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3巻
3-3
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倒木や枯れ枝を拾いながら帰路につき、無事にログハウスに到着。
みんなで中に入ったが、バトラーさんとセレスさんはまだ戻ってきていなかった。
テトさんが暖炉の中へ薪を数本入れて炎を大きくし、肌寒くなっていた室内を暖め始める。
寝室として使っている部屋にはすでに暖炉が焚かれており、部屋はとても暖かい。
仕事が早いテトさん、さすが!
風邪をひかないように魔法で体や服を綺麗にし、外出用の服から室内着に着替えた。
LDKになっている部屋へ移動して暖炉の前にあるラグの上に座ると、すかさずテトさんが水とミルクティーを渡してくれた。外から帰ってきたばかりなので、飲みやすいようにミルクティーの温度はぬるめだ。
まずは水分補給がてら水を一気飲みし、ミルクティーをゆっくり味わう。
すると、私の隣にセバスさんがやってきて、ラグの上に優雅に座って私を見る。どうやら話があるみたい。
「町で金銭を用意してくるように伝えてあります。なので、バトラーが帰ってきたら、実際にお金を見せてもらいましょう」
「はい!」
元気よくお返事をする。
いよいよこの世界のお金が見られるのか~。硬貨だと聞いたけれど、どれくらいの大きさなのかな? 見るのが今から楽しみ!
このままぬくぬくとバトラーさんたちの帰りを待っていてもいいんだけれど、キャシーさんは「機織りをする」と言って作業部屋にこもったし、テトさんは「ログハウスの増築をしたいから、木材を削ってくる」と出かけていった。
みんなが働いていると、私もなにかしないといけない気になってくる。
「セバスさん、一緒にお菓子を作りませんか?」
「おや。それは楽しそうですね。わたくしにも教えていただけますか?」
「もちろんでしゅ!」
おおう、また噛んだ!
ちょくちょく語尾というか『す』を噛むの、どうにかならんかなあ。ちょっと恥ずかしいのよ。
それは横に置いといて、お菓子作りだ。
野営をしているときのように、私の背でも届く位置に竈や調理台があるなら一人でも問題ない。
テトさんがログハウスを充実させるまでは屋外で調理することが多く、そうやってきたわけだし。
けれど今は真冬。外に出て料理なんてできないから、キッチンを使うときは必ず神獣の誰かと一緒でなければならないというルールだ。
なにせ三歳児だからね~。椅子を使ったとしても、テトさんが使うオーブンには、微妙に届かないんだよ。
なので、お菓子にしろご飯にしろ、料理をする場合は必ず神獣の誰かが必要なのだ。
てなわけで、セバスさんと一緒にキッチンに行き、食べたいものがあるか聞いてみる。
そうじゃないとレシピを組み立てて、セバスさんに材料を伝えられないからね。
「ふむ……このキッチンにある材料、魔道具で作れるお菓子にしましょうか」
「そうですね」
「では、まず材料を見てみましょう」
「はーい!」
左手をあげて返事をし、キッチンにある材料を調べる。
小麦粉と強力粉、重曹ととうきびスターチ、アマンドを粉にしたアマンドプードルと、同じくパタタから作った片栗粉。これらは死の森で採れた植物や野菜を、テトさんが【錬金術】や【料理人】スキルで粉にした品だ。私の話を聞き、それからバステト様にいただいた食品を見たテトさんが興味を持って、試作したものだったりする。
あとは砂糖や塩などの調味料に、森で採取して乾燥させたハーブ。それぞれ瓶詰めされて、棚に並んでいる。
ちなみに、残念ながらキッチン内に醤油と味噌はない。私の魔法の鞄――黒猫の鞄には入っているんだけれどね。
バステト様からの贈り物の中に、システムキッチンがあったんだが。その延長で冷蔵庫と冷凍庫の話をしたとき、テトさんが作り上げたものがある。
その冷蔵庫を開けてみると、卵と牛乳、バターとヨーグルト、生クリームといった乳製品をはじめ、果物と野菜、肉やベーコンなどが見つかった。
つうか、卵と乳製品なんていつ冷蔵庫に入れたんだ? 私の記憶にないぞ?
セバスさんに質問したら、私が寝ている間に行った町でテトさんが買ってきたものだそう。
防壁がある町から半日ほど離れた場所に牧場があり、そこで加工や販売をしているんだって。
「なるほどー」
「町にいる商人が仕入れていたのでしょう。バイソンは比較的おとなしい魔物ですし」
「ほえー。それは見てみたいです」
「時間があれば行ってみましょうか。この国の遥か西にある国は、ここよりも畜産が盛んなのですよ」
「そうなんですね」
そんな国があるんだね。牛――バイソンも魔物だとは思わなかった!
