転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮

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3巻

3-1

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 やりたかったことをやった結果 → とほほ(泣)


 私の名前はステラ。転生者の三歳児であ~る。
 自分の前世については、もうおぼろげにしか思い出せない。
 家族や親族、友人知人の名前や顔、声はすでにわすれてしまったけれど、つちかった知識や彼らと過ごした記憶はたしかに残っている。
 そんな私の前世は、アラフォーに片足を突っ込んだ、仕事が恋人の女だった。
 とある母子を命懸いのちがけで救ったところ、エジプト神話の女神バステト様に功績こうせきたたえられた私。
 バステト様にいざなわれて彼女が管理する異世界――神々はガイア、人間たちはメアディスと呼ぶ星に転生することになった。
 その際に女神様から、「ガイアに神獣しんじゅうや彼らのなどにしょうじたけがれをはらい、世界を浄化してめぐってほしい」と依頼され、快諾かいだく
 旅に必要な魔法とスキルをさずかり、いざ転生したものの……想定外の場所に下ろされてしまう。
 私が目覚めたのは、魔の森と呼ばれる場所の中でも、もっとも広大で魔素まそい場所である、正式名称・死の森という、超~危険なところだったのだ!
 神様~、聞いてないよ~!
 途方にれていた私は、バステト様の神獣で、ティーガーという黒虎こくこのような魔物まもののバトラーさんに保護された。その後は彼と一緒に死の森を北に向かって進みつつ、さまざまな神獣に出会った。
 デスサイズを持った死神しにがみのテトさん。
 アラクネのスティーブさん。彼は女性しか生まれないはずのアラクネでありながら、男性体で生まれた特異体で、キャスリン……もとい、キャシーという名を自称している。
 エンシェントドラゴンの夫婦である、古代竜こだいりゅうのセバスさんと、黄龍こうりゅうのセレスさんことセレスティナさん。
 この二人に出会うまでの道のりは長かった。地球では伝説となっているジズ――ズーだの、ベヒーモスだの、魔樹まじゅであるトレントの王様だのに遭遇そうぐうしてしまったからだ。
 バトラーさん、テトさん、キャシーさんと行動していた私は、ベヒーモス戦でとどめを任され、バッチリ討伐とうばつ
【ドラゴンスレイヤー】という、およそ幼児が持っていてはいけない称号を得てしまった。
 そこからも旅はトラブル続き。
 ドラゴン夫婦が旅の仲間に加わり、私たちはテトさんが案内するのを忘れていた場所に向かう。
 西洋竜の姿になったセバスさんに乗って、移動した先にあったもの。
 それこそが、ガイアの世界樹ユグドラシルだったんだが……。
 なんと超~ヤバいことに、穢れまみれになっていたのだ! 
 しかも、セバスさんとセレスさんの親族二名が穢れにおかされ、ユグドラシルを守るように飛んでいた。
 穢れを祓うのは私の仕事だけれど、これを浄化したら確実に【超越者ちょうえつしゃ】になってしまう。
 本来なら999でカンストするはずのレベルが、経験値をめまくった結果、1000を超えてしまう者が得る称号――【超越者】。絶対に三歳児が持つべきものではない。
 そうわかっていても、私は自分が引き受けたことだからと世界樹とドラゴン二体の浄化を果たす。
 そして、案の定【超越者】の称号がついてしまった。
 こればかりはどうにもならないとあきらめた私たちは、死の森を抜けるために移動を再開。
 異世界に来て約二ヶ月。ついに私は、町の防壁ぼうへきが遠くに見える地に降り立ったのだった。


