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1巻
1-2
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「おおお……」
香りからして水じゃなさそうだけれど……なんだろう? コップになる蓋に少しだけ注ぎ、一口飲んでみた。
「おちゃらー。うまうま」
中身は飲みやすい温度になっている緑茶だった。
日本ではカフェインを含んでいる飲料の摂取基準はなかったものの、幼児の飲料としてはあまり推奨されていない。カナダ出身の同僚が教えてくれたけれど、あちらでは子どもに紅茶やコーヒーを飲ませていい量が決まっていたんだとか。これはカフェインの含有量によって変わるらしいという余談はいいとして。
幼児だけれど、飲んでも大丈夫なんだろうか。まあ、用意されているから平気だと信じよう。
おっと、話が逸れた。お腹はすいていないから、ひとまず食べ物は必要ない。
そこでハタと我に返り、水筒と鞄をジーっと眺める。そう、疑問に思うことがあるの。
鞄は猫の顔になっており、大きさは横幅二十センチ、縦十五センチくらいの楕円形で、マチ幅は五、六センチほど。まんま猫の顔を模しているもので色は黒、ビロードのような手触りですべすべしているから気持ちいいし、いつまでも撫でていられる。
開け口には猫耳がついており、表には猫の顔、裏には尻尾が描かれている。
鞄の横には装飾品として黒と銀で縞々な猫の尻尾チャームがついている。これも手触りがよくて、ずっと触っていたい。
うん、とっても可愛いよ? 幼児が持ってても違和感ないくらい可愛いよ?
けれど、鞄から取り出した水筒の大きさが長さ三十センチはあるのだ。どうして鞄よりも水筒のほうが大きいの? 普通ならはみ出すよね!?
もらった魔法の中で有効なのは、きっと鑑定の魔法だ。それで鞄を調べてみることにした。
「かんてい」
そう唱えると、目の前に十インチタブレットくらいの大きさの画面が出て、そこに文字が浮かび上がる。
「おお……しゅまほやタブレットの、けんしゃくきのうみたい」
くぅっ……! 幼児の舌足らずめぇ! 話し相手がいれば上達は早いんだろうけれど、周囲を見る限り今は絶望的な状況。なので、近々きっちり練習する! と決意する。
今はそれどころじゃないので、画面を見ないと。
【魔法の鞄】 外神話級
容量無限と収納物の時間停止、重量無視がかけられている鞄
ガイアの主神、女神バステトが用意した、持ち主のためだけに作られた一点物
指定名義人:???
おうふ……なんという性能か! あれか、これがファンタジーによく出てくる、アイテムボックスとかインベントリとか、そういう鞄なのかも。便利だとわかっていても、つい遠い目になってしまうのは仕方がない。
いろいろツッコミたいよ? 女神様から言われているステータスと種族なども含め、いろいろ確認もしたいよ?
けれど、ここでは危なくてできない!
あと、女神様の名前を見て、鞄がどうして猫の顔だったのか納得した。バステトって、エジプト神話に出てくる猫の神様じゃん! そりゃあ猫のご尊顔だったのも納得!
うん、猫は大好きだからいいけどね! バステト様、ありがとう!
心の中でお礼を言ってから水筒を鞄にしまい、立ち上がる。鞄の上部はファスナーになっているから、幼児の手でも開け閉めが楽だ。
おいおい……本当にこの世界にある技術なの?
そんな疑問とツッコミは一旦横に置いといて。何歳の体になったのかわからないが、とりあえず立ってみることに。
「お? おぉ……。たてたけど、ふあんていにゃの」
これは二、 三歳の体かなあ。支えてくれる大人はいないし、丈夫なブーツを履いてはいるが、こんな凸凹な地面を幼児の足できちんと歩けるとは思えない! だが、歩かないといつまで経っても安全が確保できないわけで……。
プリンセスドレスは汚れてしまうけれど、いざとなったらハイハイすればいいかと腹を括り、一歩進む。ちょっと先に丈夫そうな枝を見つけたんだよね。それを杖代わりにして歩けば、なんとかなるんでないかい?
