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過去篇
繋がる心 後篇
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――翌朝。
(どどどどどどうしよう?!)
起きたあと布団の上に座り込んでいたら急に昨夜の事を思い出し、一人真っ赤になりながらおたおたしていると外から声がかけられた。
「おはようござる。姫、起きているでござるか? 出来れば昨日の続きと言うか、ちゃんとした話を聞きたいのでござるが……」
その声は意中の人物だった。
(きゃーっ! うそ?! どうしよう?!)
いきなり現れて心の準備が出来てない!
「姫? 開けますぞ」
だと言うのに、待って、と言う前に宗重さんに襖を開けられ、真っ赤な顔をバッチリ見られてしまった。そしてそれを見た宗重さんは襖を閉めたあとニヤリと笑って距離を詰められ、私の唇にチュッ、と羽のようなキスが落とされた。
「……おはようござる、火乃香」
耳元に私にしか聞こえない程低くて渋い声で囁かれ、更に真っ赤になりながらもなんとか「おはようございます」と返した。照れながらも二人でふわり、と笑う。
「昨日の続きを聞きたいのでござるが」
「昨日の続き?」
「そなたの名の由来を詳しく」
「ああ、なるほど。いいですよ。着替えたらでいいですか?」
「かまわん。では、後程」
そう言って立ったあと、わざと怒りの声をあげる。
「奈都姫! いい加減起きて下され! 布団を剥ぎますぞ!?」
「宗重! 朝から煩いのじゃ! そちはじいか?!」
「ほう……明石殿を呼んで参って欲しいのでござるな」
「じいはうるさいから呼ぶな!」
「では呼んで参ろう」
宗重さんはフッ、と微笑むと襖を開けて出て行く。
「じいなんか呼ぶな―!!」
そして奈都姫さまらしくなるよう、そう叫んだのだった。
***
「改めまして……私は粟国 火乃香と申します。粟の国と書いて『あぐに』と読みます」
そう前置きをして話し出す。
「私の家は、何故か他国……別の国の火の神様の名前がついているんです」
「別の国、でござるか?」
「はい。インド……天竺ってわかりますか?」
「ああ、弘法大師が唐から持ち帰った経典の、発祥の地と言われている場所の事ござったか?」
確かインドの事を天竺って言ってたよね、と思って聞いたら、天竺で通じたからホッとする。そして質問を返されたので、それに頷いた。
「そうです。天竺には別の経典があって、その経典の中に出てくる火の神様の名前がついています」
「火の神……」
「はい。この国での火の神様はカグツチと呼ばれていますよね? でも、代々うちでは何故か火の神様だけアグニなんです」
「何故に?」
「さぁ……詳しくは分からないのですが、どうやら私の家は先祖に火の神様のシャーマン……巫女とか神官とかとしての役割を持っていた家系みたいなんです」
「……」
それ以上の詳しい事は、私にもわからない。宗重さんはどう言っていいのかわからないみたいで、黙っていた。
「その長い歴史の中で、神官の役割名がそのまま名字になったみたいで……」
「ほう……」
役割は苗字になるって、ないわけじゃないけど本当に稀な事だと思う。だから宗重さんも関心したように頷いていた。
「……火って、温度が高くなると色がどんどん薄くなるんです。赤から青へ。青から白へ。そんな経緯と、自分の髪や目の色にかけて、火の神様の残り香……火乃香だよと、父が名づけてくれたんです」
「そうか。良い名前をつけていただいたのだな」
「はい」
宗重さんに名前を褒められて、嬉しくなる。剣の道も居合いも、今のレベルまで引き上げてくれたのは、父よりもむしろ祖父だ。
けれど父は……居合いも含め、自分に基礎を色々教えてくれた父は、もういない。それが酷く哀しい。
(お父さん……ありがとう)
そう思ったらなんだか泣けてきて、私の目から一滴落ちる。
涙を拭い、宗重さんに心配かけないよう気丈に笑う私を、宗重さんが切ない想いで見ていたなんて、この時の私は知る由もなかった。
――それを憎憎しい視線で私を見ていた、奈都姫さんの存在も。
(どどどどどどうしよう?!)
