〜巴旦杏〜腹減り新人ボクサーは、恋愛自体も新人です。

鱗。

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第二話『元気の源』

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現在洋介は、ジムの上階を間借りして下宿している。先輩後輩入り乱れて暮らしているので、せせこましい上に自由度は低いけれど、そのかわり格安で住まわせて貰えている。ただし、食事に関しては個別主義を貫いており、自炊するにしろ外食するにしろ、各々の判断で済ませる事になっていた。


体育系らしく、二口しかないコンロの使用権は、まず先輩にあった。だから時間の無い昼食などは、いつも外で済ますかコンビニに頼っていた。そんな中でカロリーを考えたうえ、腹を満たす食事を摂るのはかなり難しい。出来たとしてもコストが掛かったり、簡単にレパートリーが枯渇する。常にジリ貧の洋介にとって、まず削るべきは食費だ。そんな食生活に限界を感じ始めた最中に、『cafe & deli amande』を見つけた。


渡りに船とはまさにこの事で。洋介が『cafe & deli amande』の常連になるまで、そう時間は掛からなかった。ロードワークの折り返し地点を駅前にして、商店街を往復するルートに変えた。すると必然的に『cafe & deli amande』の前を二回通る事になるので、帰りがけに店に寄ることも容易くなった。


一旦、店の前を通る。運が良い日だと、彼の姿が見える。もっと良い日だと、ぱちりと目が合う。もっともっと良い日だと、ひらりと一つ手を振られる。


再び店の前を通り、入店して彼と会う事が分かっていても、それがあるだけで背筋が伸びたし、踏み出す脚には、ぐんと力が漲った。血縁でもなければ友人ですらない、赤の他人。なのに、応援してくれる人が、確かにそこにいる。その事実は、洋介の思った以上に、精神的にも恩恵を与えてくれた。


練習にも、一層身が入るようになった。食生活が安定した事によって、身体のコンディションも以前とは比べ物にならないレベルで向上した。精神的自重が増すことで自然と試合の勝率も上がり、洋介は瞬く間にランキングを駆け上がっていった。
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