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最終章☆それぞれの立ち位置(22話)
ベンジャーの裁判・ヨハンの覚悟
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架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。
この章は最終章となりますので第一章から第四章のインシュアの保険販売とは読んだ時の受け取り方(感じ方)が変わるかも知れません。
中間にあるライアル伯爵家日記に近いと思って頂いて構いません。
架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。
◇~◇~◇
※時間的にはベンジャーが判決を受けるまでです。
◇~◇~◇
「最悪だな」
リンデバークは裁判官に選ばれた3人の名を見て呟いた。貴族や貴族だったものにはとことん甘いと言われている裁判官はいるのだが、それが揃いも揃って3人の裁判官のうちの全員なのだ。
余程でなければ裁判官の途中交代はない。ベンジャーに甘い判決が出るのが決まったようなものである。
特にその内の1人はあの献金を受け取った司法議員が肩入れしている裁判官だった。
「気分が悪くなるなら廊下で待っていてもいいのよ?」
「ううん。大丈夫」
「嫌になったらいつでも言うのよ?」
「大丈夫だってば。決めたんだ‥‥僕」
「何を?」
「今は、秘密。でもおばさんは嫌わないって言ってくれたから」
シャボーン国で貴族籍を失う者は少ない。先日の元ライアル伯爵夫妻の裁判にも多くの人が傍聴席の券を求めて列を作った。他人の不幸は蜜の味。目の前でそれまで貴族法に守られていた身分を失う者を見るのは日頃の鬱憤を発散させるのに丁度良いのかも知れない。
特に元ライアル伯爵は借金でそれまでの土地も判決を受けるまでの間に失っているので本当に無一文になるのだ。このあとは数日にわたってパパラッチのような者や、破落戸達に追い掛け回される日々が待っている。
埋蔵金ならぬ【隠し財産】があっても不思議ではないほどに過去は大富豪だったのだ。
平民となれば、質の悪い者達が纏わりつく。うっかり街を歩けば四方八方から無意味に体当たりをされて当たってきた方が大げさに転んで喚き散らす。狙いは【隠し財産】なのは言うまでもない。
骨の髄まで吸い尽くすつもりで彼らは元ライアル伯爵夫妻に絡むだろう。
本当に何もないとなれば【あたり損】を回収すべく捨て駒として色々な仕事を依頼する。
腐っても元は伯爵だったのだ。王都ではこの面白い見世物を知らぬ者は少ないが地方に行けば行くほどその数は逆転する。知らない者達に伯爵の名前を使って詐欺行為をするのだ。
それらを全てやり過ごしても元ライアル伯爵夫妻には何もない。
実際、裁判が終わり財産没収と爵位の剥奪、抹消で済んだ2人が真っ先にきたのはスザコーザ公爵家だった。門の前でヨハンの名前を叫び、一目で良いから孫に会わせてくれと泣き叫んだのだ。
それを予測していたスザコーザ公爵は事前に周知をした。
【近いうちに、孫と生き別れになった。貴族に孫を攫われたという演目の練習をする者が現れるが、練習なので観劇料を支払う必要はない】
本当にやり始めた元ライアル伯爵夫妻に、人々は無関心だった。
それに場所も悪かった。公爵家となればその場を歩く人など使用人の中でもごく一部で多くは裏口から出て1本、2本別の通りを歩いているし、目立つには目立つが多くは馬車に乗った者達なので石畳のガタガタと言う音で2人が何を言っているのか判らない。結局2人の涙の懇願は徒労に終わった。
そして今日はヨハンの父であるベンジャーの初公判だった。
先に両親である元ライアル伯爵夫妻は既に貴族ではなくなった。ベンジャーも現状でははもう貴族ではないが貴族であった時の貴族籍を失うまでの行為は貴族法の恩恵に肖れるがその後は違う。
政治献金規制法と児童虐待、結婚詐欺については平民と同じ扱いで裁かれる。
既に結婚は白紙だと認められているが、インシュアも参考人として呼ばれている。
そしてヨハンは被害者であり、可哀想だが本人の意思は無くとも加害者側の参考人としても呼ばれているのだ。