よし! と気合を入れてその枝まで歩き、拾う。長さは一メートルくらいかな? そして私の身長は、それよりも小さい。ぐぬぬ。
自分の身長の低さにイラッとしつつ、棒を杖代わりにしてゆっくり歩く。足元が凸凹だからねー。気をつけないと、すぐに転んでしまうだろう。
幼児の頭は体重のわりに重いのであ~る。すぐに転ぶことは、甥っ子と姪っ子たちを見ているから知っている。
そこから、体感で三十分ほどは歩いただろうか。テレビや写真で見た、屋久島の縄文杉くらいはありそうな大樹を見つけた。ちょっと高めの場所に生えているけれど、大樹にはぽっかりと穴が空いている。いわゆる樹洞と呼ばれるものだ。
穴の大きさは幼児の私が身を屈めずに歩いて入れるくらいで、直径一メートルはありそう。
「おお、これなら、わたちでもはいれる!」
いい具合に階段状になっている石を上り、そっと樹洞を覗くと、枯れ葉が敷き詰められていた。
中の広さは四畳半あるかないか。大人一人が余裕で横になれる広さである。高い場所にあるし、これなら中になにかを敷けば雨に濡れることなく座れそう。
そっと葉っぱを触ってみても濡れているなんてことはなく――そのままダイブしようとして、視線を感じたので静止する。
「……」
どこからか見られている? ゆっくりとうしろを向いて周囲を見回しても、それらしい気配や息遣いはない。せいぜい、鳥の鳴き声が聞こえるくらいだ。
「きのしぇい……?」
一瞬、気のせいだと思った。だけど、今も視線を感じているのは確かなわけで。
なんというか……仕事でもよくあったんだけれど、値踏みや観察? をされているかのような視線だ。嫌な感じはしないから、放っておくことにする。
で、改めて葉っぱにダイブしてみると、ボフッと受け止められ、葉っぱが舞った。
「おおお、ふかふからー!」
楽しくなってゴロゴロしていたが……うん。そんなことをしている場合じゃなかった。ここに飛ばされる前に言われたことを実行するのと、鞄の中身を確認しないと。
てなわけで、改めて鞄に手を突っ込み、敷物になりそうなものを探す。どれかなあと手探りしようとしたら、半透明の画面が出てきた。
恐る恐る指を出して画面をつつく。おお、スマホやタブレットみたいで面白い! それをスクロールしつつ、目的のものを探す。
あ、革でできたシートとテントを発見。雨漏りの心配はないから、とりあえずテントはいいとして。冷え防止に革のシートと毛布を鞄から出してみた。シートはラグになっていて、とても温かそう。
「わぁ、ねこのラグらー! かわいい!」
猫があちこちに配置されているラグはとても可愛い。それを敷いてから体に付いた葉っぱを落とし、ラグに座る。そして毛布だが、これも猫の模様が描かれていた。それを羽織り、一息つく。
今まで興奮していたから気にしていなかったけれど、森の中はやや気温が低い。ラグに座って毛布を羽織った途端、あったかくなった。
実は、樹洞に入ってから視界に気になるものが映っているが、ひとまず無視しておく。
……よし、落ち着けるところが見つかったし、まずは鞄をもう一度鑑定してみよう。
さっき気になった指定名義人は、やはり「???」だった。鞄の所有者として、私の名前が入るってことだと思う。転生したから、まだ名前がない状態ってこと?
どうしようかなあ。まんま優希……ユキでもいいのかなあ。だけど、それならバステト様もそう呼んだだろうし、「???」のところがそのまま「ユキ」になっているはずだよね。
それがないってことは、死ぬと同時に前世の名前はリセットされたということなんだろう。バステト様と巡り合ったんだし、彼女の名前を少しいただいて新しい名前を決めてみようと思う。
なにがいいかな。仰々しくなくて、だけど女の子っぽい名前。
「……うん、ステラにしよう」
そう宣言すると、指定名義人のところが「ステラ」になった。よし、今日から私はステラだ。異世界にいるんだもの、そういう雰囲気がある名前がいいよね。
宣言したあとでなんだけどさ……ステラはラテン語で星を意味するのよ。
バステト様のお願いで、異世界を巡ることに絡めた名前であるような気がしなくもない。
意図せず洒落た名前になったような気がするけれど、気にしないったら気にしない!
それから、改めてステータスなるものを思い浮かべる。すると、名前や種族、年齢などの項目がずら~っと並んだ画面が目の前に現れた。
この世界にはレベルというゲームのような概念があるため、それも表示されている。私の現在のレベルは、「1/999」だそうだ。
ちなみに、年齢はやっぱり三歳だったよ!
今はじっくり見ている余裕がないので、バステト様に言われた通りに種族の確認を優先しよう。種族の欄の神族をタップする。そして出てきた説明に頭を抱えた。
まず、この星の名前はガイア。これは神々の間での呼び名で、この世界の人々はメアディスと呼んでいるらしい。数多の種族のうち、神族はその中でも特に少数しかいない種族だという。髪色はさまざまだが、虹彩は必ず金になるのが特徴だ。
杖以外の武器を使った戦闘が苦手なのと貴重な光魔法が使えること、その見目麗しい容姿によってとある国では王族や貴族の奴隷にされ、数を減らしていったんだとか。
……ええっ!? なんでそんな貴重な種族にしたんだ、バステト様! 狙われるでしょ!
そうツッコミつつも、思い当たる節がある。光魔法は旅の目的である穢れの浄化に関係している力だ。バステト様は、せっかくだから浄化が得意な種族にしておこうと思ったに違いない。
彼女は転生先の私の肉体年齢を、十六歳か十八歳に設定すると言っていた。ガイアでは種族によって数年の誤差はあるものの、十六歳から二十歳までを成人年齢と定めている国が多いから。
ちなみに、例外は三百年以上生きる長命種と呼ばれる種族たちで、成人年齢は百歳前後となる。長命種のひとつである神族はゆっくり成長するため、百歳といえど見た目は十代半ばか後半くらいになるそうだ。
十代は一人旅をするにしては若すぎる気がしたものの、途中で一緒に旅をしてくれる仲間ができるかもしれないからと、その年頃に決めたはず、な ん で す が ! 幼児になっているとはこれ如何に。
おそらくだけれど、肉体を用意したときか、魂が定着するまで眠っていたときかはわからないが、なにかしらのトラブル、または想定外の出来事があったと思われる。そうじゃないと、バステト様が幼児になるって教えてくれるはずだもの。
別れ際に焦った声がしたのは、私の器となる肉体に不測のトラブルが出たからだろう。
「ままにゃらにゃい……」
……くっ、幼児の舌ぁ! 滑舌ぅ!
