あかりを追う警察官 ―希望が丘駅前商店街―

饕餮

文字の大きさ
9 / 26

★衝撃の事実

しおりを挟む
 帰りの電車の中で、今日あったことを振り返ってみた。仕事はいつもの通りだったし順調だったけど、午後には某国のお偉いさんが大臣に会いに来て会談するとかでバタバタしていたら、予定よりも早い時間に着くからと連絡をもらってさらにバタバタしてしまった。
 そして上司と一緒にお迎えするべく外で待っていて、到着したリムジンから出て来たSPらしき人の中に、商店街や病院で扇子を拾ってくれた人がいたことに驚いた。サングラスをしていたけど、彼だとすぐにわかった。

(まさか、SPに紛れて大臣とかお偉いさんを殺すつもりじゃ……)

 そう考えたら殺し屋にしか思えなくなってしまったし、たまたま防衛省に来ていた父に近付いたから、もしかしたらお父さんが狙いかも?! と思って彼を睨みつつもを庇うように立って

「お父さん、その人、殺し屋よ!」

 と言えば、父は呆れたような呆気にとられたような顔をしながら「おい暁里、殺し屋って……」と言ったあとで殺し屋がジャケットに手を入れた。思わず

(撃たれる!)

 と思ったけど、出て来たのは手帳のような物で、それを開いて私や父に見せた。

「おい、超絶ウサギ耳女! 誰が殺し屋だ、誰が! えー……午前中に上司から連絡が行っていると思いますが、自分は国際刑事警察機構インターポールの日本支部所属、警視正の篠原と言います。今回の件は自分が担当することになりましたので、そのご挨拶を」

 そう言った殺し屋――もとい、篠原さんの手帳を見れば写真付きの身分証で……しかも、そこには篠原さんが言った通りのことが書かれていた。
 そのことに驚いた私は、フロア中に響くんじゃなかろうかと言う声で

「嘘ーーー!!」

 と叫んだんだったっけ。
 そのあとは父に私の失敗を知られて恥ずかしい思いをしたし、篠原さんに狩りの意味を教えてもらってようやくわかったけど、扇子を拾ってもらったことを思い出してお礼を言おうとした矢先に上司に呼ばれちゃって、またお礼が言えなかった。

 父は海上保安庁のお偉いさんだから一人にすることには不安があったけれど、SPができるほどの国際警察官な篠原さんがいるからと割りきってまた仕事に戻った。

(私の完全な勘違いと思い込みとはいえ、悪いことしちゃったな……)

 篠原さんが醸し出してた雰囲気が独特だったし、ずっと殺し屋とか思っていたから警戒してたんだけど、警察官――それも国際警察官!――とわかってからは、全面的に信じたわけじゃないけど警戒を解いた。そして、今更ながら自分の過ぎた妄想と思い込みが恥ずかしくなって、内心凹んで悶絶していた。

 自宅の最寄り駅である希望が丘駅の改札を出て、母が入院している病院に向かうバスに乗る。母を見舞ってまた希望が丘駅に戻ると、父は遅いだろうと思って今日は作らずにテイクアウトにしようと決め、自宅方向ではなく商店街に足を向ける。向かった先は、商店街の一番奥にある神神シェンシェン飯店さん。

玉爾おくしさん、こんばんは」
オソオセヨいらっしゃいませ~。あ、アカリっ氏。今日は何食べるね?」
「ごめんなさい、今日はテイクアウトをお願いしたいんだけど、いいかしら?」
「もちろんね。何するか?」
「うーん……。あ、酢豚とエビチリとチヂミなんだけど……」

 少し考えてからメニューを告げると、玉爾さんはニッコリ笑って頷いてくれた。

「いくついるか?」
「二……ううん、三人前」
「わかった。そこに座って少し待ってほしいね」
「ありがとう」

 何人前かを告げて玉爾さんに言われた場所に座って待つ。

 実はチヂミは神神飯店のメニューに載っていない裏メニュー。何回か神神飯店に来て玉爾さんと仲良くなって、玉爾さんが韓国の人だと聞いたからこっそり玉爾さんに『チヂミはメニューにないの?』って聞いたら、チヂミは玉爾さん自身が作る裏メニューだと教わったのだ。
 初めて食べた時は本当に美味しくて、その日はおかわりしたのを覚えてる。
 そのことがあってから神神飯店に来ると三回に一回は頼むようになり、玉爾さんもたまに『アカリっ氏、今日はいい材料入ったね。チヂミ食べるか?』と聞いてくれるようになったから、その時は食べるようにしていた。

 そんなことを思い出していたら、玉爾さんが紙袋を持って私の側に来た。袋からはいい匂いがしていて、思わずお腹が小さく鳴った。それを聞いたらしい玉爾さんが「ふふっ」と笑って頷きながら紙袋を差し出したから、代金を渡してからそれを受けとる。

「待たせたね。熱いし重いから気を付けて持っていくね」
「いい匂い! ありがとう!」
クウェンチャナどういたしましてト、マンナヨまたお越しください~」
「はーい!」

