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死の森篇

もりでしゅうかくまちゅりでしゅ

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 起きたら筋肉モリモリマッチョな背中が見えた。ん? 背中?

「うにゅ?」
「あら、おはよう、ステラちゃん。起きたのねぇ」
「あい!」

 振り返ったのはキャシーさんだった!
 そういえば、キャシーさんってばこの寒空でも真っ裸まっぱだったね……。せめてTシャツくらいは着てほしい。
 そんなスキンヘッドで筋骨隆々なキャシーさんだけど、腰から下の蜘蛛はなかなか派手だ。黄色と朱色の縞々で、産毛が生えている。触ってみたら、とても柔らかかった。
 脚は八本で長く、こっちも同じ色の縞模様。形としてはアシダカグモに近くて、顔はハエトリグモに近いかな?
 大きな目がふたつに、その隣に小さな目、そこから少し離れてふたつの目が並んでいる。さらに大きな目の下にはもっと小さな目が四つ並んでいて、大きな目が赤、横に並んでいるのが琥珀色、下の四つは黒という、とても珍しいもの。
 合計十個の目は、宝石のようにとても綺麗な赤と琥珀色と黒だ。
 頭のところにはキャシーさんの腰から上があるんだけど、蜘蛛自体もキャシーさんの上半身に合わせているのか、デカい。大きさ的には、頭が畳半分、下半身が一畳から一畳半くらいはあるかな?
 だからなのか、幼児の私が寝ても問題ないわけで。
 とはいえ、動いている以上、落ちる可能性がある。そこは蜘蛛の糸をベルト代わりにして、対処したようだ。
 私が起きたことを確認したキャシーさんが、蜘蛛の糸を外したのが見えたからね。その後はセレスさんの腕の中に納まった。
 そのままてくてくと歩く周囲の景色は、森の中だ。時々、大人たちの誰かが「ここを鑑定してみるといい」とか「これも鑑定したほうがいい」と、あれこれ教えてくれる。
 なんつうか、今いるエリアは根菜類と、状態異常を治す薬草が多いみたい。薬草と一口にいっても、どう見ても花や果物に見えるような形で、鑑定するたびに食べられる果物じゃないんだと驚くのだ。
 そしてなぜか群生している根菜類や、地中にできる野菜たち。花が咲いて種ができているものもあるし、収穫までもう少しのものや収穫時のもの、芽が出たばかりのものまで、幅広く植わって群生している。
 まあ、魔素の濃さの関係で、早ければ三日、遅くとも十日で成長するというんだから、驚くほかないわけで。

