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葎視点
チャイナドレス
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『あいつを探す必要はない!』
『何で?! だっておかしいじゃないか! じいちゃんちにもいないなんて! あの時母さんは『おじいちゃんちにいるんじゃないの?』って言ったでしょ?! なのに、何でじいちゃんちにも、どこにもいないのさ!』
大学に入ったころ、仲良くなった人物に僕のことを聞かれて、思わず圭のことを洩らしてしまった途端、その人物が
『そんなに長い間家にいないなんて、おかしくないか?』
と言われた。確かにそうだ。『他人に言われるまで気にもしなかったお前もおかしい』と、その人物に言われてしまったけど。漠然とした不安が広がり、両親に『圭は?』と聞くと、父に『そんなやつは知らん』と言われた。そんなことを言う両親が信じられなかった。両親と喧嘩しながら、大学を受験する前も、大学に入ったあとも、就職活動中も、圭に似た人物を見かけては圭じゃないとがっかりする日々だった。祖父母に聞いても『知らん! こっちが聞きたいくらいだ!』と言われるだけで、結局埒が明かなかった。
***
それは偶然だった。
政行に誘われるがまま政行の父が社長をしている会社へ入社した次の日。会社説明や希望した、或いはこれから希望する部署の業務内容を聞いている時だった。僕は最初営業を希望していたけど、何となく僕に合わないような気がして秘書課希望に変えていた。
喉が渇いた僕は、コーヒーが飲みたくなったので説明の合間の休憩中に缶コーヒーを買いに出た時だった。大人にしては小さい身長と、シニヨン(別の人にシニヨンという結わき方だと教わった)に結った髪。書類を抱え、その書類を見ているのか下を見ながらゆっくり歩いているその顔は……眼鏡をしていたけど無表情のその顔は見間違えようのない、僕が探していたその人本人だった。驚いたから、思わず缶コーヒーを買いに出たのも忘れて話しかけた。けれど、圭の反応は僕の思う通りのものではなく、冷たいとも取れる、どこか他人行儀な反応だった。
それが悲しくて、キュッと唇を噛み、圭を見下ろす。
「しかも、私は入社して五年たちますし、私にしてみれば追いかけて来たのはあなた方のほうなんですが」
「えっ?!」
『入社して五年』と言う言葉と『追いかけて来たのはあなた方』という言葉に呆然としながらも、希望部署を聞かれて素直に答えたけど、やっぱり他人行儀な冷たい反応だった。
「圭!」
それが悲しくて、悔しくて、そのまま歩き出そうとしていた圭の腕を掴むと「まだ何か?」とさらに冷たい反応が返ってきた。
「なんでそんな他人行儀なんだよっ!」
「……既に他人ですから。それに、ここは会社です。当然だと思いますが?」
「どういう意味だよ?!」
他人? 違う。僕たちは二卵性だったけど、同じ母のお腹で育った双子だ。同じ血をわけた姉弟だ。『他人』と言う圭が信じられなくて問い詰めたのに、圭の上司とおぼしき人が呼びに来てしまい、掴んでいた手を圭自身に引き剥がされた。その挙げ句「そのままの意味ですが、何か?」と言われて、言葉が出なかった。
「圭!」
そう呼んだけど、圭はもう振り返ることはなかった。
なんで?
どうして?
