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圭視点
Dragon Lady
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扉の前にはソファーとローテーブル。
その奥にはマホガニーと思われる、大きな机と一段低くなっている机。その上にはそれぞれパソコンと電話が一台ずつ置かれている。
その後ろには大きな窓ガラスがあり、そこは見事なスカイビューだった。
机横の壁には資料を置く棚があり、その横にはなぜか電子レンジとポットがあった。
室内にあった扉を開けるとこちらもスカイビューになっており、どうやらリビングダイニングのようで十畳ほどの広さがあり、冷蔵庫はないものの、対面式のキッチンとカウンター、テレビやソファーが置かれていた。更にその奥の扉は、トイレやお風呂、寝室になっていた。
かなりの広さがある、見事なペントハウスである。
あるのだけれど……。
「……専務、質問があります」
「泪って呼んで♪ 呼ばないと答えないわよ?」
なに、この面倒臭い男は。そう思ったものの、それはおくびにも出さずにまた質問する。
「……泪さん、質問が」
「何かしら?」
「私は穂積エンタープライズに転属と聞いたのですが、ここはどういった場所なのですか?」
「あら、言ってなかったかしら。ここも穂積よ? 尤も、アタシ専用のオフィスだけどね」
その言葉に驚く。専用のオフィスって何?!
「え……? ここは穂積の本社ビル、なんですよね? その一画ですよね?」
「違うわよ。言ったでしょ? 『アタシ専用のオフィスだ』って。だからビルもアタシ専用。一応『穂積エンタープライズ』の名が付いてはいるけどね。それはともかく、このすぐ下のツーフロアぶんは空いているけど、更にその下はテナントがきちんと入ってるわよ?」
その言葉に、さらに衝撃を受ける。……本当にどうなっているのだろう……。
そんな私の内心を知ってか知らずか、穂積は踵を返すと来たところを戻り始めたので、そのあとをついて行く。
「さて、今からお圭ちゃんのお仲間の従業員を紹介するわね♪」
そう言ってペントハウスのほうに呼んだ人たちは、徹夜でもしたのか全員髪はボサボサで髭面だった。そして何より……何もかもが、汚い。
「……専務?」
「……」
「ほ・づ・み・せ・ん・む・?」
「……なぁに?」
「……まさか、こんな汚い状態で仕事しろ、なんて仰いませんよね……?」
「え? 何言ってんの。十分綺麗でしょ?」
「こ・れ・の・どこがが綺麗なんですか! このような状態で仕事できるわけがないでしょう!」
「どうして? アタシたちは今までこの状態でやって来たわよ?」
ブチッ。
穂積の言葉に、私の中の何かが切れた。
「いいですか? ――客を迎えるための応接室は埃だらけ! 資料室はぐちゃぐちゃ! 給湯室はゴミだらけでコーヒーカップすら洗ってない! 仕事するはずの机は乱雑でパソコンや床にはコーヒーをこぼしたあとがあり、仮眠室に至ってはカビ臭いではないですか!」
「お、お圭、ちゃん?」
「しかも、このペントハウスの状態はなんですか?! こっちはもっと汚いじゃありませんか! この、汚いペントハウスで仕事しろと?! 足の踏み場もないこの場所で?! 事務所より汚いこの場所で?!」
「あ、あの……」
「こんな状態で仕事?! 冗談じゃないですよ! あんな汚い資料室から『資料持って来い』って言われても、私は御免ですから!」
「「「……」」」
一気にこの事務所内の問題点を話すと、据わった目で穂積を見る。
「……改善要求をします」
「……わかったわ。どうすればいいかしら?」