「じゃあ、収穫いたしましょう」
「あい!」

 セバスさんの号令で、食べごろのものを収穫していく。大根にニンジン、ジャガイモに里芋。さつまいももあるし、玉ねぎやニンニク、ラッキョウやエシャロット、しょうがにカブ、ゴボウになぜかレンコンや落花生まである。
 ……レンコンって土じゃなくて泥の中にあるんじゃなかったっけ?
 さすが異世界、何でもアリだな、おい。
 大根も普通のものと聖護院大根のような丸くておおきいのもがあるし、ニンジンも普通のと高麗人参もある。高麗人参は、どちらかといえば薬草に分類されるらしい。
 カブも普通のと、京都で漬物にしている大きなものがあるし、ジャガイモやさつまいもも、三、四種類くらいある。皮を剥いてみないとわからないけれど、紫いもや紅はるかのような甘い品種があるといいなあ。
 とにかく、根菜に限らず、土の中でできるものがあちこちに群生しているので、全員手分けしてひたすら収穫。久しぶりの芋掘りも楽しー!
 たくさんあるし、何を作ろうかな。
 ごぼうとニンジン、レンコンがあるから、きんぴらが食べたいな。ふろふき大根や里芋の煮っころがし、カブを使ったシチューもいいかも。ポテトグラタンやポテトピザも美味しそう~♪
 ラッキョウは甘酢漬けにしてカレーのお供にするとか、エシャロットは大人たちの酒のつまみになる。落花生は外側の殻を乾燥させないと食べられないんだっけか?
 さつまいもはスイートポテトでもいいし、さつまいものご飯や味噌汁も美味しそう。定番の石焼き芋もいいよね!
 あ~! 夢が広がる~! じゅるり。
 何を作るかは、テトさんやセレスさんと相談してみよう。この世界ではどう料理するのかも興味あるし。
 そんなことを考えつつ、ニマニマしながら収穫をした。
 収穫が終われば、また移動。魔物は軍隊アリの他にも、カブトムシとクワガタムシの形でバカデカいものや青い毛をした狼とボアが出た。あとはディアと角が二本生えているウサギも。
 魔物のレベル自体は300台に落ちてきているけれど、それでも狂暴だし強い。まあ、大人たちにかかれば赤子の手を捻るのと同じなので、相変わらず瞬殺している。
 その間の私っすか?
 大人たちの誰か一人と一緒に採取や収穫してますが、なにか。
 レベルが200を超えたことで、これ以上幼児である私のレベルを上げるのは危険だと判断されまして。戦闘に参加するどころか、不必要なものを燃やすことすら禁止されてしまったのだ。
 まあ、まだ三歳児だもんな。三歳児がレベル200オーバーとか、あり得ないだろうし。
 かといって誰かに頼りっぱなしというのは、とても申し訳なく感じるわけで。そんなわけで、私は採取や収穫、料理のお手伝いをすることになった。
 私が寝ている間に決めたらしく、本人はその話し合いに参加してませーん!
 まあ、いいけどね。今のところないけれど、触っただけでものが壊れるようなことになったら困るし。もしかしたら前も聞いたかもしれないが、念のためそのあたりのことをセレスさんに聞いてみた。

「ああ、それは大丈夫よ。確かにレベルが上がれば体力や魔力、腕力などが上がるけれど、不思議と普段の生活に支障はないの。だから、力加減を間違えて、コップを持っただけで割れる、なんてことにはならないわよ」
「しょうなんれしゅね! よかったれしゅ」
「そうね、よかったわね。……幼児が、コップを持っただけで割れる、なんてことになったら、怖いもの」

 しみじみとセレスさんに言われ、確かに! と頷く。逆の立場だったとして、もしそんなものを見たら怖いわ! 私だってドン引きするわ!
 そんなわけで、ツン、パリーン! ってなことにならないとわかって、ホッとした。
 ただ、身分証を作る時にレベルはバレてしまうから、そのあたりで驚かれるかもしれない、と言われた。そこはもう、普段から兄な二人と一緒に行動して、彼らといたからレベルが上がったように見せかけないとなあ。
 それくらいの小細工は許してほしいよ、マジで。
 そんな話をしていると、あっという間に開けた場所に出る。ここにも小さな池があり、反対側には水を飲んでいる魔物や鳥がいた。
 ちらりとこちらを見たけれど、襲ってくるようなことはなく。やっぱりセバスさんとセレスさんをはじめとした神獣が、五体? 五人? いるからなんだろう。
 あるいは、戦闘行為をしたらダメな場所とか。禁則域っていうんだっけ? そういう場所なのかなあと思った。
 あとで聞いてみよう。

「そろそろ日も落ちますし、気温が下がります。今日はここで一泊しましょう」
「わかった。じゃあ、ハウスを出すね」
「ステラちゃん、準備が整うまで、湖の中を覗いて見る? この時間にしか見れない生き物がいるのよ」
「みたいでしゅ!」
「じゃあ、行きましょう♪」

 池じゃなくて、湖なんかいっ! とはいえ、短時間しか見れない生き物に興味あるから、キャシーさんのお誘いに乗っちゃうぞ♪
 どんな生き物がいるのかな~。変なのじゃなければいいなと思いつつ、キャシーさんと連れ立って湖の近く寄った。

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