転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮

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3巻

3-2

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「討伐隊は出ないんですか?」
「出すと聞いたよ。僕は町で調味料を買ってからこちらに戻ってきたんだけど、帰り際、自警団じけいだんの騎士や兵士と、冒険者が門に集まっているのを見たから。もう出発しているかもね」
「騎士も兵士も冒険者も、盗賊や魔物の相手は慣れているからな。ブラウンベアのレベルと討伐隊の人数にもよるが、人間たちが負けることはないだろう」
「そうですか」

 テトさんに続いて、バトラーさんも説明してくれた。
 魔物だけじゃなく、人間たちも弱肉強食。
 ゲームと違ってコンティニューできないんだから、どちらも負ければそこで終わりだもんね。そりゃあ自然の脅威きょういに対して真剣にもなるし、対処もするだろう。
 長々と話をしたが、そんなわけで門が開くまではこの場所で待機。まきは隣の小さな魔の森から倒木をひろってくるんだとさ。
 薪は溜め込んでいるとはいえ、今の人数で一冬過ごすとなると足りなくなりそうだ。
 きっと、町で買うわけにもいかないんだろう。
 薪はだんを取るだけじゃなく、料理にも使う。
 どれだけあっても困らないし、需要じゅようが高まって価格が高騰こうとうしているだろうから。
 まあ、これから盗賊が押し寄せてきそうな場所になるべく行きたくないっていう理由もあるんだろうね~。
 ここには、犯罪者ホイホイな美幼女がいるし。
 同じく犯罪者ホイホイになりそうなイケメンと美女もいるし。
 神獣である大人たちからすれば超~楽な移動距離であり、人間たちにとってはちとキツイ場所にあるここに留まるのが最適だと考えたのだろう。
 だって、彼らは雪の上を歩けるけれど、町にいる人間は雪をかき分けながら出かけるしかないんだから。
 地球のようにかんじきやスキー板があるならともかく、雪用ブーツ程度では歩くのが大変な積雪量だもの。
 ……もしかしたらかんじきはあるかもしれないけれど、神獣たちからそんな話は聞いていない。なので、今はないと仮定しておく。
 薪を拾うついでに近くのイグドラシルの状況も見に行くらしい。穢れていたら浄化しないといけないしね。
 おっと、滞在期間を聞いておかねば。

「セバスさん、いつまでここにいることになりますか?」
「そうですね……、とりあえず今日と明日はこちらに留まるでしょう。あとは門が開くタイミング次第ですが……。テト、町の様子はどうでした?」
「僕の感覚だと、町の中に定住するのはやめたほうがいいね。盗賊と魔物の件もあるけれど、食料自体が行きわたっていないようで気になった」
「やはり、不作の影響は出ていますか」
「ああ。町の人の話やうわさを聞く限り、国と領主が動いたらしいけどね。全国的な規模での不作だから、どうにもならない。それに、今は商人たちが食料品の値段を不当にり上げているみたいでね」
「「「「「ああ……」」」」」

 神獣たちに交じって、私も溜息をついたよ。
 いるよね、食材を買いあさって溜め込み、もうけようとわざと値段を上げる商人が。
 商人なら独自のルートで他国から商品を買いつけることができるけれど、定住している住民たちはそうじゃない。
 近くの商人から買うしかないから、本当に必要なものは高くても買わざるを得ないわけで……。
 領主にバレたら、のちのち困るのは商人のほうだと思うんだけどなあ。

「交代で様子を見に行こう。町がダメそうなら、いっそこのログハウスで一冬を越すか、東か西の国に行くかしたほうがいいね」
「そうですね。そこはわたくしたち全員で見極めてから、結論を出しましょう」