しゃべり慣れていないから、余計に噛むんだろうなあ。せめて発声練習でもしようかな? それとも、滑舌の悪い人が練習するといいと言われている、外郎売はどうだろう?
全部覚えているわけじゃないが、あとでちょっとやってみようと思う。
その前にバステト様に名前の一部をもらったことを伝えなきゃ。目を瞑って祈る。
「バステトしゃま、おにゃまえのいちぶをもらいましたー」
『ありがとう、ステラ。わたくしも嬉しいです』
「おお……おはなしできた! また、あえましゅか?」
『会うことは叶いません。こうして話すことも、当分はできないでしょう』
「しょうでしゅか……」
それは残念だけれど、あのお姿はしっかりと目に焼きついているから、毎日お祈りしよう。
その気持ちが伝わったんだろう……バステト様が嬉しそうにクスクスと笑う声がしたような気がした。
なむなむと心の中で女神様を拝み、目を開ける。幼児化の原因はそのうちわかるか、出会った神獣の誰かに教えてもらえると信じ、期待しないで待つことにする。
よし、バステト様にいただいた魔法を確認しよう。……使えるかどうかは別にしてね。
バステト様が私に与えた魔法は、一人で生活できるようにと考え抜かれたものだった。
まずは鑑定。これは情報を視ることができる魔法だそうだ。さっきの鞄もそうだし、植物だろうと動物だろうと、人だろうと視られる。
人に関しては勝手に鑑定したらダメで、もしするのであれば断りを入れてからにしたほうがいいとも言われた。中には勝手に鑑定されたことを怒る人もいるから。ただ、やたらと怒ったり拒否したりするような人は犯罪を犯している可能性がある。そういった場合は問答無用で鑑定することもあるらしい。
これに関しては、私には関係ない話だろうと思っている。鑑定は人に使うよりも、食べ物や見知らぬ植物などに使いたい。異世界だもの、もし見たことがないものがあったら調べないと。だって、毒を持っている植物や食材などは、現地人じゃない私にはわからないから。
まあ、見た目が幼児だから、お店の人にあれこれ質問してみるという手もあるね。
次に、生活魔法。これはファンタジー小説でもお馴染みのものだ。
この世界における生活魔法とは、火を熾す、水を出す、氷を作る、服や髪を乾かす(食材も含む)、竈を作る、洗濯と掃除(これには体を清潔にすることも含む)をする、灯りを出すの七つ。
お風呂がない世界だから、こういう魔法があるんだとか。とある国では庶民にまでお風呂が普及しているらしいが、その国だけだそうだ。基本的にはない世界と考えていい。
……お風呂はないのかあ。もし一人で暮らすことになれば、作りたいな。精神衛生的にもお風呂は必要だと思うし。
それは追々考えるとしよう。
また、魔物に対抗する手段として、風魔法、火魔法、雷魔法、光魔法を授かった。風、火、雷は攻撃用で、光は回復や防御、浄化用だ。攻守揃っているんだし、これだけあれば充分よね。
種族的に杖以外の武器での戦闘が不得手なため、魔法が頼りになるだろう。まあ、今の幼児体型では杖を振るって戦えと言われても無理だが。
つうか、浄化の旅が目的なんだから、光魔法はないと困る。だからこそバステト様は、私の種族を貴重な神族にしたんだろうし。
この世界には他にもスキルというものがあり、これは職業に付随して発生することが多いそうだ。国によってはジョブとも呼ばれているという。
私がもらったのは、【魔法の心得】と調理をサポートする【料理人】のスキル。どんな職業に就くにしろ、このふたつがあって困ることはないから、とバステト様から熱心に薦められたのだ。
きっと、最初は成人の肉体を用意するつもりだったから、仕事を見つけやすくするためにスキルを与えてくれたんだろう。ただ、私は手違いで小さくなってしまったので職に就くのは難しい。それにしても幼児はねぇよ! と口汚くなってしまうのは許してほしい。
二度と会えない人に文句を言ったところで状況が変わるわけじゃないから、きっぱり諦める。
魔法の発動ってどうやるんだろう? しまったなあ……これだったら、チュートリアル的な感じで訓練させてもらえばよかった。バステト様に会ったときは魂だけの状態だったから、練習のしようがなかったかもしれないけれど。
ガイアに来て早々、鑑定を試せたのはラッキーだった。これでどんな植物であるだとか、それが食べられるか否かを調べることができるから。
今私にできることは、鑑定をすることと水分を摂ることだ。
樹洞の中から空を見上げると、日が傾いてきているようで、森の中は薄暗くなってきている。暗くなる前に、樹洞を発見できてよかった。
ただね……日暮れと同時に魔物が活発化してきたのか、遠くから遠吠えが聞こえるんだよね……。うう……、これは怖い。
樹洞の入口自体は、私が屈まずに入れるくらいの高さだから、もしかしたら魔物が入ってくるかもしれない。
風除けも兼ね、せめて外から見えないように樹洞の右のほうに移動しよう。
「ふう……。ようじのからだらと、いどうもひとくろうでしゅ……」
お茶を飲んで一息つき、鞄を漁ってみる。さっきは中身を記した画面が出てきたけど、あれってスマホアプリみたいに最適化できないかなあ。
そんなことを考えながら鞄を触っていたからだろうか。再び現れた画面は、品物ごとに細分化されているではないか!