なんでも、この国で扱っている牛は魔物が多いだけで、西にあるその国は動物の牛と魔牛が半々らしい。しいて言えば、動物のほうが多いんだとか。
全部魔物じゃないのは、畜産業が動物の種の保存も兼ねているからなんだってさ。
魔素が濃い場所にいると、動物は魔物化しやすい。そうではない場所であれば、動物のままだという。
同じ牛でも動物と魔物では強さも狂暴さも格段に違う。また、動物のほうが魔狼や魔熊などに狙われやすいらしい。
なので、そういった魔素が少ない地域で動物の牛や鶏、豚や羊などを飼育している。
反対に魔素が濃い場所では、魔物化したものの中でも、比較的温厚な種を飼っているんだとさ。
牛だけじゃなく、鶏や豚、羊の魔物もいるのか……。まあ、山羊の魔物がいるんだから当然か。
てっきり、この世界の豚肉はボアか、ファンタジー小説にありがちなオークかと思ってた(笑)。
それはともかく。
材料自体はお菓子を作るにはもってこいのものばかりなので、焼き菓子とプリン、時間があればコンポートを作ってみることに。焼き型は私が提供する。
焼き菓子はクッキー、パウンドケーキ、マドレーヌ、マカロン、フラン。
パウンドケーキはバナナを入れたものとブルーベリーを入れたもの、プレーン味の三種類にする予定。
プリンは作り方を変えて、それぞれオーブンと蒸し器でやってみよう。
コンポートはペルシクとペーレ、エペル。
コンポートは待ち時間に作れればいいかな、ってセバスさんと打ち合わせをしておく。
てなわけで、レッツ・クッキン!
最初は一番時間がかかるパウンドケーキから。
まずは材料を計量して混ぜ合わせ、三等分する。続けて、味変用のバナナをフォークで潰した。
その後、潰したバナナを混ぜた生地、ブルーベリーをそのまま入れた生地を型に入れ、天板へ。
こちらのオーブン、魔道具としての機能か、あるいはテトさんがなにか細工をしているのか、温度と時間を設定してスイッチを押すと、なんと一分も経たずに設定温度まで温まるのだ!
魔道具って便利だな♪
ちなみに、私の黒猫の鞄に入っている魔道具のオーブンも、同じような性能だったりする。
……神様ご謹製だからなのか、温度と時間を設定してスイッチを押したら、一瞬で設定温度まで温ったのにはまいった。
パウンドケーキをオーブンに入れたら、マドレーヌに取りかかる。次にクッキーとマカロン、フランとプリンの順で作製。
フランはたとえるなら、プリンのような焼き菓子だ。
プリンに比べてアレンジの幅が広い、カスタードを使った料理のこと。
甘いカスタードをタルト生地に流し込んでお菓子にしたり、野菜やチーズ、ベーコンを加えて茶碗蒸しのようなお惣菜にしたりできる。
今回は、ついでにプリンの生地も用意した。先にこちらをオーブンと蒸し器に入れたあと、フランを作る。
カスタード作りってレンジがあれば簡単なんだけれど……今日のお菓子作りは、このキッチンにある魔道具で作るという縛りなので、黒猫の鞄に入っているオーブンレンジは使えない。
だから材料を鍋で炊いてひたすら練り、カスタードにしたよ――セバスさんが。
セバスさんがカスタードを覗いてしみじみと言う。
「綺麗な黄色になるものですね」
「でしょー? パンに挟んでもいいし、シュークリームというお菓子の中に入れても美味しいですよ~」
「それはそれは……。いずれ作り方を教えていただけますか?」
「もちろんでしゅ!」
テトさんと一緒に作ってもいいね、なんてセバスさんと話しつつ、フランもオーブンに入れた。
しばらくして、「できたよー♪」とばかりに次々とオーブンが音を鳴らし、パウンドケーキをはじめとするお菓子の完成を知らせてきた。
おおう、いっぺんにやりすぎた!
だけど、そこは有能な執事のセバスさん。慌てず騒がず、ぱぱっとオーブンや蒸し器からお菓子を出してくれたよ~。
……まるで分身しているかのような残像が見えた気がしたけれど、気ニシナーイ。
粗熱が取れるまで待ってから、焼き菓子類を型から外して冷まし、プリンは冷蔵庫へイン。
マカロンにはテトさんお手製のジャムと、生クリームとチーズを混ぜ合わせたチーズクリームを挟んだ。
美味しそう~!
他の神獣たちが戻ってこないので、焼き上がりの時間潰しにコンポートも作ってしまおう。
材料を鍋で煮て、冷めたところをセバスさんが作った瓶に液体ごと移し、冷蔵庫へ。
もちろん、瓶は魔法で殺菌済みさ!
あとは明日のためにパイ生地をセバスさんと作り、冷蔵庫で寝かせておいた。
そんなことをしているうちに、バトラーさんとセレスさんが帰宅。テトさんとキャシーさんもダイニングに来たので、私の主導で晩ご飯の支度を始める。
まずは米を研いで炊飯器へ入れ、スイッチオン。
続いて昆布とカツオ節で混合出汁を取り、わかめとバヤムの澄まし汁を作る。
炊けたご飯を木製の小さな深皿に入れ、海苔を刻んで針海苔にし、上に散らす。
今日は味が違ういくらを食べ比べる予定なので、お皿の数は人数の二倍だ。
ククミスを斜めの薄切りにしたものと、ラックスを薄く削ぎ切りにしたものをご飯に載せる。それぞれの深皿に二種類のいくら漬けを分けて盛りつけた。
残しておいた混合出汁を使って塩味と砂糖味の出汁巻き玉子を作り、バヤムのおひたしも用意。
おかわり用に炊飯器はテーブルの上へ置いてもらい、余った分の二種類のいくら漬けも皿に取り分けて添える。
最後に、黒猫の鞄に入っていたスモークサーモン――もとい、スモークラックスと残ったラックススライスとククミス、出汁巻き卵やおひたしを食卓へ。
二種類のいくらを載せたご飯と澄まし汁、私提供の緑茶をカップに注いでみんなの前に置いたら、いただきます!
