オカマ上司の恋人【R18】

饕餮

文字の大きさ
97 / 155
葎視点

桜ミルク

しおりを挟む
『貴方が好きなんだ』

 彼にそう言ったのは、圭が家からいなくなる少し前くらいだったと思う。
 元々彼はあの町の人ではなく、僕が中学に入学する頃に母親の病気療養か何かであの町に来た、と彼から聞いた。

 頭脳明晰、容姿端麗、掃き溜めに鶴。

 そんな言葉がぴったりの人だった。彼の周りには男女関係なく、常に人がいた。
 そのころ、圭の周りには既に和哉に加奈、明や信之しかいなかった。裏で圭に悪意ある言葉を吐いていた人間を徐々に排除して行った結果、彼等しか残らなかっただけだ。時々学も混じってはいたけど、常に一緒にいるわけではなかった。

 中学一年のある日の放課後、図書室で読者感想文を書くための本を読んでいると、圭も本を探しに来たのか、圭が『葎、あの高いところにある本を取って』と、加奈と一緒に僕のところに来た。ちょうど面白い場面に差し掛かっていた時で、もう少し読んでからにしたかった僕は『あとでもいい? それに、足踏み台、あったよね?』と言ってしまった。

 ――この時の僕は本に夢中になっていて忘れてたんだ……圭が小さいことを。家ではあまりご飯を食べない圭と、圭の倍は食べる僕との身長差がかなりあったことを。

 それを聞いた圭は抑揚のない声で『わかった。いい。もう頼まない』と言ってその場を離れてしまった。その直後、『葎くん、最低!』と加奈に言われてしまい、なぜそんなことを言われなければならないのかわからず思わず顔を顰めて加奈を見たけど、加奈は既に僕に背を向けたあとだった。
 その直後、バサバサと本が落ちる音がし、なんだろうと思って音がしたほうを見ると、一人の男子生徒が溜息をついた。顔を見ると人気者の小田桐 政行で、彼は顔を顰めながらも本を拾っていた。それを圭は手伝い、彼に本を渡したあとで加奈の側に戻って行った。
 加奈が何か言ったのか圭はにこりと笑い、彼はその笑顔に見惚れていた。それを見た瞬間、僕の中の何かがざわついた。彼を見たからなのか、圭の笑顔を久しぶりに見たからなのかはわからない。でも、何かがざわついた。

 本を読むのも忘れてしばらく彼や圭を見ていると、しばらく圭を見ていた彼は圭を見るのを止めて本を棚に戻し始め、本を片付け終わった彼はそのまま本を借りて図書室を出て行ってしまった。それと入れ替わるように図書室入って来た和哉は加奈に何か言われたのか、睨むように僕をを見たあとで、一番高い場所にあった本を取って圭に渡していた。それを見た瞬間……和哉と圭の身長差を見た瞬間、僕はさっき圭に言った言葉を思い出し、どうして和哉が僕を睨んだのか、どうして加奈に最低と言われたのかわかってしまった。
 笑顔で和哉に何か言った圭は、僕を見ることもなくさっさと本を借りて、加奈や和哉と一緒に図書室から出ていってしまった。

 最低と言われても仕方がなかった。もしあの時本を読むのを止めて僕が本を取ってあげていたら、圭は僕に笑顔でお礼を言ってくれたかも知れないのに。後悔した僕は結局本を読むことに集中できず、本を借りて図書室をあとにした。


 ***


「葎、小田桐うちの会社にこないか?」
「……なに、突然」

 別れてから、一度も連絡を寄越さなかった政行から珍しく連絡が来た。就職活動に忙しかった僕は気は進まなかったものの、結局喫茶店で待ち合わせて政行と会うことにしたのだ。

