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第1章 今日、あなたにさようならを言う
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「前回はフィリップスが何度か病院にお見舞いに来て、ディナと親しくなっていった。
今回はパピーのためにお金を借りた。
知り合った原因が変わってしまったのよ?
これから貴女達がどう繋がっていくのか、あたしにだって分からない。
事故に遭わなかった貴女は、人生に対する向き合い方が変わるでしょう?
つまり、これからの10年以内に、あたしと貴女は必ず出会うけれど、1度目と同じ様に親友になれるかは分からない。
恋人とも、同様だからね。
10年後の彼は貴女の恋人ではなく、単なる知人になっているかもね」
少し投げやりな、シアの話し方。
親友ではなくなるかもしれないのが淋しくて、そんな言い方になっているのなら、嬉しいけれど……
皮肉気に笑っている彼女からは、その本心は読みとれない。
「……今はここまでで、いい?
疲れたわ、休みたいから眠らせて」
◇◇◇
ベッドを使ってくれたらいい、と言ったけれど、シアに断られた。
パピーを寝かせたシーツを替えるのは手間かも知れないけど、ディナがベッドを使って、と。
ここにはもう使われなくなったモニカのベッドもあるけれど、シアを寝かせるのは何故か嫌で、勿論わたしも使うのは嫌で。
あくまでも、リビングのカウチで寝るからと言い張るから、たくさんのクッションと厚手のブランケットを渡した。
食事はシアが作ってくれたから、食器を洗うのはわたしがするつもりだったけれど、眠る邪魔はしたくなくて、彼女が起きてから洗うことにして、わたしも寝室へ引き取った。
寝間着に着替えてベッドに入った。
パピーを寝かせたシーツはそのままで構わない。
臭い草を髪にすりこんでいた昨夜のパピーは確かに臭ったけれど、その臭いはシーツには残っていなかった。
多分、シアが魔法を使って、綺麗にしたんだ。
身体はクタクタのはずなのに、目を閉じてもなかなか眠れない。
気が昂っていた。
壁を隔てたリビングには美しい時戻しの魔女が眠っていて。
10年後のわたしは彼女の親友で、一緒に住んでいた。
昨夜のわたしは、モニカに騙されていたショックで、もうこれからは誰もわたしのテリトリーに入れるものか、と自分に誓っていたから、その誓いを破るくらいシアのことを信用していたんだ、と改めてその存在を有り難く思った。
そんな心許せる親友が居て。
わたしの事情を知っても、愛してくれる恋人が居て。
結構幸せな10年後のわたしなのに。
無理をしてまで、シアはわたしを助けに来た。
……どうして?
それまでの関係が変わってしまうかもしれないのに、どうして?
聞きたいことはたくさんある。
この時点に元々居る10年若いシアは、貴女が来たことでどうなったのか?
シアの年齢さえ聞いていなかった。
あの、わたしに対する余裕の感じは、いくつくらい年上なんだろう?
恋人の名前も聞きたい。
……貴女が知っているフィリップスさんとわたしは、どんな関係だったのか……も。
通りすがりに付き添っただけのわたしを、何度もお見舞いに来てくれたらしいし。
そこから付き合いが始まって。
だから、シアも彼のことは知っているんだ。
彼女が名前を言わなかったわたしの恋人は、もしかして……
駄目だ、焦るな、食い気味で聞いたりしたら、またシアにからかわれる。
彼女から話してくれるのを待とう。
考えて考えて目は冴えていたのに、いつの間にか眠っていた。
昼前にベッドに入ったのに、目覚めると既に部屋の中は薄暗くて。
枕元の時計を見たら5時過ぎだった。
ちょっと昼寝のつもりだったのに、本格的に寝るなんて。
驚きと同時にぶるっときて、リビングへ行った。
11月の中旬を過ぎると朝夕は冬並みに冷える。
カウチで眠ったシアは風邪を引いていないだろうか。
バスルームから水音が聞こえている。
先に起きたシアが使ってるのね。
彼女が出てきたら、交代でわたしもシャワー浴びようかな。
教えてなかったけれど、タオルがどこにあるか、分かってるんだよね、さすがルームメイト……
夕刻のリビングで、ストーブも灯りも点けずに、ぼんやりしていた。
不思議と寒くなかった。
わたしがそこで座っているとは、シアは思っていなかったんだろう。
お互いに気が緩んでいた。
わたしも思いもしなかった。
バスルームから、濡れた髪を拭きながら、腰巻きタオル姿の男性が出てくるなんて。
驚き過ぎて、声が出ない。
相手だって驚いただろうが、立ち直りはわたしより早かった。
「バレちゃったかー」
バスルームからの灯りが一瞬だけ、向きを変えたその顔を照らした。
そう言ったのは黒髪金目の凄い美形の男性だけど。
……多分、時戻しの魔女。
今回はパピーのためにお金を借りた。
知り合った原因が変わってしまったのよ?