起きたあと布団の上に座り込んでいたら急に昨夜の事を思い出し、一人真っ赤になりながらおたおたしていると外から声がかけられた。
「おはようござる。姫、起きているでござるか? 出来れば昨日の続きと言うか、ちゃんとした話を聞きたいのでござるが……」
その声は意中の人物だった。
(きゃーっ! うそ?! どうしよう?!)
いきなり現れて心の準備が出来てない!
「姫? 開けますぞ」
だと言うのに、待って、と言う前に宗重さんに襖を開けられ、真っ赤な顔をバッチリ見られてしまった。そしてそれを見た宗重さんは襖を閉めたあとニヤリと笑って距離を詰められ、私の唇にチュッ、と羽のようなキスが落とされた。
「……おはようござる、火乃香」
耳元に私にしか聞こえない程低くて渋い声で囁かれ、更に真っ赤になりながらもなんとか「おはようございます」と返した。照れながらも二人でふわり、と笑う。
「昨日の続きを聞きたいのでござるが」
「昨日の続き?」
「そなたの名の由来を詳しく」
「ああ、なるほど。いいですよ。着替えたらでいいですか?」
「かまわん。では、後程」
そう言って立ったあと、わざと怒りの声をあげる。
「奈都姫! いい加減起きて下され! 布団を剥ぎますぞ!?」
「宗重! 朝から煩いのじゃ! そちはじいか?!」
「ほう……明石殿を呼んで参って欲しいのでござるな」
「じいはうるさいから呼ぶな!」
「では呼んで参ろう」
宗重さんはフッ、と微笑むと襖を開けて出て行く。
「じいなんか呼ぶな―!!」
そして奈都姫さまらしくなるよう、そう叫んだのだった。
***
「改めまして……私は粟国 火乃香と申します。粟の国と書いて『あぐに』と読みます」
そう前置きをして話し出す。
「私の家は、何故か他国……別の国の火の神様の名前がついているんです」
「別の国、でござるか?」
「はい。インド……天竺ってわかりますか?」
「ああ、弘法大師が唐から持ち帰った経典の、発祥の地と言われている場所の事ござったか?」
確かインドの事を天竺って言ってたよね、と思って聞いたら、天竺で通じたからホッとする。そして質問を返されたので、それに頷いた。
「そうです。天竺には別の経典があって、その経典の中に出てくる火の神様の名前がついています」
「火の神……」
「はい。この国での火の神様はカグツチと呼ばれていますよね? でも、代々うちでは何故か火の神様だけアグニなんです」
「何故に?」
「さぁ……詳しくは分からないのですが、どうやら私の家は先祖に火の神様のシャーマン……巫女とか神官とかとしての役割を持っていた家系みたいなんです」
「……」
それ以上の詳しい事は、私にもわからない。宗重さんはどう言っていいのかわからないみたいで、黙っていた。
「その長い歴史の中で、神官の役割名がそのまま名字になったみたいで……」
「ほう……」
役割は苗字になるって、ないわけじゃないけど本当に稀な事だと思う。だから宗重さんも関心したように頷いていた。
「……火って、温度が高くなると色がどんどん薄くなるんです。赤から青へ。青から白へ。そんな経緯と、自分の髪や目の色にかけて、火の神様の残り香……火乃香だよと、父が名づけてくれたんです」
「そうか。良い名前をつけていただいたのだな」
「はい」
宗重さんに名前を褒められて、嬉しくなる。剣の道も居合いも、今のレベルまで引き上げてくれたのは、父よりもむしろ祖父だ。
けれど父は……居合いも含め、自分に基礎を色々教えてくれた父は、もういない。それが酷く哀しい。
(お父さん……ありがとう)
そう思ったらなんだか泣けてきて、私の目から一滴落ちる。
涙を拭い、宗重さんに心配かけないよう気丈に笑う私を、宗重さんが切ない想いで見ていたなんて、この時の私は知る由もなかった。
――それを憎憎しい視線で私を見ていた、奈都姫さんの存在も。
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