死神と真人

野良

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伊藤実1

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 次の日から、佐藤麻子の様子が変わった。以前はろくに食べもせず床に転がっていたのが、起き上がってご飯を作って食べ始めたのだ。
「死神さん、見ました?麻ちゃんの様子」大庭真人まなとが隣に座った。「これで少しは元気になってくれるといいなあ」
 他人のことなのに、自分のことのように喜んでいた。
 俺は返事もしないで立ち上がる。そのまま別の場所へ行こうとした時、彼が言った。
「どこに行くんですか?」
「今日は別の仕事がある」
「そうなんですね」行ってらっしゃい、と彼は見送った。

「伊藤実さん?」
 俺は先週事故があった道路の端に移動して、そこにいる男に声をかけた。年は若く17才。黒縁のメガネをかけていて、気弱な性格なのか、声をかけただけでびくっと肩を震わせた。
「俺は……あんたの世界でいうところの『死神』だ。あんたを、天国まで連れて行く」いつものセリフを言う。
「ちょっと待ってください、おれにはまだやり残したことが……」
 伊藤実が言ったところで、俺は睨んでやる。思った通り、それだけでこいつは黙った。
「……心配しなくていい。現世よりずっと過ごしやすい所だ」
 俺は言い、霊界への入口を開ける鍵を出そうとした。
「やり残したことってなんですか?」
 聞き覚えのある声が聞こえた。すぐ近くに大庭真人が立っていた。
「なんでお前がここにいるんだ!彼女を笑顔にするんじゃなかったのか?」
「昨日死神さんに手伝ってもらったから、僕もお手伝いしようと来ました」彼はそういうと、伊藤実の方を向いた。「はじめまして、大庭真人です。一週間前に事故で死にました」
「そうなんですね。おれは先日事故で……」
「同じですね。痛いですよね、事故って」
 俺をよそにふたりで話し始める。
「おい!」俺は真人の肩を掴んで、こちらに向けさせた。「俺の邪魔するな」
「邪魔じゃないです、お手伝いです。それに……心残りがあるままじゃ、天国だって行けませんから」
 彼の寂しそうな表情に、俺は何も言えなくなる。そうだった。こいつにも、心残りがあるのだ。
「……勝手にしろ」俺は言った。

 伊藤実の心残りは、初恋の人に再開できないまま死んだことだそうだ。相手は瀬戸さくら。小学生の頃隣りの家に住んでいたが、引っ越してそのまま会っていない。
「……って、今どこにいるのか知ってるのか?」
 俺が言うと、実は首を横に振った。
 そんなので、どうやって探せばいいんだ。時間の無駄としか思えなかった。
「何か手がかりはないんですか?」真人が言った。
「確か母親同士が年賀状のやり取りをしてたから、その年賀状を見つけることができれば住所がわかるかもしれません」
 そこで俺たちは実の家に行くことになった。
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