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第53話 確率は幾つ?
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扉が開き、エレーナが入室をしてくると先導した従者が「どうぞ」と並んだ子息の直ぐ近くまで来て引いて行った。
代わりにやって来たのは王太子。
「ブーレ伯爵。伯を疑っている訳ではないが私は未だに信じられないのだ。何が信じられないかと言えば…。皆さんもご存じの通りエストス侯爵は公の場に出て来る事は滅多にない。そして一時は当主の座を退いたが28年前の忌まわしい事件の後、復帰された先代侯爵は大変に厳しい人だった」
王太子の言葉に集まった高位貴族は静かに頷く。
ブーレ伯爵はもう息をするのも忘れ、エレーナに必死で目くばせをするがエレーナも何が始まるのが判らず驚いていて目を白黒させ、エレーナを見ている高位貴族と目が合うと俯いて視線を外した。
「そのエストス侯爵が女性との間に責任が生じる行為をしておきながら数か月放置するとは考えられない。そこでだ。関係があったという事は当然見知った仲だという事。さらにエレーナ嬢は相手がエストス侯爵家当主ダリウスであることは承知をしていたという事だ。なら…問題なくエストス侯爵の前に立つことも出来るだろう。さぁ、エレーナ嬢。エストス侯爵の前に」
エレーナは俯いていたがハッと顔を上げた。
――どうしよう。確率は5分の1ってことよね――
エレーナは並んでいる5人の男性を近い順にゆっくりと立ったまま顔を見る。
右の端は太っていて背も低い。顔はパン生地を横に伸ばしたような顔。
次はヒョロヒョロと背は高いがニキビ顔。
その次はがっちりとした体躯だが顔は例えるなら岩石の強面。
その次は剣よりも薔薇の花が似合いそうなさわやかイケメン。
左の端はモノクルを付けた切れ者風のイケメンとは違う美丈夫。
エレーナは迷った。タイプなら左から2人目。さわやかなイケメンだがエレーナを見てウィンクをしたりアピール度が高いのだ。
無表情と言われる男だとすれば真ん中か、左端。
右の2人は見た目で論外だったが、明らかに噂とは違うさわやかイケメンを混ぜているという事は、本物はブサメンであることも考えられる。
――ここで間違う訳にはいかない。どうしよう――
「どうされた。父親のブーレ伯爵には相手がエストス侯爵だと告げたのだろう?まさか少し会わなかっただけでもう顔を忘れたか?」
「い、いえ…あの…」
口の中で言葉をもごもごとしていたエレーナも王太子の「ん?」顔を覗き込む仕草に意を決し答えた。
「ま、真ん中の方です」
「エレーナ!言うな!」
エレーナの声とブーレ伯爵の言葉は同時だった。
エレーナに選ばれた強面の男性は溜息を吐いた。
「私はラクーン公爵家のタリオスです。残念ですが…エレーナ嬢。貴女とは初見です」
「ご、ごめんなさい。知っている方に似ていたので間違いました!左端の方です!」
焦って言い直すエレーナに王太子は噴き出した。
ブーレ伯爵はがっくりとその場に両膝をついた。
「ブーレ。教えてやれ。娘は知らずとも、お前はエストス侯爵の顔を知っているだろう?」
「・・・・せん」
「聞こえないな。娘も焦っているぞ?」
「いませんっ!5人の中にエストス侯爵は居ませんっ!」
「御名答。流石だね。忘れていたらこの場で首を落としていたよ。ブーレ伯爵は腹の子はエストス侯爵だとハッキリ言った。その事は公的な面会なので記録もしてある。さて、本人に直接伺おう。君はエストス侯爵を知っているのか?」
王太子は温度のない笑みを浮かべエレーナを見た。
「酷いですっ…騙すなんて…」
「なんだって?」
「酷いですっ!5人の中にいると思うじゃないですか!」
エレーナは逆キレをしたが王太子は涼しい顔で言った。
「5人の中にいると誰が言った?頭の悪い子は嫌いでね。選べと言われても確率は5分の1ではない」
「えっ…」
「この中にはいない、もう1つの選択が出来る。確率は6分の1だが…少し遊んであげよう。目の前の君の家族を見たまえ」
エレーナは両親と兄夫婦を見た。
「あの中に宰相はいるか?」
「いません!あれは私の家族ですっ!」
「そう。御名答。あの中に宰相はいない。それを君は知っている。だから即答出来た。意味が判るか?」
王太子の言葉の意味を理解するとエレーナはガクガクと震えだした。
「知らないから目の前から選ぼうとする。考えたよね?イケメンが良いけど1人噂とは違うアピールしちゃうイケメンがいる。これは釣りだと。間違えるわけにはいかないけど好みでない男はお呼びではない。見たまんまなのか、それとも試されているのか。君は迷った。だから真ん中の彼を選んだ。軍閥でもあるから武骨で強面。そう思ったんだろうな」
フフっと笑い王太子は指でエレーナを捕縛しろと兵士に命じた。
「高位貴族への托卵は重罪だ。何故だか解るか?私には今、子供がいるが無事に王位に就くまで存命とは限らない。そうなった時に次の王に選ばれるのは高位貴族からになる。托卵は血の継承、血の繋がりを途絶えさせる行為だ」
「違いますっ!そんなつもりはありません。違うんです!」
「冥途の土産に本物のエストス侯爵を紹介しよう。細君と共にね。ダリウス!ここへ」
王太子の声に高位貴族の中から1人の男性が立ち上がった。
