オカマ上司の恋人【R18】

饕餮

文字の大きさ
2 / 155
圭視点

Cherry Blossom

しおりを挟む
「おはようございます。本日の予定はこのようになっております」

 パソコンからプリントアウトした予定表を目の前の人物に手渡し、時間、会う人物などの予定を読み上げて行く。

「以上ですが、何か質問はございますか?」
「今日の随行秘書は?」

(おいおい……今日のもなにも、貴方の秘書はたった一人でしょうが)

 内心の呆れた呟きはおくびにも出さず、事実を淡々と告げる。

「いつも通り羽多野ですが、何か不都合でもあるのですか?」
「……いや」
「そうですか。それから、私の業務は本日までとなります。これ以降、全ての業務は羽多野になりますので、連絡事項などは全て彼にお願いいたします。それでは、私はこれで失礼いたします」

 連絡事項が一通り終了したのでお辞儀をして踵を返し、一歩踏み出したところで名前を呼ばれる。

「……葎」

 けれど、私の名前ではないので聞こえないふりをしてそのまま歩き出す。

「葎!」

 またもやそう呼ばれたけれど、それも無視した。
 だから、私は『葎』じゃないっての! と内心で悪態をつきつつドアノブに手をかけ、扉を開けたところで再度「葎!」と呼ばれたけれどそれすらも無視し、近くにいた人に「羽多野くんを呼んでいただけますか? 小田桐部長がお呼びですので」と声をかける。

「羽多野ーっ! 小田桐部長がお呼びです!」

 すると、その人の口から担当秘書を呼ぶ声が聞こえた。ここは秘書課ではないけれど、訓練のためにこの事業部の人にコーヒーを淹れるよう、伝えていたのだ。
 その人にお礼を言い、ドアを開け放した状態のまま該当人物を待っていると、更に「葎!」と呼ばれたので、いい加減イラついてくる。

「私は葎ではないと、何度申し上げればおわかりいただけるのですか?」

 言外に『貴方は馬鹿ですか?』と冷たく言い放ち、いつもならドアをすぐに出てから引き継ぎをするところをわざわざその場で待ち、その人物とはということをアピールする。

「それでは、羽多野くん、あとをお願いいたしします」
「りょーかいっ!」
「羽多野くん、言葉遣い」
「……っ! 申し訳ありません。わかりました」
「本当にわかっているのですか? 仕事はきちんと覚えたのですか?」

 頭一つ半ほど高い羽多野 葎の顔を無表情で見上げると一瞬辛そうな顔をしたけれど、すぐに困り顔になった。

「うっ……。け、圭ほどじゃな……じゃなくて、は……在沢、さんほどではありませんが、大丈夫、です」
「そうですか。今週いっぱい……と言っても今日までですが、完全に覚えてください。来週からは、羽多野くんが一人でこなすことになりますから」
「……はい」

(もう! 男のくせに、恋する乙女の顔をして!)

 私の無表情の顔を見て、辛そうな、泣きそうな、困ったような顔をしていた葎は、最後の『一人で』のところで急にはにかんだ。


 ***


 就職して早、五年。
 衝撃の目撃をしたあと二人を避けるように全寮制高校の寮に入った。その後は短大を受験しそのまま寮を出て一人暮らしを始め、在学中にバイトをしながら就職に有利な資格を取り、卒業後も一年間は会社に許可をもらってバイトをしながら資格を取りまくった。
 その甲斐あって、大手というわけではないけれど、どうしても行きたかった会社に見事合格した。今まで一度も会わなかった人たちだからこれからもずっと会わずに済むのだろう……そう思っていた。
  けれど、昨年小田桐が入社――この時社長の息子と判明――し、小田桐のあとを追うように今年は双子の弟である葎が入社し、私の顔を見るなり驚かれた。

「圭!? 今までどこにいたの?! さんざん探して……てか、何でこんなところにいるの? まさか、政行を追いかけて……」
「はぁ……。貴方、実は馬鹿だったんですね。一度も話したことがない人を、どうして追いかけなければいけないのですか?」
「話したことくらい……」
「あるはずがないですよね? 話そうと近付くたびに、ことごとく邪魔をしたのはどこのどちら様でしたか?」
「それは……っ」
「それに、何年も会ってない人の情報をどうやって知り得るというのですか?」
「うっ……」

 無表情で葎を見上げると、キュッと唇を噛んで私を見ていた。

「しかも、私は入社して五年たちますし、私にしてみれば追いかけて来たのはあなた方のほうなんですが」
「えっ?!」
「まぁ、どうでもいいです。今の私には関係のないことですので。ところで、貴方はどこの部署を希望されているのですか?」
「秘書課、だけど……」
「……そうですか。秘書課はそこそこ難しい部署ですから入れるかどうかはわかりませんが、精々頑張ってください。それでは」
「圭!」

 踵を返し、一歩踏み出したところで葎に腕を掴まれた。

「まだ何か?」
「なんでそんな他人行儀なんだよっ!」
「……既に他人ですから。それに、ここは会社です。当然だと思いますが?」
「どういう意味だよ?!」
「見つけた! 圭、探したぞ! さとるが呼んでる。俺も頼みたい仕事があるんだが――どうした? トラブったか?」

 現在一緒に仕事をしている先輩がいいタイミングで呼びに来たので「大丈夫です」と言い、渡りに船とばかりに「わかりました。すぐに行きます」と告げ、掴まれていた手を引き剥がす。

「そのままの意味ですが、何か?」
「――っ!」
「先輩も呼びに来ていますし、こう見えても私は忙しいので。それでは、失礼します。石川さん、行きましょう」
「圭!」

 まだ何か言いたそうにしながらも途方に暮れている葎をその場に残し、先輩である石川 あまねと連れ立って歩き始め、しばらくすると石川が口を開いた。

「アレ、新入社員だろ?」
「……そのようですね」
「知り合いか?」
「そう、ですね」
「何か言いたそうだったが……」
「……いいんです。もう終わったことですから。放っておきましょう。それよりも仕事です。智さんが何か? それに、頼みたいこととはなんでしょうか?」
「あっ! そうだった!」

 ちょうど職場に着いたので、部屋に入りながら指示をもらう。いろいろな仕事と対処に追われているうちに、今日のことをいつの間にか忘れていた。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...