私の顔が相当ヤバかったのだろう……穂積は若干顔を引きつらせながらもどうすればいいか聞いてくれたので、自分の荷物からメモとペンを出して一旦ペントハウスから出ると、各部屋をもう一度見ながら必要な物を書いていく。
掃除用具や事務用品の備品などなど、聞いても「ない」と返事が返って来たものは全て書いたので、それを穂積に見せる。その膨大な内容に顔を青ざめさせていた。
「……良いわよ。予算はアタシが出すから、好きなだけ綺麗にしてちょうだい」
「……本当ですね?」
「もちろん。どうせなら電化製品も一新しちゃいましょう」
「それなら……」
穂積の言葉に今ある家電製品を書いていくと、なぜかそれに冷蔵庫も加えられた。
「じゃあ、買いに行きましょ。アンタたちは掃除用具を買ったり、事務用品を電話で頼んだりしてちょうだい。ついでに本社に電話して、パソコン全部入れ換えろって言ってちょうだいね。何か言って来たら、アタシに電話するように言って。あと、くれぐれも領収書を忘れないでね。買った物はそうね……一旦仮眠室へ。そのあとは帰っていいわ。詳しい紹介は、明日以降にしましょう。それでは解散!」
穂積の言葉に他の皆は買い物をするべく、ペントハウスを出る。私も出ようとしたら、彼に呼び止められた。
「それとお圭ちゃん」
「はい?」
「アタシからも改善要求を出すわ」
「……何でしょうか?」
「泪と呼ぶこと。眼鏡は外すこと。目を戻すこと。今着ているような格好をすること。先日みたいなパンツスーツはナシ」
「……目を戻す、とは?」
「惚けないでくれるかしら。アタシはアンタがオッドアイだってことを知ってるわ。ここは小田桐とは違うのよ、そんなことで引くようなヤツなんかいないわよ? いたら、即刻クビよ、クビ」
鼻を鳴らしながら言いきった彼はとても真剣な目をしていた。悩んだけれど、結局は「わかりました」と頷いた。
「ただ、本当に目が悪いので、眼鏡を外すと細かい数字やパソコンでの作業ができません。それに、足に傷があるので、このような格好はあまりできませんし……それに……その……持って、いません」
「あら、そうなの?! ふふふ……それは楽しみね♪」
私の言葉に穂積の目がキラン、と光った気がしたけれど……気のせいだと思うことにする。
「……そうですか。楽しみですか。では、お掃除も念入りにお手伝いしていただけますね。私の代わりに、あちこち磨いてくださいね♪」
「あら……意外と冷たいわね……」
わざととぼけると、穂積は「着替えてくるわ……」とペントハウスの奥へ消えて行った。
その奥にはマホガニーと思われる、大きな机と一段低くなっている机。その上にはそれぞれパソコンと電話が一台ずつ置かれている。
その後ろには大きな窓ガラスがあり、そこは見事なスカイビューだった。
机横の壁には資料を置く棚があり、その横にはなぜか電子レンジとポットがあった。
室内にあった扉を開けるとこちらもスカイビューになっており、どうやらリビングダイニングのようで十畳ほどの広さがあり、冷蔵庫はないものの、対面式のキッチンとカウンター、テレビやソファーが置かれていた。更にその奥の扉は、トイレやお風呂、寝室になっていた。
かなりの広さがある、見事なペントハウスである。
あるのだけれど……。
「……専務、質問があります」
「泪って呼んで♪ 呼ばないと答えないわよ?」
なに、この面倒臭い男は。そう思ったものの、それはおくびにも出さずにまた質問する。
「……泪さん、質問が」
「何かしら?」
「私は穂積エンタープライズに転属と聞いたのですが、ここはどういった場所なのですか?」
「あら、言ってなかったかしら。ここも穂積よ? 尤も、アタシ専用のオフィスだけどね」
その言葉に驚く。専用のオフィスって何?!
