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最終章☆それぞれの立ち位置(22話)
最終話☆もう騙されない女
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架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。
この章は最終章となりますので第一章から第四章のインシュアの保険販売とは読んだ時の受け取り方(感じ方)が変わるかも知れません。
中間にあるライアル伯爵家日記に近いと思って頂いて構いません。
架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。
◇~◇~◇
来週にはヨハンがリーン国のカモッシカ学園の寮に入寮するという日。
ヨハン、インシュア、リンデバークは連れ立って訪れた場所があった。
「8390番、入れ」
ガチャリと扉が開き、入ってきたのは山姥の方がまだ身だしなみをしっかりしているのでは?と思うほどのメイサだった。ほぼ2年ぶりに見るヨハンに向かって突進するがアックリル板に衝突する。
しかし、ぐにゃっと顔を押し付けながらも言いたい事を言うのを忘れない。
「ヨハンっ!やっと来てくれたのね。お母様を早くここから出してっ」
バンバンとアックリル板を叩くが、ヨハンは向かいにある椅子に座ろうともしない。
扉の脇には帽子を被った女性と騎士のような男性が立っているが関係がない。メイサはヨハンの名を呼んだ。
「何してるの!ヨハン!お母様よ。まさか忘れたりしてないわよね?貴方を産んだお母様よ。聞いたわ。公爵家にいるんですってね。お願い。お母様はもうここに居るのは耐えられないの。同じ部屋の女囚には叩かれるし、これをみてよ。腕だけじゃないわ!体のどこもかしこも痣だらけなの。お母様を助けられるのはヨハンだけよ。公爵様にお願いして頂戴。きっと公爵様もお母様の事は気に入ってくれるわ。ね?ヨハン!!聞こえてる?聞こえてるの?!」
「僕もそうだったよ。でも叩いてたのは誰でもないアンタだ!」
「ヒッ!!‥‥ヨハン?どうしちゃったの?お母様の事をアンタだなんて…」
「アンタの立場は母親じゃない。他人だ。でも今日は‥‥もういい。さよなら」
くるりと背を向けて、扉の脇に立つインシュアとリンデバーグにヨハンは微笑んだ。
かつて母と呼んだ人に決別を告げたヨハンの微笑には迷いも憂いもなかった。
それを見てインシュアは帽子を取り、名を呼んでアックリル板を叩くメイサに近づいた。
「アンタ‥‥たしか…」
「お久しぶりね。元気そうで何よりだわ。お返しに来たの」
「ど、どういう事よ‥‥」
「せいぜい頑張ってね?都合良いように騙されちゃダメよ♪」
「騙されてないわ!伯爵夫人はわたしよっ!ちょっと!聞きなさいよ!!」
またバンバンとアックリル板を叩くメイサ。インシュアは悪い微笑を残し踵を返した。
扉が開くとヨハンから出て行ってしまう。メイサは激しく叫んだ。
「ヨハンッ!こっちを向いて!公爵様に頼むのよ!いい?!ヨハァンッ!!」
扉の向こうではまだ叫ぶ声が聞こえるが、刑務官に押さえられたのだろう。ヨハンの名と一緒に罵声も聞こえてくる。しかしメイサがもうヨハンに会う事はないだろう。
そして3人はもう一つ別の刑務所を訪れた。
早々に儚くなるかと思ったベンジャーだが生きていたのだ。
先代ライアル伯爵夫妻の相続放棄を申し立てた際に「まだ生きている」と却下された事で生存をしったのだ。ゴキ●リ以上の生命力である。息子が生きている以上孫に相続権は発生しない。
短い者でも30年は服役をしなくてはならない空間で見目の良いベンジャーはとても可愛がられた。見た目の良さで生き残ってきたのだ。しかしベンジャーの刑期は43年。まだあと41年残っている。