 ❖ ❖ ❖


 東洋竜の姿になったセレスさんの背中から降りる前に、彼女のたてがみとセバスさんの羽毛つばさ堪能たんのうしたいとお願いすると、二人ともこころよく頷いてくれた。
 まずはセレスさんの鬣をそっとさわってみる。
 なんというか……表現がとても難しいのだが、髪の毛とは違うサラッサラでやわらかな感触かんしょくだ。
 んー、たとえるなら天鵞絨ビロードを触っているような感じで、温かみがあった。
 私はお礼を言い、キャシーさんにかかえられて背中から降りる。
 ついでキャシーさんにセバスさんの側へ行ってもらい、セバスさんのつばさの近くで下ろしてもらった。
 一言断ってから、そっとセバスさんの翼に触れる。
 ――触るのは二度目だというのに、語彙力ごいりょくっ飛ぶほどの柔らかさと温かさがある、極上の羽毛だった! つまり、何度でも触りたいのであ~る!
 どちらも無言で堪能させていただきました! じゅるり。
 よ、よだれはらしてないからね!?
 改めて二人にお礼を言うと、セレスさんはすぐに人型になってしまった。セバスさんも同様だ。
 この世界の神獣たちは人化じんかでき、見た目の年齢は自在に変えられる。
 それにしても……うーん、残念。もうちょっとドラゴンの姿を堪能していたかった。
 だけどしょうがないよね。
 セバスさんの翼に夢中むちゅうになっていたから気づかなかったけれど、地面にはすっかり雪がもっている。幼児な私は今やこしまですっぽりと雪におおわれて……いや、まっているんだから。
 ぶっちゃけ、動けません!
 まあ、念願がかなったからいいか!
 テトさんが寄ってきて私を抱き上げると、神獣おとなたちはすぐに移動を開始。くそう……雪の上に寝っ転がってみたかったのに。
 アニメでよくあるじゃん、埋もれたところが人の形になってるやつ。あれをリアルでやってみたかった!
 テトさんの腕の中でじたばたしつつむーむーうなっていたら、神獣たち全員が苦笑した。

「雪に埋もれたかったの?」

 テトさんに聞かれたので、きちんと説明する。

「はい。私が住んでいたところでは、滅多に雪が積もらなかったんでしゅ」

 ……しまった! んだ! みんなはスルーしてくれた!

「ああ~……それでやってみたかったんだね」
「はい」

 雪国に住んでいる人からすると、雪下ろしや雪かきは危険だし、降雪なんて大変なだけだと思う。
 だけど、雪がほとんど降らないか、降っても一センチしか積もらないような場所に住んでいた私からすると、一度でいいから雪に埋もれてみたいのだ。
 アメリカに出向していたときには積もることもあったが、さすがにいい歳をした大人が、町の中にある公園や路地で雪にダイブするのは、ずかしすぎる。
 スキー場なら自然にできたんだろうけれど、近くになかったんだよね。仕事がいそがしすぎて、スキーに行く時間すらなかったし。
 しかし、今は立派な三歳児。中身が三十五歳だろうと、見た目は三歳児。
 雪に埋もれても、恥ずかしくないと思う!
 そんなことを考えていると、テトさんが「あとでやらせてあげるよ」と言ってくれたので頷く。やったね!
 くふくふと笑いつつ、ふと、うしろを見る。……テトさんが歩いてきた道に、足跡あしあとがない。
 あれ? と思い、今度は前を歩いているセバスさんとバトラーさん、横にいるキャシーさんとセレスさんを見ると、これまた足跡がない。
 普通に考えたらホラーだ。

「……どうなってるの?」
「ん? ああ、足跡がつかないのが不思議かい?」
「はい」
歩いているだけだよ」
「…………そ、そうですか」

 テトさんの含みのある言葉に、それしか言えん。
 ここは異世界、彼らは神獣。
 人間の常識に当てはめて考えてはいけない。
 遠い目をしつつ周囲を見渡す。
 雪にまぎれ、遠くにうっすらとかべが見える。城壁……いや、城じゃないから防壁か。 
 とても高いのは、魔物けや盗賊とうぞく夜盗やとう除けのためだろうか。
 周囲は平原だけれど、遠目に林か小さな森のような木々が密集しているところがあるのがわかる。
 そんな木々や平原も、今は真っ白だ。
 木々なんて樹氷じゅひょうのようになってるんだぜ~? 太陽の光があったなら、今頃はダイヤモンドダストが見られたかもしれない。
 ダイヤモンドダストなんて、写真やテレビの映像でしか見たことがない。ぜひなまで見てみたいな。
 どうやら雪国のようだから、そのうち見られそうだけれど。
 平原ではときどき、白や水色のなにかが動いている。