これから貴女達がどう繋がっていくのか、あたしにだって分からない。
事故に遭わなかった貴女は、人生に対する向き合い方が変わるでしょう?
つまり、これからの10年以内に、あたしと貴女は必ず出会うけれど、1度目と同じ様に親友になれるかは分からない。
恋人とも、同様だからね。
10年後の彼は貴女の恋人ではなく、単なる知人になっているかもね」
少し投げやりな、シアの話し方。
親友ではなくなるかもしれないのが淋しくて、そんな言い方になっているのなら、嬉しいけれど……
皮肉気に笑っている彼女からは、その本心は読みとれない。
「……今はここまでで、いい?
疲れたわ、休みたいから眠らせて」
◇◇◇
ベッドを使ってくれたらいい、と言ったけれど、シアに断られた。
パピーを寝かせたシーツを替えるのは手間かも知れないけど、ディナがベッドを使って、と。
ここにはもう使われなくなったモニカのベッドもあるけれど、シアを寝かせるのは何故か嫌で、勿論わたしも使うのは嫌で。
あくまでも、リビングのカウチで寝るからと言い張るから、たくさんのクッションと厚手のブランケットを渡した。
食事はシアが作ってくれたから、食器を洗うのはわたしがするつもりだったけれど、眠る邪魔はしたくなくて、彼女が起きてから洗うことにして、わたしも寝室へ引き取った。
寝間着に着替えてベッドに入った。
パピーを寝かせたシーツはそのままで構わない。
臭い草を髪にすりこんでいた昨夜のパピーは確かに臭ったけれど、その臭いはシーツには残っていなかった。
多分、シアが魔法を使って、綺麗にしたんだ。
身体はクタクタのはずなのに、目を閉じてもなかなか眠れない。
気が昂っていた。
壁を隔てたリビングには美しい時戻しの魔女が眠っていて。
10年後のわたしは彼女の親友で、一緒に住んでいた。
昨夜のわたしは、モニカに騙されていたショックで、もうこれからは誰もわたしのテリトリーに入れるものか、と自分に誓っていたから、その誓いを破るくらいシアのことを信用していたんだ、と改めてその存在を有り難く思った。
そんな心許せる親友が居て。
わたしの事情を知っても、愛してくれる恋人が居て。
結構幸せな10年後のわたしなのに。
無理をしてまで、シアはわたしを助けに来た。
……どうして?
それまでの関係が変わってしまうかもしれないのに、どうして?
聞きたいことはたくさんある。
この時点に元々居る10年若いシアは、貴女が来たことでどうなったのか?
シアの年齢さえ聞いていなかった。
あの、わたしに対する余裕の感じは、いくつくらい年上なんだろう?
恋人の名前も聞きたい。
……貴女が知っているフィリップスさんとわたしは、どんな関係だったのか……も。
通りすがりに付き添っただけのわたしを、何度もお見舞いに来てくれたらしいし。
そこから付き合いが始まって。
だから、シアも彼のことは知っているんだ。
彼女が名前を言わなかったわたしの恋人は、もしかして……
駄目だ、焦るな、食い気味で聞いたりしたら、またシアにからかわれる。
彼女から話してくれるのを待とう。
考えて考えて目は冴えていたのに、いつの間にか眠っていた。
昼前にベッドに入ったのに、目覚めると既に部屋の中は薄暗くて。
枕元の時計を見たら5時過ぎだった。
ちょっと昼寝のつもりだったのに、本格的に寝るなんて。
驚きと同時にぶるっときて、リビングへ行った。
11月の中旬を過ぎると朝夕は冬並みに冷える。
カウチで眠ったシアは風邪を引いていないだろうか。
バスルームから水音が聞こえている。
先に起きたシアが使ってるのね。
彼女が出てきたら、交代でわたしもシャワー浴びようかな。
教えてなかったけれど、タオルがどこにあるか、分かってるんだよね、さすがルームメイト……
夕刻のリビングで、ストーブも灯りも点けずに、ぼんやりしていた。
不思議と寒くなかった。
わたしがそこで座っているとは、シアは思っていなかったんだろう。
お互いに気が緩んでいた。
わたしも思いもしなかった。
バスルームから、濡れた髪を拭きながら、腰巻きタオル姿の男性が出てくるなんて。
驚き過ぎて、声が出ない。
相手だって驚いただろうが、立ち直りはわたしより早かった。
「バレちゃったかー」
バスルームからの灯りが一瞬だけ、向きを変えたその顔を照らした。
そう言ったのは黒髪金目の凄い美形の男性だけど。
……多分、時戻しの魔女。
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