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伊藤実3
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こうして俺たちは瀬戸さくらの家へ着いた。一軒家で、塀や庭もあった。中にはさくらの母親がいたが、さくらの姿はなかった。今日は平日。しかし、もう夕方になろうとしているのでもしかしたら学校から帰ってくるかもしれない。
とりあえず、俺たちは待ってみることにした。真人と実は玄関の前にしゃがんでいる。俺は少し離れたところで立って、タバコを吸っていた。
「実くん……大丈夫ですか?」真人が隣に座る実に声をかけた。
「……緊張します。心臓はないのに、ドキドキする……」
「ところで、さくらさん、ってどんな女の子だったんですか?」
「……さくらとおれは、団地で隣同士の家に住んでたんです。子供の頃はよく一緒に遊んで……で、さくらはよく男の子にからかわれたりいじめられたりしたから、おれがかばったり守ったりしてたんですよね。そして……結婚しようね、って言い合ったり……」実は恥ずかしそうに下を向いた。
「へぇー、素敵ですね」
「いや、でも子供の頃の話ですから……そして、引っ越す時に、また会おうね、って約束したんです」
「会えるといいですね」
「……誰か来たぞ」俺が言った。
道の向こうから、女子高校生が歩いてくる。髪の色は黒で、背中まで届く長さのストレート。優等生のような雰囲気。
彼女は門扉を開け、ふたりの横を通りすぎ家の中へ入った。
それが本当に瀬戸さくらかわからなかったが、瀬戸家に入っていくところを見ると間違いないだろう。
「さくらさん、ですか?」真人が聞く。
「多分……」
「中に入ってみましょう」
俺たちは中へ入る。さくらは母親とともにリビングにいた。
「ねえ、さくら。実くんのお墓参りいきましょ」母親が言った。
「……だから、実なんて覚えてないってば。覚えてないのに行く必要ないでしょ」さくらが言う。
隣で実が息を飲んだのがわかった。
「あんたは覚えてないかもしれないけど……あっ、ちょっと待ちなさい!」
母親が言い終わる前に、さくらはリビングを出て、階段を上っていった。
「実くん……」真人が隣の実を見る。
「……いいんです。わかってたことだから……」そう言って実は走っていこうとした。
その腕を、俺は掴む。
「これで諦めがついたな。霊界に行くぞ」
俺が言うと、実は黙って頷いた。
いったん俺たちは外へ出る。そして、死神が持っている霊界へ繋がる入口を開けるための鍵を取り出した。その鍵は乳白色で、光輝いていた。
それを塀の手前で空中に差し込み、右に回す。
すると、何もなかった空間に、霊界へと続くまっすぐな道が現れた。道はアスファルトのように固くなく、しかも白いので雲のようだった。また周りも白く輝いた霧だったので、余計にそう思う。
「綺麗……」真人が驚いて、言った。
「一緒に行くか?」
真人は慌てたように首を横に振る。
「じゃあ……真人さん、ありがとうございました」
「元気で、っていうのも変かな。でも、元気出して」
実は力なく笑うと、俺の後を黙って歩き出した。
「本当にふわふわなんですね。でも歩きやすくて……不思議です」実が言った。
霊界へと続く道をふたりで歩く。そのうちに、右側に実のこれまでの人生が映し出される。これが、走馬灯だ。
「あ、さくら……」実が泣き出す。「さくらは、おれのこと、忘れてしまったんですね……」
「……人間なんて、裏切るものだろ」俺は言う。
そうやって歩いて、ようやく霊界が見え始めた時。
「死神さん!」
真人の声が聞こえた。
とりあえず、俺たちは待ってみることにした。真人と実は玄関の前にしゃがんでいる。俺は少し離れたところで立って、タバコを吸っていた。
「実くん……大丈夫ですか?」真人が隣に座る実に声をかけた。
「……緊張します。心臓はないのに、ドキドキする……」
「ところで、さくらさん、ってどんな女の子だったんですか?」
「……さくらとおれは、団地で隣同士の家に住んでたんです。子供の頃はよく一緒に遊んで……で、さくらはよく男の子にからかわれたりいじめられたりしたから、おれがかばったり守ったりしてたんですよね。そして……結婚しようね、って言い合ったり……」実は恥ずかしそうに下を向いた。
「へぇー、素敵ですね」
「いや、でも子供の頃の話ですから……そして、引っ越す時に、また会おうね、って約束したんです」
「会えるといいですね」
「……誰か来たぞ」俺が言った。
道の向こうから、女子高校生が歩いてくる。髪の色は黒で、背中まで届く長さのストレート。優等生のような雰囲気。
彼女は門扉を開け、ふたりの横を通りすぎ家の中へ入った。
それが本当に瀬戸さくらかわからなかったが、瀬戸家に入っていくところを見ると間違いないだろう。
「さくらさん、ですか?」真人が聞く。
「多分……」
「中に入ってみましょう」
俺たちは中へ入る。さくらは母親とともにリビングにいた。
「ねえ、さくら。実くんのお墓参りいきましょ」母親が言った。
「……だから、実なんて覚えてないってば。覚えてないのに行く必要ないでしょ」さくらが言う。
隣で実が息を飲んだのがわかった。
「あんたは覚えてないかもしれないけど……あっ、ちょっと待ちなさい!」
母親が言い終わる前に、さくらはリビングを出て、階段を上っていった。
「実くん……」真人が隣の実を見る。
「……いいんです。わかってたことだから……」そう言って実は走っていこうとした。
その腕を、俺は掴む。
「これで諦めがついたな。霊界に行くぞ」
俺が言うと、実は黙って頷いた。
いったん俺たちは外へ出る。そして、死神が持っている霊界へ繋がる入口を開けるための鍵を取り出した。その鍵は乳白色で、光輝いていた。
それを塀の手前で空中に差し込み、右に回す。
すると、何もなかった空間に、霊界へと続くまっすぐな道が現れた。道はアスファルトのように固くなく、しかも白いので雲のようだった。また周りも白く輝いた霧だったので、余計にそう思う。
「綺麗……」真人が驚いて、言った。
「一緒に行くか?」
真人は慌てたように首を横に振る。
「じゃあ……真人さん、ありがとうございました」
「元気で、っていうのも変かな。でも、元気出して」
実は力なく笑うと、俺の後を黙って歩き出した。
「本当にふわふわなんですね。でも歩きやすくて……不思議です」実が言った。
霊界へと続く道をふたりで歩く。そのうちに、右側に実のこれまでの人生が映し出される。これが、走馬灯だ。
「あ、さくら……」実が泣き出す。「さくらは、おれのこと、忘れてしまったんですね……」
「……人間なんて、裏切るものだろ」俺は言う。
そうやって歩いて、ようやく霊界が見え始めた時。
「死神さん!」
真人の声が聞こえた。
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