「テトさん、あそこで動いてるのはなんですか?」
「ん? ああ、あれは魔物だね。白いのは冬毛のホーンラビットかな。あと、あのうすい青色は、フォレストウルフの冬の体毛だね」
「ほえ~」

 ファンタジーでよく見る定番の魔物だね! バトラーさんと出会ってすぐ、遭遇したなあ。
 この世界に来て、約二ヶ月ちょい。
 今は十月の中旬か下旬ごろなんだって。
 カレンダーがないからくわしい月日はわからないみたい。……カレンダーもあるのか。つうか、この世界の北国の降雪はずいぶん早いね!
 この世界に来た当初はまだ夏毛だったのかな。どっちも薄い灰色はいいろか茶色の毛皮だった気がする。
 ただ、毎日が濃いうえに、死の森の中心部や最深部にいた強い魔物との戦闘や穢れの浄化、蛍光けいこうピンクな害虫がいちゅうの印象が強烈きょうれつすぎた。
 正直、インパクトある出来事に上書きされて、旅の初めのころのことはあまり覚えていないのよ。
 魔物はもとをただせば動物だから、換毛期かんもうきがあるのかな。
 わりの時期とか、抜け毛がすごそうだなあなんて思いながら魔物を見ていたら、ホーンラビットがフォレストウルフにつかまった。
 魔物特有の青い血が飛びる。
 おおぅ……魔物同士でも捕食するのか。弱肉強食の世界なら当たり前か。
 神獣たちは魔物がおそってこないなら放置する気のようで、気にすることなくサクサクと進んでいく。
 歩くペースが速いから、遠くに見えていた防壁がだいぶ大きくなってきた。
 町のかなり手前ではあるが、樹木がむらがる林のような一帯が見える。
 そこを迂回うかいして町へ向かうのかと思いきや、ここで休憩きゅうけいするそうだ。
 ……林ではなく、魔の森だったが。
 セバスさんがテトさんに視線を移す。

「テト、ログハウスを出してください」
「わかった。ステラ、昼食になるまで、雪に埋もれていてもいいよ」
「やったー!」

 テトさんの許可が出たので、下ろしてもらう。
 まずは正面から。ジャンプ一発、私は雪に飛び込んだ。

「――っ!」

 気持ちいいーーーっ!
 どこぞのゴールドメダリストで水泳選手みたいなさけびを雪の中に吐き出すと、なんとか起き上がって立つ。
 二、三歩離れた場所に移動して、今度は背中から倒れるようにドーン!
 ボフッと音がしたあとで左右を見たら、しっかりと二十センチほど埋まってた!

「きゃはははははっ!」
「「「「「ステラ……」」」」」
「楽しいでしゅーー!」


 滑舌かつぜつがよくなった今でもたま~に噛むけど、ここは無視!
 呆気あっけにとられていた神獣たちは、いつしか残念な子を見るような目をしている。
 知らんがな! 私は念願叶って楽しいぞ!
 もう一度ジャンプして正面から雪に埋もれ、今度はゴロゴロと横に転がった。
 雪が顔に当たって冷たいけれど、ふわふわのふかふかだ。
 ガイアは地球と違って空気中や雲に有害物質がないため、このまま食べたって平気。
 口に含んでみるとなかなか美味おいしい。かして飲んだらどんな味だろうと想像すると、ゆめふくらむ。
 行動が体の年齢に引っ張られている感はいなめないが、私が楽しければいいんだよ!
 何度か埋まったりゴロゴロしたりしていると、ひょいっと体が浮いた。

「ん?」
〈ステラ、はしゃぎすぎだ〉
「にゃーーー!?」

 首を捻って上を見たら、黒虎になったバトラーさんが私をくわえていた。目があきれている。
 ……私はねこか? 仔猫扱いか!?
 周囲を見回せば、雪遊びに夢中になっているうちにログハウスからかなり離れていた。
 おそらくだけれどバトラーさん一人が見守り役として残り、他の神獣でご飯の用意でもしているんだろう。

