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圭視点
Cherry Blossom
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「おはようございます。本日の予定はこのようになっております」
パソコンからプリントアウトした予定表を目の前の人物に手渡し、時間、会う人物などの予定を読み上げて行く。
「以上ですが、何か質問はございますか?」
「今日の随行秘書は?」
(おいおい……今日のもなにも、貴方の秘書はたった一人でしょうが)
内心の呆れた呟きはおくびにも出さず、事実を淡々と告げる。
「いつも通り羽多野ですが、何か不都合でもあるのですか?」
「……いや」
「そうですか。それから、私の業務は本日までとなります。これ以降、全ての業務は羽多野になりますので、連絡事項などは全て彼にお願いいたします。それでは、私はこれで失礼いたします」
連絡事項が一通り終了したのでお辞儀をして踵を返し、一歩踏み出したところで名前を呼ばれる。
「……葎」
けれど、私の名前ではないので聞こえないふりをしてそのまま歩き出す。
「葎!」
またもやそう呼ばれたけれど、それも無視した。
だから、私は『葎』じゃないっての! と内心で悪態をつきつつドアノブに手をかけ、扉を開けたところで再度「葎!」と呼ばれたけれどそれすらも無視し、近くにいた人に「羽多野くんを呼んでいただけますか? 小田桐部長がお呼びですので」と声をかける。
「羽多野ーっ! 小田桐部長がお呼びです!」
すると、その人の口から担当秘書を呼ぶ声が聞こえた。ここは秘書課ではないけれど、訓練のためにこの事業部の人にコーヒーを淹れるよう、伝えていたのだ。
その人にお礼を言い、ドアを開け放した状態のまま該当人物を待っていると、更に「葎!」と呼ばれたので、いい加減イラついてくる。
「私は葎ではないと、何度申し上げればおわかりいただけるのですか?」
言外に『貴方は馬鹿ですか?』と冷たく言い放ち、いつもならドアをすぐに出てから引き継ぎをするところをわざわざその場で待ち、その人物とは似た顔同士の二人ということをアピールする。
「それでは、羽多野くん、あとをお願いいたしします」
「りょーかいっ!」
「羽多野くん、言葉遣い」
「……っ! 申し訳ありません。わかりました」
「本当にわかっているのですか? 仕事はきちんと覚えたのですか?」
頭一つ半ほど高い羽多野 葎の顔を無表情で見上げると一瞬辛そうな顔をしたけれど、すぐに困り顔になった。
「うっ……。け、圭ほどじゃな……じゃなくて、は……在沢、さんほどではありませんが、大丈夫、です」
「そうですか。今週いっぱい……と言っても今日までですが、完全に覚えてください。来週からは、羽多野くんが一人でこなすことになりますから」
「……はい」
(もう! 男のくせに、恋する乙女の顔をして!)
私の無表情の顔を見て、辛そうな、泣きそうな、困ったような顔をしていた葎は、最後の『一人で』のところで急にはにかんだ。
***
就職して早、五年。
衝撃の目撃をしたあと二人を避けるように全寮制高校の寮に入った。その後は短大を受験しそのまま寮を出て一人暮らしを始め、在学中にバイトをしながら就職に有利な資格を取り、卒業後も一年間は会社に許可をもらってバイトをしながら資格を取りまくった。
その甲斐あって、大手というわけではないけれど、どうしても行きたかった会社に見事合格した。今まで一度も会わなかった人たちだからこれからもずっと会わずに済むのだろう……そう思っていた。
けれど、昨年小田桐が入社――この時社長の息子と判明――し、小田桐のあとを追うように今年は双子の弟である葎が入社し、私の顔を見るなり驚かれた。
「圭!? 今までどこにいたの?! さんざん探して……てか、何でこんなところにいるの? まさか、政行を追いかけて……」
「はぁ……。貴方、実は馬鹿だったんですね。一度も話したことがない人を、どうして追いかけなければいけないのですか?」
「話したことくらい……」
「あるはずがないですよね? 話そうと近付くたびに、ことごとく邪魔をしたのはどこのどちら様でしたか?」
「それは……っ」
「それに、何年も会ってない人の情報をどうやって知り得るというのですか?」
「うっ……」
無表情で葎を見上げると、キュッと唇を噛んで私を見ていた。
