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二人きりになってとっても気まずいけど、宗重さんにもお礼を言わなければと、襖が閉まると同時に身体を宗重さんの方に向けて座り、両手をついて頭をたれる。土下座みたいになってるけど、土下座じゃない。
「宗重さんもありがとうございました」
「……いや。怪我は?」
「ないです……痛たっ!」
「どこか怪我でも?!」
「いえ、昼間の怪我の所を捕まれて押さえつけられてしまったので、血が滲んでしまったみたいです。そこにお薬が入っている箱があるので、すぐ手当できますから」
そういって後ろを向いて、箱の蓋を開けて手当ての用意をし始める。私の言葉を聞いた宗重さんは、詰めていたらしい息をはあーっ、と吐きだしたようで、「そうか……良かった」そう言って、ささやかな衣擦れの音と共に、後ろから私を抱き締めた。
いや、奈都姫さんを、かな?
どっちにしろ、彼の行動に驚く。
「む、宗重さん?!」
首筋に吐息がかかって擽ったいし、家族は別にしても、異性とか大人の男の人に抱きしめられたことなんてないから、動揺する。というか恥ずかしい。
(ななななな!)
ヤバい……胸がドキドキする。
顔が熱いから、多分真っ赤になっているよね、とか、宗重さんの行動に内心おたおたしていると、耳元に声を落とされた。
「先ほどの話の続きなのだがな……」
「は、はい?」
うー。今、この段階というか状態で続き、なの?!
それに、宗重さんの息が当たって、耳がくすぐったいです!
なんて思ったところで、私の心は何を言われるかわかんなくて、ドキドキが止まらなくてそれどころではない。
「そなたの名前を教えてくれぬか」
「はい? えっと、奈都、ですが」
「いや……そうではなく、そなたの、本当の名前だ。奈都姫様の身体のではなく、そなたの本当の姿の」
「私の……?」
どうして私の名前を知りたいんだろう? 知ったところでどうしようもないのに。
それなのに、宗重さんに更にギュッと抱き締められてしまう。
「そなたの、だ。教えてくれ」
そしてそんなことを言う。
――今更なんで、と思う。
自分の身体でも、本来の容姿でも、声でもない。
けれど……それでも嬉しいと思ってしまった。私はいつの間にか、宗重さんを好きなっていたから。
思わず目尻から一筋、涙がこぼれる。後ろから伸びている宗重さんの腕を掴むと、ポツリと呟く。
「私は……ほのか、です……」
「ほのか?」
「はい。火の香りと書いて火乃香と読むんです」
「何故に火乃香と?」
「説明するのにちょっと長くなりますけど……いいですか?」
「手短に頼む」
その言葉に私は後ろを向いてジロリと宗重さんを睨むと、宗重さんは慌てた様子で否定して来た。
「夜も更けてきておる。明日、詳しく話してくれると助かるでござるが」
「何かはぐらかされたような気もしますけど……」
確かに、いろいろあって夜も更けてきてる。仕方ないなあと息を吐き、「では簡単に」と話し始める。
「私の姿が……銀の髪と紅い目が、『おまえの髪と目は、まるで炎のようだ。火の残り香を纏ったように。だから、火乃香だよ』って、父が……」
「そうか……」
「……」
父を思い出して泣きそうになる。それを察してくれたのか、宗重さんは私を抱きしめながら、じっとしている。
嬉しいけど、すごく不安なこともある。
「あの……」
「なんでござるか?」
「私は……いつまでここにいられるんでしょうか……?」
そう聞くと、宗重さんの身体がビクリと跳ねた。なんで?
「っ! ……何故そう思うでござる」
「一応、お姫様を助けたから……」
そう、奈都姫さんを助けたから、問題は解決したっぽい。だから、いつまた、何かに引っ張られるかわからないのが怖い。
そんな私の心情をわかっているのかいないのかわからないけど、宗重さんは後ろから抱きしめていた私の前に来ると、私の両肩にその手を乗せ、哀しそうな目と真剣な顔で私を見た。
「――そんな悲しいことを言ってくれるな!」
「でも!」
「言わないで、くれ……っ! 拙者は、そなたを好いておる。だから、そんなことを言わないでくれ……」
まさか、宗重さんの口からそんな言葉が返ってくるとは、思っていなかった。
「本当……ですか? 物の怪かも知れないのに、本当に……」
「そなたが、好きだ!」
告白と同時にギュッと抱きしめられると、ポロポロと涙が溢れる。
嬉しい……こんなにも嬉しいって、心が言ってる。
両思いなれるとは思わなかったから。
ずっと奈都姫さんが好きなんだと思ってたから、距離を置いていたのに。
「……ずっと、自分に言い聞かせてたんです。いつかは帰らなきゃいけない。だから好きになっちゃいけない、って……。でも、止められなかった……! 私も……宗重さんが、好き、です」
「ああ……火乃香! ならば、そなたに約束をしよう」
「約束……?」
「そう、約束でござる。もし引き離されても、いつかまた出逢えるように……拙者が必ずそなたを見つけられるように……」
そう言って一呼吸おくと、一層低い声で、耳元に囁かれた。
「瀬を早み
岩にせかるる
滝川の」
これ、知ってる……百人一首だ。私の一番好きな句。
「「…われてもすゑに
あわむとぞ思ふ」」
下の句を同時に言うと、二人して微笑みを交わした。そして二人で顔を見合わせると宗重さんの顔が近づいて来て……そっと、キスをされた。
羽のように軽いキスから徐々に深くなって、宗重さんの着物をギュッと握る。
そして頭を固定され、キスの気持ちよさに身体が震える私の身体を抱きしめ、更に深くキスされていた時だった。
「姫様、お薬湯をお持ちしましたが」
そこに明石さんが来てしまった。
残念そうに唇を離すと、宗重さんは舌打ちをした。
もう一度軽くチュッとキスを落として身体を離すと、何事もなかったように後ろに下がり、居住いを正すと「どうぞ」と声をかけていた。
それを呆然と見ていたら途端に襖があき、明石さんが薬湯を持って現れた。
「姫様、薬湯をお持ち……どうなされた!? 顔が赤うございまするが……もしや、熱でも!?」
「え?! な、なんでもないで……なんでもないのじゃ!」
「そう言えば……部屋に参った時から顔が赤うございましたな……」
真っ赤な顔で否定するものの、宗重さんは真面目な顔でしれっとそんな嘘を言い放った。
(バカー! 宗重さんのせいじゃないの!)