「就職活動中だろ?」
「そうだけど、何で政行の会社?」
「来ればわかる。ただ、小田桐うちの会社はコネが利かないから、自力で頑張ってもらうしかないが」

 そう言って書類一式を置いて行ったのは、四月の始めだった。
 政行は現役で大学に合格したあと、一度別の会社に入社したものの結局は自分の父がいる会社を受け直し、僕は一度は就職してそのまま仕事をしていてもいいかと思ったものの、親に泣きつかれる形で一年勉強したあとで大学を受験し、何とか大学に入った。このころ、僕は圭のことで親と喧嘩するようになっていた。

 久しぶりに会った政行は、あのころと同じキラキラと……いや、あのころ以上にギラギラとした目をしていた。……圭に恋をし、圭に話しかけようとしていたころの政行の目と同じだったから。
 あのころの僕は政行のその目が何となく嫌だった。周りの女子が政行を見る目と同じだったから。圭も似たような目をしていたけど、圭は周りとは違うと何となく感じていた。恋というよりは、憧れに近いものだったと思う。テレビで大好きなアイドル歌手を見ている時と同じ目をしていたから。
 だから僕は二人の邪魔をした。圭が政行に話しかけないように。政行が圭に話しかけないように。尤も、政行のほうには常に人がいて、圭に話しかける余裕などなかったみたいだったけど。邪魔しているうちに圭は諦めたのか、いつの間にか政行を見ることもしなくなった。
 圭の代わりに僕が政行と話すようになり、政行は逆に圭ではなく僕を見るようになった。圭を見るような目で僕を見るようになった。けれど、話すうちに政行が勘違いしていることに気づいた。勘違いしているならそのほうがいい。そのぶん、圭を政行から遠ざけることができるから。でも、男に恋されるなんて……と、逆に僕が悩む羽目になった。

 あのころ、あまり僕と話さなくなった圭が、たまに心配して『葎、眉間に皺がよってるよ?』と僕の眉間の皺を擦り

『何を悩んでいるのかわからないけど、そんな顔をしてると、あの人たちが心配するよ?』

 と言っては僕の頬をピタピタと優しく叩いた。

 僕はその仕草が好きだった。時々、無自覚に無神経な言葉を吐いていたのに、まるで僕を慰めてくれているみたいで嬉しかったから。……この瞬間だけは、無表情の圭の感情が読めたから。

 けれど、圭が自分の両親を『あの人たち』と赤の他人みたく呼ぶことが悲しかった。

 ――ちゃんと僕に教えてくれていたのに、このころの僕は気づかなかった。両親に甘やかされていた僕には気づくことすらできなかった。甘やかされていることにも、既に僕と圭の食事に差があったことにも気づかなかった。そして、あの時、僕が両親に告げた小さな嘘を、圭が聞いていたことにも……。

 そして僕は……圭に慰められた僕は、圭を守るために政行に告白した。政行の勘違いを利用して。

 まあ、結局すぐにバレて別れたけれど。

 告白している最中、政行の背中越しに身を翻した圭のリボンが見えた。以前、『そのリボンどうしたの?』と聞いた僕に、『髪が長いままだと邪魔でしょ? って言って、加奈たちがくれたの。お気に入り』と話してくれたリボンだった。

 そのすぐあとくらいから、圭が家から居なくなった。両親に聞いても『おじいちゃんとこじゃないの?』と冷たく言い放つだけだった。確かに圭は時々祖父母のところに行っては、長い間帰って来ないこともあった。長すぎると、父が圭を無理矢理連れて帰って来ていたこともあった。僕は圭が祖父に習い事を習っていたのを知っていたから、この時は何の疑問にも思わず、『おじいちゃんとこにいるんだ』くらいにしか思わなかった。


 ――まさか、あんなことになってるなってるなんて思いもしなかった。
 誰も、何も教えてくれなかったから、僕や親が『圭を虐待している』という噂になっていることも、それを知っていた祖父母が『家で預かる』と言っても、両親が『世間体が悪い』と言って圭を預けようとしなかったことも、両親が親戚中から冷たい目で見られていたことも、この時の僕は知らなかった。……知ろうとすらしなかった。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...