まずは味噌味のいくらから。
ん~~~! 日本のものよりも一回り大きい粒のいくらは、味噌の旨みを吸って素材の味をいっそう引き立てている。
味噌に漬けたことによって固まった粒は、噛むととろりとした食感だ。
とても美味しい!
魚卵を食べたことがないと言っていたバトラーさんとテトさん、キャシーさんとセバスさんとセレスさんは、スプーンでちょっとだけいくらをすくい、こわごわと目を瞑って口に運ぶ。
数回咀嚼して動きを止めているので、何事かと思ったら神獣たちは目をカッと見開き、頬を薄く染めて一気に食べ始めた。私は思わず唖然とする。
そうしていくら丼を食べ終わった面々は。
「「「「「美味しい~! おかわり!」」」」」
「先に醤油味も味わってからです。おかわりするのは、どちらかにしてください」
「「「「「あっ、ハイ」」」」」
とても美味しかったようだ。
私はといえば、スモークラックスや出汁巻き卵、おひたしを箸休めとして食べていた。
味噌味のいくら丼を半分ほど食べ進めたあと、澄まし汁を一口飲んでから、今度は醤油味をぱくり。
「ん~~~! これこれこれ~!」
いくらが違うからか、母の味とはまた違うけれど、これはこれで美味しい!
とはいえ、祖母直伝の味噌漬けも、母に教わった醤油漬けも、調味液はそのままの味を再現できたようでホッとした。
味噌味とは違う柔らかめのトロっとしたいくらと醤油がマッチしていて、ご飯が進む~~!
これはこれで大人たちも気に入ったようで、爆食してた(笑)。
いつもならなにかしら話をしながら食卓を囲むんだけれど、ご飯が美味しいからか私も含めてみんな無言。
出した料理は、おかわり用も含めて綺麗さっぱりなくなりました!
ご馳走様でした~!
ご飯を食べたあとは、魔の森の様子と町の様子の報告会。
先に魔の森でのことを話す。……はずだったんだが、現在の私は、バトラーさんとセレスさんに両側から抱きつかれ、「ただいま」攻撃をされている。
二人が帰ってきたときの私は、セバスさんと一緒に料理してたからね~。たしかに、「お帰りなさい」をしていないわ。
バトラーさんたちは「ただいま」ができなくて、ウズウズしていたらしい。
過保護もここに極まれりってか?
まあ、それはともかく。
二人が満足するまで愛でられ、みんなで暖炉の前に集まって報告開始。
神獣たちはワインとエール、町で買ってきたという蜂蜜酒と林檎酒を飲みつつ、食べごろになったイカの塩辛やいかトンビを肴にちびちびと。
私はセレスさんが搾ってくれたオレンジジュースとマカロンで晩酌に参加。
くそう……早く酒が飲める年齢になりたい。美味しそうなんだよ、蜂蜜酒と林檎酒。
地球産のとどう違うのか、飲み比べてみたいし……って、本題はそうじゃない!
まずは私たちが行った魔の森の状況を説明すると、バトラーさんとセレスさんは無言でお怒りになった。
バトラーさんは怒りを逃がすように溜息をついたあと、町の様子を教えてくれた。
二人が町に着くと、門は開いていたそうだ。
事情を知らないフリをして門番に話を聞くと、冒険者と兵士や騎士たちが、魔物の討伐と盗賊の残党狩りを終えて帰ってきたばかりだったという。
門番からは「危険がなくなったと判断し、門を開けた」と聞かされたらしい。
おお、無事に討伐されたのならよかった!
町の中に入ったらすぐに冒険者ギルドに行って、不必要な素材を売ったらしいんだが。
その中にフォレストウルフとホーンラビット、ミノタウルスの肉が大量にあったもんだから、ギルド側はびっくりからの狂喜乱舞。肉はすぐに商業ギルドに卸されたという。
つうか、道中でミノタウルスなんていたっけ? 私、遭遇したっけ?