結婚詐欺についての審議はスムーズに行われた。既に白紙になっているものに対して足掻いても仕方がないと思っているのだろうか‥‥と思いきや、突然ベンジャーがごね始めた。
「・・・・ですのでこれ以上の関りを持たないで済みますから慰謝料などの支払いも不要です」
「嫌だっ!お願いだから支払わせてくれっ!」
「静かにしなさい」
「でもっ!俺とインシュアの関係を切らないで!もう一度やり直して欲しいなんて言わない!でも、慰謝料の支払いも無くなったら全然関係がなくなるっ!そんなのは俺に死ねと言ってるのと同じだ!どうせならインシュア!俺に死ねと命じてくれ!君の願いならこの命を捧げるっ!俺を見てくれ!そんな衝立の向こうじゃなく姿が見たいっ!俺を見てくれっ!金を払わせてくれっ」
衝立の向こうでインシュアが小さく「なら死ね」と呟いたのは言うまでもない。
ベンジャーは涙も鼻水も何もかもでグシャグシャになった顔で叫んだがインシュアの姿が見える事も声が返ってくることもない。そんなベンジャーを見て傍聴席からは失笑が漏れている。
だが、そんな雰囲気も一変したのが児童虐待についてである。
この件でヨハンと一緒にいるのは未成年後見人であるリンデバーグである。
裁判長の声でヨハンの名が呼ばれる。
「大丈夫か?」とリンデバーグが問えばヨハンは大きく頷いた。
「では、名前を教えてください」
「ヨハンです。以前はヨハン・ライアルだと思っていましたが、ヨハンです」
「では、ヨハン君。君はどのような事をされていましたか」
「はい、何でも買ってもらえて、皆が僕のいう事を聞いてくれてました」
「それは、父親、母親である者からですか?」
「違います。物を買ってくれるのは祖父、いう事を聞いてくれるのは使用人です」
「では父親や母親は君の教育などをしてくれていたのですか」
「いいえ。僕は最近まで自分の名前も文字で書けませんでした。数字も意味が分からなかったし計算も出来ませんでした。父はいつも怒っていて近くに行くと、鬱陶しい、手間を掛けさせるなとか…言って…僕を…」
「無理をしなくていいですよ。もう――」
「いえっ!大丈夫です。父は僕を叩きました。手のひらだったり握った手だったりで、僕が泣くと色んな物を投げてました…投げてきた物が当たった事もあります。祖父が庇ってくれる事もありました。あとは…面倒くさいからとあまり話はしてくれなかったです」
ベンジャーは顔を顰めて横を向いているが、傍聴人はざわざわとし始めた。
しかし、それは静寂に変わった。
「それはいつからですか」
「覚えてるのは5歳になる前です。5歳の誕生日に食事に連れて行ってと言ったら池に落とされました」
「・・・・」誰も声を発する事が出来ない。
リンデバーグもある程度は聞いてはいたが、こうもはっきりとは聞いておらず激しい怒りと憤り、悔しい気持ちが混じって手のひらに爪が食い込むほどに拳を握りしめた。
「は、母親は助けてくれなかったのですか?」
「助けてくれるのは違う時です」
「違う時とは‥‥どういう事ですか」
「祖父にお金やドレスなんかを強請る時です。僕の事をこんなキョグ?キョウグ?」
「境遇ですか?君のいる環境、身の回りという事ですか?」
「はい、そうです。僕がちゃんと伯爵家の子供だと言えないのは祖父のせいだと言う時は庇ってくれました。庇ったと言うか膝の上に乗せてくれて頭を撫でてくれました。でも父の時は何もしてくれなかったし、母はいつもお酒を飲んで煙草を吸ってお芝居をみたり朝から着替えをしてたりで、そんな時に近くに行くと躾棒っていう長い棒で僕を叩きました。ごめんなさいと言っても謝るくらいならするなとずっと叩かれました。謝ったり、泣いたりするともっと叩かれるので僕は黙ってました。母は僕に言いました。腹が立ったりした時は使用人に同じことをしていいって」
「父親には手で、母親には棒で…という事ですね。そうですか、わかりました辛い事をよく言ってくれました。ありがとう」
「あのっ!」
「どうしましたか?」
「関係ないかも知れないんですけど…いいですか?」
「関係があるかないかはこちらが判断をしますが、それでも良ければ。ただ君はまだ10歳。無理をしてどうしても今日、全てを言わなければならないという事はありませんよ」
