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第36話 シュークリーム甘い甘い甘い
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ところ変わってエストス侯爵家では午後のお茶の時間を迎えようとしていた。
「アリー。さっきはすまない。休憩してお茶にしないか」
「ダリウス。持ってきてくれたの?ありがとう」
作業の手を止めて「手を洗ってくる」と言い残し部屋を出て行ったアリアだが、ダリウスはアリアの前で怒りを露わにしてしまったことを後悔していた。
喜怒哀楽の内、怒りと涙は振り切れると無表情と言われるダリウスでも呪縛が解けてしまう。
あんなに厳しかった祖父が亡くなった時、ダリウスは号泣した。
人前で泣くなんてと祖父が生きていれば叱られるが、その時だけは感情が制御できなかった。以来、大抵の事は自制してきたけれど、今回は怒りが限界点を超えてしまった。
祖母の先代夫人にぺちっと叩かれている間、鬼の形相になったのを見たアリアの驚いた顔が浮かんで泣きたくなった。
アリアが手を洗いに部屋を出て行ってもダリウスは立ったまま動けない。
余りの恐ろしさに手を洗いに行く振りをして屋敷を出て行ってしまうかも知れない。そう思うと胸が痛くて苦しくてこの場に崩れ落ちそうだった。
「座らないの?」
ひょっこりと顔を覗いてくるアリアを見てダリウスは「許してくれるのか?」と呟いた。
「え?‥‥まさか!手を洗いに行っている間に1人で食べちゃったの?」
「そうではない」
「じゃぁ…来る途中につまみ食いしてしまったとか?」
「そうではない」
「うーん…お茶を蒸らし過ぎて苦みが出ているとか?」
「そうではない」
「だったら私に許してもらう事なんか何もないですよ?さぁ食べましょう。シュークリームって言うんだそうです。どれどれぇ??薄皮に詰め込んだカスタードクリームを見せてご覧♡」
生まれて初めて見るし食べるシュークリーム。
手に取ってみると本当に薄皮の中にずっしりとカスタードが詰め込まれていた。
「おぉ~画期的!芸術だわ」
「かなり甘いらしい。食べ過ぎに気を付けろと料理長が言っていた」
「そうなのね。では♡ムフフ…はい!」
スッとダリウスの前に差し出されたシュークリーム。
アリアは「私はどれにしようかな~」と言いつつも「ダリウスは甘いの苦手だから少な目と思えるのを選んだわ」と口元を猫が獲物を狙う時のウィスカーパッドに似た「ω」の形にして自分の食べるガッツリとカスタードの詰まったシュークリームを品定め。
「これが良いんじゃないか?」
1つを指し示すと「ダリウスのお勧めね」とアリアは手に取ってパクリ。
薄皮に包まれてはいるが、カスタードは注入口の側をパクっとしてしまったので、圧力で行き場を失ったカスタードが口の周りに飛び出してしまった。
「うわ…やっちゃった。食べるのが難しいわね。拭く物…拭く物…」
慌てるアリアの口元に付いたカスタードをダリウスは指で拭うとパクリ。
アリアは目をぱちくり。
「な、何してるの!」
「うん。甘い。それに美味いな」
「甘いのも美味しいのも認めるけど、さっきパクって!!」
「まだついてる。じっとして」
「っっっ!?」
逆側にも付いたままのカスタードをダリウスは指で優しく拭うとまたもやパクリ。
「ダメですってば!」
「何がいけないんだ」
「顔に付いたのを食べるなんて!」
「だったら…アリーが食べたのを口移しならいいのか?」
「侯しゃ…ダリウス!どうかしてます!口の中にはばい菌もいてですね!…え?あれ?」
口移しなんてとんでもないと言おうとしたアリアだったが、今、目の前にいるのはダリウスだよね?と自分に問いかけた。
何故なら目の前のダリウスは目尻を下げて優し気な顔で微笑んでいたからである。
――待って!ダリウス!反則よ!――
腹筋がバッキバキに鍛え上げた体躯を持つイケメンの笑顔は破壊力が凄い。
シャツに隠れた腹筋、緩んでいる頬に下がった目尻。このギャップ!