そしてもう1人。その男性に手を添えられて立ち上がった女性がいた。
「アリア!!!なんでアンタがここにいるの!?」
エレーナは叫んだ。
代わりにやって来たのは王太子。
「ブーレ伯爵。伯を疑っている訳ではないが私は未だに信じられないのだ。何が信じられないかと言えば…。皆さんもご存じの通りエストス侯爵は公の場に出て来る事は滅多にない。そして一時は当主の座を退いたが28年前の忌まわしい事件の後、復帰された先代侯爵は大変に厳しい人だった」
王太子の言葉に集まった高位貴族は静かに頷く。
ブーレ伯爵はもう息をするのも忘れ、エレーナに必死で目くばせをするがエレーナも何が始まるのが判らず驚いていて目を白黒させ、エレーナを見ている高位貴族と目が合うと俯いて視線を外した。
「そのエストス侯爵が女性との間に責任が生じる行為をしておきながら数か月放置するとは考えられない。そこでだ。関係があったという事は当然見知った仲だという事。さらにエレーナ嬢は相手がエストス侯爵家当主ダリウスであることは承知をしていたという事だ。なら…問題なくエストス侯爵の前に立つことも出来るだろう。さぁ、エレーナ嬢。エストス侯爵の前に」
エレーナは俯いていたがハッと顔を上げた。
――どうしよう。確率は5分の1ってことよね――
エレーナは並んでいる5人の男性を近い順にゆっくりと立ったまま顔を見る。
右の端は太っていて背も低い。顔はパン生地を横に伸ばしたような顔。
次はヒョロヒョロと背は高いがニキビ顔。
その次はがっちりとした体躯だが顔は例えるなら岩石の強面。
その次は剣よりも薔薇の花が似合いそうなさわやかイケメン。
左の端はモノクルを付けた切れ者風のイケメンとは違う美丈夫。
エレーナは迷った。タイプなら左から2人目。さわやかなイケメンだがエレーナを見てウィンクをしたりアピール度が高いのだ。
無表情と言われる男だとすれば真ん中か、左端。
右の2人は見た目で論外だったが、明らかに噂とは違うさわやかイケメンを混ぜているという事は、本物はブサメンであることも考えられる。
――ここで間違う訳にはいかない。どうしよう――
「どうされた。父親のブーレ伯爵には相手がエストス侯爵だと告げたのだろう?まさか少し会わなかっただけでもう顔を忘れたか?」
「い、いえ…あの…」
口の中で言葉をもごもごとしていたエレーナも王太子の「ん?」顔を覗き込む仕草に意を決し答えた。
「ま、真ん中の方です」
「エレーナ!言うな!」
エレーナの声とブーレ伯爵の言葉は同時だった。
エレーナに選ばれた強面の男性は溜息を吐いた。
「私はラクーン公爵家のタリオスです。残念ですが…エレーナ嬢。貴女とは初見です」
「ご、ごめんなさい。知っている方に似ていたので間違いました!左端の方です!」
焦って言い直すエレーナに王太子は噴き出した。
ブーレ伯爵はがっくりとその場に両膝をついた。
「ブーレ。教えてやれ。娘は知らずとも、お前はエストス侯爵の顔を知っているだろう?」
「・・・・せん」
「聞こえないな。娘も焦っているぞ?」
「いませんっ!5人の中にエストス侯爵は居ませんっ!」
「御名答。流石だね。忘れていたらこの場で首を落としていたよ。ブーレ伯爵は腹の子はエストス侯爵だとハッキリ言った。その事は公的な面会なので記録もしてある。さて、本人に直接伺おう。君はエストス侯爵を知っているのか?」
王太子は温度のない笑みを浮かべエレーナを見た。
「酷いですっ…騙すなんて…」
「なんだって?」
「酷いですっ!5人の中にいると思うじゃないですか!」
エレーナは逆キレをしたが王太子は涼しい顔で言った。
「5人の中にいると誰が言った?頭の悪い子は嫌いでね。選べと言われても確率は5分の1ではない」
「えっ…」
「この中にはいない、もう1つの選択が出来る。確率は6分の1だが…少し遊んであげよう。目の前の君の家族を見たまえ」
エレーナは両親と兄夫婦を見た。
「あの中に宰相はいるか?」
「いません!あれは私の家族ですっ!」
「そう。御名答。あの中に宰相はいない。それを君は知っている。だから即答出来た。意味が判るか?」
王太子の言葉の意味を理解するとエレーナはガクガクと震えだした。
「知らないから目の前から選ぼうとする。考えたよね?イケメンが良いけど1人噂とは違うアピールしちゃうイケメンがいる。これは釣りだと。間違えるわけにはいかないけど好みでない男はお呼びではない。見たまんまなのか、それとも試されているのか。君は迷った。だから真ん中の彼を選んだ。軍閥でもあるから武骨で強面。そう思ったんだろうな」
フフっと笑い王太子は指でエレーナを捕縛しろと兵士に命じた。
「高位貴族への托卵は重罪だ。何故だか解るか?私には今、子供がいるが無事に王位に就くまで存命とは限らない。そうなった時に次の王に選ばれるのは高位貴族からになる。托卵は血の継承、血の繋がりを途絶えさせる行為だ」
「違いますっ!そんなつもりはありません。違うんです!」
「冥途の土産に本物のエストス侯爵を紹介しよう。細君と共にね。ダリウス!ここへ」
王太子の声に高位貴族の中から1人の男性が立ち上がった。
そしてもう1人。その男性に手を添えられて立ち上がった女性がいた。
「アリア!!!なんでアンタがここにいるの!?」
エレーナは叫んだ。
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