では、こちらに署名を。☆伯爵夫人はもう騙されない☆

cyaru

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最終章☆それぞれの立ち位置(22話)

ヨハンの覚醒とリンデバーグの求婚

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架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。

この章は最終章となりますので第一章から第四章のインシュアの保険販売とは読んだ時の受け取り方(感じ方)が変わるかも知れません。

中間にあるライアル伯爵家日記に近いと思って頂いて構いません。

架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。




◇~◇~◇

リンデバーグに未成年後見人となってもらい約1年半。4カ月後に行われる隣国リーン国のカモシッカ学園への入試試験を受けるための願書ももう発送済みである。

受付の締め切りまではまだ2か月ほど余裕はあるが、ヨハンの意志は変わらず受付初日に発送。先程執事から速達でヨハン宛の手紙ですと受け取り、封を切って中身を確認すると受験票だった。受験番号は1番である。

数字の意味が分からず1という紙を沢山用意して2の数字の下には1の紙を2枚。5なら5枚と教えてもらったのが1年半ほど前とはヨハン自身も信じられない。

「今日の授業はここまでにしましょう」

「はい。先生。今日もありがとうございました」

講師を見送り、届いた受験票を見せようとヨハンはサロンに向かった。少しだけ開いた扉から話声がする。

――もう!何やってんの!――

ヨハンは勢いをつけて扉を開いた。






☆~☆ 昨夜の事 ☆~☆

ここ数日、考え事をしているリンデバーク。明日に迫った33歳の誕生日にインシュアにプロポーズをするか迷っているのだ。指輪も買っていてケースを開いたり閉じたりでその数だけ溜息も吐いている。
目の前には証人として元第二王子に既に署名をしてもらっている結婚誓約書。リンデバーグの名前も記入されていてあとはインシュアに記入してもらうだけである。

そんな物まで用意しているなんて…と思ったが執事を見ると指を折って天井を見ている。もう何枚目かの結婚誓約書なんだろうなとヨハンは呆れてしまった。

だが、躊躇する気持ちの中に自分の事があるのだろうと察しを付けた。


「僕の事があるから‥‥言えないの?」

溜りかねたヨハンが声をかけると、考え事をし過ぎてヨハンが部屋に来た事にも気が付かなったリンデバークは驚き手にしていた指輪のケースを真上に放り上げた。


パシッ!!


「大事なものなんでしょう?放り上げたらダメだよ」

宙に飛んだケースを手にすると先程届いた受験票と一緒にリンデバーグに手渡した。
受験票を見たリンデバークは表、裏と何度もひっくり返しながらヨハンの目を見た。


「本当にリーンに行くのか?王立の学園に通ってもいいんだぞ?」

「ううん。リーンに行けば勉強だけじゃなくシャボーン国以外の文化とか歴史も学べるから。それに3年の差は大きいと思うんだ。21歳と24歳じゃ全然違う。実際の経験年数だって3年違ってくるし」

「そうか。行くならしっかりやれよ」

「わかってる。で、おじさんは何を悩んでるの?まさかまだ言ってないの?」


くぅぅ~っと声にならない声を出し、受け取ったケースを額に押し付けて俯いてしまうリンデバーグにヨハンはソファの隣にドサっと座った。

「おじさん、男ならビシっと決めなよ」

「簡単に言うよなぁ…俺が何年拗らせていると思ってるんだ」

「そんなの他人が知るわけないじゃないか」

「他人?あ、そうだ‥‥いや、ダメだ…あれは禁じ手だ…はぁぁ~」

「何が禁じ手なの?馬丁のおじさんが言ってたよ。使える手は何でも使えって」

「はぁ?お前‥‥そんな事はまだ覚えなくていい」

「試しに言ってみてよ。どうせ子供だから判んないよ。ほら、言ってみて」

「実は…」

モニョゴニョと話をする煮え切らないリンデバーグの話を聞き終わったヨハンはリンデバーグの両方を頬を指でギュゥゥっと真横に引っ張った。

「僕をダシに使っていいよ。ダメならその時だよ」

「だが…こんな姑息な手は…」

「おじさんっ!骨は拾ってあげるから散ってきなよ!」

「散る事前提かあぁぁ~」

ヘタレなリンデバーグの背を押すヨハン。男同士の夜は更けていったのだ。






☆~☆ そして冒頭に戻る ☆~☆

ヨハンの記憶能力や順応力は目を見張るものがあった。理由が判れば飲み込みも早い。
分数を覚えた後も乗算除算は講師が良かったのかも知れない。

2×3=

と聞くのではなく、四則計算でも乗算除算でも何でもいい。とにかく答えが【6】になるのは何だ?と答えから問いを考えさせる。ヨハンは思いつく限りの数を書いていく。とにかく答えが6になればいいのだから無限にあるのだ。ノートが数式で真っ黒になっていくが止まらない。
1×6も6×1も10ー4も100ー94でも答えは6なのだ。