 テトさんの提案に、セバスさんが頷く。
 すると、バトラーさんがテトさんに視線を向けた。

「危ないから、ステラは町に連れていかないぞ」
「連れていくにしても、様子を確認してからだね」
「そこはわかってます。私もみなさんと離れたくないですし」

 年齢的に、一人っきりで生きていけるとも思えないしね!
 そんなことを言えば、神獣たちは微笑みながら私の頭をでてくれた。くふ。
 外はまだ大粒おおつぶの雪が降っているが、第二弾の偵察として、バトラーさんとセレスさんが様子を見に行ってくるそうだ。
 その内容をまえたうえで、明日も午前中から神獣たちが交代で変装へんそうして、町に入るんだって。
 この世界のスパイスや、この時期に採れる食材を教えてほしいというと、お土産みやげに買ってきてくれるというので頷いた。



 初めてのイグドラシル


 ログハウスを出て、バトラーさんとセレスさんを見送る。
 ちなみに、彼らが町へ行っている間、私はテトさんとキャシーさん、セバスさんと一緒に魔の森へ行くことになっている。
 町に入るにあたって、バトラーさんは見た目を壮年そうねんに変えた。
 よそおいは剣士の冒険者スタイルで、セレスさんはテトさんのようなローブをかぶり、つえを持った魔法使いスタイルだ。
 もちろん二人とも、雨合羽あまがっぱのように水や雪をはじ外套がいとう羽織はおっている。
 こちらの外套とセレスさんのローブは、キャシーさんの下半身である蜘蛛くもさんの糸を使ったもの。
 キャシーさんのお手製であ~る。

「では、いってきますわ」
「ついでに素材をいくつか売ってくる」
「「「気をつけて」」」
「いてら~」

 バトラーさんたちは冒険者ギルドのタグを持っているそうで、それを使って町の中に入り、情報を集めてくる気らしい。
 バトラーさんがSSSランク冒険者なのは知っていたけれど、まさかセレスさんもギルドタグを持っていたとは。
 ちなみに、セレスさんはSランクだそうな。
 ランクアップ試験が面倒で、Sランクから上げていないんだってさ。これはセバスさんも同様で、彼もまたSランク保持者らしい。
 ドラゴン夫婦の実力的に、本当はSSSランクが適正らしいが……いいのかよ、それで。
 恐るべし、神獣様。
 いってらっしゃいと二人を見送り、全員でログハウスに戻る。これから、魔の森へ行くための準備をするのだ。
 私は防寒対策としてバステト様がくださった、内側がもこもこで、防寒と撥水はっすい・防水加工がされたブーツをく。
 このブーツは軍靴ぐんかか登山靴もかくやな、超頑丈がんじょう代物しろものなのであ~る。うーん……もしかしたら、安全靴のつもりで入れてくださったのかもしれない。
 あとは下着の上に白い半袖はんそでTシャツと、その上にあわいグリーン地に赤やピンク、黄色など、小花柄の刺繍ししゅうがされたチュニックを着用。
 続けて裏起毛うらきもうの黒いかわズボンとサバトラ柄の毛糸の靴下をはき、最後にブルーライオンのダッフルコートを羽織った。
 どれも防寒や耐寒たいかんの【付与エンチャント】がなされているので、寒さ対策はバッチリさ!

「ステラちゃん、このお帽子ぼうしと手袋をしたら、行きましょう」
「は~い」

 一目で手編てあみだとわかる、猫耳がついたサバトラ柄の帽子と手袋をキャシーさんにはめてもらう。
 私は彼と手を繋いでログハウスを出た。
 今回はバトラーさんとセレスさんがいつ帰ってくるかわからない。
 だから、二人と私たちにしか見えない結界を張ってログハウスは出したまま森へ出かけるんだって。
 そんな説明を受けている間にセバスさんが結界を張り終える。
 キャシーさんに抱き上げられ、みんなで森へ出発。そのまま歩くと、私の体では雪に埋まっちゃうからね!
 神獣三人が、警戒しながら魔の森の奥へ向かっていく。
 先頭はセバスさんで次が私とキャシーさん、殿しんがりはテトさんだ。
 しんしんと降る雪華せつかは、たまに吹きつける風によって舞い上がり、れた木々に付着してゆく。なんとも幻想げんそう的。
 まばらだった落葉樹が少しずつ増え、常緑樹と混在していく森。
 霧氷むひょう樹氷じゅひょうが交じり合い、常緑樹はとうとうスノーモンスターへ変貌へんぼうしていた。

「綺麗でしゅねぇ」

 おおう、噛んだ!