出所するのは生きていれば76歳。その見目の良さは何時まで認めてもらえるのか、同房のみぞ知る。
「1059046番、入れ」
ガチャリと扉が開き、入ってきたのは見える範囲に何かが吸い付いたような痣があるベンジャーだった。ヨハンに向かって言葉をかけるかと思いきや違った。
その後ろにいるインシュアに向かってアックリル板に顔を押し付けながら叫んだ。
「インシュアッ!来てくれたんだね。会いたかった。もっとこっちに来て顔を見せて」
目の前にヨハンがいると言うのに、まるで見えていないかのようにただインシュアの名を呼ぶ。そんなベンジャーにヨハンは溜息を一つ吐くと、もう何も言う事もないのだろう。
インシュアの方に向かって歩き、インシュアはヨハンを抱きしめた。
髪を撫でられ、母親に甘えるかのようなヨハンに向かってベンジャーは叫んだ。
「触るな!俺のインシュアに触るなっ!穢れるじゃないか!」
そんなベンジャーの方を一切見ずにインシュアはヨハンの髪にキスを落とすとリンデバーグだけを残して部屋を出て行った。
ただ仲の良い親子が目の前で繰り広げるような光景を見せられるベンジャーは力の限りアックリル板を叩き、インシュアの名を叫び続けた。
ゆっくりと近寄ったリンデバーグに手を止めたベンジャーは睨みつける。
しかし‥‥
「俺の妻の名を呼ぶな」
「つ、妻だと?!インシュアは俺の妻だっ!騙そうったってそうはいかない」
「お前のように人を騙してまで何かを得ようなどと微塵も思わない。それにお前のことは妻も息子も…何の関心もないみたいだ」
「えっ?息子…えっ?どういう…ヨハンは俺とインシュアの子?えっ??」
「バカか。俺とインシュアの子だ。それを伝えに来ただけだ」
「判らないっ!どういう事なんだっ」
「教えてやるよ。俺はヨハンの未成年後見人をしていたが、養子縁組をしたんだ。ただ養子縁組が出来るのは婚姻している事が条件になるからな。俺としては大願成就だっただけだ。お前たちが犯罪者で良かったよ。祖父母はもうこの世にいないし、虐待をしていた親の同意も不要。特別養子縁組だからヨハンは俺の養子ではなく実子だ。インシュアはヨハンの母という事だ。お前は死んでも俺たちに関わる事は出来ない。良かったな。一生関心も持たれず野垂れ死ぬ事が出来て」
「そんな‥‥関心もないって…あり得ないだろう」
「ま、その程度の関係、その程度の立場だったって事だ。じゃぁな」
「待てっ!待ってくれ!!もう一度会わせてっ会わせてくれっ。謝る!ヨハンにも謝るから俺にインシュアを返してくれっ!返してくれぇぇ!!」
ベンジャーの声はリンデバーグの背にぶつかるがリンデバークは振り返らず静かに退室した。
リンデバーグはインシュアと正式に結婚をした後、スザコーザ公爵家の貴族籍を抜けた。妻であるインシュアも男爵家から籍を抜き平民となった。
貴族同士の結婚の場合は、妻は2つの貴族籍を持つことになるが先に貴族同士で結婚しなければ双方の実家に扶養されている状態だったため、独立する必要があったのだ。
そして、結婚し1つの世帯となった事で貴族籍を抜いた。平民となった2人はヨハンと特別養子縁組を結んだのだ。
通常の養子縁組の場合、養子となった子は2組の親を持つことになる。血縁関係にある両親との縁を切る事は出来ないからである。元親、養親双方の相続権も持つことになる。
しかし特別養子縁組は15歳以下の未成年の場合、条件を満たせば「養子」ではなく【実子】となるのだ。その場合元の親との縁が切れるので元の親が亡くなっても相続権は発生しない。血の繋がりはなくても本当の親子になるのだ。
1)条件は縁組をする親となる者が25歳以上で婚姻している事
2)子供が15歳未満である事
3)元の親、若しくは祖父母の同意がある事(虐待などの事由がある場合は不要)
4)縁組をする者が6カ月以上の期間に渡り子を養育している事