そしてそれを乗算除算に限定した時、素数がある事に気が付く。
3、5、7、11・・・その数字か1でないと割り切れない数。では素数でない物には何があるか。
公約数があり、その中には最小公約数と最大公約数がある事が判る。

ヨハンは理由が理解出来れば良いのだ。なので定理などの数学的証明は講師も教える事がないと1年足らずでお手上げになった。


そしてある日…

『先生、これってフィボナッチ数だよね』

『えっ‥‥??』

『ユリとバナナは3、サクラとリンゴは5、コスモスは8』

『えっと…ごめんね?ヨハン君それはどういう意味かな?』

『花びらの数だよ。バナナとかリンゴはグサって切るとその数に分かれてるでしょ?子房っていう花粉が受精して果実になるところも花びらの数と同じなんだよね』

『そ、そうね‥‥そうだったわね。オホホ…』

『でね?書架の本にあったけどヒマワリの種の配置は黄金螺旋で時計回りと半時計――』

『待って。待ってヨハン君。それはきっと先生の分野じゃないと思うの』

『先生だよ。だってフィボナッチ数列は数学じゃないか』

『そうだと思うわ?でもね?先生はちょっと違う数学っていうか…あぁごめんなさいっ!先生そこまで詳しくないの!ピタゴラスの定理とか平行線公理そういうのなの』

『平行線公理?!平行線の公理とユークリッド『原論』の第5公準の同値性の証明だよね!その本読んだよ!先生凄い!でね、その時に判らない事があったんだ』

『待って!ヨハン君!そこまで詳しくないのぉぉぉ!NOぉぉぉ!』


その日を境にヨハンの数学の先生はリンデバーグが元第二王子に頼み込んで王宮の御用学者になってしまった。それでも止まらないヨハンの好奇心。数学から物理、科学、そして歴史へと興味と知識が広がっていく。
本人が興味を持っているので、どんどん覚えていくのだ。


今日も1通、【もう教える事はない】と王宮の講師から手紙が届いた。

「インシュア‥‥ヨハンは本当にベンジャーの子か?」

リンデバークは信じられないとインシュアに問うた。

ふと考えれば、離れの書庫。膨大な本と聞き取りなどをしたりした書類。1人お悩み相談をしたけれど中には【隣の家の鉢植えを落として壊した。明日までに花を咲かせるには?】などと言う無茶ぶりな物もあったが、沢山の本の中には植物学の本も読みこんだ跡があった。

120~150年前には判らなかった事も今は解明されている事も多い。
きっとヨハンはあの本の持ち主、そして離れの住人であったご先祖様に似たのかも知れない。


「ヨハンはヨハン。それでいいじゃない」

「うーん…それは良いんだ。それは‥‥ちょっといいかな」

「どうしたの?」

「その‥‥インシュア…あの…」

「なに?はっきりしなさいよ」

「いや、いいんだ。もう遅い。送っていくよ」

「あら?もうこんな時間。大変だわ」

「俺も色々大変で…」

「何?なんか言った?」

「いや、何にも言ってない」


バタン!!!【おじさんっ!何やってんだよ!】


勢いよく扉を開けて入って来たのはヨハン。真っ直ぐに煮え切らないリンデバーグに向かって歩く。そして扉の近くに控えていた執事に声をかけた。

【アレをお願いしますっ】

にこりと笑った執事がゆっくりと胸ポケットからあの結婚誓約書を取り出してテーブルに広げ、わきにペンをコトリと置いた。

何なの?と驚くインシュアにヨハンは置かれたペンを手に取って差し出した。


「おばさん、ここに署名をお願いします」


グイグイとペンを差し出し、インシュアが受け取るとインシュアの署名欄を指でコツコツと指した。肝心のリンデバークはすっかり後ろを向いてソファの背に手をかけてまるで子供である。

「リンデバーグ、これはどういう事なの?侯爵閣下…いえ、元第二王子殿下にまで署名を頂いてるなんて!」

「あの…いや…えっと…」

「おじさんっ!話をする時はちゃんと顔を見るんだよ!」


まるで借りてきた猫状態のリンデバーグ。「どういうこと!」とペンを指でへし折りそうなインシュアに、「決めろ!」と発破をかけてくるヨハンと執事。

ままよ!っとリンデバーグはサッとテーブルのわきに跪くと指輪のケースを差し出した。

「インシュア!結婚しよう」

「あのねっ!そう言うことはっ!」

「おばさんっ!僕からもお願い!おじさんをやって!」

「わたくしからも使用人一同を代表しましてでお願いいたします」


プルプルと震えるインシュア。

「どうしてそういう事は昨日言わないの!!」

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「誕生日が来たら、掛け金が上がるじゃないの!」


って事は…OK? 
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