…………記憶にない。
何度も言うが、毎日が濃すぎて、どんな魔物と遭遇したかなんていちいち覚えてないやい。
がっかりだよ、私。ダメダメじゃん、私。
で、ギルドで換金したあとは町の様子を見つつ散策し、屋台で買い食いしながら情報を得たとのこと。
最終的には露店で調味料と乾燥野菜と乾燥キノコ、ドライフルーツと乳製品を買って町を出たらしい。
私はバトラーさんとセレスさんに尋ねる。
「どんな話が聞けたんですか?」
「主に食材に関してだな」
「ええ。テトの見立てどおり、この町で店を構えている商人が食材を買い占めて、値段を吊り上げたらしいわ。それに対する不満ね」
「あとは、貴族の社交が始まった、って噂くらいだ」
「おおう……」
貴族の話は関係ないので、今は横に置くとして。
やっぱり値段を上げていたのか。……悪質な転売ヤーかよ。
てなことを思いつつ、引き続きバトラーさんとセレスさんの話を聞く。
第一の偵察だったテトさんのときから新たに確定した情報は、国と領主がとっくに動いていたということ。今回の不作に対して、国は備蓄を出す判断をしたそうだけれど、それを買い占めたのがいわゆる悪徳商人だったらしい。
こちらの件は国と領主も把握しており、調査中だという。
未確認な噂話だが、国は友好国からの援助も取りつけたらしい。
領主のほうでは、町や村単位で配給を始めたそうだ。悪徳商人に対する牽制みたい。
また、隊商を襲った盗賊と魔物に関する続報も。
盗賊には賞金首が多数いたので、討伐隊には報奨金が配られた。
討伐したベア二体、そして多数のウルフについても、賞金が出たのだとか。
バトラーさんとセレスさんが口々に言う。
「ただ、やはり町の中には行かないほうがよさそうだ」
「他国の奴隷商人がいたのよ」
私は首を傾げた。
「他国の、ですか?」
「ああ。どうも、捕まった盗賊たちから商品を買う予定だったらしくてな。我らが町を出るとき、『一味の半数が善意の冒険者によって捕まった』と門番が話していた」
「残りは町に潜伏しているらしくてね。まあ、あたしたちにとって捜すのなんて、造作もないことだけれど、もうかかわりたくないわ」
うわー。それは嫌だなあ。
私の身の安全のために、バトラーさんとセレスさんは単独行動をして情報を集めたらしい。
きっとそのときにストーキングされたんだろうなあ、セレスさん。だって、言葉の端々が刺々しいもの。でもって、自分をストーキングしてきた奴らを一網打尽にして、兵士がいる詰所に突き出したんでないかい?
バトラーさんの言う「善意の冒険者」が、セレスさんなのでは。……憶測だけれど、間違っていない気がする。
半数とはいえ、奴隷商人の一味が逮捕できたのはよかったと、門番は言っていたんだそうだ。
捕まった奴隷商人と盗賊たちの繋がりがわかった以上、彼らはしっかりと処罰されるという。
ただし、まだ一味の半分しか捕まっていないうえ、町の人たちも外から来た人に対して、あからさまではないもののピリピリしているみたい。
様々な理由込みで、私はこの町に行かないほうがいいと判断したらしい。
「まあ、わたくしたちには関係のないお話ですしね」
「ええ。依頼を受けていないし、どうこうする筋合いはないわ」
セバスさんとキャシーさんの言葉に、他の神獣も頷く。
おおう、神獣様たちは意外とシビアでござる。まあ、この世界を神に代わって見守る存在である神獣たちからすれば、冒険者として依頼されない限り、首を突っ込むようなことはしないんだろう。
盗賊たちと魔物たちの現況はそんな感じらしい。
明日の午前中、今度はキャシーさんとセバスさんが町の様子を見に行くんだって。そのときの状態によって、午後にここを出発するか、もう一泊するか決めるそうだ。
町の様子を見たかっただけに、なんだか残念。……などと言って叱られたくないので、我慢するさ~。
その代わりに、今度泊まるときはバステト様からいただいた魔道具――ツリーハウスの種を試してみたいとちょっとした我儘を言ってみた。
すると、国境に行くまでの間のどこかで、体験させてもらえることに。
今から楽しみ~♪ くふっ♪
町の様子に関する話が一段落したところで、待ちに待ったお金のお勉強。
バトラーさんたちが用意したものを、私の目の前に並べてくれる。
ただね……恐ろしいことに、世界共通で使用されている主だった六種の硬貨がすべて並んでいるのだ。
一枚あたりの価値がバカ高い、滅多に見られない硬貨があるんじゃなかったっけ!?
改めて確認しよう。
硬貨は安いものから順に、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、精霊金貨の六種類。
まずは大きさだが、鉄貨、銅貨、銀貨の大きさは五百円玉くらい、金貨は百円玉くらいの円形で、色も名前の通りだった。ただし、鉄貨だけは円形ではなく四角形。
白金貨は五十円玉くらいの大きさで、銀貨よりも白っぽいクリーム色。
精霊金貨は一円玉より小さいサイズで、半透明の金色だ。
ちなみにどの硬貨にも、表面に動物……いや、魔物かな? その横顔が精巧に彫り込まれている。柄は硬貨ごとに違うけれども。
白金貨までは間違いなく硬貨だとわかる冷たさと硬さなのに、精霊金貨はプラスチックかと疑うほどに軽い。そのくせ硬貨のような冷たさがある、なんとも形容しがたいチグハグさだ。
ファンタジー世界ならではの材質なんだろうなあ、精霊金貨って。
まだ文字を習っていないから私は読めないが、硬貨の裏面はどれも同じで、『大陸共通』という語句と四桁の数字が彫られているそうだ。
みんなで中に入ったが、バトラーさんとセレスさんはまだ戻ってきていなかった。
テトさんが暖炉の中へ薪を数本入れて炎を大きくし、肌寒くなっていた室内を暖め始める。
寝室として使っている部屋にはすでに暖炉が焚かれており、部屋はとても暖かい。
仕事が早いテトさん、さすが!