「しゅごい……。けど、ろうにゃってるの? これ」
まったくもって意味がわからない。だけど、こうやって細分化されていれば、品物を探すのが楽になる。ちょっと楽しくなって画面を眺めていたものの、一番下の文字が上半分しか見えない。どうやらまだまだ品物があるようだ
よし、このままスクロールしてみよう。
「おお! できた! よし。しょれなら……」
ブツブツと独り言を言いながら画面をいじり、どんなものがあるのか確認していく。今体に巻きつけているものの他にもう一枚毛布があったので、それをラグの上に敷くことにした。
「毛布」の文字を軽くタップすると、目の前にポンッと毛布が出てくる。こちらの毛布の柄も猫で、一枚目とは色違いだ。
「おぉぉ? ふしぎー」
さすが、魔法がある世界だ。何度試してもこれは便利!
ふんふんと鼻歌を歌いながら今度は枕を出してみる。枕も猫柄になっていた。
これで寝る準備は完了。あとは夕食を食べたいところだけれど、その前に……。
さっきから視界の端に映っていた、真っ黒い煙というか靄が非常に気になる。
樹洞に入ったときから気づいていたけど、あれはなんだろう。見ているだけで、背中がゾワゾワして気持ち悪い。心なしか鳥肌が立ってくる。
あれは、私にとってよくないもののような気がする。
……浄化してみる?
やり方なんてわからないけれど、とにかく試そうと思い、私は自らのステータスを出して光魔法をタップした。光魔法の技名がずら~っと表示される。
ただ、黒字でしっかり読めるものと、白字になっていてはっきりと見えないものとがあるみたい。
もっとも、白になっている文字のほうが大多数。黒字になっているのは四つだけで、【ヒール】と【キュア】、【ライニグング】と【聖域展開】だ。
最初に確認したのは、【聖域展開】。この【聖域展開】は、魔法の熟練度や術者のレベルアップによってどんどん広がっていく、魔物が入れない領域のこと。これは光魔法が扱える者であれば誰でも使える魔法のひとつで、聖なる領域を平面状に展開するらしい。
今の私の魔力量では、最高で直径百メートルの円状の領域を出せるけれど、これを維持するにも魔力が必要みたいだ。この直径百メートルというのは私が神族という種族だからであって、他の種族ならこうはいかない。術者の魔法適性と魔力量によって効果範囲が異なるため、他種族だと直径五メートルから十メートルくらいのものがせいぜいだそうだ。
実際、広範囲になればなるほど消費する魔力が増えるから、使用する際は範囲指定が必要。尚且つ、術者が気絶したり死亡したり、込めた魔力が少なかったりすると、よくて数分、悪いと一瞬で消えてしまうので、使用の際は注意必須。
ただし、神族は例外。
なぜかといえば、神族は詠唱を必要とせず「【聖域展開】」と唱えるだけで展開できるから。
……光魔法に関しては、とことんチートな種族よねぇ。溜息が出ちゃうよ。
ちなみに、魔法の熟練度……魔法レベルがカンストした状態で魔力量アップの装飾品をたっぷり装備し、バフをかけまくれば、魔力量に物を言わせた直径数百キロの領域を展開できるそう。どんだけな種族やねん。似非関西弁でツッコんじゃうぞ☆
ふたつめの【ヒール】とは傷を回復させる魔法で、これも光魔法を使える者であれば、誰でも使用可能。
が、最上級の欠損さえ癒す【ラストヒール】、欠損は回復しないものの指定した範囲にいる者全員を回復させる【ラストエリアヒール】は、神族か神獣、レベル400を超えた聖女や聖人、教皇といった職業に就いている人しか使えないというとんでもない回復魔法だ。もちろん、【ヒール】と比べたら消費する魔力量も桁違い。
教会や神殿に仕える者は戦闘に出る機会が少なく、レベルが400を超えることはまずないらしい。ゆえに、光魔法の魔法レベルがカンストすることもないという。実質神族と神獣しか扱えないと考えていいだろう。
ちなみに、中級魔法までは、聖女や聖人、教皇でもギリ使えるかもしれない、という感じみたい。
三つめの魔法、【キュア】は毒を含めたいわゆる状態異常の回復に特化している。これも光魔法を使える者であれば誰でも使用可だが、病気は治せない。
ただし、最上級の【ラストキュア】は別だ。普通の病気だけではなく難病や先天的な疾患をも治せるが、やはり神族か神獣しか使えない。
ちなみに、【キュア】だけで病気を治す裏技があり、それは職業を医師にすることだ。とはいえ、風邪や腹痛、頭痛などのかかりやすい病気に限るけれども。それ以外の病は一時的に進行を遅らせるだけで完治しないそうだ。
医師になるには、きちんと専門知識を学ぶ必要がある。完治させたい病気は、専門家である医師や薬師が処方した薬を呑みつつ、気長に治せということである。
そりゃそうだ(笑)。
神族以外の種族にとって、光魔法はそれだけ難しく、魔法レベルや熟練度を上げるのも大変なんだろう。
香りからして水じゃなさそうだけれど……なんだろう? コップになる蓋に少しだけ注ぎ、一口飲んでみた。
「おちゃらー。うまうま」
中身は飲みやすい温度になっている緑茶だった。
日本ではカフェインを含んでいる飲料の摂取基準はなかったものの、幼児の飲料としてはあまり推奨されていない。カナダ出身の同僚が教えてくれたけれど、あちらでは子どもに紅茶やコーヒーを飲ませていい量が決まっていたんだとか。これはカフェインの含有量によって変わるらしいという余談はいいとして。
幼児だけれど、飲んでも大丈夫なんだろうか。まあ、用意されているから平気だと信じよう。
おっと、話が逸れた。お腹はすいていないから、ひとまず食べ物は必要ない。
そこでハタと我に返り、水筒と鞄をジーっと眺める。そう、疑問に思うことがあるの。
鞄は猫の顔になっており、大きさは横幅二十センチ、縦十五センチくらいの楕円形で、マチ幅は五、六センチほど。まんま猫の顔を模しているもので色は黒、ビロードのような手触りですべすべしているから気持ちいいし、いつまでも撫でていられる。
開け口には猫耳がついており、表には猫の顔、裏には尻尾が描かれている。
鞄の横には装飾品として黒と銀で縞々な猫の尻尾チャームがついている。これも手触りがよくて、ずっと触っていたい。
うん、とっても可愛いよ? 幼児が持ってても違和感ないくらい可愛いよ?
