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死の森篇

まものとしょうぐうしたでしゅ

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 二人で話しながら歩き、薬草を見つけてはどんな効能があるのか、どんな薬になるのか教えてくれるバトラーさん。凄く博識だから、私も勉強になる。
 幼児にできることなんて、高が知れている。こういった薬草採取と、料理や掃除、片付けの手伝いくらいだ。その手伝いだって、体力が続かないと本当にできるかどうかわからない。
 ただ、バトラーさんによると、スキルがあるのであれば年齢に関係なく発動できるというので、あとで料理ができるか実験してみようと思う。一番不安なのが、この紅葉の手で包丁が持てるかどうかだ。
 一応鞄の中に入っているんだよね、三徳包丁と牛刀が。まあ、包丁が無理なら、バステト様にいただいたナイフがもう一本あるから、それで料理してみよう。
 薬草採取をしていた関係で、手を繋いで歩きながら楽しく話をしていたら、途中でピタリと足を止めたバトラーさん。私を抱き上げると、じっと前方を見る。

「ふむ……ボアか。ステラにとっては危険だが、我の敵ではないな」
「ボアってなんでしゅか?」
「牙がある、大きな魔物だ。まあ、見ればわかる」

 そんな話をしていると、草がガサガサと揺れ、焦げ茶色をしたものが飛び出してきた。豚のような鼻と顔に、口のところにはとても大きな牙。短い毛が生えている、所謂イノシシにそっくりな動物――魔物だった。
 日本で見たイノシシよりも一回り大きいサイズだ。

「あれがボアだ」
「おおきいでしゅね」
「そうだな。ステラの大きさなら、背中に五人くらいは乗れそうだ。さて、眺めていても危険だな。ウィンドカッター」

 バトラーさんが魔法の言葉を唱えると、風の刃がボアを襲う。呆気なく首がスパンっと切れて、横倒しになった。
 けれど、覚悟していた血が流れない。いや、流れているんだけれど、その色は青かった。それがとても不気味だ。

「あおい、ち……」
「そうだ。魔物は元々動物だった。魔素をその体内に蓄えると体内に魔石という魔力の塊ができ、ある日突然魔物になる。魔物になると、その血は青くなるんだ」
「しょうでしゅか……。にんげんも、まものになったりしましゅか?」
「人間にも魔素はあるが、魔物と違って常に放出しているから、体内に魔石ができることはない。だから魔物になることはないんだ。人型で魔石があるのは、主にゴブリンやオークなどだな」

 おお、定番の魔物が来ましたよ! 増え方については何も言わなかったが、きっと幼児の私に話すようなことではないんだろう。つまり、浚って手籠めにするんだろうな……というのは想像できた。

「よし。さっさと解体してしまうか」

 そう言うが早いか、バトラーさんが魔物――ボアに触る。すると、いきなり牙と皮、肉と内臓、骨と赤い宝石に分かれた。凄いです、バトラーさん!

「いまのはなんでしゅか? スキルでしゅか?」
「ああ。解体というスキルだ。触るだけで、こうやってあれこれ分かれてくれる」
「にゃるほど! あのあかいいしはなんでしゅか?」
「これが魔石だ。体内に溜め込んだ魔素の量によって大きさは様々だが、これは大きい部類に入る。ほら」
「ふおぉぉぉ……きれいでしゅ」
「そうだな。魔石は魔道具を作るうえで必要になる。大きさによっては高く買い取ってくれるんだ」

 バトラーさんに魔石を手渡され、それを両手で持つ。幼児の手のひらふたつ分の大きさで、光に当たるとキラキラと輝いた。
 色はルビーに近い。それも、ピジョンブラッドと呼ばれるような、鮮やかな濃い赤色だ。若干透明感もあるかな?
 へえ、魔石って魔道具に使われるのか。これで冷蔵庫を作ってみたいなあ。それに近いものはあるかな。あればいいな。
 そういえば、解体したものはどうするんだろう?

「かいたいしたものは、どうしゅるんでしゅか?」
「マジックバッグを持っているのであれば、その中にしまう。我は亜空間の魔法が使えるから、その中に入れておける」
「ふおお……! バトラーしゃん、しゅごいでしゅ!」

 亜空間魔法が使える、神様の使いの魔獣。しかも人間になれるなんて凄いな! これは神獣確定かな?
 バトラーさん曰く、ボアの素材で人間が必要なのは肉と牙、爪と魔石なので、それは換金するために取っておいて、残りは土の中に埋めるか燃やすんだそうだ。そうしないと他の魔獣が寄って来て荒らすから。

「よし、ステラ。これを燃やしてみようか」
「どうやるんでしゅか?」
「発動の仕方はどれも一緒だ。ただ、火であるから、周囲に燃え移らないよう気をつけねばならぬ」
「あい」
「それを踏まえてやってみようか」

 同じ炎といえど、生活魔法と火魔法では火力が違うんだとか。あと、込める魔力によって威力も変わるという。ただし、生活魔法の火にどれほど魔力を込めたところで、ロウソクの火以上の大きさにも火力にもならないそうだ。
 不思議~。
 範囲を絞ることで森に影響を与えることはないとも言われたので、それを実行してみることに。燃やす範囲は、必要ない骨と内臓。それを囲う感じにして……っと。
 炎の大きさは、焚火くらいでいいかな?
 そんなイメージをしながら火魔法のファイヤーを放つ。するときちんと範囲内で火がついた。元々魔法自体の火力も強いんだろう……燃えカスになるまで時間がかかると思っていたのに、五分もしないで燃え尽き、灰になった。
 凄いなあ、魔法って。だけど、使い方を間違えると大惨事になる。気をつけて使わないといけないと思った瞬間だった。
 作業が終わるとその場を離れ、私を抱き上げたまま歩くバトラーさん。視界が高いから、そこから眺める景色も楽しい。
 リスのような動物に角があるウサギ。角がない兎もいるけれど、角があるものは魔獣だそうだ。
 呆気なくウサギの魔獣――ホーンラビットを倒したバトラーさんは、簡単に解体していた。ホーンラビットの肉は、昼か夜に食べようと言ってくれたので、どんな料理にしようかと考える。
 それからも薬草を採取したり果物を採ったりして、どれくらい歩いたのかわからないが、開けた場所に出た。頭上には木の枝もなく、太陽の光が降り注いでいる。
 青空も見えるし、雲もある。太陽はひとつみたいね。……ふたつあったらどうしようかと思ったよ。
 地上にはタンポポに似た花が咲いている。鑑定してみると、根っこがコーヒーになると書いてあったので、バトラーさんにお願いして少し掘り返してもらった。
 確か、洗ってから小さめに切って水に晒してあく抜きをしたあと、細かく刻んでから乾燥させて、焙煎すればコーヒーになるんだったかな? うろ覚えだから、あとで実験してみよう。
 タンポポ自体も漢方薬になるんだっけ? 鑑定の説明にも二日酔いや肝臓、便秘に良く、清熱解毒、利尿の成分があると書かれているしね。
 この世界ではどういう扱いなのかわからないけれど、薬草として扱われている可能性・大だ。だって、バトラーさんも「薬草の一種だ」と言っているんだから。
 作業がひと段落したら、バトラーさんが頷く。

「よし。ここでお昼にしよう」
「あい!」

 バトラーさんが周囲を見回し、危険がないと判断したんだろう。この広場でお昼を摂ることになった。もちろん、警戒して結界を張ってくれている。
 さて、ホーンラビットで何を作ろうかなー。

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