愛用の剣を修復したら氷点下の溺愛が始まった

cyaru

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第48話  道に転がる石

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反省室から出されたエレーナは男女問わず使用人の前なのに、布1枚も渡されず生まれたままの姿。反省室では24時間も過ごしていないけれど、食べ物も水も与えられなかったので憔悴していた。

と、いうのも見つけられた時に男たちと楽しんでいたが、楽しむことに夢中で飲み食いもしていなかったので、そこから換算すれば40時間ほど飲み食いはしていない事になる。
最後に飲んだのがワインなので兎に角飲物が欲しかったが、ブーレ伯爵は条件を付けた。

「水が飲みたければ、もう手を煩わせる事はしない事だ」
「しない、しないわ」

ブーレ伯爵に縋ったエレーナに与えられたのは1口で飲む量の半分の水。
口の中を潤す程度で飲み込めるのはほんの僅かな量にエレーナは余計に喉の渇きを覚えた。
獣のように四つん這いになって「もっと水をくれ」と父のブーレ伯爵に縋ったが聞き入れられることはなかった。

「垢を落とし、ドレスに着替えさせろ」
「待って。待ってよ。お父様」

ブーレ伯爵は一瞥もくれず部屋を出て行き、夫人は何か言いたそうにエレーナを何度も見たが発言は許されていないようで声が音になってエレーナの耳に届くことはなかった。

着飾っている間も侍女たちですら無言。数人の兵士が見守る中、エレーナが「少しで良いから水を頂戴」何度も強請る声だけがする部屋となった。

ふらふらする足取りで馬車に乗り込んだエレーナの向かいには両親が鎮座している。
ブーレ伯爵からは今まで感じた事もないピリピリとした雰囲気が感じられた。

「お父様。お腹の子、父親が誰かなんてもう聞かないのね」
「エストス侯爵だ」
「違うって言ったら…どうする?」
「違う?あり得ない。王宮に付いたら晩餐会だ。何故開かれるか解るか?私が王太子殿下にお前の言葉をそのまま伝えたからだ。嘘であったのなら真実にするしかない。腹の子の父親はエストス侯爵以外にいない。もうそんなところまで来てるんだよ!引き返せないんだ!お前の戯言を真実にするしかもう道はないんだッ!」

ブーレ伯爵はエレーナをビッ!と指さし、蔑む視線を投げつつも言い放った。

「いいか?子供の父親はエストス侯爵。それを真実にするんだ。事実にしろとは言わない。真実にすればいいんだ。違うと言われたら寝た事を強調すればいい。一度寝たら男はお前の責任と言われたら逃れる事は出来ないからな」

エレーナは鬼気迫ったブーレ伯爵に「実は会った事もない」「他人から聞いた噂しか知らない」とはもう言い出せなかった。それを言ってしまったら馬車の中で口の中に手を突っ込み吐いた言葉を嘘と決めつけ、都合のいい言葉を言うまで臓物を手でかき回されそうな気がした。

重苦しい空気の漂う馬車が突然停止をした。
エレーナは体が前につんのめって母親に飛び込むように転び、ブーレ伯爵夫妻は後頭部を壁にぶつけた。

「どうしたんだ」
「旦那様、申し訳ございません。悪戯です」
「悪戯?」
「はい。道の真ん中に石が御座います。退かしますので少しお待ちください」

2人の御者は馬車から降りると幾つも転がされた石を手で広い、道の脇にポイポイと投げた。
握り拳大の石なので、車輪が乗り上げてしまうとガタンと大きな振動で馬が驚き、暴れる可能性もあるし最悪な場合は車軸が折れてしまう事がある。

馬車の走る道はそういう石を取り除きましたよと拾って決められた場所に持って行くと区長から金が貰えるので街中でこんな石を目にすることはない。

区画を管理する区長も自分の担当区で高位貴族などが事故を起こし、原因が管理不十分とされると罪に問われるので出来る対応策は取っているからだ。

「誰がこんな悪戯を‥全く」

ブツブツと言いながら手綱を握っていた御者が馬車の後部ステップに立って同乗とする御者の補助に声を掛けたが…。

「あれ?何処に行ったんだ?俺1人に拾わせる気か?!」

キョロキョロと周囲を見ても姿はない。居ないからと言って石を拾わないなんて選択肢はなく拾っていると「すみません。幾つか纏めて捨てに行ってました」と声がした。

いつもの声と違う気がしたが、しゃがみ込んで俯き、背中を向けているのでくぐもって聞こえるのかも?と御者は気にしない事にし、残った石を拾っては投げ、拾っては投げてなんとか馬車が通れるようにした。

「出発するぞ」声を掛けようとしたが、御者の補助は黙ってさっさと馬車後部のステップに足を乗せて定位置に付いてしまった。

「なんだよ。愛想悪い奴だな。いつもヘラヘラしてるくせに」

御者は1言言ってやろうかと思ったが、これ以上遅らせる事も出来ないし、ここで𠮟りつける暇があったら馬車を出せとブーレ伯爵に言われそうな気がして言葉と苛立ちを飲み込み御者席に着くと馬に鞭を入れた。

動き出した馬車が見えなくなったころ、下着姿で機械油の沁み込んだロープに手足を縛られ、靴下を口枷代わりに口に捻じ込まれた男が芋虫のように這いながら草むらからようよう這い出てきた。

その男こそ、ブーレ伯爵家を出た時に後部ステップに立っていた御者の補助。
では今、走っている馬車の後部ステップに立っているのは…?

★~★
次は18時10分です(=^・^=)
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