けれど、鞄から取り出した水筒の大きさが長さ三十センチはあるのだ。どうして鞄よりも水筒のほうが大きいの? 普通ならはみ出すよね!?
もらった魔法の中で有効なのは、きっと鑑定の魔法だ。それで鞄を調べてみることにした。
「かんてい」
そう唱えると、目の前に十インチタブレットくらいの大きさの画面が出て、そこに文字が浮かび上がる。
「おお……しゅまほやタブレットの、けんしゃくきのうみたい」
くぅっ……! 幼児の舌足らずめぇ! 話し相手がいれば上達は早いんだろうけれど、周囲を見る限り今は絶望的な状況。なので、近々きっちり練習する! と決意する。
今はそれどころじゃないので、画面を見ないと。
【魔法の鞄】 外神話級
容量無限と収納物の時間停止、重量無視がかけられている鞄
ガイアの主神、女神バステトが用意した、持ち主のためだけに作られた一点物
指定名義人:???
おうふ……なんという性能か! あれか、これがファンタジーによく出てくる、アイテムボックスとかインベントリとか、そういう鞄なのかも。便利だとわかっていても、つい遠い目になってしまうのは仕方がない。
いろいろツッコミたいよ? 女神様から言われているステータスと種族なども含め、いろいろ確認もしたいよ?
けれど、ここでは危なくてできない!
あと、女神様の名前を見て、鞄がどうして猫の顔だったのか納得した。バステトって、エジプト神話に出てくる猫の神様じゃん! そりゃあ猫のご尊顔だったのも納得!
うん、猫は大好きだからいいけどね! バステト様、ありがとう!
心の中でお礼を言ってから水筒を鞄にしまい、立ち上がる。鞄の上部はファスナーになっているから、幼児の手でも開け閉めが楽だ。
おいおい……本当にこの世界にある技術なの?
そんな疑問とツッコミは一旦横に置いといて。何歳の体になったのかわからないが、とりあえず立ってみることに。
「お? おぉ……。たてたけど、ふあんていにゃの」
これは二、 三歳の体かなあ。支えてくれる大人はいないし、丈夫なブーツを履いてはいるが、こんな凸凹な地面を幼児の足できちんと歩けるとは思えない! だが、歩かないといつまで経っても安全が確保できないわけで……。
プリンセスドレスは汚れてしまうけれど、いざとなったらハイハイすればいいかと腹を括り、一歩進む。ちょっと先に丈夫そうな枝を見つけたんだよね。それを杖代わりにして歩けば、なんとかなるんでないかい?
