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佐藤麻子1
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佐藤麻子は大学を辞めた。
ケーキ屋のバイトも。
何もかも、真人がいる前には戻れなかった。
麻子自身も、前のような性格には戻れない。きっと友達やバイト先の人は心配してくれるのだろうが、それに応えるのも億劫になっていた。
しかし、生活していくためには働かなくてはならない。麻子はスーパーマーケットでのバイトを始めた。
「いらっしゃいませ」
客に挨拶しながら品だしをする。その顔に、笑顔はない。
「すみません。麺つゆってどこにありますか?」
麻子は振り向く。
「……佐藤、さん?」
呼ばれて気づく。同じ学科の太田奨であることに。
「……そこの二番目の棚です」麻子は指さして、早足でその場を去った。
従業員しか入れないところへ逃げ込む。わざわざ大学から遠いスーパーを選んだのに会うなんて。
昔の知り合いになんて会いたくなかった。
変わってしまった自分を見られたくなかった。
何も言われたくなかった。だから逃げ出した。
今の麻子には、前を向いて歩いていく元気がなかった。
真人のことも考えられず、ただ寝て、起きて、仕事をするだけ。
何ひとつ、生きている実感もなかった。
次の日も、また同じことの繰り返しだった。朝起きて、ご飯を食べ、仕事へ行く。
仕事も機械的にこなして、同じように一日が終わるはずだった。なのに。
「佐藤さん」
声を掛けられ振り向く。太田奨がいた。
「あのさ、俺のこと覚えてる?同じ学科の……」
「……もう来ないでください。仕事があるから」
そう言って、麻子はまた逃げた。
ケーキ屋のバイトも。
何もかも、真人がいる前には戻れなかった。
麻子自身も、前のような性格には戻れない。きっと友達やバイト先の人は心配してくれるのだろうが、それに応えるのも億劫になっていた。
しかし、生活していくためには働かなくてはならない。麻子はスーパーマーケットでのバイトを始めた。
「いらっしゃいませ」
客に挨拶しながら品だしをする。その顔に、笑顔はない。
「すみません。麺つゆってどこにありますか?」
麻子は振り向く。
「……佐藤、さん?」
呼ばれて気づく。同じ学科の太田奨であることに。
「……そこの二番目の棚です」麻子は指さして、早足でその場を去った。
従業員しか入れないところへ逃げ込む。わざわざ大学から遠いスーパーを選んだのに会うなんて。
昔の知り合いになんて会いたくなかった。
変わってしまった自分を見られたくなかった。
何も言われたくなかった。だから逃げ出した。
今の麻子には、前を向いて歩いていく元気がなかった。
真人のことも考えられず、ただ寝て、起きて、仕事をするだけ。
何ひとつ、生きている実感もなかった。
次の日も、また同じことの繰り返しだった。朝起きて、ご飯を食べ、仕事へ行く。
仕事も機械的にこなして、同じように一日が終わるはずだった。なのに。
「佐藤さん」
声を掛けられ振り向く。太田奨がいた。
「あのさ、俺のこと覚えてる?同じ学科の……」
「……もう来ないでください。仕事があるから」
そう言って、麻子はまた逃げた。
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