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伊藤実5
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「だってほら、僕にはスマホがあるわけじゃないし、死神さんなら来てくれる、って信じてましたから」真人が言った。
信じる?
大嫌いな言葉だ。
現に実は裏切られたじゃないか。
「それよりも実くん!早くさくらさんのところに行ってください!」真人は俺に構わずに言う。「さくらさんは、実くんのこと覚えていたんです!」
「え……?」
俺たちは階段を上りさくらの部屋へ入った。
彼女は勉強机に突っ伏して、泣いていた。
手には幼い子供ふたりが仲良く手を繋いで笑っている写真。実とさくらだろうか。
「さくら……」実が彼女にそっと近づき、覆うように抱き締めた。「ごめんっ……ごめんな……」
しかし彼の声は、彼女には届かない。
彼らは何故、死んだ後も生きてる人間に干渉したがるのだろう。
声も、姿も見せられない。
ただ見守ることしかできないというのに。
ただのひとりも大切な人がいない俺には、わからなかった。
ふいに、実がさくらから離れ、部屋を出て行った。
真人は、ハラハラした様子で、見ていた。
俺はスマホを取り出し、実の居場所を確認していた。逃げ出したとしても、捕まえられるように。
実はすぐに戻ってきた。手には桜の枝。花が咲いている。
それを窓の外の縁へ置いて、気づくように窓へ小石を投げた。
コツン、という音に驚き、彼女は顔を上げ、窓に近づく。窓を開けて、桜の枝を手に取る。
「二階なのに……どうやって……誰が……?……実?」
返事をするかのように、実が手を開いて、持っていた桜の花びらを舞わせた。
「約束……覚えててくれたんだね。最後に会いに来てくれたの……?」
実は頷く。
彼女は静かに涙を流した。桜の枝を大事そうに抱えて。
「また会おう、って約束したの、桜の木の下だったんですよね。さくらが覚えててくれてよかった」実が言った。
「でも……本当にもう天国に行っちゃうんですか?」真人が言う。
俺たちは、実が「もういい」と言ったので外へ出ていた。
「もうおれに出来ることはしましたから……それに、考えていたんですけど、さくらには幸せになってほしいけど何も出来ないから、見守ることしか出来ないと思うんですよね。それなのに側に居続けたら、あいつに彼氏が出来たり、結婚したりするところも見守ることになって……それはおれには耐えられないと思いました」そして実は真人に向き直る。「真人さんは彼女さんを笑顔にしたいんですよね。彼女を笑顔にするのが他の男でも平気ですか?それを見届ける覚悟がありますか?」
「……あるよ」
「……強いですね」
実は何か吹っ切れたように、笑った。
俺も一緒に霊界へ行くつもりだったが、実は「ひとりで行く」と言った。途中まで先ほど行ったから大丈夫だ、と。
先ほど俺と行ったあたりまで行けば、案内する別の死神や天使がいることだろう。
「じゃあ、ありがとうございました。……死神さんも」
礼なんて言われるのは初めてだったので驚く。まあ、今まではこんな風に寄り道することなく、ただ連れていくだけだったし。
真人は、霊界の入口が閉じて見えなくなるまで手を振っていた。
俺はタバコをくわえ、火をつけた。今までで一番疲れる仕事だった。
しかし、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
「よかったですね」真人が言った。「でも……ごめんなさい。僕、嘘をつきました。本当は覚悟なんて出来てないです。麻ちゃんが他の男の人と付き合ったり、結婚するなんて、考えただけでも苦しくなる」
俺は真人を見る。彼は上を向いた。
「でも、僕は麻ちゃんを笑顔にする、って決めたから。まだもうちょっとだけこの世界にいさせてください」彼は俺を見た。「死神さん……でも、僕嘘ついたから……天国に行けないですか?」
「さあな」俺は煙を吐いた。「俺は神様じゃないから、聞かなかったことにしておく」
そう言うと彼は笑って「死神さんはいい人ですね」と言った。
信じる?