風邪をひかないように魔法で体や服を綺麗にし、外出用の服から室内着に着替えた。
LDKになっている部屋へ移動して暖炉の前にあるラグの上に座ると、すかさずテトさんが水とミルクティーを渡してくれた。外から帰ってきたばかりなので、飲みやすいようにミルクティーの温度はぬるめだ。
まずは水分補給がてら水を一気飲みし、ミルクティーをゆっくり味わう。
すると、私の隣にセバスさんがやってきて、ラグの上に優雅に座って私を見る。どうやら話があるみたい。
「町で金銭を用意してくるように伝えてあります。なので、バトラーが帰ってきたら、実際にお金を見せてもらいましょう」
「はい!」
元気よくお返事をする。
いよいよこの世界のお金が見られるのか~。硬貨だと聞いたけれど、どれくらいの大きさなのかな? 見るのが今から楽しみ!
このままぬくぬくとバトラーさんたちの帰りを待っていてもいいんだけれど、キャシーさんは「機織りをする」と言って作業部屋にこもったし、テトさんは「ログハウスの増築をしたいから、木材を削ってくる」と出かけていった。
みんなが働いていると、私もなにかしないといけない気になってくる。
「セバスさん、一緒にお菓子を作りませんか?」
「おや。それは楽しそうですね。わたくしにも教えていただけますか?」
「もちろんでしゅ!」
おおう、また噛んだ!
ちょくちょく語尾というか『す』を噛むの、どうにかならんかなあ。ちょっと恥ずかしいのよ。
それは横に置いといて、お菓子作りだ。
野営をしているときのように、私の背でも届く位置に竈や調理台があるなら一人でも問題ない。
テトさんがログハウスを充実させるまでは屋外で調理することが多く、そうやってきたわけだし。
けれど今は真冬。外に出て料理なんてできないから、キッチンを使うときは必ず神獣の誰かと一緒でなければならないというルールだ。
なにせ三歳児だからね~。椅子を使ったとしても、テトさんが使うオーブンには、微妙に届かないんだよ。
なので、お菓子にしろご飯にしろ、料理をする場合は必ず神獣の誰かが必要なのだ。
てなわけで、セバスさんと一緒にキッチンに行き、食べたいものがあるか聞いてみる。
そうじゃないとレシピを組み立てて、セバスさんに材料を伝えられないからね。
「ふむ……このキッチンにある材料、魔道具で作れるお菓子にしましょうか」
「そうですね」
「では、まず材料を見てみましょう」
「はーい!」
左手をあげて返事をし、キッチンにある材料を調べる。
小麦粉と強力粉、重曹ととうきびスターチ、アマンドを粉にしたアマンドプードルと、同じくパタタから作った片栗粉。これらは死の森で採れた植物や野菜を、テトさんが【錬金術】や【料理人】スキルで粉にした品だ。私の話を聞き、それからバステト様にいただいた食品を見たテトさんが興味を持って、試作したものだったりする。
あとは砂糖や塩などの調味料に、森で採取して乾燥させたハーブ。それぞれ瓶詰めされて、棚に並んでいる。
ちなみに、残念ながらキッチン内に醤油と味噌はない。私の魔法の鞄――黒猫の鞄には入っているんだけれどね。
バステト様からの贈り物の中に、システムキッチンがあったんだが。その延長で冷蔵庫と冷凍庫の話をしたとき、テトさんが作り上げたものがある。
その冷蔵庫を開けてみると、卵と牛乳、バターとヨーグルト、生クリームといった乳製品をはじめ、果物と野菜、肉やベーコンなどが見つかった。
つうか、卵と乳製品なんていつ冷蔵庫に入れたんだ? 私の記憶にないぞ?
セバスさんに質問したら、私が寝ている間に行った町でテトさんが買ってきたものだそう。
防壁がある町から半日ほど離れた場所に牧場があり、そこで加工や販売をしているんだって。
「なるほどー」
「町にいる商人が仕入れていたのでしょう。バイソンは比較的おとなしい魔物ですし」
「ほえー。それは見てみたいです」
「時間があれば行ってみましょうか。この国の遥か西にある国は、ここよりも畜産が盛んなのですよ」
「そうなんですね」
そんな国があるんだね。牛――バイソンも魔物だとは思わなかった!