落ちない女性がいたら是非会ってみたい。
アリアは泣きそうな顔になるダリウスの頬を手で包みそうになったが…。
――ダメ!ダメダメ!――
誤魔化すためにダリウスの手を握り、手にしたシュークリームをむぎゅーッとダリウスの口に押し込んだ。
「甘いな」
「そ、そうですね…シュークリームは甘いです」
「でもアリーの手に付いたシュークリームの方がもっと甘そうだ」
ダリウスはアリアの手にも付いてしまったカスタードを指ごと咥えた。
「やっぱり甘い」
――ほへぇ!!その顔の方がもっと甘ぁい!――
「ともっ、友人なので…それ以上は!!」
「まだ友人か」
シュンとなり表情が消え、いつもの無表情に戻ったダリウスにアリアはさっきの笑顔の方が良いなと思いつい口走ってしまった。
「顔、マッサージしましょうか?元に戻っちゃったみたい。さっきの笑顔のほうが素敵よ」
「私の心も修復してくれるのか」
「心って言うか…(顔?)ま、いいわ。マッサージしてあげる」
アリアは指の腹をダリウスの頬に当て、小さくくるくると回すように動かした。
「アリー。さっきはすまない。休憩してお茶にしないか」
「ダリウス。持ってきてくれたの?ありがとう」
作業の手を止めて「手を洗ってくる」と言い残し部屋を出て行ったアリアだが、ダリウスはアリアの前で怒りを露わにしてしまったことを後悔していた。
喜怒哀楽の内、怒りと涙は振り切れると無表情と言われるダリウスでも呪縛が解けてしまう。
あんなに厳しかった祖父が亡くなった時、ダリウスは号泣した。
人前で泣くなんてと祖父が生きていれば叱られるが、その時だけは感情が制御できなかった。以来、大抵の事は自制してきたけれど、今回は怒りが限界点を超えてしまった。
祖母の先代夫人にぺちっと叩かれている間、鬼の形相になったのを見たアリアの驚いた顔が浮かんで泣きたくなった。
アリアが手を洗いに部屋を出て行ってもダリウスは立ったまま動けない。
余りの恐ろしさに手を洗いに行く振りをして屋敷を出て行ってしまうかも知れない。そう思うと胸が痛くて苦しくてこの場に崩れ落ちそうだった。
「座らないの?」
ひょっこりと顔を覗いてくるアリアを見てダリウスは「許してくれるのか?」と呟いた。
「え?‥‥まさか!手を洗いに行っている間に1人で食べちゃったの?」
「そうではない」
「じゃぁ…来る途中につまみ食いしてしまったとか?」
「そうではない」
「うーん…お茶を蒸らし過ぎて苦みが出ているとか?」
「そうではない」
「だったら私に許してもらう事なんか何もないですよ?さぁ食べましょう。シュークリームって言うんだそうです。どれどれぇ??薄皮に詰め込んだカスタードクリームを見せてご覧♡」
生まれて初めて見るし食べるシュークリーム。
手に取ってみると本当に薄皮の中にずっしりとカスタードが詰め込まれていた。
「おぉ~画期的!芸術だわ」
「かなり甘いらしい。食べ過ぎに気を付けろと料理長が言っていた」
「そうなのね。では♡ムフフ…はい!」
スッとダリウスの前に差し出されたシュークリーム。
アリアは「私はどれにしようかな~」と言いつつも「ダリウスは甘いの苦手だから少な目と思えるのを選んだわ」と口元を猫が獲物を狙う時のウィスカーパッドに似た「ω」の形にして自分の食べるガッツリとカスタードの詰まったシュークリームを品定め。
「これが良いんじゃないか?」
1つを指し示すと「ダリウスのお勧めね」とアリアは手に取ってパクリ。
薄皮に包まれてはいるが、カスタードは注入口の側をパクっとしてしまったので、圧力で行き場を失ったカスタードが口の周りに飛び出してしまった。
「うわ…やっちゃった。食べるのが難しいわね。拭く物…拭く物…」
慌てるアリアの口元に付いたカスタードをダリウスは指で拭うとパクリ。
アリアは目をぱちくり。
「な、何してるの!」
「うん。甘い。それに美味いな」
「甘いのも美味しいのも認めるけど、さっきパクって!!」
「まだついてる。じっとして」
「っっっ!?」
逆側にも付いたままのカスタードをダリウスは指で優しく拭うとまたもやパクリ。
「ダメですってば!」
「何がいけないんだ」
「顔に付いたのを食べるなんて!」
「だったら…アリーが食べたのを口移しならいいのか?」
「侯しゃ…ダリウス!どうかしてます!口の中にはばい菌もいてですね!…え?あれ?」
口移しなんてとんでもないと言おうとしたアリアだったが、今、目の前にいるのはダリウスだよね?と自分に問いかけた。
何故なら目の前のダリウスは目尻を下げて優し気な顔で微笑んでいたからである。
――待って!ダリウス!反則よ!――
腹筋がバッキバキに鍛え上げた体躯を持つイケメンの笑顔は破壊力が凄い。
シャツに隠れた腹筋、緩んでいる頬に下がった目尻。このギャップ!
落ちない女性がいたら是非会ってみたい。
アリアは泣きそうな顔になるダリウスの頬を手で包みそうになったが…。
――ダメ!ダメダメ!――
誤魔化すためにダリウスの手を握り、手にしたシュークリームをむぎゅーッとダリウスの口に押し込んだ。
「甘いな」
「そ、そうですね…シュークリームは甘いです」
「でもアリーの手に付いたシュークリームの方がもっと甘そうだ」
ダリウスはアリアの手にも付いてしまったカスタードを指ごと咥えた。
「やっぱり甘い」
――ほへぇ!!その顔の方がもっと甘ぁい!――
「ともっ、友人なので…それ以上は!!」
「まだ友人か」
シュンとなり表情が消え、いつもの無表情に戻ったダリウスにアリアはさっきの笑顔の方が良いなと思いつい口走ってしまった。
「顔、マッサージしましょうか?元に戻っちゃったみたい。さっきの笑顔のほうが素敵よ」
「私の心も修復してくれるのか」
「心って言うか…(顔?)ま、いいわ。マッサージしてあげる」
アリアは指の腹をダリウスの頬に当て、小さくくるくると回すように動かした。
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