その他にリンデバーグは未成年後見人であった事から【未成年後見人と被後見人との養子縁組許可】を受けねばならなかった。
未成年後見人は、面倒をみている子供の資産なども管理をする。なので使い込みも可能な立場なのだ。裁判所は定期的に報告書を提出する事を求める。子供の資産を守るためである。
ヨハンにはプラスの資産は一切なかった。唯一あったのは祖父母の死亡保険金だったがそれも祖父母が解約し受け取るものは無くなり結果的に祖父母の借金(あの医療費など)、メイサの借金が残ったのだ。
祖父母についてはベンジャーが相続となっているが収監中では支払いは出来ない。そのままの状態で放っておけばベンジャーの死後ヨハンに回ってくる。メイサもどうにもならない。
相続放棄だけは生きている間は出来ないのだ。生前分与は出来ても放棄は出来ない。特にメイサはこの先どれだけの負債を抱え込むかも判らない上に、2人が死ぬまでヨハンにつき纏う。
人は何時亡くなるか判らない。出産予定日は推測出来ても亡くなる日は誰にも分らないからだ。
ヨハンが人生を賭けた一大事に望んでいる時や、大病を患って闘病中になるかも知れない。
不安材料は刈り取るに限る。
4)についてはマイナスの財産しかない上に、未成年のヨハンに1人で自活する事は無理でリンデバーグが養育をしていたと認められたのも大きいが、結婚して半年の間、ヨハンを養育もした事からクリアした。
3)については2人とも児童虐待で有罪判決を受け服役している。同意はなくても問題なかったし祖父母はもう死亡している。
あとはインシュアの立場だった。
結婚詐欺に至る過程においてヨハンの立場はインシュアにとって加害者。
特別養子縁組をする事でそれまでの判決が覆る事はない。それでも気分的な問題は残る。
インシュアは冷たい女なのだが、この2年間でヨハンに対しての蟠りは消えた。
ヨハンに罪はない。置かれた環境が劣悪でそれに異を唱える事をしなかったのでも出来なかったのでもなく、異を唱えるというそのものが欠落していたのだから子供に罪はない。罰を受けるのはそうしてしまった大人である。
リンデバーグとヨハンの合わせ技一本のような特別養子縁組と婚姻だった。
◇~◇~◇
「では、おと…」
「どうした?」
「あの…行ってきます」
「ヨハン?何か忘れてないかしら?」
「あ、うん…お父‥‥さん、お母さ…ん…行ってきます」
「ん~。インシュア聞こえたか?」
「何にも聞こえないわ。おかしいわね…耳掃除したのに」
ニコニコと笑っている2人にヨハンはまだはっきりと【お父さん、お母さん】と呼ぶ事が出来ない。真っ赤になって口をモゴモゴとさせているが2人は言葉を待っているのだ。
「あぁっ!もうぉっ!!行ってきますっ!!」
「ヨハン、その挨拶はどうかしら?誰に行ってきますなのかしら…困ったわ」
「お父さんとお母さんだよっ!!」
<< はい。行ってらっしゃい♡ >>
「もう!帰省した時に弟か妹がいなかったら承知しないからね!」
「ヨハン‥‥どこでそんな事を覚えて来たんだ…」
「大丈夫。ちゃんと比較検討してコウノットリ保険商会のパンフレット貰ってるわ」
「ユズリッハじゃないのか…いろいろ酷いな」
「保険はね、万が一のための物よ。適切な方を選ぶに決まってるじゃない」
やはりインシュアは冷たい女なのだ。
自身の加入でも歩合はつくが他社製品を選ぶ冷たい女なのだ。
でも、家族には甘い女になりつつある。チョロい女だ。
だがインシュアを騙すのはやめた方が良い。
インシュアはもう騙されないからだ。
Fin
☆~☆~☆
長い話にお付き合い頂きありがとうございました<(_ _)>
おまけでその後の一家の様子を投稿した後、完結表示といたします。
この後は、前回?前々回??コメント頂いた方への返信に記載したように4月半ばから予定通りに依頼がありましたので本業に入ります。
昨年のような鬼激務ではないと思いますがコメントの返信に時間を頂く事があります。