なんでも、この国で扱っている牛は魔物が多いだけで、西にあるその国は動物の牛と魔牛が半々らしい。しいて言えば、動物のほうが多いんだとか。
全部魔物じゃないのは、畜産業が動物の種の保存も兼ねているからなんだってさ。
魔素が濃い場所にいると、動物は魔物化しやすい。そうではない場所であれば、動物のままだという。
同じ牛でも動物と魔物では強さも狂暴さも格段に違う。また、動物のほうが魔狼や魔熊などに狙われやすいらしい。
なので、そういった魔素が少ない地域で動物の牛や鶏、豚や羊などを飼育している。
反対に魔素が濃い場所では、魔物化したものの中でも、比較的温厚な種を飼っているんだとさ。
牛だけじゃなく、鶏や豚、羊の魔物もいるのか……。まあ、山羊の魔物がいるんだから当然か。
てっきり、この世界の豚肉はボアか、ファンタジー小説にありがちなオークかと思ってた(笑)。
それはともかく。
材料自体はお菓子を作るにはもってこいのものばかりなので、焼き菓子とプリン、時間があればコンポートを作ってみることに。焼き型は私が提供する。
焼き菓子はクッキー、パウンドケーキ、マドレーヌ、マカロン、フラン。
パウンドケーキはバナナを入れたものとブルーベリーを入れたもの、プレーン味の三種類にする予定。
プリンは作り方を変えて、それぞれオーブンと蒸し器でやってみよう。
コンポートはペルシクとペーレ、エペル。
コンポートは待ち時間に作れればいいかな、ってセバスさんと打ち合わせをしておく。
てなわけで、レッツ・クッキン!
最初は一番時間がかかるパウンドケーキから。
まずは材料を計量して混ぜ合わせ、三等分する。続けて、味変用のバナナをフォークで潰した。
その後、潰したバナナを混ぜた生地、ブルーベリーをそのまま入れた生地を型に入れ、天板へ。
こちらのオーブン、魔道具としての機能か、あるいはテトさんがなにか細工をしているのか、温度と時間を設定してスイッチを押すと、なんと一分も経たずに設定温度まで温まるのだ!
魔道具って便利だな♪
ちなみに、私の黒猫の鞄に入っている魔道具のオーブンも、同じような性能だったりする。
……神様ご謹製だからなのか、温度と時間を設定してスイッチを押したら、一瞬で設定温度まで温ったのにはまいった。
パウンドケーキをオーブンに入れたら、マドレーヌに取りかかる。次にクッキーとマカロン、フランとプリンの順で作製。
フランはたとえるなら、プリンのような焼き菓子だ。
プリンに比べてアレンジの幅が広い、カスタードを使った料理のこと。
甘いカスタードをタルト生地に流し込んでお菓子にしたり、野菜やチーズ、ベーコンを加えて茶碗蒸しのようなお惣菜にしたりできる。
今回は、ついでにプリンの生地も用意した。先にこちらをオーブンと蒸し器に入れたあと、フランを作る。
カスタード作りってレンジがあれば簡単なんだけれど……今日のお菓子作りは、このキッチンにある魔道具で作るという縛りなので、黒猫の鞄に入っているオーブンレンジは使えない。
だから材料を鍋で炊いてひたすら練り、カスタードにしたよ――セバスさんが。
セバスさんがカスタードを覗いてしみじみと言う。
「綺麗な黄色になるものですね」
「でしょー? パンに挟んでもいいし、シュークリームというお菓子の中に入れても美味しいですよ~」
「それはそれは……。いずれ作り方を教えていただけますか?」
「もちろんでしゅ!」
テトさんと一緒に作ってもいいね、なんてセバスさんと話しつつ、フランもオーブンに入れた。
しばらくして、「できたよー♪」とばかりに次々とオーブンが音を鳴らし、パウンドケーキをはじめとするお菓子の完成を知らせてきた。
おおう、いっぺんにやりすぎた!
だけど、そこは有能な執事のセバスさん。慌てず騒がず、ぱぱっとオーブンや蒸し器からお菓子を出してくれたよ~。
……まるで分身しているかのような残像が見えた気がしたけれど、気ニシナーイ。
粗熱が取れるまで待ってから、焼き菓子類を型から外して冷まし、プリンは冷蔵庫へイン。
マカロンにはテトさんお手製のジャムと、生クリームとチーズを混ぜ合わせたチーズクリームを挟んだ。
美味しそう~!
他の神獣たちが戻ってこないので、焼き上がりの時間潰しにコンポートも作ってしまおう。
材料を鍋で煮て、冷めたところをセバスさんが作った瓶に液体ごと移し、冷蔵庫へ。
もちろん、瓶は魔法で殺菌済みさ!
あとは明日のためにパイ生地をセバスさんと作り、冷蔵庫で寝かせておいた。
そんなことをしているうちに、バトラーさんとセレスさんが帰宅。テトさんとキャシーさんもダイニングに来たので、私の主導で晩ご飯の支度を始める。
まずは米を研いで炊飯器へ入れ、スイッチオン。
続いて昆布とカツオ節で混合出汁を取り、わかめとバヤムの澄まし汁を作る。
炊けたご飯を木製の小さな深皿に入れ、海苔を刻んで針海苔にし、上に散らす。
今日は味が違ういくらを食べ比べる予定なので、お皿の数は人数の二倍だ。
ククミスを斜めの薄切りにしたものと、ラックスを薄く削ぎ切りにしたものをご飯に載せる。それぞれの深皿に二種類のいくら漬けを分けて盛りつけた。
残しておいた混合出汁を使って塩味と砂糖味の出汁巻き玉子を作り、バヤムのおひたしも用意。
おかわり用に炊飯器はテーブルの上へ置いてもらい、余った分の二種類のいくら漬けも皿に取り分けて添える。
最後に、黒猫の鞄に入っていたスモークサーモン――もとい、スモークラックスと残ったラックススライスとククミス、出汁巻き卵やおひたしを食卓へ。
二種類のいくらを載せたご飯と澄まし汁、私提供の緑茶をカップに注いでみんなの前に置いたら、いただきます!