 手を振ってくれた玉爾さんに手を振り返して神神飯店をあとにすると、そのまま自宅へと戻った。

「ただいま~」
「お帰り」
「暁里~~~!!」

 玄関を開ければ、普段はない男性用の靴が二足目に入った途端、父の言葉と、ウザイほどテンションの高い兄である璃人の声が聞こえた。
 まさか兄までいるとは思わなかったから、テイクアウトは父と私の分しか買ってない。残ったら明日の朝食べようと思っていただけに、ちょっとがっかりしていたら、リビングに入った途端に兄に抱きつかれた。

「兄さん、ウザイ! そして抱きつかないで!」
「久しぶりに会ったのにひどいな!」
「ひどくないし、もう子供じゃないわ!」
「二人ともその辺にしなさい。璃人、少しは落ち着いたらどうだ?」

 呆れたように言った父の言葉に、兄はようやく離してくれた。父がいるテーブルの上にはカット野菜の上に乗せられた豆腐ハンバーグとご飯が乗っている。それに首を傾げつつもテーブルに紙袋を乗せてから手洗いうがいをしたあとでお皿を持って行くと、酢豚、エビチリ、チヂミをお皿に移した。

「お、中華とチヂミ?」
「うん。神神飯店さんのよ。お父さんは遅いかなと思ってテイクアウトにしてもらったんだけど、まさか兄さんまでいるとは思わなかったわ。おかげで予定が狂ったわ……」
「ひでぇ……暁里、最近本当にひでぇ……」

 ぼやく兄をスルーして席に着くと、三人でいただきますをしてご飯を食べ始める。豆腐ハンバーグはどうしたのかと聞けば、やっぱり父も私が遅くなることを見越して、商店街の中にある篠原豆腐店で買って来たらしい。
 ご飯を食べながらお互いの近況報告と母の病状を伝え、ご飯が終わったあとでお茶を出したら「二人に話がある」と父に改まって言われ、兄と顔を見合せつつもまた席に着くと、父はしばらく黙り込んだあとで話し始めた。

 父曰く、私が国際指名手配犯を内包している犯罪組織から狙われていること、その情報を元に日本の警察ではなくICPOに相談したこと、私の護衛は明日からで、今日会った篠原さんが就くことを告げられた。

「え、篠原さんが護衛に? 大丈夫なの?」
「彼はずっとICPOの本部があるフランスにいて、いくつもの犯罪組織を壊滅させたそうだ」
「ええっ?! そんなにすごい人だったの?!」
「本人はそう言っていた」
「でも、どうやって護衛するの? ここまで来るのは大変じゃない?」
「彼の実家は商店街の中にある篠原豆腐店さんで、今はそこから日本支部に通っているらしい」

 そう言った父に驚いた。だから商店街にいたし、私の居場所を先回りすることができたことや気配がしなかったのかと納得もした。

「……俺と父さんがいるんだし、別に護衛なんかいらないだろ? 今までやって来たみたいにすればいいじゃないか」
「今までは本当にラッキーだっただけだ。これからはそうも言ってられんし、私は暁里の側についていてやれん。今は二人とも陸にいるから気を配ってやれるが、二人ともいなくなったあとはどうするんだ? お前に護ることはできるのか?」
「今までやって来たんだから、できるに決まってるだろ! 暁里は俺が護る!」

 篠原さんのことで納得している間に、なぜか兄は喧嘩腰。兄の気持ちは嬉しいし二人に溺愛されている自覚はあるけど、兄の溺愛具合は本音を言えばウザイ。非常にウザイ。
 そして何より、護衛に関しては、素人の兄よりも人柄を知らないはずの篠原さんのほうがなぜか安心できる気がする。
 そんなことを考えていたら、父の怒ったような低い声が飛んだ。

「何かあってからでは遅いんだぞ、璃人。そして分を弁えろ。篠原くんはお前と違って護衛のプロだ……某国のお偉いさんのSPができるほどのな」

 珍しく厳しい口調でそう言った父に、兄はムッとした顔をしながら席を立つと、何も言わずにリビングから出て行った。それを見た父は溜息をついたあとで私を見る。

「暁里、そういうわけだ。私は予定よりも早く戻って来たからその情報を手に入れることができたが、篠原くんには外で会わないほうがいいと言われている。気を配るし暁里は不安だろうが、私はそうするつもりでいる」
「わかってる。不安がないわけじゃないけど、篠原さんは信頼できる気がするの。それに……」
「それに?」
「よくわからないけど、何だか安心できる気がするし」

 そう言った私に、父はおや、と言う顔をしたあとでフッと笑い、「そうか」とポツリと呟いた。

 篠原さんに対して何でそんなことを思ったのかはわからないけど、少しだけ話した彼からは、自身の仕事に対しての自信というか自負というか、「この人ならば大丈夫」と思わせる何か……そんなものが感じられたから。


 翌朝、頑ななまでに「防衛省まで送る」と言った兄に辟易しつつも一緒に駅の改札に行くと、そこには篠原さんがいた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

処理中です...