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Chapter4
19
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その日から、週末になると隼也の家に泊まりにいくのが恒例になった。
隼也が何を教え込んだのか、気が付けば隼輔は「ぱぱ!」と隼也を呼ぶようになっていて、託児所でもパパと遊んだとか、パパのお家にお泊まりに行ったとか、いろいろ先生にお話ししているらしい。
そのため先生から「最近隼輔くんからパパのお話したくさん聞くんですよー」とニヤニヤしながら言われてしまう始末。
隼輔も「ぱぱは!?」と毎日聞かれ、隼也と会う日はずっと隼也にべったりくっついて離れないほど。
両家の顔合わせも行い、お互いの両親の謝罪から始まったものの元々知り合いだったためか隼輔の存在のおかげか、結婚に向けて滞りなく終わった。
───そんなとある金曜日。
「副社長、津田島です」
「どうぞ」
「失礼いたします。お呼びでしょうか」
朝出勤してから副社長室に入ると、資料を見つめながら険しい顔をしている副社長の姿があった。
「突然悪いね、午後からのスケジュールに視察の予定を入れることはできるかな」
「視察ですか?どちらの店舗でしょう」
「港区エリアが最近不安定なんだ。営業部長は大丈夫だって言っていたけど、自分の目でしっかり確認したくてね」
「かしこまりました。スケジュール調整をして各店舗にも連絡を入れておきます」
「助かるよ」
常盤副社長は今では現場からは遠のいているものの、入社直後は営業としてもバリバリ現場に出ていたらしい。役職がついた後もたびたび店舗に出向いては自分の目で見て気付いたことをフィードバックし成績アップに繋げてきたのだとか。
急いで秘書室で調整をかけながら、港区エリアの各店舗責任者に一斉にメールを送信する。
昼休憩の後すぐに車に乗り込んだ。
「常盤副社長!お疲れ様です」
「お疲れ様。急に悪いね、ちょっと見させてもらうよ」
「はいっ、よろしくお願いいたします」
「ははっ、そんな固くならずにいつも通りやってていいよ。私は勝手にいろいろ見てるから」
副社長の無邪気な笑みに店舗の責任者の女性は緊張した面持ちで一礼した。
副社長は店内のディスプレイからスタッフの接客態度まで幅広く視察をしていた。
他のブランドの店舗もちらりと見て周り、客層や人の入りをくまなく観察してから次の店舗、また次の店舗と回る。
会社に戻ろうと車に乗り込んだ時にはすでに暗くなり始めており、このままだと退社時間をわずかにすぎてしまいそうだった。
「申し訳ない。つい熱が入ってしまって」
「いえ、お気になさらないでください」
副社長にはそう言ったけれど、途中で何故か前方で渋滞が起こっているらしく私たちが乗る車も止まってしまう。
そのまま十分ほど経ってもほんの少ししか進んでおらず、このままだと帰るのが大分遅れてしまいそうだ。
「この先で事故があったらしく、その渋滞のようですね」
運転手の言葉に焦りが出てくる。
パトカーや救急車がサイレンを鳴らしながら何台か横を通過するものの、ここからだと事故現場まではかなりの距離がありそう。
どうしよう、このまま乗っているより降りて走った方が速いだろうか。
腕時計と正面を何度か見比べていると、副社長も「お迎えの時間、結構まずいのかい?」
と眉を下げる。
「……はい」
預けるのは問題無いけれど、このままだと夕方のおやつの時間になってしまう。そうなると予定に無い隼輔は食べられずに他の子が食べているのを見ながら遊ぶことに。
延長料金もかかってしまうためできればそれまでに迎えに行きたいところだけど、ここから走って駅に向かってもそこそこの時間がかかるだろう。
どうしたものか。
そわそわしている私に、副社長は
「会社の者を代わりに行かせようか?」
と提案してくれるものの、
「いえ、家族以外は入れなくて……」
セキュリティに厳しいし、何よりも私じゃないと隼輔が泣き喚くだろう。
それがわかっているから私が迎えに行くしか……。
そこまで考えて、そうだ、と思い立って電話をかける。
『もしもし?どうした?』
「隼也、お願いがあるんだけど……」
ワンコールで出てくれた隼也に事情を説明すると
『わかった。今から行けばいいんだな?』
とすぐに了承してくれた。
「うん、先生には私から連絡しておくから。ごめんね、お願い」
『気にすんな。俺にもできることがあって嬉しいよ。じゃあ行ってくるから』
「ありがとう」
元々金曜日で隼也の家に泊まる予定だったからか、話はスムーズに進む。
すぐに切って、託児所に電話をかける。
「すみません、少し遅れてしまいそうで、私の代わりに隼輔の父親が向かいますので、はい。名前は──」
副社長からの視線を感じながらも、掻い摘んで説明すると先生も快く了承してくれた。
「……大丈夫そうだね」
「はい。お騒がせして申し訳ございません」
「いやいや、元を正せば私のせいだ。君が気にする必要は無い」
副社長は詳しく聞くでもなく、かと言って無関心というわけでもなく。