PCが業務用とは別なので1週間経過すると返信がないまま承認になる可能性もあります。休憩時間など利用して返信はしますが一旦は返信なしになってしまう可能性があります。
その際はご容赦くださいませ<(_ _)>
この章は最終章となりますので第一章から第四章のインシュアの保険販売とは読んだ時の受け取り方(感じ方)が変わるかも知れません。
中間にあるライアル伯爵家日記に近いと思って頂いて構いません。
架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。
◇~◇~◇
来週にはヨハンがリーン国のカモッシカ学園の寮に入寮するという日。
ヨハン、インシュア、リンデバークは連れ立って訪れた場所があった。
「8390番、入れ」
ガチャリと扉が開き、入ってきたのは山姥の方がまだ身だしなみをしっかりしているのでは?と思うほどのメイサだった。ほぼ2年ぶりに見るヨハンに向かって突進するがアックリル板に衝突する。
しかし、ぐにゃっと顔を押し付けながらも言いたい事を言うのを忘れない。
「ヨハンっ!やっと来てくれたのね。お母様を早くここから出してっ」
バンバンとアックリル板を叩くが、ヨハンは向かいにある椅子に座ろうともしない。
扉の脇には帽子を被った女性と騎士のような男性が立っているが関係がない。メイサはヨハンの名を呼んだ。
「何してるの!ヨハン!お母様よ。まさか忘れたりしてないわよね?貴方を産んだお母様よ。聞いたわ。公爵家にいるんですってね。お願い。お母様はもうここに居るのは耐えられないの。同じ部屋の女囚には叩かれるし、これをみてよ。腕だけじゃないわ!体のどこもかしこも痣だらけなの。お母様を助けられるのはヨハンだけよ。公爵様にお願いして頂戴。きっと公爵様もお母様の事は気に入ってくれるわ。ね?ヨハン!!聞こえてる?聞こえてるの?!」
「僕もそうだったよ。でも叩いてたのは誰でもないアンタだ!」
「ヒッ!!‥‥ヨハン?どうしちゃったの?お母様の事をアンタだなんて…」
「アンタの立場は母親じゃない。他人だ。でも今日は‥‥もういい。さよなら」
くるりと背を向けて、扉の脇に立つインシュアとリンデバーグにヨハンは微笑んだ。
かつて母と呼んだ人に決別を告げたヨハンの微笑には迷いも憂いもなかった。
それを見てインシュアは帽子を取り、名を呼んでアックリル板を叩くメイサに近づいた。
「アンタ‥‥たしか…」
「お久しぶりね。元気そうで何よりだわ。お返しに来たの」
「ど、どういう事よ‥‥」
「せいぜい頑張ってね?都合良いように騙されちゃダメよ♪」
「騙されてないわ!伯爵夫人はわたしよっ!ちょっと!聞きなさいよ!!」
またバンバンとアックリル板を叩くメイサ。インシュアは悪い微笑を残し踵を返した。
扉が開くとヨハンから出て行ってしまう。メイサは激しく叫んだ。
「ヨハンッ!こっちを向いて!公爵様に頼むのよ!いい?!ヨハァンッ!!」
扉の向こうではまだ叫ぶ声が聞こえるが、刑務官に押さえられたのだろう。ヨハンの名と一緒に罵声も聞こえてくる。しかしメイサがもうヨハンに会う事はないだろう。
そして3人はもう一つ別の刑務所を訪れた。
早々に儚くなるかと思ったベンジャーだが生きていたのだ。
先代ライアル伯爵夫妻の相続放棄を申し立てた際に「まだ生きている」と却下された事で生存をしったのだ。ゴキ●リ以上の生命力である。息子が生きている以上孫に相続権は発生しない。
短い者でも30年は服役をしなくてはならない空間で見目の良いベンジャーはとても可愛がられた。見た目の良さで生き残ってきたのだ。しかしベンジャーの刑期は43年。まだあと41年残っている。
出所するのは生きていれば76歳。その見目の良さは何時まで認めてもらえるのか、同房のみぞ知る。
「1059046番、入れ」
