オカマ上司の恋人【R18】

饕餮

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葎視点

家康 後編

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 「九月には叔父さんになるよ」と言われてから三ヶ月が過ぎたころ、圭から『安定期に入ったし、ひいおばあちゃんたちに会いたいから、都合のいい日を聞いて』とメールが来たので、曾祖母たちに都合のいい日を聞いてからすぐに電話をする。

『もしもし?』
「葎です。今度の連休に、泊まりでどうかって言ってるよ?」
『本当? ちょっと待って。泪さーん、泊まりにおいで、だって!』

 圭はそう叫ぶと、泪義兄さんとやり取りをしたあとで、じゃあ泊まりに行くねと言い、何時ごろ来るのかなどの打ち合わせをしたあとで電話を切ると、曾祖母はよほど嬉しかったのか、大伯父さんたちに連絡していた。そして当日が来た。

「ひいおばあちゃん、ただいま!」
「おかえり、圭! こんなに大きくなって……とりあえず、二人ともあがれ。疲れたろ?」
「うん!」
「お世話になります」

 玄関のほうでそんな声がしたかと思うと、曾祖母と圭、泪義兄さんが荷物を持って入って来た。

「いらっしゃい」
「お世話になります。たくさんの結婚祝いとお野菜をありがとうございました。これ、圭と私からのお土産です。お口に合えばいいんですが……」
「あらあら。そんなことしなくてもよかったのに」

 そんなことを言いながらも、祖母は泪義兄さんからのお土産を受けとると、二人にお茶を出していた。

「おじいちゃんは?」
「畑に行っていますよ。じきに帰って来るから、先にお部屋のほうへ案内しましょうか。お話はそれからにしましょうね」

 そう言って、祖母が二人を案内して部屋を出たあとだった。

「何しに来た!」

 という祖父の怒鳴り声が聞こえ、玄関のほうへ行くとニヤニヤといやらしく笑う父と、圭に会いたいと言っていた割にはあまり嬉しそうに見えない母が立っていた。

「葎、圭とその夫が来たんだろ? 会わせてくれないか?」
「何で知ってるの。誰に聞いたの?」
「養鶏場んとこの……」
「あのお喋りめ!」

 父の言葉を遮るように、祖父が怒鳴るように吐き捨てたのを聞いて、曾祖母が大伯父さんたちに電話していたのを思いだした。養鶏場をやってる大伯父さんの奥さんはすごくお喋りだ。本人は悪気はないんだろうけど、いつも何かしら余計なことをしたり言ったりしては周りを困らせる、トラブルメーカー的な人だった。本人は笑顔を絶やさない、いい人なんだけどね。

「で、いるんだろ? 会わせてくれよ。旦那は穂積のお偉いさんなんだろ?」

(こいつ……!)

『わしんとこにも来て金を無心していったからな』

 父の言葉に、そう言った曾祖母の言葉を思い出す。自分の父親だなんで、情けないのを通り越して呆れてしまう。

「そうだよ。で? どっちに会いに来たの?」
「もちろん、旦那の……あ、いや、圭に」

 ハッ、とした顔をしたあとで慌てて言い直した父に「ふざけんなよ!」と怒鳴る。

「どの面下げて圭に会うつもりなんだ?! お前ら、圭に謝りもしてないだろうが!」
「だから、こうして……」
「来た、か? 金を無心しに? さんざん虐待して、無視して、これ幸いとばかりにとっとと養女に出しておきながらか? 虫が良すぎるだろうが! 馬鹿者!」

 祖父の言葉を引き取るように、いつの間に来たのか、曾祖母が父に怒鳴る。

「で? 母さんはいつ、父さんと別れるの? 別れようかなって言ってた割には、その後全然そんな素振りも行動も起こしてないよね?」
「……っ」
「それに、会いたいと言ってた割には全然嬉しそうに見えないけど?」
「それは……!」