「いえ、今日‥‥言います」
「では、どうぞ」
「は、はい。あの‥‥えっと…僕は…学院でも屋敷でも周りの人に凄く我儘で…乱暴者でした。屋敷にいた人にも僕と同じクラスだった人たちにも‥‥いけない事をしました。たくさんの人に迷惑をして…ごめんなさい!」
少しだけヨハンの泣き声が聞こえたような気がした。
誰かが衝立の向こうで何かを言っているが傍聴人たちにはよく聞こえない。
しかし、そんな間を壊す大きな音がした。
ベンジャーが足を振り上げ、履いていた木の靴を飛ばしそれが壁に当たったのだ。
「くっだらねぇ。クソガキが。お前が!お前さえ生まれて来なきゃ!みんな幸せだったんだよッ!空気読めや!テメェだけぬくぬくいい気になってんじゃねぇよッ」
その言葉に傍聴席から色んなものがベンジャーに向かって飛んできた。バッグだったり靴だったり。途中で失速するのは判っているのにハンカチやスカーフも色んなものが罵声と一緒に飛んできた。
投げつける品が無くなってもベンジャーを罵倒する声が止む事はない。
閉廷する以外に方法は無くなり、ベンジャーは騎士に連れられて先に退廷をしたが、姿が見えなくなっても罵倒する声が止まる事はなかった。
「よく、頑張ったな」
「うん…あの…おばさん…」
「どうしたの?あ、そうだ!今日はヨハンの好きなグラタン食べていこうか?リンデバーグがご馳走してくれるって♡わたくしもグラタン大好き。ついでにパフェも半分こしましょう」
「えぇっ?俺の奢りって‥‥給料日明後日で…」
「気にしない。気にしない。ねっヨハンはパフェも好きだよね~」
「うん…好き…」
ヨハンは知っている。インシュアがグラタンよりもドリアが好きな事を。
リンデバーグも知っている。どうして好きを連呼しているかを。
2人ともそんなインシュアが大好きである。
ベンジャーの裁判は以降非公開となったが判決は早かった。
懲役43年。当然ながら執行猶予はつかない。
甘い判決に思えたが、ベンジャーの向かう刑務所の場所を聞いて誰もが納得をした。
あの密売組織の者達が先に入っている刑務所。
見た目だけが良いだけの自分たちがこうなってしまう原因を作った男が来ればどうなるか、趣味の悪い賭けが始まったが賭けにならなかった。誰もが1カ月以内にBETしたからだ。
この章は最終章となりますので第一章から第四章のインシュアの保険販売とは読んだ時の受け取り方(感じ方)が変わるかも知れません。
中間にあるライアル伯爵家日記に近いと思って頂いて構いません。
架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。
◇~◇~◇
※時間的にはベンジャーが判決を受けるまでです。
◇~◇~◇
「最悪だな」
リンデバークは裁判官に選ばれた3人の名を見て呟いた。貴族や貴族だったものにはとことん甘いと言われている裁判官はいるのだが、それが揃いも揃って3人の裁判官のうちの全員なのだ。
余程でなければ裁判官の途中交代はない。ベンジャーに甘い判決が出るのが決まったようなものである。
特にその内の1人はあの献金を受け取った司法議員が肩入れしている裁判官だった。
「気分が悪くなるなら廊下で待っていてもいいのよ?」
「ううん。大丈夫」
「嫌になったらいつでも言うのよ?」
「大丈夫だってば。決めたんだ‥‥僕」
「何を?」
「今は、秘密。でもおばさんは嫌わないって言ってくれたから」
シャボーン国で貴族籍を失う者は少ない。先日の元ライアル伯爵夫妻の裁判にも多くの人が傍聴席の券を求めて列を作った。他人の不幸は蜜の味。目の前でそれまで貴族法に守られていた身分を失う者を見るのは日頃の鬱憤を発散させるのに丁度良いのかも知れない。
特に元ライアル伯爵は借金でそれまでの土地も判決を受けるまでの間に失っているので本当に無一文になるのだ。このあとは数日にわたってパパラッチのような者や、破落戸達に追い掛け回される日々が待っている。
埋蔵金ならぬ【隠し財産】があっても不思議ではないほどに過去は大富豪だったのだ。
平民となれば、質の悪い者達が纏わりつく。うっかり街を歩けば四方八方から無意味に体当たりをされて当たってきた方が大げさに転んで喚き散らす。狙いは【隠し財産】なのは言うまでもない。
