愛用の剣を修復したら氷点下の溺愛が始まった

cyaru

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第49話  いる筈なのに

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馬車を降りる段階になって、御者は馬車の中からブーレ伯爵に「早くドアを開けろ」と怒鳴られてしまった。

馬車が停車をすると御者補助が乗っている人を降ろすためにステップを取り付けて、扉をあけ、最初はブーレ伯爵が下りて来るので補助をするのだが、何時まで経っても扉が開かないのだ。

慌てて「何してんだ!」後ろにいる筈の補助に声を掛けながら御者席を飛び降りるといる筈の補助がいない。
馬車の周囲を1周したが、人間はいない。城の門道で振り落とされたのなら走ってでも追い付いている筈なのに人の姿がないのだ。

「申し訳ございません。石を拾った時に…乗ってるつもりで忘れて来てしまったかも知れません」

後部に乗ったのは見たのだ。見てから御者席に乗り込んだ。
考えられるとしたら立ち乗りなので掴まっているバーを汗で手が滑って離してしまい、どこかに転げ落ちた、となる。

でも今、そんな言い訳をしても補助はいないのだからブーレ伯爵の怒りの火に油を注ぐだけになる。探しに行ってきますなんて言おうものなら明日から仕事も無くなるだろう。

――あいつ。屋敷に帰ったら覚えてろよ――

どうせ急に腹が痛くなったりで走る馬車から飛び降り、植え込みに隠れて用を足しているんだろうと考えた御者は腹を立てながらもステップを取り付け、ブーレ伯爵夫妻とエレーナを降ろした。

エレーナを降ろしていると次期ブーレ伯爵、つまりは後継者の長男夫婦を乗せた馬車が到着した。


不思議なのはブーレ伯爵家が晩餐会にやって来たという事はエレーナとエストス侯爵の婚約は届けに署名を待つだけとなっている筈なのに、周囲にわらわらと到着をする高位貴族はブーレ伯爵家の面々を見ようともしない。

正確にはそこにブーレ伯爵一家が見えていないような動きをしていた。

「父上、何か変ですよ」
「うむ…どうせ格下の伯爵家の癖にと蔑んでいるんだろう。だが帰る時は違う。全員が拍手をし、手を振り頭を下げて見送りをする事になるだろう。何と言っても王家より資産も軍関係に力を持つエストス家との縁談だからな」

高位貴族には今まで何度も下げたくもない頭を下げ、おべんちゃらを並べて持ち上げてきた。
これからはする側ではなくされる側になる。爵位は伯爵家でもその辺の伯爵家とは格が違うようになるのだから。

フン。鼻を鳴らしブーレ伯爵は従者に先導をされて控室に向かった。


ブーレ伯爵の馬車が停車する少し前、御者補助を急襲して服を剥ぎ取り奪って成りすましたショーンは馬車を飛び降りた。

暢気にあくびをしている御者補助でも動く馬車から引きずり下ろすのは至難の業だが、馬車を降りて地面に足を付ければどうと言うことはない。
襲われるなんておくびにも考えていない相手なのだから赤子の手を捻るようなものだ。

騎士でもあったショーンは街中で立てこもりであったり、暴漢であったりを相手にする事もあって一瞬の隙をついて捕縛をする訓練も受けていたし、実際にそういう現場で格闘した事もある。

昇級試験を受けて上の階級になっていればそんな事もしなくて良かっただろうが、下っ端だった経験が生きた格好だ。


まんまと王宮内に入り込むのに襲ったのがブーレ伯爵家の馬車だったのは運命なのか。いや腐れ縁なんだろうとツバと一緒にショーンは吐き捨てた。

「王宮の中は入った事がないんだよな…どっちに行けばいいんだろうか」

貴族の屋敷は門から屋敷までは門道を添って行けばいいが、王宮はところどころ分岐をしているので1つ1つ探していたら時間が無くなってしまう。

ショーンは取り敢えず日当たりの良い方向に植え込みの中を歩いた。
その方向なら謁見などをする城ではなく、王族の住まう区画に出るはず。
王族や貴族は徒歩で移動する時に長い距離は歩かないし、屋敷や宮の中を馬車で移動もしない。歩ける距離に色々な配置をしている。

日あたりの悪い場所に日常の住まいを王族が作るはずもないので、日当たりの良い場所に向かえば住処がある。見える範囲に城の内部への出入り口もあると予想したのだ。

「かなり奥まで来たな…そろそろ見えても良いと思うんだが」

ショーンを突き動かすのはアリアへの思いだけ。
面と向かって心から謝罪をすればアリアはショーンを受け入れてくれると信じて疑わない。

今までだってショーンが「解ったよ。謝ればいいんだろう?」と逆キレをしてもアリアは許してくれた。いや違う。許したのではなく「ショーンは悪くない」と工具を壊されたり、怪我をしたり、待ちぼうけを食らったアリアが折れてきた。

「アリアは俺の事を愛しているんだ。愛しすぎているから何をしても許してくれるし、受け入れてくれる。あの日はハッキリと言えなかっただけだ。アリアは何時だって俺を欲しているんだ」

呟くショーンに木の根元で木の実の残骸を突っつくハトが相槌を打つ。

アーホーホッホゥ、アーホーホッホゥ。
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