「隼輔くんを任せられる家族ができたんだね。良かったね」
微笑んで、ただそれだけ言ってくれた。
隼也が何を教え込んだのか、気が付けば隼輔は「ぱぱ!」と隼也を呼ぶようになっていて、託児所でもパパと遊んだとか、パパのお家にお泊まりに行ったとか、いろいろ先生にお話ししているらしい。
そのため先生から「最近隼輔くんからパパのお話したくさん聞くんですよー」とニヤニヤしながら言われてしまう始末。
隼輔も「ぱぱは!?」と毎日聞かれ、隼也と会う日はずっと隼也にべったりくっついて離れないほど。
両家の顔合わせも行い、お互いの両親の謝罪から始まったものの元々知り合いだったためか隼輔の存在のおかげか、結婚に向けて滞りなく終わった。
───そんなとある金曜日。
「副社長、津田島です」
「どうぞ」
「失礼いたします。お呼びでしょうか」
朝出勤してから副社長室に入ると、資料を見つめながら険しい顔をしている副社長の姿があった。
「突然悪いね、午後からのスケジュールに視察の予定を入れることはできるかな」
「視察ですか?どちらの店舗でしょう」
「港区エリアが最近不安定なんだ。営業部長は大丈夫だって言っていたけど、自分の目でしっかり確認したくてね」
「かしこまりました。スケジュール調整をして各店舗にも連絡を入れておきます」
「助かるよ」
常盤副社長は今では現場からは遠のいているものの、入社直後は営業としてもバリバリ現場に出ていたらしい。役職がついた後もたびたび店舗に出向いては自分の目で見て気付いたことをフィードバックし成績アップに繋げてきたのだとか。
急いで秘書室で調整をかけながら、港区エリアの各店舗責任者に一斉にメールを送信する。
昼休憩の後すぐに車に乗り込んだ。
「常盤副社長!お疲れ様です」
「お疲れ様。急に悪いね、ちょっと見させてもらうよ」
「はいっ、よろしくお願いいたします」
「ははっ、そんな固くならずにいつも通りやってていいよ。私は勝手にいろいろ見てるから」
副社長の無邪気な笑みに店舗の責任者の女性は緊張した面持ちで一礼した。
副社長は店内のディスプレイからスタッフの接客態度まで幅広く視察をしていた。
他のブランドの店舗もちらりと見て周り、客層や人の入りをくまなく観察してから次の店舗、また次の店舗と回る。
会社に戻ろうと車に乗り込んだ時にはすでに暗くなり始めており、このままだと退社時間をわずかにすぎてしまいそうだった。
「申し訳ない。つい熱が入ってしまって」
「いえ、お気になさらないでください」
副社長にはそう言ったけれど、途中で何故か前方で渋滞が起こっているらしく私たちが乗る車も止まってしまう。
そのまま十分ほど経ってもほんの少ししか進んでおらず、このままだと帰るのが大分遅れてしまいそうだ。
「この先で事故があったらしく、その渋滞のようですね」
運転手の言葉に焦りが出てくる。
パトカーや救急車がサイレンを鳴らしながら何台か横を通過するものの、ここからだと事故現場まではかなりの距離がありそう。
どうしよう、このまま乗っているより降りて走った方が速いだろうか。
腕時計と正面を何度か見比べていると、副社長も「お迎えの時間、結構まずいのかい?」
と眉を下げる。
「……はい」
預けるのは問題無いけれど、このままだと夕方のおやつの時間になってしまう。そうなると予定に無い隼輔は食べられずに他の子が食べているのを見ながら遊ぶことに。
延長料金もかかってしまうためできればそれまでに迎えに行きたいところだけど、ここから走って駅に向かってもそこそこの時間がかかるだろう。
どうしたものか。
そわそわしている私に、副社長は
「会社の者を代わりに行かせようか?」
と提案してくれるものの、
「いえ、家族以外は入れなくて……」
セキュリティに厳しいし、何よりも私じゃないと隼輔が泣き喚くだろう。
それがわかっているから私が迎えに行くしか……。
そこまで考えて、そうだ、と思い立って電話をかける。
『もしもし?どうした?』
「隼也、お願いがあるんだけど……」
ワンコールで出てくれた隼也に事情を説明すると
『わかった。今から行けばいいんだな?』
とすぐに了承してくれた。
「うん、先生には私から連絡しておくから。ごめんね、お願い」
『気にすんな。俺にもできることがあって嬉しいよ。じゃあ行ってくるから』
「ありがとう」
元々金曜日で隼也の家に泊まる予定だったからか、話はスムーズに進む。
すぐに切って、託児所に電話をかける。
「すみません、少し遅れてしまいそうで、私の代わりに隼輔の父親が向かいますので、はい。名前は──」
副社長からの視線を感じながらも、掻い摘んで説明すると先生も快く了承してくれた。
「……大丈夫そうだね」
「はい。お騒がせして申し訳ございません」
「いやいや、元を正せば私のせいだ。君が気にする必要は無い」
副社長は詳しく聞くでもなく、かと言って無関心というわけでもなく。
「隼輔くんを任せられる家族ができたんだね。良かったね」
微笑んで、ただそれだけ言ってくれた。
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