「しかも、私は入社して五年たちますし、私にしてみれば追いかけて来たのはあなた方のほうなんですが」
「えっ?!」
「まぁ、どうでもいいです。今の私には関係のないことですので。ところで、貴方はどこの部署を希望されているのですか?」
「秘書課、だけど……」
「……そうですか。秘書課はそこそこ難しい部署ですから入れるかどうかはわかりませんが、精々頑張ってください。それでは」
「圭!」
踵を返し、一歩踏み出したところで葎に腕を掴まれた。
「まだ何か?」
「なんでそんな他人行儀なんだよっ!」
「……既に他人ですから。それに、ここは会社です。当然だと思いますが?」
「どういう意味だよ?!」
「見つけた! 圭、探したぞ! 智が呼んでる。俺も頼みたい仕事があるんだが――どうした? トラブったか?」
現在一緒に仕事をしている先輩がいいタイミングで呼びに来たので「大丈夫です」と言い、渡りに船とばかりに「わかりました。すぐに行きます」と告げ、掴まれていた手を引き剥がす。
「そのままの意味ですが、何か?」
「――っ!」
「先輩も呼びに来ていますし、こう見えても私は忙しいので。それでは、失礼します。石川さん、行きましょう」
「圭!」
まだ何か言いたそうにしながらも途方に暮れている葎をその場に残し、先輩である石川 周と連れ立って歩き始め、しばらくすると石川が口を開いた。
「アレ、新入社員だろ?」
「……そのようですね」
「知り合いか?」
「そう、ですね」
「何か言いたそうだったが……」
「……いいんです。もう終わったことですから。放っておきましょう。それよりも仕事です。智さんが何か? それに、頼みたいこととはなんでしょうか?」
「あっ! そうだった!」
ちょうど職場に着いたので、部屋に入りながら指示をもらう。いろいろな仕事と対処に追われているうちに、今日のことをいつの間にか忘れていた。
パソコンからプリントアウトした予定表を目の前の人物に手渡し、時間、会う人物などの予定を読み上げて行く。
「以上ですが、何か質問はございますか?」
「今日の随行秘書は?」
(おいおい……今日のもなにも、貴方の秘書はたった一人でしょうが)
内心の呆れた呟きはおくびにも出さず、事実を淡々と告げる。
「いつも通り羽多野ですが、何か不都合でもあるのですか?」
「……いや」
「そうですか。それから、私の業務は本日までとなります。これ以降、全ての業務は羽多野になりますので、連絡事項などは全て彼にお願いいたします。それでは、私はこれで失礼いたします」
連絡事項が一通り終了したのでお辞儀をして踵を返し、一歩踏み出したところで名前を呼ばれる。
「……葎」
けれど、私の名前ではないので聞こえないふりをしてそのまま歩き出す。
「葎!」
またもやそう呼ばれたけれど、それも無視した。
だから、私は『葎』じゃないっての! と内心で悪態をつきつつドアノブに手をかけ、扉を開けたところで再度「葎!」と呼ばれたけれどそれすらも無視し、近くにいた人に「羽多野くんを呼んでいただけますか? 小田桐部長がお呼びですので」と声をかける。
「羽多野ーっ! 小田桐部長がお呼びです!」
すると、その人の口から担当秘書を呼ぶ声が聞こえた。ここは秘書課ではないけれど、訓練のためにこの事業部の人にコーヒーを淹れるよう、伝えていたのだ。
その人にお礼を言い、ドアを開け放した状態のまま該当人物を待っていると、更に「葎!」と呼ばれたので、いい加減イラついてくる。
「私は葎ではないと、何度申し上げればおわかりいただけるのですか?」
言外に『貴方は馬鹿ですか?』と冷たく言い放ち、いつもならドアをすぐに出てから引き継ぎをするところをわざわざその場で待ち、その人物とは似た顔同士の二人ということをアピールする。
「それでは、羽多野くん、あとをお願いいたしします」
「りょーかいっ!」
「羽多野くん、言葉遣い」
「……っ! 申し訳ありません。わかりました」
「本当にわかっているのですか? 仕事はきちんと覚えたのですか?」
頭一つ半ほど高い羽多野 葎の顔を無表情で見上げると一瞬辛そうな顔をしたけれど、すぐに困り顔になった。
「うっ……。け、圭ほどじゃな……じゃなくて、は……在沢、さんほどではありませんが、大丈夫、です」
「そうですか。今週いっぱい……と言っても今日までですが、完全に覚えてください。来週からは、羽多野くんが一人でこなすことになりますから」
「……はい」
(もう! 男のくせに、恋する乙女の顔をして!)
