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Chapter2

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「本日はご挨拶に伺いましたので、こちらで失礼いたします」

「ご足労いただいてありがとうございました」

「いやいやこちらこそ。今度はぜひゆっくり食事でもいかがですか」

「はい。ぜひよろしくお願いいたします」


時間で言えば、たったの十五分ほどだった。しかし私には、この十五分が何時間にも感じられた。

副社長と彼は終始和やかな空気で会話しており、今後の関係性も問題無く構築できそうではあった。

私が個人的にそわそわしていただけで。会社同士はこれからも安泰だろう。

彼も何度も私に視線をやっており、完全に私だと気付いていたのは明白だ。

副社長が帰るために腰を上げた。

そのタイミングで私のスマホが鳴り、着信を知らせた。


「すみません、失礼します」


副社長に目配せをして、会釈をしながら急いで応接室を出る。


「お疲れ様です、津田島です」


電話に出ながらエレベーター前まで向かった。

電話は夕方にある商品開発部の最終プレゼンの時間変更のものだった。

少し早まるようで、それに合わせて取締役会議も調整が必要かもしれない。

電話を切ってから、すぐさま社長の第一秘書に電話をかけ、スケジュールを調整する。

どうにかなりそうで、安心して電話を切ったところで応接室の方から人の声と足音が聞こえた。


「では、また。今後ともよろしくお願いいたします」

「こちらこそ。本来であれば私が伺うところを、すみませんでした。今度は御社にも改めてご挨拶に伺いたいと思っております」

「ははっ、お忙しいでしょうからご無理はなさらず。では、失礼します」

「はい。ありがとうございました」


エレベーターホールまで見送りに来た彼は、私に一度視線をやる。

そして。


「っ!」


彼の唇が、私にだけ見える角度で動く。


"舞花"


たったそれだけで、私の感情は昂る。

声を発したわけではないのに、彼の声が聞こえた気がした。

心臓が激しく音を立て、呼吸が浅くなる。


「津田島さん?どうかしたか?」

「……い、いえ。何でもありません。……失礼いたします」


一礼して、副社長と一緒にエレベーターに乗り込む。

ドアが閉まった瞬間、細く長い息が漏れた。


「具合でも悪い?大丈夫か?」

「あ、いえ。大丈夫です。すみません」


副社長は納得していない表情だったものの、私がこれ以上何も言わないと察したのか、言及してくることはなかった。



それから数時間後。震える手を、ぎゅっと握りしめる帰り道。

まさか隼也に会うとは思わなかった私は、まだ心臓がバクバクと音を立てていた。

隼輔のお迎えがあるため、私は十七時にはあがらせてもらう契約だ。

自社ビルの真横にある、企業型の託児所に向かう。

そこは会社と契約しているためTOKIWAの社員の子どもたちが大勢預けられており、隼輔も入所させてもらっていた。

保育室にお迎えに行くと


「ママ!」


と元気良く私に向かって走ってくる。


「ただいま隼輔」


私を見つけると毎日抱きついてくる隼輔。

この一瞬で、頭の中のもやもやなどどこかに吹き飛んでいく。

帰り支度をして託児所を出ると、そこから今住んでいる仮住まいの会社の寮に帰った。
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