まずは味噌味のいくらから。
ん~~~! 日本のものよりも一回り大きい粒のいくらは、味噌の旨みを吸って素材の味をいっそう引き立てている。
味噌に漬けたことによって固まった粒は、噛むととろりとした食感だ。
とても美味しい!
魚卵を食べたことがないと言っていたバトラーさんとテトさん、キャシーさんとセバスさんとセレスさんは、スプーンでちょっとだけいくらをすくい、こわごわと目を瞑って口に運ぶ。
数回咀嚼して動きを止めているので、何事かと思ったら神獣たちは目をカッと見開き、頬を薄く染めて一気に食べ始めた。私は思わず唖然とする。
そうしていくら丼を食べ終わった面々は。
「「「「「美味しい~! おかわり!」」」」」
「先に醤油味も味わってからです。おかわりするのは、どちらかにしてください」
「「「「「あっ、ハイ」」」」」
とても美味しかったようだ。
私はといえば、スモークラックスや出汁巻き卵、おひたしを箸休めとして食べていた。
味噌味のいくら丼を半分ほど食べ進めたあと、澄まし汁を一口飲んでから、今度は醤油味をぱくり。
「ん~~~! これこれこれ~!」
いくらが違うからか、母の味とはまた違うけれど、これはこれで美味しい!
とはいえ、祖母直伝の味噌漬けも、母に教わった醤油漬けも、調味液はそのままの味を再現できたようでホッとした。
味噌味とは違う柔らかめのトロっとしたいくらと醤油がマッチしていて、ご飯が進む~~!
これはこれで大人たちも気に入ったようで、爆食してた(笑)。
いつもならなにかしら話をしながら食卓を囲むんだけれど、ご飯が美味しいからか私も含めてみんな無言。
出した料理は、おかわり用も含めて綺麗さっぱりなくなりました!
ご馳走様でした~!
ご飯を食べたあとは、魔の森の様子と町の様子の報告会。
先に魔の森でのことを話す。……はずだったんだが、現在の私は、バトラーさんとセレスさんに両側から抱きつかれ、「ただいま」攻撃をされている。
二人が帰ってきたときの私は、セバスさんと一緒に料理してたからね~。たしかに、「お帰りなさい」をしていないわ。
バトラーさんたちは「ただいま」ができなくて、ウズウズしていたらしい。
過保護もここに極まれりってか?
まあ、それはともかく。
二人が満足するまで愛でられ、みんなで暖炉の前に集まって報告開始。
神獣たちはワインとエール、町で買ってきたという蜂蜜酒と林檎酒を飲みつつ、食べごろになったイカの塩辛やいかトンビを肴にちびちびと。
私はセレスさんが搾ってくれたオレンジジュースとマカロンで晩酌に参加。
くそう……早く酒が飲める年齢になりたい。美味しそうなんだよ、蜂蜜酒と林檎酒。
地球産のとどう違うのか、飲み比べてみたいし……って、本題はそうじゃない!
まずは私たちが行った魔の森の状況を説明すると、バトラーさんとセレスさんは無言でお怒りになった。
バトラーさんは怒りを逃がすように溜息をついたあと、町の様子を教えてくれた。
二人が町に着くと、門は開いていたそうだ。
事情を知らないフリをして門番に話を聞くと、冒険者と兵士や騎士たちが、魔物の討伐と盗賊の残党狩りを終えて帰ってきたばかりだったという。
門番からは「危険がなくなったと判断し、門を開けた」と聞かされたらしい。
おお、無事に討伐されたのならよかった!
町の中に入ったらすぐに冒険者ギルドに行って、不必要な素材を売ったらしいんだが。
その中にフォレストウルフとホーンラビット、ミノタウルスの肉が大量にあったもんだから、ギルド側はびっくりからの狂喜乱舞。肉はすぐに商業ギルドに卸されたという。
つうか、道中でミノタウルスなんていたっけ? 私、遭遇したっけ?
