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ファウルハーバー領編

第196話 領都に帰還

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 領都に着いたのはお昼過ぎだった。先触れを出しているわけではないので領都内の店で昼ご飯を食べたあと、公爵邸に戻ってきたわけだが。
 ロジーネはお怒りだった。しかも、公爵家を取り仕切る家令をはじめとした使用人たちや、真面目に職務をこなしていた騎士たちもお怒りだった。
 笑顔でも目が笑ってないんだよ。全員美形なだけに、いと恐ろし。

「おかえりなさい、ルー。手紙を読んで、関係者全員、牢に繋いであるわ」
「ありがとう。アリサたちもありがとう。助かった。あとは僕たちの仕事だ。明日一緒に畑に行ってほしいから、それまで休んでいてほしい」
「「「わかりました」」」

 巻き込まれたとはいえ、私たちは部外者だものね。依頼されているわけでもないし、そこまで巻き込むつもりはないんだろう。
 あとで報酬の一部としてこの領地で育てている野菜と果物の種と実をくれるというので、頷く。そしてヤミンとヤナ、従魔たちを促し、借りている離れへと戻った。
 従魔たちは放牧場で結界を張って戦闘訓練と道中の戦闘のことで話し合いをするというので任せ、私たち三人は建物へ戻る。晩ご飯までは自由時間としたあと解散し、私は汗と埃を落とすべく、お風呂を用意したあと入った。
 疲れが取れる入浴剤が欲しいと切実に思ったよ……。村に帰ったら、レベッカに薬草を使った入浴剤を作ってもらおう。そうしよう。
 あがったあとは荷物の整理をし、微妙な残り方をしている食材は晩ご飯行き。どうするかなあ……本当に微妙な残り方なのだ。
 だいたい一人分か二人分くらいの量しかないのに、人間三人と従魔九匹という、かなりの数になる。食材の種類自体はかなり多いけれど、それでも限られてくるのだ。
 肉は一角兎、ロック鳥、ホーンディアがそれぞれ一人前から二人前程度の塊。野菜の種類はそれなりにある。

「うーん……うーーーん……」

 主食となる米や小麦粉はともかく、微妙じゃないのは白菜が二玉とレタスが一玉、ジャガイモくらいか。

「よし、ロール白菜とレタスチャーハン、ポテサラとスープにしよう」

 そうと決まれば、キッチンへ。必要な材料を取り出し、肉は全部纏めて挽肉にする。あとはみじん切りにしたり一口大にしたりと野菜をカットし、屑野菜や皮、使えない肉を使ってコンソメ作り。
 じっくりコトコトなんて時間はないので、そこは錬金術と料理スキルの時短を使った。
 コンソメは半分に分けてひとつはスープにし、残りはトマトを入れてトマトスープにする。このトマトスープでロール白菜を煮るのだ。
 白菜でやる場合は、白い部分を少しだけ削って切れ目を入れてやれば生のまま使えるし、白い部分と巻くことができない小さなものはスープに入れれば問題なし。ちゃっちゃっと白菜をばらして洗ったあと、水を切っておく。
 その間にジャガイモを茹でたり、薄皮を湯剥きしたトマトをカットしてスープの中に入れたりと準備をしつつ、ロール白菜のタネ作り。玉ねぎの他にキノコやニンジンなど、ポテサラに使う残りをみじん切りにして入れ、卵とナツメグ、酒などの調味料を入れてタネを作る。
 それを白菜に入れて巻き、乾燥スパゲッティーで止める。かんぴょうはないし、爪楊枝を作るのも面倒だったしね。
 準備が出来たらトマトスープの味を調え、ロール白菜を入れて煮る。こっちはしばらく放置して、ポテサラとスープを仕上げたあと、レタスチャーハンを作り。
 このころになると従魔たちが戻ってきて、ヤミンとヤナが従魔たちを綺麗にしてくれた。

「ありがとう」
「どういたしまして」
「いい匂い! 腹減ったよ、アリサ」
「ボクも!」
「もうちょい待って。チャーハンを作れば終わりだから」
「「じゃあ、他のことを手伝う」」