骨の髄まで吸い尽くすつもりで彼らは元ライアル伯爵夫妻に絡むだろう。
本当に何もないとなれば【あたり損】を回収すべく捨て駒として色々な仕事を依頼する。
腐っても元は伯爵だったのだ。王都ではこの面白い見世物を知らぬ者は少ないが地方に行けば行くほどその数は逆転する。知らない者達に伯爵の名前を使って詐欺行為をするのだ。
それらを全てやり過ごしても元ライアル伯爵夫妻には何もない。
実際、裁判が終わり財産没収と爵位の剥奪、抹消で済んだ2人が真っ先にきたのはスザコーザ公爵家だった。門の前でヨハンの名前を叫び、一目で良いから孫に会わせてくれと泣き叫んだのだ。
それを予測していたスザコーザ公爵は事前に周知をした。
【近いうちに、孫と生き別れになった。貴族に孫を攫われたという演目の練習をする者が現れるが、練習なので観劇料を支払う必要はない】
本当にやり始めた元ライアル伯爵夫妻に、人々は無関心だった。
それに場所も悪かった。公爵家となればその場を歩く人など使用人の中でもごく一部で多くは裏口から出て1本、2本別の通りを歩いているし、目立つには目立つが多くは馬車に乗った者達なので石畳のガタガタと言う音で2人が何を言っているのか判らない。結局2人の涙の懇願は徒労に終わった。
そして今日はヨハンの父であるベンジャーの初公判だった。
先に両親である元ライアル伯爵夫妻は既に貴族ではなくなった。ベンジャーも現状でははもう貴族ではないが貴族であった時の貴族籍を失うまでの行為は貴族法の恩恵に肖れるがその後は違う。
政治献金規制法と児童虐待、結婚詐欺については平民と同じ扱いで裁かれる。
既に結婚は白紙だと認められているが、インシュアも参考人として呼ばれている。
そしてヨハンは被害者であり、可哀想だが本人の意思は無くとも加害者側の参考人としても呼ばれているのだ。
結婚詐欺についての審議はスムーズに行われた。既に白紙になっているものに対して足掻いても仕方がないと思っているのだろうか‥‥と思いきや、突然ベンジャーがごね始めた。
「・・・・ですのでこれ以上の関りを持たないで済みますから慰謝料などの支払いも不要です」
「嫌だっ!お願いだから支払わせてくれっ!」
「静かにしなさい」
「でもっ!俺とインシュアの関係を切らないで!もう一度やり直して欲しいなんて言わない!でも、慰謝料の支払いも無くなったら全然関係がなくなるっ!そんなのは俺に死ねと言ってるのと同じだ!どうせならインシュア!俺に死ねと命じてくれ!君の願いならこの命を捧げるっ!俺を見てくれ!そんな衝立の向こうじゃなく姿が見たいっ!俺を見てくれっ!金を払わせてくれっ」
衝立の向こうでインシュアが小さく「なら死ね」と呟いたのは言うまでもない。
ベンジャーは涙も鼻水も何もかもでグシャグシャになった顔で叫んだがインシュアの姿が見える事も声が返ってくることもない。そんなベンジャーを見て傍聴席からは失笑が漏れている。
だが、そんな雰囲気も一変したのが児童虐待についてである。
この件でヨハンと一緒にいるのは未成年後見人であるリンデバーグである。
裁判長の声でヨハンの名が呼ばれる。
「大丈夫か?」とリンデバーグが問えばヨハンは大きく頷いた。
「では、名前を教えてください」
「ヨハンです。以前はヨハン・ライアルだと思っていましたが、ヨハンです」
「では、ヨハン君。君はどのような事をされていましたか」
「はい、何でも買ってもらえて、皆が僕のいう事を聞いてくれてました」
「それは、父親、母親である者からですか?」
「違います。物を買ってくれるのは祖父、いう事を聞いてくれるのは使用人です」
「では父親や母親は君の教育などをしてくれていたのですか」
「いいえ。僕は最近まで自分の名前も文字で書けませんでした。数字も意味が分からなかったし計算も出来ませんでした。父はいつも怒っていて近くに行くと、鬱陶しい、手間を掛けさせるなとか…言って…僕を…」
「無理をしなくていいですよ。もう――」
「いえっ!大丈夫です。父は僕を叩きました。手のひらだったり握った手だったりで、僕が泣くと色んな物を投げてました…投げてきた物が当たった事もあります。祖父が庇ってくれる事もありました。あとは…面倒くさいからとあまり話はしてくれなかったです」