大嫌いな言葉だ。
現に実は裏切られたじゃないか。
「それよりも実くん!早くさくらさんのところに行ってください!」真人は俺に構わずに言う。「さくらさんは、実くんのこと覚えていたんです!」
「え……?」
俺たちは階段を上りさくらの部屋へ入った。
彼女は勉強机に突っ伏して、泣いていた。
手には幼い子供ふたりが仲良く手を繋いで笑っている写真。実とさくらだろうか。
「さくら……」実が彼女にそっと近づき、覆うように抱き締めた。「ごめんっ……ごめんな……」
しかし彼の声は、彼女には届かない。
彼らは何故、死んだ後も生きてる人間に干渉したがるのだろう。
声も、姿も見せられない。
ただ見守ることしかできないというのに。
ただのひとりも大切な人がいない俺には、わからなかった。
ふいに、実がさくらから離れ、部屋を出て行った。
真人は、ハラハラした様子で、見ていた。
俺はスマホを取り出し、実の居場所を確認していた。逃げ出したとしても、捕まえられるように。
実はすぐに戻ってきた。手には桜の枝。花が咲いている。
それを窓の外の縁へ置いて、気づくように窓へ小石を投げた。
コツン、という音に驚き、彼女は顔を上げ、窓に近づく。窓を開けて、桜の枝を手に取る。
「二階なのに……どうやって……誰が……?……実?」
返事をするかのように、実が手を開いて、持っていた桜の花びらを舞わせた。
「約束……覚えててくれたんだね。最後に会いに来てくれたの……?」
実は頷く。
彼女は静かに涙を流した。桜の枝を大事そうに抱えて。
「また会おう、って約束したの、桜の木の下だったんですよね。さくらが覚えててくれてよかった」実が言った。
「でも……本当にもう天国に行っちゃうんですか?」真人が言う。
俺たちは、実が「もういい」と言ったので外へ出ていた。
「もうおれに出来ることはしましたから……それに、考えていたんですけど、さくらには幸せになってほしいけど何も出来ないから、見守ることしか出来ないと思うんですよね。それなのに側に居続けたら、あいつに彼氏が出来たり、結婚したりするところも見守ることになって……それはおれには耐えられないと思いました」そして実は真人に向き直る。「真人さんは彼女さんを笑顔にしたいんですよね。彼女を笑顔にするのが他の男でも平気ですか?それを見届ける覚悟がありますか?」
「……あるよ」
「……強いですね」
実は何か吹っ切れたように、笑った。
俺も一緒に霊界へ行くつもりだったが、実は「ひとりで行く」と言った。途中まで先ほど行ったから大丈夫だ、と。
先ほど俺と行ったあたりまで行けば、案内する別の死神や天使がいることだろう。
「じゃあ、ありがとうございました。……死神さんも」
礼なんて言われるのは初めてだったので驚く。まあ、今まではこんな風に寄り道することなく、ただ連れていくだけだったし。
真人は、霊界の入口が閉じて見えなくなるまで手を振っていた。
俺はタバコをくわえ、火をつけた。今までで一番疲れる仕事だった。
しかし、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
「よかったですね」真人が言った。「でも……ごめんなさい。僕、嘘をつきました。本当は覚悟なんて出来てないです。麻ちゃんが他の男の人と付き合ったり、結婚するなんて、考えただけでも苦しくなる」
俺は真人を見る。彼は上を向いた。
「でも、僕は麻ちゃんを笑顔にする、って決めたから。まだもうちょっとだけこの世界にいさせてください」彼は俺を見た。「死神さん……でも、僕嘘ついたから……天国に行けないですか?」
「さあな」俺は煙を吐いた。「俺は神様じゃないから、聞かなかったことにしておく」
そう言うと彼は笑って「死神さんはいい人ですね」と言った。
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