よし! と気合を入れてその枝まで歩き、拾う。長さは一メートルくらいかな? そして私の身長は、それよりも小さい。ぐぬぬ。
自分の身長の低さにイラッとしつつ、棒を杖代わりにしてゆっくり歩く。足元が凸凹だからねー。気をつけないと、すぐに転んでしまうだろう。
幼児の頭は体重のわりに重いのであ~る。すぐに転ぶことは、甥っ子と姪っ子たちを見ているから知っている。
そこから、体感で三十分ほどは歩いただろうか。テレビや写真で見た、屋久島の縄文杉くらいはありそうな大樹を見つけた。ちょっと高めの場所に生えているけれど、大樹にはぽっかりと穴が空いている。いわゆる樹洞と呼ばれるものだ。
穴の大きさは幼児の私が身を屈めずに歩いて入れるくらいで、直径一メートルはありそう。
「おお、これなら、わたちでもはいれる!」
いい具合に階段状になっている石を上り、そっと樹洞を覗くと、枯れ葉が敷き詰められていた。
中の広さは四畳半あるかないか。大人一人が余裕で横になれる広さである。高い場所にあるし、これなら中になにかを敷けば雨に濡れることなく座れそう。
そっと葉っぱを触ってみても濡れているなんてことはなく――そのままダイブしようとして、視線を感じたので静止する。
「……」
どこからか見られている? ゆっくりとうしろを向いて周囲を見回しても、それらしい気配や息遣いはない。せいぜい、鳥の鳴き声が聞こえるくらいだ。
「きのしぇい……?」
一瞬、気のせいだと思った。だけど、今も視線を感じているのは確かなわけで。
なんというか……仕事でもよくあったんだけれど、値踏みや観察? をされているかのような視線だ。嫌な感じはしないから、放っておくことにする。
で、改めて葉っぱにダイブしてみると、ボフッと受け止められ、葉っぱが舞った。
「おおお、ふかふからー!」
楽しくなってゴロゴロしていたが……うん。そんなことをしている場合じゃなかった。ここに飛ばされる前に言われたことを実行するのと、鞄の中身を確認しないと。
てなわけで、改めて鞄に手を突っ込み、敷物になりそうなものを探す。どれかなあと手探りしようとしたら、半透明の画面が出てきた。
恐る恐る指を出して画面をつつく。おお、スマホやタブレットみたいで面白い! それをスクロールしつつ、目的のものを探す。
あ、革でできたシートとテントを発見。雨漏りの心配はないから、とりあえずテントはいいとして。冷え防止に革のシートと毛布を鞄から出してみた。シートはラグになっていて、とても温かそう。
「わぁ、ねこのラグらー! かわいい!」
猫があちこちに配置されているラグはとても可愛い。それを敷いてから体に付いた葉っぱを落とし、ラグに座る。そして毛布だが、これも猫の模様が描かれていた。それを羽織り、一息つく。
今まで興奮していたから気にしていなかったけれど、森の中はやや気温が低い。ラグに座って毛布を羽織った途端、あったかくなった。
実は、樹洞に入ってから視界に気になるものが映っているが、ひとまず無視しておく。
……よし、落ち着けるところが見つかったし、まずは鞄をもう一度鑑定してみよう。
さっき気になった指定名義人は、やはり「???」だった。鞄の所有者として、私の名前が入るってことだと思う。転生したから、まだ名前がない状態ってこと?
どうしようかなあ。まんま優希……ユキでもいいのかなあ。だけど、それならバステト様もそう呼んだだろうし、「???」のところがそのまま「ユキ」になっているはずだよね。
それがないってことは、死ぬと同時に前世の名前はリセットされたということなんだろう。バステト様と巡り合ったんだし、彼女の名前を少しいただいて新しい名前を決めてみようと思う。
なにがいいかな。仰々しくなくて、だけど女の子っぽい名前。
「……うん、ステラにしよう」
そう宣言すると、指定名義人のところが「ステラ」になった。よし、今日から私はステラだ。異世界にいるんだもの、そういう雰囲気がある名前がいいよね。
宣言したあとでなんだけどさ……ステラはラテン語で星を意味するのよ。
バステト様のお願いで、異世界を巡ることに絡めた名前であるような気がしなくもない。
意図せず洒落た名前になったような気がするけれど、気にしないったら気にしない!
それから、改めてステータスなるものを思い浮かべる。すると、名前や種族、年齢などの項目がずら~っと並んだ画面が目の前に現れた。
この世界にはレベルというゲームのような概念があるため、それも表示されている。私の現在のレベルは、「1/999」だそうだ。
ちなみに、年齢はやっぱり三歳だったよ!
今はじっくり見ている余裕がないので、バステト様に言われた通りに種族の確認を優先しよう。種族の欄の神族をタップする。そして出てきた説明に頭を抱えた。
まず、この星の名前はガイア。これは神々の間での呼び名で、この世界の人々はメアディスと呼んでいるらしい。数多の種族のうち、神族はその中でも特に少数しかいない種族だという。髪色はさまざまだが、虹彩は必ず金になるのが特徴だ。
杖以外の武器を使った戦闘が苦手なのと貴重な光魔法が使えること、その見目麗しい容姿によってとある国では王族や貴族の奴隷にされ、数を減らしていったんだとか。
……ええっ!? なんでそんな貴重な種族にしたんだ、バステト様! 狙われるでしょ!
そうツッコミつつも、思い当たる節がある。光魔法は旅の目的である穢れの浄化に関係している力だ。バステト様は、せっかくだから浄化が得意な種族にしておこうと思ったに違いない。
彼女は転生先の私の肉体年齢を、十六歳か十八歳に設定すると言っていた。ガイアでは種族によって数年の誤差はあるものの、十六歳から二十歳までを成人年齢と定めている国が多いから。
ちなみに、例外は三百年以上生きる長命種と呼ばれる種族たちで、成人年齢は百歳前後となる。長命種のひとつである神族はゆっくり成長するため、百歳といえど見た目は十代半ばか後半くらいになるそうだ。
十代は一人旅をするにしては若すぎる気がしたものの、途中で一緒に旅をしてくれる仲間ができるかもしれないからと、その年頃に決めたはず、な ん で す が ! 幼児になっているとはこれ如何に。
おそらくだけれど、肉体を用意したときか、魂が定着するまで眠っていたときかはわからないが、なにかしらのトラブル、または想定外の出来事があったと思われる。そうじゃないと、バステト様が幼児になるって教えてくれるはずだもの。
別れ際に焦った声がしたのは、私の器となる肉体に不測のトラブルが出たからだろう。
「ままにゃらにゃい……」
……くっ、幼児の舌ぁ! 滑舌ぅ!