ベンジャーは顔を顰めて横を向いているが、傍聴人はざわざわとし始めた。
しかし、それは静寂に変わった。
「それはいつからですか」
「覚えてるのは5歳になる前です。5歳の誕生日に食事に連れて行ってと言ったら池に落とされました」
「・・・・」誰も声を発する事が出来ない。
リンデバーグもある程度は聞いてはいたが、こうもはっきりとは聞いておらず激しい怒りと憤り、悔しい気持ちが混じって手のひらに爪が食い込むほどに拳を握りしめた。
「は、母親は助けてくれなかったのですか?」
「助けてくれるのは違う時です」
「違う時とは‥‥どういう事ですか」
「祖父にお金やドレスなんかを強請る時です。僕の事をこんなキョグ?キョウグ?」
「境遇ですか?君のいる環境、身の回りという事ですか?」
「はい、そうです。僕がちゃんと伯爵家の子供だと言えないのは祖父のせいだと言う時は庇ってくれました。庇ったと言うか膝の上に乗せてくれて頭を撫でてくれました。でも父の時は何もしてくれなかったし、母はいつもお酒を飲んで煙草を吸ってお芝居をみたり朝から着替えをしてたりで、そんな時に近くに行くと躾棒っていう長い棒で僕を叩きました。ごめんなさいと言っても謝るくらいならするなとずっと叩かれました。謝ったり、泣いたりするともっと叩かれるので僕は黙ってました。母は僕に言いました。腹が立ったりした時は使用人に同じことをしていいって」
「父親には手で、母親には棒で…という事ですね。そうですか、わかりました辛い事をよく言ってくれました。ありがとう」
「あのっ!」
「どうしましたか?」
「関係ないかも知れないんですけど…いいですか?」
「関係があるかないかはこちらが判断をしますが、それでも良ければ。ただ君はまだ10歳。無理をしてどうしても今日、全てを言わなければならないという事はありませんよ」
「いえ、今日‥‥言います」
「では、どうぞ」
「は、はい。あの‥‥えっと…僕は…学院でも屋敷でも周りの人に凄く我儘で…乱暴者でした。屋敷にいた人にも僕と同じクラスだった人たちにも‥‥いけない事をしました。たくさんの人に迷惑をして…ごめんなさい!」
少しだけヨハンの泣き声が聞こえたような気がした。
誰かが衝立の向こうで何かを言っているが傍聴人たちにはよく聞こえない。
しかし、そんな間を壊す大きな音がした。
ベンジャーが足を振り上げ、履いていた木の靴を飛ばしそれが壁に当たったのだ。
「くっだらねぇ。クソガキが。お前が!お前さえ生まれて来なきゃ!みんな幸せだったんだよッ!空気読めや!テメェだけぬくぬくいい気になってんじゃねぇよッ」
その言葉に傍聴席から色んなものがベンジャーに向かって飛んできた。バッグだったり靴だったり。途中で失速するのは判っているのにハンカチやスカーフも色んなものが罵声と一緒に飛んできた。
投げつける品が無くなってもベンジャーを罵倒する声が止む事はない。
閉廷する以外に方法は無くなり、ベンジャーは騎士に連れられて先に退廷をしたが、姿が見えなくなっても罵倒する声が止まる事はなかった。
「よく、頑張ったな」
「うん…あの…おばさん…」
「どうしたの?あ、そうだ!今日はヨハンの好きなグラタン食べていこうか?リンデバーグがご馳走してくれるって♡わたくしもグラタン大好き。ついでにパフェも半分こしましょう」
「えぇっ?俺の奢りって‥‥給料日明後日で…」
「気にしない。気にしない。ねっヨハンはパフェも好きだよね~」
「うん…好き…」
ヨハンは知っている。インシュアがグラタンよりもドリアが好きな事を。
リンデバーグも知っている。どうして好きを連呼しているかを。
2人ともそんなインシュアが大好きである。
ベンジャーの裁判は以降非公開となったが判決は早かった。
懲役43年。当然ながら執行猶予はつかない。
甘い判決に思えたが、ベンジャーの向かう刑務所の場所を聞いて誰もが納得をした。
あの密売組織の者達が先に入っている刑務所。
見た目だけが良いだけの自分たちがこうなってしまう原因を作った男が来ればどうなるか、趣味の悪い賭けが始まったが賭けにならなかった。誰もが1カ月以内にBETしたからだ。
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