「ふふっ、そうね。まるで、雪の魔物みたいよね」
「「たしかに」」
「前世の私が暮らしていた国の、有名な豪雪地帯にも、同じものがありましたよ。そこでは大きく育った樹氷のことを、スノーモンスターと呼んでいました」

 スノーモンスターは雪の怪物かいぶつ――この世界だと雪の魔物という意味だと教えると、三人とも「なるほど、言いえてみょうだ」と口を揃え、頷いていた。
 ひとつとして同じ形がないのよね、スノーモンスターって。
 仕事で真冬の蔵王に行ったとき、たまたま時間が取れて見に行った記憶がある。その景色がとても綺麗で幻想的だったことをなんとなく思い出した。
 そんな話をしていると、雪に埋もれかけている倒木や枯れ木を発見。どうやら雪の重みで倒れたり折れたりしたらしい。
 あとで乾燥させようと、軽く水分だけ飛ばし、【アイテムボックス】にしまう神獣たち。私は枯れえだを見つけては、近くにいる誰かに手渡した。
 そうこうしながら進むうちに、そこだけぽっかりと雪が積もっていないところへ出た。
 目の前には天辺てっぺん樹冠じゅかんにだけうっすらと雪が積もった世界樹の子樹イグドラシルが、世界樹ユグドラシルと同じように淡いエメラルドグリーンの光を放出している。光はゆっくりと地上へ降り注ぎ、消えていった。
 イグドラシルとはいえど、それなりにデカい樹だ。
 大人四人か五人が両手を広げてやっと囲い込めるくらいの太さだから、直径二、三メートル前後かな? 
 そう考えると、直径五十メートルを軽く超えていたであろうユグドラシルは、アホみたいにデカすぎる。
 それはともかく。

「イグドラシルも、ユグドラシルと同じように循環じゅんかんしているんですね」
「ええ」
「綺麗よねぇ」
「本当だね」

 私の質問に答えてくれたのは、セバスさん。満足そうに目を細め、イグドラシルを見ている。
 それはキャシーさんとテトさんも同じで、彼らはどこかホッとした様子を見せていた。
 しかし……やっぱりというかなんというか。
 ユグドラシルを浄化したとはいえ、死の森からさほど離れていない土地に生えるイグドラシルだからか、若干の穢れが残っているようだ。
 相当穢れていたのだろう。イグドラシルの根元だけではなく、周囲の地面からももやが発生している。
 こりゃいかんということで、私はイグドラシルとその周辺を範囲指定し、穢れを祓う魔法――【ライニグング】を無詠唱むえいしょうで発動。
 すると、なぜか「ぐあぁぁぁっ!」と断末魔だんまつまが聞こえた。
 イグドラシルのうしろ側が一段と光り輝き、靄が天にのぼっていく。

「「「「……」」」」

 つい、全員で無言になる。いったいなにがあった!?
 四人で顔を見合わせたあと、私たちは二手に分かれてイグドラシルの周囲を回り、声がしたうしろ側へ移動した。
 浄化の影響でレベルアップ音が聞こえてくるが、体調はちょっと頭痛がするかな? くらいなので、無視だ無視。
 小さく息をついたと同時にイグドラシルの裏側に到着する。
 そこで見たものは――。

「「「「たくさんの、骨?」」」」

 四人でハモったーー!
 そこにあったのは本当にたくさんの骨だった。
 頭蓋骨ずがいこつだけを見ると、人間とおぼしきものが五、動物、または魔物と思しきものが十。
 それ以外の骨はいろいろ交ざっていて、どの骨が人間なのか動物なのかさっぱりわからない状態で散らばっている。