ガチャリと扉が開き、入ってきたのは見える範囲に何かが吸い付いたような痣があるベンジャーだった。ヨハンに向かって言葉をかけるかと思いきや違った。
その後ろにいるインシュアに向かってアックリル板に顔を押し付けながら叫んだ。
「インシュアッ!来てくれたんだね。会いたかった。もっとこっちに来て顔を見せて」
目の前にヨハンがいると言うのに、まるで見えていないかのようにただインシュアの名を呼ぶ。そんなベンジャーにヨハンは溜息を一つ吐くと、もう何も言う事もないのだろう。
インシュアの方に向かって歩き、インシュアはヨハンを抱きしめた。
髪を撫でられ、母親に甘えるかのようなヨハンに向かってベンジャーは叫んだ。
「触るな!俺のインシュアに触るなっ!穢れるじゃないか!」
そんなベンジャーの方を一切見ずにインシュアはヨハンの髪にキスを落とすとリンデバーグだけを残して部屋を出て行った。
ただ仲の良い親子が目の前で繰り広げるような光景を見せられるベンジャーは力の限りアックリル板を叩き、インシュアの名を叫び続けた。
ゆっくりと近寄ったリンデバーグに手を止めたベンジャーは睨みつける。
しかし‥‥
「俺の妻の名を呼ぶな」
「つ、妻だと?!インシュアは俺の妻だっ!騙そうったってそうはいかない」
「お前のように人を騙してまで何かを得ようなどと微塵も思わない。それにお前のことは妻も息子も…何の関心もないみたいだ」
「えっ?息子…えっ?どういう…ヨハンは俺とインシュアの子?えっ??」
「バカか。俺とインシュアの子だ。それを伝えに来ただけだ」
「判らないっ!どういう事なんだっ」
「教えてやるよ。俺はヨハンの未成年後見人をしていたが、養子縁組をしたんだ。ただ養子縁組が出来るのは婚姻している事が条件になるからな。俺としては大願成就だっただけだ。お前たちが犯罪者で良かったよ。祖父母はもうこの世にいないし、虐待をしていた親の同意も不要。特別養子縁組だからヨハンは俺の養子ではなく実子だ。インシュアはヨハンの母という事だ。お前は死んでも俺たちに関わる事は出来ない。良かったな。一生関心も持たれず野垂れ死ぬ事が出来て」
「そんな‥‥関心もないって…あり得ないだろう」
「ま、その程度の関係、その程度の立場だったって事だ。じゃぁな」
「待てっ!待ってくれ!!もう一度会わせてっ会わせてくれっ。謝る!ヨハンにも謝るから俺にインシュアを返してくれっ!返してくれぇぇ!!」
ベンジャーの声はリンデバーグの背にぶつかるがリンデバークは振り返らず静かに退室した。
リンデバーグはインシュアと正式に結婚をした後、スザコーザ公爵家の貴族籍を抜けた。妻であるインシュアも男爵家から籍を抜き平民となった。
貴族同士の結婚の場合は、妻は2つの貴族籍を持つことになるが先に貴族同士で結婚しなければ双方の実家に扶養されている状態だったため、独立する必要があったのだ。
そして、結婚し1つの世帯となった事で貴族籍を抜いた。平民となった2人はヨハンと特別養子縁組を結んだのだ。
通常の養子縁組の場合、養子となった子は2組の親を持つことになる。血縁関係にある両親との縁を切る事は出来ないからである。元親、養親双方の相続権も持つことになる。
しかし特別養子縁組は15歳以下の未成年の場合、条件を満たせば「養子」ではなく【実子】となるのだ。その場合元の親との縁が切れるので元の親が亡くなっても相続権は発生しない。血の繋がりはなくても本当の親子になるのだ。
1)条件は縁組をする親となる者が25歳以上で婚姻している事
2)子供が15歳未満である事
3)元の親、若しくは祖父母の同意がある事(虐待などの事由がある場合は不要)
4)縁組をする者が6カ月以上の期間に渡り子を養育している事
その他にリンデバーグは未成年後見人であった事から【未成年後見人と被後見人との養子縁組許可】を受けねばならなかった。