…………記憶にない。
何度も言うが、毎日が濃すぎて、どんな魔物と遭遇したかなんていちいち覚えてないやい。
がっかりだよ、私。ダメダメじゃん、私。
で、ギルドで換金したあとは町の様子を見つつ散策し、屋台で買い食いしながら情報を得たとのこと。
最終的には露店で調味料と乾燥野菜と乾燥キノコ、ドライフルーツと乳製品を買って町を出たらしい。
私はバトラーさんとセレスさんに尋ねる。
「どんな話が聞けたんですか?」
「主に食材に関してだな」
「ええ。テトの見立てどおり、この町で店を構えている商人が食材を買い占めて、値段を吊り上げたらしいわ。それに対する不満ね」
「あとは、貴族の社交が始まった、って噂くらいだ」
「おおう……」
貴族の話は関係ないので、今は横に置くとして。
やっぱり値段を上げていたのか。……悪質な転売ヤーかよ。
てなことを思いつつ、引き続きバトラーさんとセレスさんの話を聞く。
第一の偵察だったテトさんのときから新たに確定した情報は、国と領主がとっくに動いていたということ。今回の不作に対して、国は備蓄を出す判断をしたそうだけれど、それを買い占めたのがいわゆる悪徳商人だったらしい。
こちらの件は国と領主も把握しており、調査中だという。
未確認な噂話だが、国は友好国からの援助も取りつけたらしい。
領主のほうでは、町や村単位で配給を始めたそうだ。悪徳商人に対する牽制みたい。
また、隊商を襲った盗賊と魔物に関する続報も。
盗賊には賞金首が多数いたので、討伐隊には報奨金が配られた。
討伐したベア二体、そして多数のウルフについても、賞金が出たのだとか。
バトラーさんとセレスさんが口々に言う。
「ただ、やはり町の中には行かないほうがよさそうだ」
「他国の奴隷商人がいたのよ」
私は首を傾げた。
「他国の、ですか?」
「ああ。どうも、捕まった盗賊たちから商品を買う予定だったらしくてな。我らが町を出るとき、『一味の半数が善意の冒険者によって捕まった』と門番が話していた」
「残りは町に潜伏しているらしくてね。まあ、あたしたちにとって捜すのなんて、造作もないことだけれど、もうかかわりたくないわ」
うわー。それは嫌だなあ。
私の身の安全のために、バトラーさんとセレスさんは単独行動をして情報を集めたらしい。
きっとそのときにストーキングされたんだろうなあ、セレスさん。だって、言葉の端々が刺々しいもの。でもって、自分をストーキングしてきた奴らを一網打尽にして、兵士がいる詰所に突き出したんでないかい?
バトラーさんの言う「善意の冒険者」が、セレスさんなのでは。……憶測だけれど、間違っていない気がする。
半数とはいえ、奴隷商人の一味が逮捕できたのはよかったと、門番は言っていたんだそうだ。
捕まった奴隷商人と盗賊たちの繋がりがわかった以上、彼らはしっかりと処罰されるという。
ただし、まだ一味の半分しか捕まっていないうえ、町の人たちも外から来た人に対して、あからさまではないもののピリピリしているみたい。
様々な理由込みで、私はこの町に行かないほうがいいと判断したらしい。
「まあ、わたくしたちには関係のないお話ですしね」
「ええ。依頼を受けていないし、どうこうする筋合いはないわ」
セバスさんとキャシーさんの言葉に、他の神獣も頷く。
おおう、神獣様たちは意外とシビアでござる。まあ、この世界を神に代わって見守る存在である神獣たちからすれば、冒険者として依頼されない限り、首を突っ込むようなことはしないんだろう。
盗賊たちと魔物たちの現況はそんな感じらしい。
明日の午前中、今度はキャシーさんとセバスさんが町の様子を見に行くんだって。そのときの状態によって、午後にここを出発するか、もう一泊するか決めるそうだ。
町の様子を見たかっただけに、なんだか残念。……などと言って叱られたくないので、我慢するさ~。
その代わりに、今度泊まるときはバステト様からいただいた魔道具――ツリーハウスの種を試してみたいとちょっとした我儘を言ってみた。
すると、国境に行くまでの間のどこかで、体験させてもらえることに。
今から楽しみ~♪ くふっ♪
町の様子に関する話が一段落したところで、待ちに待ったお金のお勉強。
バトラーさんたちが用意したものを、私の目の前に並べてくれる。
ただね……恐ろしいことに、世界共通で使用されている主だった六種の硬貨がすべて並んでいるのだ。
一枚あたりの価値がバカ高い、滅多に見られない硬貨があるんじゃなかったっけ!?
改めて確認しよう。
硬貨は安いものから順に、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、精霊金貨の六種類。
まずは大きさだが、鉄貨、銅貨、銀貨の大きさは五百円玉くらい、金貨は百円玉くらいの円形で、色も名前の通りだった。ただし、鉄貨だけは円形ではなく四角形。
白金貨は五十円玉くらいの大きさで、銀貨よりも白っぽいクリーム色。
精霊金貨は一円玉より小さいサイズで、半透明の金色だ。
ちなみにどの硬貨にも、表面に動物……いや、魔物かな? その横顔が精巧に彫り込まれている。柄は硬貨ごとに違うけれども。
白金貨までは間違いなく硬貨だとわかる冷たさと硬さなのに、精霊金貨はプラスチックかと疑うほどに軽い。そのくせ硬貨のような冷たさがある、なんとも形容しがたいチグハグさだ。
ファンタジー世界ならではの材質なんだろうなあ、精霊金貨って。
まだ文字を習っていないから私は読めないが、硬貨の裏面はどれも同じで、『大陸共通』という語句と四桁の数字が彫られているそうだ。
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「転生者はめぐりあう」 始めました。
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