「アンデッドになった直後か、なる直前の遺骸いがいだったんでしょう。イグドラシルの穢れとは別口で穢れていたということは、相当なうらみを買っていたか、誰かを恨んでいたか、ですね」
「この場合は恨まれていたんじゃないかしら?」

 状況を分析するセバスさん、キャシーさんに、テトさんが頷いた。

「そうだね、恨まれていたと思うよ? 人間と魔物の骨だし、これ」
「魔物の骨? ということはテイマーですか?」
「違うよ」

 なんか新しい職業が出てきたぞ? ほ~、この世界にはテイマーもいるのか。
 念のためにどんな職業か聞いたら、三種類のテイマーがいるらしい。
 ひとつめは飼育師しいくし。これは主に牧場で働いている人のこと。
 ふたつめは調教師。小型で温厚おんこうな魔物や動物を飼いたい人へ販売はんばいしたり、人間に危害を加えたりしないように調教する人のこと。別名、ブリーダー。
 牧場にいる馬も、彼らが調教するという。競走馬の調教師みたい、なんて感想を持ったよ。
 そして最後は、使役師しえきし。ファンタジー小説などでよくみる、魔物を使役する人のこと。
 ただし、魔物と心を通わせて一緒に戦う人もいれば、無理やり言うことを聞かせる、悪質な人もいる。
 セバスさんは、この亡骸なきがらが後者のタイプではないかと疑ったようだ。
 無理やり使役すると、魔物によってはいかり心頭で自らをしたがわせようとした人を殺すそう。
 そんな話をしながら、セバスさんとキャシーさん、テトさんが骨を回収して一箇所に集めていく。
 そして、火魔法を使って一気に燃やした。青白く、高温だとうかがえる炎が立ち上る。
 テトさんは、死神という種族ゆえの特性で、過去視かこし――死者の過去やどういった事情で亡くなったのかることができるみたい。
 始まったテトさんの話に、みんなで耳をかたむける。

「ここにあった骨は、人間が五体、魔物が十体。人間は全員男で、魔物はディア系とベア系の色違いが各三頭、残りはグレイハウンドとレッドハウンドが各二体ずつ。どの魔物も上位種だった」