 てなわけでヤミンとヤナには食器などの用意をしてもらっている間にレタスチャーハン作り。ご飯は生卵を混ぜてから炒める。こうすることで綺麗な黄金色のご飯になるし卵のダマもできない。
 ある程度炒めたあとは一回取り出し、レタスを炒める。この時に水分が出るので、できるだけ飛ばしたあと、ご飯と調味料、残っていたエビを入れてパラッパラになるまで強火で炒める。ひらすら炒める。

「できたよー」
「やったー!」

 ヤミンとヤナ、従魔たちの声が重なる。それと同時にスープやロール白菜を深皿に入れたりポテサラを分けたりしてくれるヤミンとヤナ。
 ロール白菜とスープがかぶったけどいっか。残るようなら明日の朝食にしよう。
 ロール白菜のタネには玉ねぎとキノコが数種類、筍とニンジン、グリーンピースに似た野菜が入っている。どれも一欠片とかほんの少し残っていたものだった。
 まあ、ニンジンとグリーンピースもどきはポテサラに入れた残りだからね。そこまでたくさん入っていない。
 その分、グリーンピースもどき以外の野菜は、すんごい細かいみじん切りにしたが。
 ご飯を食べたあとは、従魔たちのレベルを確認。私の従魔たちは上がらないが、ヤミンとヤナの従魔たちは寒村の行き帰りでそこそこ上がったらしい。

「アリサ、依頼が終わったら、森に行くかダンジョンに行きたい」
「俺も。さすがにレベルが100を超えないと、村に連れて行くのは不安だし」
「そうね、いいわ。まずは森でウルフとディア、ボアとベアに慣れたら、帝都の初級ダンジョンか食材ダンジョンに潜ろうか」
「「やった! ありがとう、アリサ!」」
<よかったなのー>
<レベル上げは我らも手伝うぞ>
<<<<ありがとう!>>>>

 主人であるヤミンとヤナだけではなく、従魔たちも喜んでいる。確かにレベルが低いと、村に連れて帰るのは不安だろう。
 なにせ、低くても軽く400は超えてるもんなあ、村周辺の魔物のレベルって。湖に近くなるほどレベルが高いから、いくら私の従魔たちがいるとはいえ、ヤミンとヤナ、従魔たちにしてみれば不安だろう。
 そろそろわさびやこの時期には獲れない魚が欲しいし、食材ダンジョンのほうがいいかな?
 あ~、漁港にも行かないとなあ。明日、朝一番に行ってくるかと考えていると、すんごい疲れた顔をしたルードルフとロジーネ、側近たちが来た。

「アリサ、すまない。報告だけさせてくれ」
「わたくしは甘いものが食べたいですわ……」
「おいおい。まあ、いいよ。碌なものはないけど、いい?」
「構いませんわ。できれば、特産物になる砂糖を使ったものでお願いしますわ」
「はいよー」

 いきなり来てその言い草かよ、ロジーネさんや。
 何が残ってたっけなあ、甜菜とビーツで作ったお菓子。せいぜいクッキーとパウンドケーキくらいしかないかな。
 それを出しつつ、土産だと持ってきてくれたリンゴの皮を剥きつつ彼らの話を聞くことにする。リンゴはキャラメリゼして、タルトタタンの上の部分だけを食べてもらうつもりだ。
 パイ生地を作っている時間もないしね。
 皮は紅茶の茶葉に入れ、アップルティーにして出すことにしよう。
 先にリンゴの皮を小さく切って茶葉と一緒にティーポットに入れると、そのまま放置。その間にリンゴを二センチ幅くらいの櫛形に切り、塩水に漬けておく。
 ちょうど時間になったので、ルードルフたち一行の他にもヤミンとヤナ、従魔たちにも配る。そして私はリンゴの水を切ると、鍋に甜菜で作った砂糖を鍋に入れて少し溶かし、バターを入れて滑らかにしたあとリンゴを入れた。
 そこまでやっているうちに甘いものとアップルティーを飲んで落ち着いたんだろう。溜息をついたあと、ルードルフが口を開いた。

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