〈セレスが呼びに来た。そろそろ昼食の時間になるそうだ。行くぞ〉
「はい……」

 やっぱりご飯ですか。でもって、私を咥えたまま移動ですか。
 ぶらーんぶらーんと手足と頭がれるが、うようなこともなく。
 仔猫ってこんな気持ちなのかな~なんて考えていたら、あっという間にログハウスに戻ってきた。
 玄関を開けるとセレスさんが待ち構えていて、バスタオルを広げている。

「かなり遠くまで行ったのね。楽しかった?」
「はい! 楽しかったでしゅ!」
「それはよかったわ。けれど、まずはご飯の前に、お風呂に入って温まりましょう」
「ぅ……、ぁ、ぁぃ」

 笑顔がこえーよ、セレスさん! 真っ黒なオーラが見える、すごみのある微笑ほほえみだよ!
 セレスさんが私をバスタオルにくるんで抱え上げると、バトラーさんも人型になって家の中に入ってきた。
 バトラーさんと別れた私はそのままセレスさんにお風呂場へ連れていかれた。一緒に浴槽よくそうかる。
 ボンキュッボンでスタイル抜群ばつぐん、ほどよく引き締まった肢体したいは筋肉か。
 充分大きいとはいえバステト様のお胸よりは小さいな、と失礼なことを考えていると、ついつい視線がセレスさんの巨乳にい寄せられる。
 お願いして触らせてもらったら、マシュマロのように柔らかい。

「ステラちゃんはあまえんぼうさんねぇ」
「転生前の自分や母のお胸様よりも大きいので、どんな感触かたしかめたくて」
「ふふっ! ありがとう」

 楽しそうなセレスさんに、私も楽しくなる。
 いかん、気を抜くと目の前にあるお胸様を見てしまう。
 知っているか、デカい乳は湯舟ゆぶねに浮かぶことを。
 セレスさんと話をしつつ、私は温まるまでゆっくりと湯舟に浸かった。
 お風呂から上がったあとは着替えてからお昼ご飯。
 あ~……そういえば、け込んでいたいくらの存在を忘れてたなあ。
 食事をしながら夕飯はいくらにしようと伝えると、神獣たちは「楽しみにしている」と言ってくれた。
 よし、頑張るぞ!
 ご飯を食べると、幼児の体はすぐに眠くなってくる。さっきまで動いていたもんね。
 起きたら今後の予定を聞かねばと思いながら、暖炉だんろの前でいつの間にか眠っていた。


 眠っているうちに、バトラーさんが私の雪遊びのことを話したらしい。
 起きた途端、雪の中でゴロゴロした件について、「戦えないんだから、ログハウスを離れたら危ないでしょ!」と、神獣たち全員にしかられました!
 バトラーさんが近くにいたから魔物たちが寄ってこなかっただけで、もし私だけだったら確実にフォレストウルフに襲われていたとのこと。
 まあ、今回は前もって許可を得ていたから誰かが残ってくれていた。なので、「だまって遠くに行くな」と言われました。
 ですよねー!
 もちろん、一人で勝手な行動をしないともちかわされました。まあ、するつもりもないが。
 だってこわいもん、神獣たちが。特にセレスさんが。
 まだ生きていたいです。
 そんなわけで説教は短時間で終わり、これからの予定を聞いたのだが。

「セレスさん。私たち、ここにまるんですか?」
「ええ。当分雪がやみそうにないし、町の門も閉まっているからね」
「それは……」

 門が閉まっているなら中に入れないもんね。
 テトさんによると、私が寝ている間に、彼は町へ偵察ていさつに行ったんだって。そのときはまだ門が開いていたという。
 ところが門番と話をしている途中で、冒険者があわててけ込んできたらしい。
 どうしたのかと門番が聞く前に、雪の中を移動していた隊商キャラバンが到着。
 その人たちの話をまとめると、彼らは盗賊と魔物に次々と襲撃しゅうげきされたそうだ。
 護衛をしていた冒険者たちが盗賊を返りちにしたものの、血のにおいにられたのか、フォレストウルフの群れとブラウンベア数体までやってきてしまった。
 どっちもおなかかせていたらしく、えさ認定されてしまったという。
 このままだと商品も人も危ないからと、隊商キャラバンは脱出を選択。
 切り捨てた盗賊たちを身代わりの餌にすることで町まで逃げびたみたい。
 仕方がないとはいえ……やっぱり、地球より命が軽い世界なのかなと考えたり。