そんなことを思うものの、まさか「キスしてました」なんて言えるはずもなく……。
明石さんは私の額に手をあてると驚いた顔をして慌て出した。
え? 何事?!
「熱があるではございませぬか! これ、宗重、何をしておる! 姫の寝床の用意をせい!」
「はっ!」
そう言った明石さんの命令? に従ってさっさと寝床を作った宗重さんは、明石さんに見えないのをいいことにニヤリと笑い、自室に下がって行った。
(も~~~~っ!)
そう叫びたいけど、事情を知らない明石さんがいるから、叫ぶこともできない……。
「ん? また熱が上がりましたか? さあ、この薬湯を飲んでお休みくだされ」
「にがーい! じい、苦すぎじゃ!」
「薬湯なのですから、当たり前ですじゃ! さあ、飲んだらお休みくだされ」
「うー……ごちそうさまでした」
薬湯を渡されて素直に飲んだら、とても苦かった。そしてそのまま着替えて布団にもぐるように言われ、疲れもあったのか、本当に熱もあったのか、薬湯のおかげなのかすぐに眠りに落ちた。
***
部屋の隅。
――奈都姫の身体から解放され、話しかけるタイミングを窺っていたが、それを逃し……今見た光景を信じられない思いで見つめ、その場で怒りに震える奈都姫さんがいたことを、この時の私は知らなかった。
「宗重さんもありがとうございました」
「……いや。怪我は?」
「ないです……痛たっ!」
「どこか怪我でも?!」
「いえ、昼間の怪我の所を捕まれて押さえつけられてしまったので、血が滲んでしまったみたいです。そこにお薬が入っている箱があるので、すぐ手当できますから」
そういって後ろを向いて、箱の蓋を開けて手当ての用意をし始める。私の言葉を聞いた宗重さんは、詰めていたらしい息をはあーっ、と吐きだしたようで、「そうか……良かった」そう言って、ささやかな衣擦れの音と共に、後ろから私を抱き締めた。
いや、奈都姫さんを、かな?
どっちにしろ、彼の行動に驚く。
「む、宗重さん?!」
首筋に吐息がかかって擽ったいし、家族は別にしても、異性とか大人の男の人に抱きしめられたことなんてないから、動揺する。というか恥ずかしい。
(ななななな!)
ヤバい……胸がドキドキする。
顔が熱いから、多分真っ赤になっているよね、とか、宗重さんの行動に内心おたおたしていると、耳元に声を落とされた。
「先ほどの話の続きなのだがな……」
「は、はい?」
うー。今、この段階というか状態で続き、なの?!
それに、宗重さんの息が当たって、耳がくすぐったいです!
なんて思ったところで、私の心は何を言われるかわかんなくて、ドキドキが止まらなくてそれどころではない。
「そなたの名前を教えてくれぬか」
「はい? えっと、奈都、ですが」
「いや……そうではなく、そなたの、本当の名前だ。奈都姫様の身体のではなく、そなたの本当の姿の」
「私の……?」
どうして私の名前を知りたいんだろう? 知ったところでどうしようもないのに。
それなのに、宗重さんに更にギュッと抱き締められてしまう。
「そなたの、だ。教えてくれ」
そしてそんなことを言う。
――今更なんで、と思う。
自分の身体でも、本来の容姿でも、声でもない。
けれど……それでも嬉しいと思ってしまった。私はいつの間にか、宗重さんを好きなっていたから。
思わず目尻から一筋、涙がこぼれる。後ろから伸びている宗重さんの腕を掴むと、ポツリと呟く。
「私は……ほのか、です……」
「ほのか?」
「はい。火の香りと書いて火乃香と読むんです」
「何故に火乃香と?」
「説明するのにちょっと長くなりますけど……いいですか?」
「手短に頼む」
その言葉に私は後ろを向いてジロリと宗重さんを睨むと、宗重さんは慌てた様子で否定して来た。
「夜も更けてきておる。明日、詳しく話してくれると助かるでござるが」
「何かはぐらかされたような気もしますけど……」
確かに、いろいろあって夜も更けてきてる。仕方ないなあと息を吐き、「では簡単に」と話し始める。
「私の姿が……銀の髪と紅い目が、『おまえの髪と目は、まるで炎のようだ。火の残り香を纏ったように。だから、火乃香だよ』って、父が……」
「そうか……」
「……」
父を思い出して泣きそうになる。それを察してくれたのか、宗重さんは私を抱きしめながら、じっとしている。
嬉しいけど、すごく不安なこともある。
「あの……」
「なんでござるか?」
「私は……いつまでここにいられるんでしょうか……?」
そう聞くと、宗重さんの身体がビクリと跳ねた。なんで?
