更に凄い人数で、王宮の大広間では収容しきれず、窓を取り払い王宮の庭も会場にしたほどだった。今回はそれに次ぐ規模。それほどまでに今年のデヴュタントは参加人数が多いのである。

周りの貴族はとうに招待状は届いており、両隣の伯爵家、向かいの子爵家、はす向かいの侯爵家には門番すら制服を新調してもらい次々にお祝いの品を持ち込む親族などが訪れている。

少し離れた平民の住む地域に近い場所に屋敷を構える富裕層の騎士爵、男爵家でも一目でこの家の子供がデヴュタントを迎えるのだなと判るくらいだ。

平民の住む地域にいる爵位だけがギリギリあるような者達ですら招待状が届いたものもいる。
中には行かせてやりたいが資金の関係で参加申請を断念した家もあるが、そこでも行けなくても祝いをと近所の平民が飾り付けなどをしてお祝いムードを盛り上げている。


閑散としているのはライアル伯爵家くらいである。


苛立ちに拍車をかけるのはヨハンの事を大っぴらには言えない事情もある。

ヨハンはベンジャーとメイサの子供である事は間違いなく疑いようもない。
特に7、8歳となった頃からはベンジャーに見た目もそっくりになってきた。
産まれた時は表情などはメイサに似ていたけれど、成長に従いベンジャーの同時期に瓜二つなのだ。

瞳の色と髪の色は生まれた時からベンジャーの色である。
そのため、屋敷を出て学院までは馬車なので近所の目にヨハンが晒される事はないが、学院では密かに噂もされているのである。

――ライアル次期伯爵の隠し子なのでは?――

余程の事がなければ親が学院に出向く事はないが、そんな折にちらりと見かけるヨハン。
非常に目立つのである。父親に似て美丈夫であるヨハンはご夫人の目にとまりやすい。

美丈夫なだけでも覚えられやすいがそれだけなら名前までは特定されない。
子供に「学院に凄くイケメンな男の子がいるわよね?」と聞いても子供の価値観は違う。
友達をイケメンかどうかで判断していない子供たちは誰を指すのか判らない。
しかし、ヨハンは目立つのだ。そして名前もどこの家の子か特定をすぐされてしまう。

問題行動が多いからだ。


なので、親たちは面と向かっては聞かないし、友人同士で話をする時も直接の固有名詞は口にしない。それでも【誰の事】を指しているのかは判る。
親たちの世代はベンジャーに群がった世代なのだから。


ヨハンが初等科2年生を2回だと聞いた時、どの親も【なるほど】と言った。

そう、ベンジャーは顔は良い。見た目の良さは頭一つどころか身長以上の高さで飛びぬけている。上背もそこそこあってがりがりに痩せてなければ太ってもいない。
若干細めではあるが【容姿】というものに対しては神が与える最高峰だろう。

しかし、【天は二物を与えず】である。

頭の中身は言わずもがな。赤点を寄付金で乗り切って卒業した男なのだ。

以前学院の外周を囲っていたブロック塀がメッシュフェンスになり、学院内にある渡り廊下に全て屋根と柵がついたのはベンジャーの家であるライアル伯爵家の寄付金だと言われているほどだ。
それほどまでに頭の中身は容姿と反比例して残念だった。

だ・か・ら!令嬢たちが狙っていたのだ。

見た目は最高、家は滅茶苦茶金持ち、夫は頭が残念。
子供さえまともに育てれば万々歳な三種の神器を兼ね備えた物件だったのだ。


学院に通っていなかったインシュアはそこまでは知る事が出来なかったので、【残念】な部分は知る事が出来なかったのだ。

リンデバーグなどに聞けばわかったかも知れないが、婚約と結婚をした時期は疎遠であり周りはインシュアと同じくらいの情報しか知らないものばかり。
知っていたとしても、あのライアル伯爵家の汚点となるような噂を広めてしまえば親兄弟の仕事がなくなる。当時はそれほどライアル伯爵家は良いお客さんだったのだ。言えるはずがない。


現在ベンジャーは王宮関係の仕事をしている。まだ爵位を継いでいないからだ。
そこでの仕事は王宮が商会に発注する品物を7段階のうちの3段階目でチェックする部署である。
そこでベンジャーは書類に上司のサインが入っているかを確認する係をしている。
勤続10年以上となれば確認するスピードはかなり速い。
だが、午前中確認した書類を同僚に回すと午後は大量の付箋を貼られミスを指摘される。

そんなベンジャーにヨハンはよく似ている。誰がなんと言おうと親子だ。間違いない。





「どういう事なんだ!」


ライアル伯爵もベンジャーもヨハンを20歳で養子縁組をして早ければその3年後にこのライアル伯爵家を継がせるという点に於いては


持っていたのだが‥‥


ライアル伯爵はここ数日、ベンジャーはここ2、3年で心境に変化があったのだ。

――ヨハンには無理だ――

インシュアを嵌めてまで挑んだ計画のまだ中間地点にも達していないこの時期で2人の心には同じ思いが芽生えていたのだ。だが自分からは言い出せない。
言い出したほうが後始末をどうするか責任を取らなければならないからだ。
それもまたであるからライアル伯爵とベンジャーも間違いなく親子だ。


その責任とはメイサとヨハンをどうするか。
メイサは屋敷から出していないし対外的には【侍女、メイド】なのだから何とでも言い訳が出来る。問題はヨハンなのだ。爵位を継がそうと思ったからランス男爵家を騙してまでインシュアを嫁がせ離れに追いやった。
そして学を付けよう、箔を付けようと学院にインシュアの遠戚の子(インシュアの父のいとこの子供の子)と虚偽の書類を作成して既に通わせているのだ。


学院は王立ではなく私立なのでバレる事はないだろうと思っているし、ベンジャーは思考が短絡的なので自分が参観日なども行ってないのだからヨハンと見比べて疑う者など誰もいないと思っている。
メイサとの睦事で忙しく、社交など碌にしてないベンジャー。
なまじ金があるばかりに腰巾着しかいなかったライアル伯爵夫妻はまともな社交などしていないため、影でどう言われているか知らないし、知ったとしても現在の困窮状態では手の打ちようもない。


どういう事だと父のライアル伯爵に詰め寄ったベンジャー。
初めて親子の考えにが出た。

ライアル伯爵が【どういう事だ】と言うとすれば、どうしてまだ招待状が来ないのだという事である。

しかし今のベンジャーは違う。

【どうしてデヴュタントに出そうなどと思ったのだ!】

と考えている。
デヴュタントなど出てしまえば必ず付添人が必要で、それは必然的にインシュアとベンジャーになるだろう。

インシュアと出られるのは良いのだ。どちらかと言えば万々歳である。
しかし、出席してしまえばもうヨハンの存在は広く知られてしまう。

ヨハンの見た目と自分の見た目を考えた時、ベンジャーは吐き気がしたのだ。
最低な父親である。

――誰がどう見ても俺の子だろう?――

本物の父親なのだから当然だが、ベンジャーはそれが許せないのだ。

結婚して7年なのに10歳の子のデヴュタントでしかも瓜二つなのだ。
ヨハンは【ランス男爵家側の子】でなければならないのに、ランス男爵家を思わせる要素など微塵もない。

ベンジャーはメイサとヨハンを切り捨てる事を決めている。
しかし如何せん、国内でも3本の指に入ったのは見た目であり、中身はない。

親子の話し合いにもならない話し合いはライアル伯爵が頭痛を訴えた事で幕を閉じた。
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