しゃべり慣れていないから、余計に噛むんだろうなあ。せめて発声練習でもしようかな? それとも、滑舌の悪い人が練習するといいと言われている、外郎売はどうだろう?
全部覚えているわけじゃないが、あとでちょっとやってみようと思う。
その前にバステト様に名前の一部をもらったことを伝えなきゃ。目を瞑って祈る。
「バステトしゃま、おにゃまえのいちぶをもらいましたー」
『ありがとう、ステラ。わたくしも嬉しいです』
「おお……おはなしできた! また、あえましゅか?」
『会うことは叶いません。こうして話すことも、当分はできないでしょう』
「しょうでしゅか……」
それは残念だけれど、あのお姿はしっかりと目に焼きついているから、毎日お祈りしよう。
その気持ちが伝わったんだろう……バステト様が嬉しそうにクスクスと笑う声がしたような気がした。
なむなむと心の中で女神様を拝み、目を開ける。幼児化の原因はそのうちわかるか、出会った神獣の誰かに教えてもらえると信じ、期待しないで待つことにする。
よし、バステト様にいただいた魔法を確認しよう。……使えるかどうかは別にしてね。
バステト様が私に与えた魔法は、一人で生活できるようにと考え抜かれたものだった。
まずは鑑定。これは情報を視ることができる魔法だそうだ。さっきの鞄もそうだし、植物だろうと動物だろうと、人だろうと視られる。
人に関しては勝手に鑑定したらダメで、もしするのであれば断りを入れてからにしたほうがいいとも言われた。中には勝手に鑑定されたことを怒る人もいるから。ただ、やたらと怒ったり拒否したりするような人は犯罪を犯している可能性がある。そういった場合は問答無用で鑑定することもあるらしい。
これに関しては、私には関係ない話だろうと思っている。鑑定は人に使うよりも、食べ物や見知らぬ植物などに使いたい。異世界だもの、もし見たことがないものがあったら調べないと。だって、毒を持っている植物や食材などは、現地人じゃない私にはわからないから。
まあ、見た目が幼児だから、お店の人にあれこれ質問してみるという手もあるね。
次に、生活魔法。これはファンタジー小説でもお馴染みのものだ。
この世界における生活魔法とは、火を熾す、水を出す、氷を作る、服や髪を乾かす(食材も含む)、竈を作る、洗濯と掃除(これには体を清潔にすることも含む)をする、灯りを出すの七つ。
お風呂がない世界だから、こういう魔法があるんだとか。とある国では庶民にまでお風呂が普及しているらしいが、その国だけだそうだ。基本的にはない世界と考えていい。
……お風呂はないのかあ。もし一人で暮らすことになれば、作りたいな。精神衛生的にもお風呂は必要だと思うし。
それは追々考えるとしよう。
また、魔物に対抗する手段として、風魔法、火魔法、雷魔法、光魔法を授かった。風、火、雷は攻撃用で、光は回復や防御、浄化用だ。攻守揃っているんだし、これだけあれば充分よね。
種族的に杖以外の武器での戦闘が不得手なため、魔法が頼りになるだろう。まあ、今の幼児体型では杖を振るって戦えと言われても無理だが。
つうか、浄化の旅が目的なんだから、光魔法はないと困る。だからこそバステト様は、私の種族を貴重な神族にしたんだろうし。
この世界には他にもスキルというものがあり、これは職業に付随して発生することが多いそうだ。国によってはジョブとも呼ばれているという。
私がもらったのは、【魔法の心得】と調理をサポートする【料理人】のスキル。どんな職業に就くにしろ、このふたつがあって困ることはないから、とバステト様から熱心に薦められたのだ。
きっと、最初は成人の肉体を用意するつもりだったから、仕事を見つけやすくするためにスキルを与えてくれたんだろう。ただ、私は手違いで小さくなってしまったので職に就くのは難しい。それにしても幼児はねぇよ! と口汚くなってしまうのは許してほしい。
二度と会えない人に文句を言ったところで状況が変わるわけじゃないから、きっぱり諦める。
魔法の発動ってどうやるんだろう? しまったなあ……これだったら、チュートリアル的な感じで訓練させてもらえばよかった。バステト様に会ったときは魂だけの状態だったから、練習のしようがなかったかもしれないけれど。
ガイアに来て早々、鑑定を試せたのはラッキーだった。これでどんな植物であるだとか、それが食べられるか否かを調べることができるから。
今私にできることは、鑑定をすることと水分を摂ることだ。
樹洞の中から空を見上げると、日が傾いてきているようで、森の中は薄暗くなってきている。暗くなる前に、樹洞を発見できてよかった。
ただね……日暮れと同時に魔物が活発化してきたのか、遠くから遠吠えが聞こえるんだよね……。うう……、これは怖い。
樹洞の入口自体は、私が屈まずに入れるくらいの高さだから、もしかしたら魔物が入ってくるかもしれない。
風除けも兼ね、せめて外から見えないように樹洞の右のほうに移動しよう。
「ふう……。ようじのからだらと、いどうもひとくろうでしゅ……」
お茶を飲んで一息つき、鞄を漁ってみる。さっきは中身を記した画面が出てきたけど、あれってスマホアプリみたいに最適化できないかなあ。
そんなことを考えながら鞄を触っていたからだろうか。再び現れた画面は、品物ごとに細分化されているではないか!