未成年後見人は、面倒をみている子供の資産なども管理をする。なので使い込みも可能な立場なのだ。裁判所は定期的に報告書を提出する事を求める。子供の資産を守るためである。
ヨハンにはプラスの資産は一切なかった。唯一あったのは祖父母の死亡保険金だったがそれも祖父母が解約し受け取るものは無くなり結果的に祖父母の借金(あの医療費など)、メイサの借金が残ったのだ。
祖父母についてはベンジャーが相続となっているが収監中では支払いは出来ない。そのままの状態で放っておけばベンジャーの死後ヨハンに回ってくる。メイサもどうにもならない。
相続放棄だけは生きている間は出来ないのだ。生前分与は出来ても放棄は出来ない。特にメイサはこの先どれだけの負債を抱え込むかも判らない上に、2人が死ぬまでヨハンにつき纏う。
人は何時亡くなるか判らない。出産予定日は推測出来ても亡くなる日は誰にも分らないからだ。
ヨハンが人生を賭けた一大事に望んでいる時や、大病を患って闘病中になるかも知れない。
不安材料は刈り取るに限る。
4)についてはマイナスの財産しかない上に、未成年のヨハンに1人で自活する事は無理でリンデバーグが養育をしていたと認められたのも大きいが、結婚して半年の間、ヨハンを養育もした事からクリアした。
3)については2人とも児童虐待で有罪判決を受け服役している。同意はなくても問題なかったし祖父母はもう死亡している。
あとはインシュアの立場だった。
結婚詐欺に至る過程においてヨハンの立場はインシュアにとって加害者。
特別養子縁組をする事でそれまでの判決が覆る事はない。それでも気分的な問題は残る。
インシュアは冷たい女なのだが、この2年間でヨハンに対しての蟠りは消えた。
ヨハンに罪はない。置かれた環境が劣悪でそれに異を唱える事をしなかったのでも出来なかったのでもなく、異を唱えるというそのものが欠落していたのだから子供に罪はない。罰を受けるのはそうしてしまった大人である。
リンデバーグとヨハンの合わせ技一本のような特別養子縁組と婚姻だった。
◇~◇~◇
「では、おと…」
「どうした?」
「あの…行ってきます」
「ヨハン?何か忘れてないかしら?」
「あ、うん…お父‥‥さん、お母さ…ん…行ってきます」
「ん~。インシュア聞こえたか?」
「何にも聞こえないわ。おかしいわね…耳掃除したのに」
ニコニコと笑っている2人にヨハンはまだはっきりと【お父さん、お母さん】と呼ぶ事が出来ない。真っ赤になって口をモゴモゴとさせているが2人は言葉を待っているのだ。
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「ヨハン、その挨拶はどうかしら?誰に行ってきますなのかしら…困ったわ」
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「ヨハン‥‥どこでそんな事を覚えて来たんだ…」
「大丈夫。ちゃんと比較検討してコウノットリ保険商会のパンフレット貰ってるわ」
「ユズリッハじゃないのか…いろいろ酷いな」
「保険はね、万が一のための物よ。適切な方を選ぶに決まってるじゃない」
やはりインシュアは冷たい女なのだ。
自身の加入でも歩合はつくが他社製品を選ぶ冷たい女なのだ。
でも、家族には甘い女になりつつある。チョロい女だ。
だがインシュアを騙すのはやめた方が良い。
インシュアはもう騙されないからだ。
Fin
☆~☆~☆
長い話にお付き合い頂きありがとうございました<(_ _)>
おまけでその後の一家の様子を投稿した後、完結表示といたします。
この後は、前回?前々回??コメント頂いた方への返信に記載したように4月半ばから予定通りに依頼がありましたので本業に入ります。
昨年のような鬼激務ではないと思いますがコメントの返信に時間を頂く事があります。
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