「っ! ……何故そう思うでござる」
「一応、お姫様を助けたから……」
そう、奈都姫さんを助けたから、問題は解決したっぽい。だから、いつまた、何かに引っ張られるかわからないのが怖い。
そんな私の心情をわかっているのかいないのかわからないけど、宗重さんは後ろから抱きしめていた私の前に来ると、私の両肩にその手を乗せ、哀しそうな目と真剣な顔で私を見た。
「――そんな悲しいことを言ってくれるな!」
「でも!」
「言わないで、くれ……っ! 拙者は、そなたを好いておる。だから、そんなことを言わないでくれ……」
まさか、宗重さんの口からそんな言葉が返ってくるとは、思っていなかった。
「本当……ですか? 物の怪かも知れないのに、本当に……」
「そなたが、好きだ!」
告白と同時にギュッと抱きしめられると、ポロポロと涙が溢れる。
嬉しい……こんなにも嬉しいって、心が言ってる。
両思いなれるとは思わなかったから。
ずっと奈都姫さんが好きなんだと思ってたから、距離を置いていたのに。
「……ずっと、自分に言い聞かせてたんです。いつかは帰らなきゃいけない。だから好きになっちゃいけない、って……。でも、止められなかった……! 私も……宗重さんが、好き、です」
「ああ……火乃香! ならば、そなたに約束をしよう」
「約束……?」
「そう、約束でござる。もし引き離されても、いつかまた出逢えるように……拙者が必ずそなたを見つけられるように……」
そう言って一呼吸おくと、一層低い声で、耳元に囁かれた。
「瀬を早み
岩にせかるる
滝川の」
これ、知ってる……百人一首だ。私の一番好きな句。
「「…われてもすゑに
あわむとぞ思ふ」」
下の句を同時に言うと、二人して微笑みを交わした。そして二人で顔を見合わせると宗重さんの顔が近づいて来て……そっと、キスをされた。
羽のように軽いキスから徐々に深くなって、宗重さんの着物をギュッと握る。
そして頭を固定され、キスの気持ちよさに身体が震える私の身体を抱きしめ、更に深くキスされていた時だった。
「姫様、お薬湯をお持ちしましたが」
そこに明石さんが来てしまった。
残念そうに唇を離すと、宗重さんは舌打ちをした。
もう一度軽くチュッとキスを落として身体を離すと、何事もなかったように後ろに下がり、居住いを正すと「どうぞ」と声をかけていた。
それを呆然と見ていたら途端に襖があき、明石さんが薬湯を持って現れた。
「姫様、薬湯をお持ち……どうなされた!? 顔が赤うございまするが……もしや、熱でも!?」
「え?! な、なんでもないで……なんでもないのじゃ!」
「そう言えば……部屋に参った時から顔が赤うございましたな……」
真っ赤な顔で否定するものの、宗重さんは真面目な顔でしれっとそんな嘘を言い放った。
(バカー! 宗重さんのせいじゃないの!)
そんなことを思うものの、まさか「キスしてました」なんて言えるはずもなく……。
明石さんは私の額に手をあてると驚いた顔をして慌て出した。
え? 何事?!
「熱があるではございませぬか! これ、宗重、何をしておる! 姫の寝床の用意をせい!」
「はっ!」
そう言った明石さんの命令? に従ってさっさと寝床を作った宗重さんは、明石さんに見えないのをいいことにニヤリと笑い、自室に下がって行った。
(も~~~~っ!)
そう叫びたいけど、事情を知らない明石さんがいるから、叫ぶこともできない……。
「ん? また熱が上がりましたか? さあ、この薬湯を飲んでお休みくだされ」
「にがーい! じい、苦すぎじゃ!」
「薬湯なのですから、当たり前ですじゃ! さあ、飲んだらお休みくだされ」
「うー……ごちそうさまでした」
薬湯を渡されて素直に飲んだら、とても苦かった。そしてそのまま着替えて布団にもぐるように言われ、疲れもあったのか、本当に熱もあったのか、薬湯のおかげなのかすぐに眠りに落ちた。
***
部屋の隅。
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