「しゅごい……。けど、ろうにゃってるの? これ」
まったくもって意味がわからない。だけど、こうやって細分化されていれば、品物を探すのが楽になる。ちょっと楽しくなって画面を眺めていたものの、一番下の文字が上半分しか見えない。どうやらまだまだ品物があるようだ
よし、このままスクロールしてみよう。
「おお! できた! よし。しょれなら……」
ブツブツと独り言を言いながら画面をいじり、どんなものがあるのか確認していく。今体に巻きつけているものの他にもう一枚毛布があったので、それをラグの上に敷くことにした。
「毛布」の文字を軽くタップすると、目の前にポンッと毛布が出てくる。こちらの毛布の柄も猫で、一枚目とは色違いだ。
「おぉぉ? ふしぎー」
さすが、魔法がある世界だ。何度試してもこれは便利!
ふんふんと鼻歌を歌いながら今度は枕を出してみる。枕も猫柄になっていた。
これで寝る準備は完了。あとは夕食を食べたいところだけれど、その前に……。
さっきから視界の端に映っていた、真っ黒い煙というか靄が非常に気になる。
樹洞に入ったときから気づいていたけど、あれはなんだろう。見ているだけで、背中がゾワゾワして気持ち悪い。心なしか鳥肌が立ってくる。
あれは、私にとってよくないもののような気がする。
……浄化してみる?
やり方なんてわからないけれど、とにかく試そうと思い、私は自らのステータスを出して光魔法をタップした。光魔法の技名がずら~っと表示される。
ただ、黒字でしっかり読めるものと、白字になっていてはっきりと見えないものとがあるみたい。
もっとも、白になっている文字のほうが大多数。黒字になっているのは四つだけで、【ヒール】と【キュア】、【ライニグング】と【聖域展開】だ。
最初に確認したのは、【聖域展開】。この【聖域展開】は、魔法の熟練度や術者のレベルアップによってどんどん広がっていく、魔物が入れない領域のこと。これは光魔法が扱える者であれば誰でも使える魔法のひとつで、聖なる領域を平面状に展開するらしい。
今の私の魔力量では、最高で直径百メートルの円状の領域を出せるけれど、これを維持するにも魔力が必要みたいだ。この直径百メートルというのは私が神族という種族だからであって、他の種族ならこうはいかない。術者の魔法適性と魔力量によって効果範囲が異なるため、他種族だと直径五メートルから十メートルくらいのものがせいぜいだそうだ。
実際、広範囲になればなるほど消費する魔力が増えるから、使用する際は範囲指定が必要。尚且つ、術者が気絶したり死亡したり、込めた魔力が少なかったりすると、よくて数分、悪いと一瞬で消えてしまうので、使用の際は注意必須。
ただし、神族は例外。
なぜかといえば、神族は詠唱を必要とせず「【聖域展開】」と唱えるだけで展開できるから。
……光魔法に関しては、とことんチートな種族よねぇ。溜息が出ちゃうよ。
ちなみに、魔法の熟練度……魔法レベルがカンストした状態で魔力量アップの装飾品をたっぷり装備し、バフをかけまくれば、魔力量に物を言わせた直径数百キロの領域を展開できるそう。どんだけな種族やねん。似非関西弁でツッコんじゃうぞ☆
ふたつめの【ヒール】とは傷を回復させる魔法で、これも光魔法を使える者であれば、誰でも使用可能。
が、最上級の欠損さえ癒す【ラストヒール】、欠損は回復しないものの指定した範囲にいる者全員を回復させる【ラストエリアヒール】は、神族か神獣、レベル400を超えた聖女や聖人、教皇といった職業に就いている人しか使えないというとんでもない回復魔法だ。もちろん、【ヒール】と比べたら消費する魔力量も桁違い。
教会や神殿に仕える者は戦闘に出る機会が少なく、レベルが400を超えることはまずないらしい。ゆえに、光魔法の魔法レベルがカンストすることもないという。実質神族と神獣しか扱えないと考えていいだろう。
ちなみに、中級魔法までは、聖女や聖人、教皇でもギリ使えるかもしれない、という感じみたい。
三つめの魔法、【キュア】は毒を含めたいわゆる状態異常の回復に特化している。これも光魔法を使える者であれば誰でも使用可だが、病気は治せない。
ただし、最上級の【ラストキュア】は別だ。普通の病気だけではなく難病や先天的な疾患をも治せるが、やはり神族か神獣しか使えない。
ちなみに、【キュア】だけで病気を治す裏技があり、それは職業を医師にすることだ。とはいえ、風邪や腹痛、頭痛などのかかりやすい病気に限るけれども。それ以外の病は一時的に進行を遅らせるだけで完治しないそうだ。
医師になるには、きちんと専門知識を学ぶ必要がある。完治させたい病気は、専門家である医師や薬師が処方した薬を呑みつつ、気長に治せということである。
そりゃそうだ(笑)。
神族以外の種族にとって、光魔法はそれだけ難しく、魔法レベルや熟練度を上げるのも大変なんだろう。
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