「フォレストウルフはまだわかる。だが、この時期にブラウンベア? おかしくないか?」
「バトラーの言うとおりだよ。セバスはなにか知ってる?」
「この国は、数年前……特に、今年の春からずっと気候が安定していませんでしたからね。もしかしたら、作物が育たなかったのかもしれません」
「気候が変動すると、山も森もみのりが悪いもの。しかも不作となると……人間たちが、山や森から食料をうばってきている可能性もあるわね」
「ああ、そういうことか」

 バトラーさん、テトさん、セバスさん、セレスさんが今いる国の状況を分析している。
 なんとも胸が痛むというか、物騒ぶっそうというか。
 日本にいたときも、気温や天候の不順で作物が育たないとか、育っても実入りがよくないなんて話はニュースで聞いた。
 台風や豪雨ごうう、地震などの災害さいがいが起こると、きちんと育っていた作物も収穫しゅうかくできなくなってしまう。
 それと同じで、この国もなにかしらの要因で不作となり、足りない分を山や森から採取してきたんだろう。
 森に棲む動物や魔物のことを考慮こうりょせず、無遠慮ぶえんりょに採ってしまったんじゃなかろうか。
 今まで神獣たちが教えてくれた話を聞く限り、ガイアは地球のような大量生産の技術がなく、あちこちへ簡単に移動する手段も限られている。
 地球ではしゅんを過ぎた野菜や果物、魚が食べられたけれど、この世界はそうじゃないのだ。
 ガイアには冷凍れいとう保存や長期保存できるような冷凍庫、冷蔵庫のたぐいがない。
 ただ、時間が経過しない魔法の鞄マジックバッグがあるのはとても便利。
 その一方でビニールハウスや温室のように温度管理をして作物を育てるという発想がないため、特定の時期を過ぎたら次の季節まで食べられない食材なんてものがあるらしい。
 もちろん、保存食用に乾燥かんそうさせた野菜や果物があるし、塩漬け肉もある。それでも、作る量や技術的な問題で、長期保存ができるようなものはごくわずかだそう。
 保存食は農耕のうこうができない冬に備えたり、冒険者の携帯食けいたいしょくにしたりするために作るんだから、収穫の多い秋に作業するのが鉄板てっぱんなんだけれど……。
 不作となると保存食どころか、税としておさめる作物を用意することさえ、難しくなるらしい。
 備蓄は国や領主がやることであって、町や村、個人の単位ではまずやらない。
 しかも、この国のように冬場は家にこもらざるを得ない豪雪ごうせつ地帯ばかりだそうだ。
 国や領主が備蓄を放出せず食料がなくなると、民は山や森に出かける。とはいえ、そちらも天候不順の影響を受けているから、どうあがいても食料は足りない。
 そうすると隊商キャラバンを組んだり個人で移動していたりする商人を襲って積み荷を奪う、盗賊に成り果てるしかないそうだ。
 また、人間たちが食料を採り尽くした森を離れ、動物や魔物たちが平地や畑に出てくる。
 魔狼まろう魔兎まと魔鹿まろくはともかく、動物・魔物に限らず熊種は冬眠する。
 そのために、晩秋はとにかく食べて栄養をたくわえないといけないのに、食料がない。
 ないから冬でも彷徨さまよい、動物や魔物の他に人間たちを襲って食べる羽目になる。
 一度でも人間の味を覚えてしまった魔物はいっそう狂暴きょうぼうになり、人間だけをねらうようになってしまう。
 それが、ブラウンベアがこんな時期に隊商キャラバンを襲った理由だろうと、神獣たちが溜息交じりに教えてくれた。
 怖っ!
 こうした背景で、町はブラウンベアが討伐されるか別の場所に移動するまで、門を閉めることにしたらしい。
 隊商キャラバンを襲撃した盗賊の残党が襲ってこないとも限らないので、そちらを警戒するためでもあるそうだ。
 私はテトさんに聞いてみる。

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