私の無表情の顔を見て、辛そうな、泣きそうな、困ったような顔をしていた葎は、最後の『一人で』のところで急にはにかんだ。
***
就職して早、五年。
衝撃の目撃をしたあと二人を避けるように全寮制高校の寮に入った。その後は短大を受験しそのまま寮を出て一人暮らしを始め、在学中にバイトをしながら就職に有利な資格を取り、卒業後も一年間は会社に許可をもらってバイトをしながら資格を取りまくった。
その甲斐あって、大手というわけではないけれど、どうしても行きたかった会社に見事合格した。今まで一度も会わなかった人たちだからこれからもずっと会わずに済むのだろう……そう思っていた。
けれど、昨年小田桐が入社――この時社長の息子と判明――し、小田桐のあとを追うように今年は双子の弟である葎が入社し、私の顔を見るなり驚かれた。
「圭!? 今までどこにいたの?! さんざん探して……てか、何でこんなところにいるの? まさか、政行を追いかけて……」
「はぁ……。貴方、実は馬鹿だったんですね。一度も話したことがない人を、どうして追いかけなければいけないのですか?」
「話したことくらい……」
「あるはずがないですよね? 話そうと近付くたびに、ことごとく邪魔をしたのはどこのどちら様でしたか?」
「それは……っ」
「それに、何年も会ってない人の情報をどうやって知り得るというのですか?」
「うっ……」
無表情で葎を見上げると、キュッと唇を噛んで私を見ていた。
「しかも、私は入社して五年たちますし、私にしてみれば追いかけて来たのはあなた方のほうなんですが」
「えっ?!」
「まぁ、どうでもいいです。今の私には関係のないことですので。ところで、貴方はどこの部署を希望されているのですか?」
「秘書課、だけど……」
「……そうですか。秘書課はそこそこ難しい部署ですから入れるかどうかはわかりませんが、精々頑張ってください。それでは」
「圭!」
踵を返し、一歩踏み出したところで葎に腕を掴まれた。
「まだ何か?」
「なんでそんな他人行儀なんだよっ!」
「……既に他人ですから。それに、ここは会社です。当然だと思いますが?」
「どういう意味だよ?!」
「見つけた! 圭、探したぞ! 智が呼んでる。俺も頼みたい仕事があるんだが――どうした? トラブったか?」
現在一緒に仕事をしている先輩がいいタイミングで呼びに来たので「大丈夫です」と言い、渡りに船とばかりに「わかりました。すぐに行きます」と告げ、掴まれていた手を引き剥がす。
「そのままの意味ですが、何か?」
「――っ!」
「先輩も呼びに来ていますし、こう見えても私は忙しいので。それでは、失礼します。石川さん、行きましょう」
「圭!」
まだ何か言いたそうにしながらも途方に暮れている葎をその場に残し、先輩である石川 周と連れ立って歩き始め、しばらくすると石川が口を開いた。
「アレ、新入社員だろ?」
「……そのようですね」
「知り合いか?」
「そう、ですね」
「何か言いたそうだったが……」
「……いいんです。もう終わったことですから。放っておきましょう。それよりも仕事です。智さんが何か? それに、頼みたいこととはなんでしょうか?」
「あっ! そうだった!」
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