 言葉に詰まった母に、謝る気はないんだと思ったし、二人を冷めた目で見ることしかできない。

「母さん……本当に、圭に会いたいの?」
「会いたい! でも、でも……!」
「なぜ、たった一言が言えん? そんなんじゃ、いつまでたっても会わせてなんかやれんな」

 冷たく言い放った曾祖母に、母は悲しげに顔を歪ませる。
 曾祖母の言うことはもっともだった。なぜ、その一言が言えないのかわからない。
 それでもなお、反省する素振りも謝罪する素振りも見せずに会わせろと言う両親に、曾祖母と祖父がさらに怒りだした。僕も相当頭に来たから、台所に行って塩が入っていた袋を掴んで玄関に戻ると、「きっちり反省して心を入れ替えるまで、二度とくるな!」と怒鳴っていた曾祖母と祖父を押し退けてから袋の中に手を入れて塩を掴むと、それを二人に投げつけた。

「きゃっ!」
「うわっ……ぷっ!」
「「葎?!」」

 塩を投げた僕に、曾祖母と祖父が驚く。まさか僕がそんなことをするとは思ってなかったのか、両親は塩を払い除けることもせず、信じられないといった顔で呆然と僕を見ていた。

「ふざけんなよ! 何様だよ!」
「葎……」
「全然わかってないじゃないか! 自分たちさえよければそれでいいわけ?! 圭の幸せなんかどうでもいい、そういうこと?!」
「……っ」
「そ、それでも、あたしは……あたしたちは親……」
「親権すらないのに、親が聞いて呆れるよ! 圭の親はもうあんたたちじゃない、在沢夫妻だよ! 忘れたの?!」

 ぐっ、と息を詰めた二人に「しばらく会いたくない」と告げると、二人はハッとした顔をして僕を見た。

「父さん、ギャンブルで作った借金や浮気してる女のために、元子供やその夫にお金を無心に来るのは最低だと思うけど?」
「どうしてそれを……!」

 情報源は例の養鶏場の大伯母さんだけど、教えてなんかやらない。母は借金のことを知らなかったのか、驚いた顔をして父を見上げた。僕は父の問いを無視して、今度は母の顔を見る。

「母さん、本当に圭に会いたいなら、綺麗さっぱり、何もかも清算してからじゃないと圭に会わせてあげないから、そのつもりで」
「葎……」
「ひいばあちゃん、じいちゃん、時間の無駄。圭と旦那さんが待ってるよ?」
「おお、そうだったな」

 二人を中に押しやると、両親にもう一度向き直る。

「僕が言うのもなんだけど、いい加減大人になったら? 僕も圭も、あんたたちの玩具でも操り人形でもないんだよ! 何でもかんでも自分たちの思い通りに行くと思ったら、大間違いだ!」
「「!!」」

 それだけ言ってぴしゃりと玄関の扉を閉めると、鍵をかける。そして待っていてくれたらしい曾祖母に呆れた顔をされた。

「葎、言い過ぎだぞ?」
「……言ったってわかるような人たちじゃないでしょ」
「それでも、言い過ぎだ」
「それくらいわかってるよ、ひいばあちゃん。でも、あれじゃあ圭があまりにも……!」

 そこまで言うと、曾祖母にペシッと軽く頭を叩かれた。

「痛い」
「圭のことを考えてやるのは良いことだがの。だが、それを決めるのは圭だ。……手伝ってやるのは構わんがな」
「うん……」
「それに、溺愛している息子にそんなこと言われたら、あいつらも傷つくぞ?」
「少しくらい傷つけばいいんだよ」

 圭はもっと傷ついたんだからと言うと、はあっと呆れたように息を吐いた曾祖母は「仕方のないやつだ」と言ったあとで

「ほれ。今は圭たちのところへ行こう。あとで、皆で近くの水天宮に行くか? 幸い、今日は戌の日だしな」

 安産の御守りでも買いに行こうと言った曾祖母に頷き、圭たちがいるところへ行く。


 ――言い過ぎたってわかってる。でも、妊娠している圭に何かあったら、と思うとゾッとする。


 僕は、そっちのほうが怖かった。

 あとで泪義兄さんに両親とのやり取りを話し、塩を投げつけたと言うと

「アンタ、虫も殺さないような顔してるくせに、えげつないことやるわねえ!」

 と、大笑いされた。
 ひどいことを言われたはずなんだけど、両親に言い過ぎたってわかっていたけど、それでも僕は泪義兄さんが大笑いしてくれたことで、なんとなく心が軽くなったように感じた。


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