僕と圭を探しに来た彼との話し声の柔らかさと態度の違いに戸惑う。そして、引き剥がされた時の圭の腕の力と、緩慢とも取れそうなほどゆっくり歩くその動作にも。
祖父のところで習い事をしていた時は、時々僕が負けるくらい、もっと力強かったはずだった。もっと早く歩いていたはずだった。その違和感に気付きながら、ただ呆然と二人の後ろ姿を見送った。
――政行が『うちの会社に来い』と言ったのも、『来ればわかる』と言ったのも、圭がこの会社にいたからだと気づいたのは、他のことを考える余裕ができた、その日の夕方だった。
『何で?! だっておかしいじゃないか! じいちゃんちにもいないなんて! あの時母さんは『おじいちゃんちにいるんじゃないの?』って言ったでしょ?! なのに、何でじいちゃんちにも、どこにもいないのさ!』
大学に入ったころ、仲良くなった人物に僕のことを聞かれて、思わず圭のことを洩らしてしまった途端、その人物が
『そんなに長い間家にいないなんて、おかしくないか?』
と言われた。確かにそうだ。『他人に言われるまで気にもしなかったお前もおかしい』と、その人物に言われてしまったけど。漠然とした不安が広がり、両親に『圭は?』と聞くと、父に『そんなやつは知らん』と言われた。そんなことを言う両親が信じられなかった。両親と喧嘩しながら、大学を受験する前も、大学に入ったあとも、就職活動中も、圭に似た人物を見かけては圭じゃないとがっかりする日々だった。祖父母に聞いても『知らん! こっちが聞きたいくらいだ!』と言われるだけで、結局埒が明かなかった。
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それは偶然だった。
政行に誘われるがまま政行の父が社長をしている会社へ入社した次の日。会社説明や希望した、或いはこれから希望する部署の業務内容を聞いている時だった。僕は最初営業を希望していたけど、何となく僕に合わないような気がして秘書課希望に変えていた。
喉が渇いた僕は、コーヒーが飲みたくなったので説明の合間の休憩中に缶コーヒーを買いに出た時だった。大人にしては小さい身長と、シニヨン(別の人にシニヨンという結わき方だと教わった)に結った髪。書類を抱え、その書類を見ているのか下を見ながらゆっくり歩いているその顔は……眼鏡をしていたけど無表情のその顔は見間違えようのない、僕が探していたその人本人だった。驚いたから、思わず缶コーヒーを買いに出たのも忘れて話しかけた。けれど、圭の反応は僕の思う通りのものではなく、冷たいとも取れる、どこか他人行儀な反応だった。
それが悲しくて、キュッと唇を噛み、圭を見下ろす。
「しかも、私は入社して五年たちますし、私にしてみれば追いかけて来たのはあなた方のほうなんですが」
「えっ?!」
『入社して五年』と言う言葉と『追いかけて来たのはあなた方』という言葉に呆然としながらも、希望部署を聞かれて素直に答えたけど、やっぱり他人行儀な冷たい反応だった。
「圭!」
それが悲しくて、悔しくて、そのまま歩き出そうとしていた圭の腕を掴むと「まだ何か?」とさらに冷たい反応が返ってきた。
「なんでそんな他人行儀なんだよっ!」
「……既に他人ですから。それに、ここは会社です。当然だと思いますが?」
「どういう意味だよ?!」
他人? 違う。僕たちは二卵性だったけど、同じ母のお腹で育った双子だ。同じ血をわけた姉弟だ。『他人』と言う圭が信じられなくて問い詰めたのに、圭の上司とおぼしき人が呼びに来てしまい、掴んでいた手を圭自身に引き剥がされた。その挙げ句「そのままの意味ですが、何か?」と言われて、言葉が出なかった。
「圭!」
そう呼んだけど、圭はもう振り返ることはなかった。
なんで?
どうして?
僕と圭を探しに来た彼との話し声の柔らかさと態度の違いに戸惑う。そして、引き剥がされた時の圭の腕の力と、緩慢とも取れそうなほどゆっくり歩くその動作にも。
祖父のところで習い事をしていた時は、時々僕が負けるくらい、もっと力強かったはずだった。もっと早く歩いていたはずだった。その違和感に気付きながら、ただ呆然と二人の後ろ姿を見送った。
――政行が『うちの会社に来い』と言ったのも、『来ればわかる』と言ったのも、圭がこの会社にいたからだと気づいたのは、他のことを考える余裕ができた、その日の夕方だった。
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