白馬の王子様を探していたら現れたハイスペストーカー男に尽くされてる

チャトラン

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第28話 悪霊退散

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金を持って、俺の働いていた事務所に迷惑を被っていた、ある組の門を叩いた。
なぜってそれ以外できることがなかったからだ。当時の俺は本当にボロボロで、何より無力だった。唯一の取り柄といえば、腕っ節くらいで。
どうしたらシーナの力になれるか分からない。
だって誰かをこんなに好きになったことなんてないし。
でも人を愛するのって良いことだ。
善悪のいいじゃない方の良い。
俺のしょうもない人生がちょっぴり明るくなる。

盗んだ金を隠していた場所から取り出した。それは運ぶのが大変なくらいの額だったが、ほとんどを組に入れてもらうための献上金に使った。
残りは全部、シーナの家のポストに入れた。

あとからこの話を組長にしたら、「お前頭おかしいな」と真顔で罵られたけど、頭がおかしいくらいシーナに夢中なおかげで護衛係に選ばれることができたんだからどうだっていい。
このイカれ男なら、魔が差して孫を利用したり面倒を起こしたりしないと思われたんだろう。妙な信頼関係である。



それからは、下っ端らしく汚れ仕事をこなしながら、シーナの護衛を務めた。
仕事は選ばなかった。だって権力があったほうがシーナの役に立つから。休みなんてなくたって別に良い。好きな人のこと眺めてるのが仕事とかマジで最高。俺の人生って最高。
シーナがどうしてあんな勘違いをしたのか分からないけど、彼を権力のために利用する気なんてサラサラない。
権力をシーナのために利用したことならいくらでもあるけど。
恩返しだとかそういうつもりもない。
ただ、俺がしたいことをしてただけ。シーナを見ていたかっただけ。好きな人に幸せになってほしい。イカれた男のただのエゴである。

なのに、シーナはどんどんドツボにハマっていった。
俺が見ているのを気づいてる? もしかして俺、試されてる?ってくらいに自分から危険に首を突っ込んでいく。
なに。シーナはどっちかっていうとしっかりしてる方だったでしょ。どうしたんだよ。
シーナを利用しようとする汚いジジイどもを消していくお仕事に、クズ男を追っ払う仕事が追加された。
今だけは、あのシーナのフラットな飄々とした読めない性格が憎かった。
どんなに死にかけても「まあいいか」なんて言ってその状況を受け入れてしまいそう。全然信用できない。死にかけたってアイツ絶対必死にならないでしょ。子猫の方がもう少し生存本能ちゃんとしてると思う。
一瞬目を離した隙に、うっかり死ぬんじゃないか。そうやって不安になって、いつからか盗聴器やらなんやらを活用し始めた。ヤクザに倫理を説く方がバカである。

多分俺、頭おかしいな。
盗聴器から流れる調子外れの鼻歌にトキメキながらなんとなく気づき始めたけど、恋愛すると人間頭おかしくなるって聞くし。多分みんなもこんなもんでしょ。
法律を破るのに慣れてしまうようなお仕事をしているせいで、ちょっと狂い方が人より過激ってだけだと思うことにした。

「…………この国宝級の顔よく殴れたもんだよね」

「…………ヒ」

ずっと気づかれないまま支えていくつもりだったのに、痺れを切らして路地裏に倒れたシーナを回収したり、連絡を取ったりしたのは俺の甘え。まじで何を狙ってんだってくらいクズしか捕まえないシーナに我慢の限界だったとも言う。

「てか、なんでご飯食べないの? 3食とも何もぬってない焼いてもない素の食パンって死にたいの?」

シーナを大事に抱えたまま、後部座席で唸るみたいに文句を言う俺を、部下が青ざめた顔でバックミラー越しに見ていた。
あのまま我慢を続けて鬱憤を溜め続けていたら、部下の胃に穴が開いていたと思う。

ポピン。

これ以上は近づかないって自分に言い聞かせて、スマホ越しにシーナとやりとりをした。
最高の数ヶ月だった。ほんとに。
一生気づかれなくてもいいと思っていたけど、向こうから色々反応が返ってくるのと返って来ないのとじゃ全然違う。
推しに認知されたいオタクの心理って多分こういうことだと思う。
これだけ好きなのに、俺なんかのことを好きだと言うシーナを抱き寄せて、自分だけのものにしなかった俺を誰か褒めてほしい。
シーナのための安全な家を買って。シーナを閉じ込めて、ずっと俺のそばに置いて、彼をずっと見ていたい。
今ならそんな欲望まるごと叶えることだってできるわけだけど、そうしなかったのは、それじゃあシーナは幸せになれないんだと思ったからだ。
自分に縋りついてくる酔っ払ったシーナのかわいさと言ったらなかったけど、歯を食いしばって我慢した。
ああ、でも我慢しなければよかったのかもしれない。
全部掻っ攫って、俺のものにしておけばよかった。





「…………どうしよ。このままじゃ俺、組長のところにショットガン持って突っ込んでいくかもしれない」

頬についた血を拭いながら、ついポツリと落とした言葉に、部下がブンブン首を振っていた。
シーナの姿が見えなくなって早数ヶ月。
誰かに誘拐されたんだと、心当たりを全員殺してしまおうとしていた俺を組長が呼び出した日。そして護衛係を解任された日から早数ヶ月。
なるほど。この人が絡んでいるのか。ならシーナが無事なんだろうとは思ったが、一体なぜ組長とシーナが接触したのかがわからない。

今、シーナがどこにいるのか。嫌な思いはしてないか。辛い思いはしてないか。
そんなことを考えていたら、いてもたってもいられなくて、いわゆる荒事を全部引き受けてあちこちで暴れ回った。
我慢するためだ。何をって。俺からシーナを奪ったあの老いぼれをぶち殺すことをだよ。

「………組長がお呼びです」

しかもこの俺にどっかの馬の骨と盃を交わせなんて抜かしやがる。昔はとんでもなくやり手の男だったと聞いていたが、やっぱり有能な人間でも歳をとるとみんな間抜けになるんだろうか。

「ヨシ、老害殺そ」

「………う」

俺の忠実な部下の胃に穴が開く前に、なんとしてもあのクソ老いぼれを殺してシーナを解放させなくてはならない。
俺はそう心に決めて、久方ぶりの本邸へと向かったのである。
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