 青白い炎を見ながら、痛ましげな顔をするテトさん。
 五人の人族は商人と護衛。商人は違法いほうな手段を用いて商売をしていた、いわゆる悪徳商人だった。
 商品は相場より低く買い、相場より高く売るという、まさに悪徳商法だ。
 取引先が「買取価格が低すぎて売れない」と言うと口八丁手八丁くちはっちょうてはっちょうで言葉たくみにだまして品物を巻き上げ、「高くて支払えない」と語る顧客こきゃくは殺したり、家族を奴隷どれいとして売り払ったりする。
 そんなことをしていれば、当事者やその親類縁者しんるいえんじゃから恨まれるのは当然のことだ。
 彼らの憎悪ぞうおが穢れとなり、生前のうちから商人にまとわりついていたという。
 一緒にいる魔物も、依頼の産物さんぶつ。貴族から「生きて捕獲ほかくしろ」という無理難題を押しつけられ、それを輸送している最中だったらしい。
 依頼主いらいぬしにもらった魔道具を使って捕まえたものの、その魔道具はお世辞せじにも性能がいいとはいえない代物だった。
 途中で拘束が解けて魔道具を破壊はかいされ、商人たちは怒り心頭な魔物と戦闘になる。挙げ句、両者とも怪我けがによる出血多量で死亡。
 これがほんの十数年前の話だというのだから驚きだ。どれだけ恨まれるようなことをしたんだろう?
 魔物からも恨まれた五人は、生前の穢れも相まって、とうとうアンデッドになった直後に、私が放った【ライニグング】を浴び、成仏じょうぶつしたらしい。合掌がっしょう
 タイミングがいいのか悪いのかは知らんが、地面を覆うほどの靄を放っていたんだから、かなりの人数――百人はくだらないだろう人たちから恨まれていたんだなと、つい遠い目になってしまう。
 まあ、話を聞く限り、因果応報いんがおうほうである。
 神獣たちにしてみれば、「知らんがな」「ざ ま ぁ !」で終わる話だ。
 改めて、弱肉強食なせいか、やっぱりこの世界は命が軽いと感じる。これは人間にも魔物にも言えることだ。
 とはいえ、まともに、そして真面目まじめに精一杯生きている人がいるし、魔物に立ち向かう冒険者や騎士、兵士といった職業の人もいることが、せめてもの救いか。
 やがて炎が消え、はいだけが残された。
 セバスさん、そしてテトさんとキャシーさんが祈る――黙祷もくとうささげるように目をつむって手を組むと、灰になった骨が雪と混じって舞い上がり、キラキラと輝いて天に昇ってゆく。
 神獣特有の【ライニグング】なのか、あるいは純粋な祈りなのかはわからないけれど、とても綺麗な光景だ。
 私も両手を合わせ、どうか心穏やかに成仏してくださいと、日本式の祈りを捧げる。
 テトさんの話を聞いたあとなので、本音をぶっちゃければ、「ざ ま ぁ ! 次は悪さすんじゃねーぞ!」である。
 心穏やかにとは言ったが、たましいを管理しているであろう死者をつかさどる神が、彼らの生前の所業をどう判断するかは知らん。
 祈りを捧げ終わり、イグドラシル周辺の状態を確認。私の仕事である穢れの浄化はバッチリ終わっている。
 周辺も問題なしと判断したセバスさんの提案で、来た道とは違うルートを通ってログハウスがある場所に戻ることになった。
 テクテクと歩いていくと、雪が降り積もっているというのに、ほこる花の群生地コロニーを発見。
 見つけたのは、どれも薬だのどくだの液体魔法薬ポーションの材料だのになる植物ばかり。
 最初に鑑定かんていしたのは、ピンクと黄色、オレンジのラナンキュラス。他の地域では白とむらさき、青などもあるらしい。
 どれも皮膚ひふただれさせたり、心臓を止めるほどの毒性を持っていたりと危険極まりないが、いやそうなどと混ぜることで薬になるんだそう。あれだ。毒と薬は紙一重かみひとえ的なやつ。
 次に発見したのは、淡い緑と白、薄紫とピンクに近い紫のクリスマスローズ。他にも濃い紫と白に紫の縁取ふちどりをしているものなど、色はかなり豊富みたい。
 このクリスマスローズもどちらかといえば毒に分類され、嘔吐おうとや腹痛、下痢げりやけいれんを起こす。胃腸炎系で同じ症状の、感染症かんせんしょうに近い毒だ。
 ただし、堕胎薬だたいやく下剤げざい強心剤きょうしんざいなどの薬にもなることから、用途は広範囲にわたる、すぐれもの。
 そして最後に見つけたのは、赤、赤と白のまだら模様、白、淡いピンク、薄緑の椿つばき
 この椿は観賞用、食用、薬用に分類されるものの三種類だそう。
 斑と赤は観賞用、白と淡いピンクが食用、緑が薬用だって。
 種に関しては観賞用だろうと食用だろうと薬用だろうと、食用油として重宝ちょうほうされているんだとか。特に薬用は、育毛剤や髪の保湿ほしつ用香油の原材料のひとつだそうな。
 ……この世界にもいるんだね、育毛剤が必要な人。
 明後日あさっての方向に感想を抱きつつ、どれも薬草や毒草として優秀なので採取。なえとして根っこごと抜いた。
 椿に至ってはバトラーさんが欲しがるだろうからと、色ごとに三株さんかぶずつ引っこ抜いていたよ、テトさんが。
 喜々ききとして、けれど丁寧に椿を抜くテトさん。
 そんな彼を見て、セバスさんとキャシーさんが呆れた顔をし、私は生ぬるい視線を送ったと言っておく。

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