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第1章 今日、あなたにさようならを言う

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 ずっと、内緒にされていた。
 ずっと、変わらない態度と笑顔で。
 何で平気な顔をして、そんなことが出来たの?
 ふたりとも普通の神経じゃないところがお似合いね。


 婚約を発表しようとシドニーと決めていただろう今日だって、モニカの様子はいつもと同じ。
 今日の予定は20時からのシドニーのパーティーだけだったから、わたしは講義が終わると直ぐに部屋に戻り。
 仕事が13時半上がりの早番で、2時間くらい夕方寝をしていたモニカを起こした。 

 そして彼女が持ち帰った新作パンを食べてから、お互いのヘアメイクと服装にチェックを入れて、くだらない冗談を言い合って。
 運賃を割り勘にしたキャリッジに乗って(往路のチップは彼女が支払って、帰りのチップはジェリーね、なんてモニカは笑っていて)
 パーティーの開始時間にシドニーの部屋を訪ねて、モニカと半分ずつお金を出しあったプレゼントを彼に渡して。


 シドニーだって、『ありがとう』と先にわたしを抱擁して、その後、同じ様にモニカを軽く抱き締めたのだ。
 それはいつもと同じだった。
 いつだってシドニーは、付き合いの長いわたしをモニカより優先していた。
 ……わたしの前でなら。


 だけど違う場所で、わたしの居ない場所でなら。
 ふたりきりなら、シドニーはいつもの親愛の抱擁ではなく。
 わたしには決して見せない、甘く優しい表情で。
 愛しいモニカを離さないと強く抱き締めていたのだ。



 初めて会った16の頃から憧れて、信頼していた先輩。
 本当の姉妹のように、どんなことも分けあってきた従姉。

 ふたりを会わせたのはいつだった?
 確か2年前、王都が猛暑に襲われた夏……


「この暑さ、有り得ないよ、もう耐えられない!
 クレイトンには、山と湖が有るんだろ?
 避暑に行かせてくれないかな?」

「シドニーのおウチ、海辺に別荘持ってなかった?
 あちらには行かないの?
 勿論来て貰うのは全然構わないけど、本当に自然以外何にも無いところよ?」

「海なんか照り返しがキツくて、ここより暑いし、潮風はベタつくし。
 海より山の方が涼しいからさ。
 迷惑じゃなければ、ジェンの思い出話とか?
 案内しながら教えてよ」


 シドニーは1週間の予定でクレイトンのカントリーハウス、通称ノックスヒルへ来て、結局夏のお祭りも参加して、2週間後王都へ帰って行った。
 その時がモニカとは初対面で、特にふたりは親しくなったように見えなかった。

 そしてその翌年の、去年にモニカがこっちへやって来た。


「結婚前には1度、王都へ出たかったの」

 大学へ通うわたしの部屋で同居することになって、モニカは学生街のパン屋さんで働くことになった。 

 伝手があったので貴族街に在る洋菓子店でも働くことが可能だったのに、
『部屋から近いところがいいわ』と学生街での仕事に就きたがった。
 彼女はパンやお菓子を作るのが得意で、働くならそういう系統がいいと探していたから、希望が叶ってよかった、とわたしは一安心したのだった。


 今から思うと、ふたりが交際を始めたのはこの頃からかもしれない。

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