「え……? ここは穂積の本社ビル、なんですよね? その一画ですよね?」
「違うわよ。言ったでしょ? 『アタシ専用のオフィスだ』って。だからビルもアタシ専用。一応『穂積エンタープライズ』の名が付いてはいるけどね。それはともかく、このすぐ下のツーフロアぶんは空いているけど、更にその下はテナントがきちんと入ってるわよ?」
その言葉に、さらに衝撃を受ける。……本当にどうなっているのだろう……。
そんな私の内心を知ってか知らずか、穂積は踵を返すと来たところを戻り始めたので、そのあとをついて行く。
「さて、今からお圭ちゃんのお仲間の従業員を紹介するわね♪」
そう言ってペントハウスのほうに呼んだ人たちは、徹夜でもしたのか全員髪はボサボサで髭面だった。そして何より……何もかもが、汚い。
「……専務?」
「……」
「ほ・づ・み・せ・ん・む・?」
「……なぁに?」
「……まさか、こんな汚い状態で仕事しろ、なんて仰いませんよね……?」
「え? 何言ってんの。十分綺麗でしょ?」
「こ・れ・の・どこがが綺麗なんですか! このような状態で仕事できるわけがないでしょう!」
「どうして? アタシたちは今までこの状態でやって来たわよ?」
ブチッ。
穂積の言葉に、私の中の何かが切れた。
「いいですか? ――客を迎えるための応接室は埃だらけ! 資料室はぐちゃぐちゃ! 給湯室はゴミだらけでコーヒーカップすら洗ってない! 仕事するはずの机は乱雑でパソコンや床にはコーヒーをこぼしたあとがあり、仮眠室に至ってはカビ臭いではないですか!」
「お、お圭、ちゃん?」
「しかも、このペントハウスの状態はなんですか?! こっちはもっと汚いじゃありませんか! この、汚いペントハウスで仕事しろと?! 足の踏み場もないこの場所で?! 事務所より汚いこの場所で?!」
「あ、あの……」
「こんな状態で仕事?! 冗談じゃないですよ! あんな汚い資料室から『資料持って来い』って言われても、私は御免ですから!」
「「「……」」」
一気にこの事務所内の問題点を話すと、据わった目で穂積を見る。
「……改善要求をします」
「……わかったわ。どうすればいいかしら?」
私の顔が相当ヤバかったのだろう……穂積は若干顔を引きつらせながらもどうすればいいか聞いてくれたので、自分の荷物からメモとペンを出して一旦ペントハウスから出ると、各部屋をもう一度見ながら必要な物を書いていく。
掃除用具や事務用品の備品などなど、聞いても「ない」と返事が返って来たものは全て書いたので、それを穂積に見せる。その膨大な内容に顔を青ざめさせていた。
「……良いわよ。予算はアタシが出すから、好きなだけ綺麗にしてちょうだい」
「……本当ですね?」
「もちろん。どうせなら電化製品も一新しちゃいましょう」
「それなら……」
穂積の言葉に今ある家電製品を書いていくと、なぜかそれに冷蔵庫も加えられた。
「じゃあ、買いに行きましょ。アンタたちは掃除用具を買ったり、事務用品を電話で頼んだりしてちょうだい。ついでに本社に電話して、パソコン全部入れ換えろって言ってちょうだいね。何か言って来たら、アタシに電話するように言って。あと、くれぐれも領収書を忘れないでね。買った物はそうね……一旦仮眠室へ。そのあとは帰っていいわ。詳しい紹介は、明日以降にしましょう。それでは解散!」
穂積の言葉に他の皆は買い物をするべく、ペントハウスを出る。私も出ようとしたら、彼に呼び止められた。
「それとお圭ちゃん」
「はい?」
「アタシからも改善要求を出すわ」
「……何でしょうか?」
「泪と呼ぶこと。眼鏡は外すこと。目を戻すこと。今着ているような格好をすること。先日みたいなパンツスーツはナシ」
「……目を戻す、とは?」
「惚けないでくれるかしら。アタシはアンタがオッドアイだってことを知ってるわ。ここは小田桐とは違うのよ、そんなことで引くようなヤツなんかいないわよ? いたら、即刻クビよ、クビ」
鼻を鳴らしながら言いきった彼はとても真剣な目をしていた。悩んだけれど、結局は「わかりました」と頷いた。
「ただ、本当に目が悪いので、眼鏡を外すと細かい数字やパソコンでの作業ができません。それに、足に傷があるので、このような格好はあまりできませんし……それに……その……持って、いません」
「あら、そうなの?! ふふふ……それは楽しみね♪」
私の言葉に穂積の目がキラン、と光った気がしたけれど……気のせいだと思うことにする。
「……そうですか。楽しみですか。では、お掃除も念入りにお手伝いしていただけますね。私の代わりに、あちこち磨いてくださいね♪」
「あら……意外と冷たいわね……」
わざととぼけると、穂積は「着替えてくるわ……」とペントハウスの奥へ消えて行った。
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