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書籍発売記念小話
アーミーズ結成(ヨシキ視点)
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天寿をまっとうし、そのまま別の存在になるんだと思っていた。だが、ふと目を開けた先は真っ白な空間で、そこには銀髪の神――アントスと黒髪の神――ツクヨミ様がいた。
彼ら曰く、とある女性を見守ってほしいと言われたのだ。
「名前は、鈴原 優衣さん。この世界ではリンと名乗っているはずです」
「鈴原って……俺の妻が可愛がっていた後輩の名前じゃないか!」
「そうです。そして、貴方がいた駐屯地によく顔を出していた子ですよ」
その女性がのちに出会うことになり、そしてクラン結成の柱ともなった、鈴原 優衣さんことリンだった。通り魔に刺されて亡くなり、そのことで妻のマドカが半狂乱になって泣いていた女性の名前だ。
そして俺たちがいた駐屯地によくきていた女性の名前であることに、衝撃を受けた。最近見ないし、ニュースでその顔が流れて、「あれ?」って思っていたから。
いつも熱心に見ていたから、そのうち招待してみようか、なんて話していたところだったから、本当に残念だ。
そして神様たち曰く、俺の他にもマドカやリンを見守ってきた人たちを同時に転生させるつもりでいるから、彼らと協力してできるだけ側で見守ってほしいと。
その願いは叶えられたように見えたが、実際はとんでもないことになっていたのだ!
それはのちのちわかることだから、今は横に置いておくとして。
俺自身の前世の記憶が戻ったのは、十歳を過ぎたころだった。隣接する領地とは互いに、そしてそれぞれとも仲良くしており、その流れで周囲の領地で同年代の男女と知り合ったのだ。
それがアーミーズの初期メンバーであるマドカとライゾウ、タクミとミユキだった。それぞれが全員似たような雰囲気をしていて、誰かを探すようにどこか遠くを見ているときがあった。
それは俺自身も同じだったから、そのときは別になんとも思わなかったのだ。
彼らと出会ってなんだかんだと百年が過ぎ、リンを見つけられずにいて焦り始めていた。そんな中、全員が転生者だとわかったのは、ミユキの言葉からだ。
「優衣ちゃんはどこにいるのかしら……」
「ねえ、ミユキ! 今、優衣ちゃんって言った⁉」
「あ……え、ええ」
マドカの突っ込みに、バツの悪そうな顔をしながらも頷いたミユキ。それに興奮したのは、その場にいた全員だった。
『もしかして、銀髪の神に何か頼まれたのか⁉』
と、俺を含めたタクミとライゾウがミユキに詰め寄り、全員で我に返ったのだ。もしかしたら、自分の他にも転生者がいるかもしれないと。
ただ、俺の家の敷地内にいるとはいえ、どこで誰が聞いているかわからない状況で前世のことを話すわけにはいかないからと、すぐに魔道具と魔法による結界が張られた。
そしてまずは俺から語り、マドカが俺の元妻、タクミとミユキが元夫婦、ライゾウもタクミたちを知っているという話を聞いて驚いた。しかも、それぞれが全員銀髪の神に会っていて、リンを見守ってほしいとお願いされたという。
「わたしたち、優衣ちゃんを……いいえ、リンを知っている仲間なのね」
「まさか、異世界にいるとはな……」
「てっきり死んだと思っていたから、また会えるのは嬉しいねぇ」
マドカ、タクミ、ライゾウがそれぞれ感想をもらす。そのどれもが、リンに対する愛情に溢れていた。
俺自身は直接会ったことはないが、マドカに見せてもらったリンの顔は、よく駐屯地のフェンスにしがみついて、俺たちをじっと見ていた子と同じ顔だったんだから、ある意味俺も知り合いということになる。
それを機に、俺たちはパーティーを組むことになった。それぞれが感じていたことだが、前世の記憶があるからなのか貴族に向いていないのだ、俺たちは。だからこそ両親や兄弟たちを説得してから貴族籍を抜け、五人でパーティーを組んだのが始まりだった。
パーティーの名前は【アーミーズ】。この世界にない言葉をパーティー名につけることと、リーダーが俺で元陸自の自衛官ということでそうなったのだ。
これならば、リンも気づいてくれる可能性があるからと。
そして活動している途中で、ソロで活動していたセイジと出会い、二人でパーティーを組んでいたキヨシとサトシ、同じく二人でパーティーを組んでしたミナとカヨに出会った。キヨシとサトシはお互いに自分たちが転生者であることと、同じ駐屯地にいた仲間と知っていて、【アーミーズ】という名前に反応してきたのだ。
お互いに前世の名前を名乗ると、セイジとキヨシとサトシが俺に向かって敬礼したのには焦ったが。
そしてミナとカヨは、ライゾウやタクミの関係者だった。リンがいた施設を安い値段で直していたそうだ。
そうして集まった俺たち十人は、パーティーからクランに変更した。他にも転生者が集まってきたのもあったからだ。まあ、他にもリンを知っている転生者もいたが、彼らは職人だったために、戦闘に加えることはしなかったのだ。
その関係で味噌と醤油、ビールと日本酒を造りあげたのには呆気にとられたが。
冒険者として活動しつつリンを探すも、見つからない。リンと出会わないまま、なんだかんだと五百年が過ぎてしまった。
どうしてこんなにも出会わないんだ……と何回も溜息をついた。そしてリンのことを忘れかけたころ、アイデクセから珍しい果物が輸入された。
それが欲しいと言い出したマドカに呆れつつ、高いものを買うよりは、アイデクセに行って買ったほうが安いと考え、情報を集めた。なんと、その出回っている果物は、ダンジョンから出たと判明し、それぞれが行きたいと言い出した。
「このマンゴー、向こうのよりも味が濃くて美味しいわね。あとイチゴも」
「ああ。直接採りに行くか?」
「それでもいいけど、どうせならその国に移住したいわ。そうすれば、無くなったらまたすぐに食べられるもの」
「待て待て、落ち着けって」
「だけど、一度はアイデクセに行ってみたいのよ!」
「わかってるが、まずは誰かが偵察に行ってからでもいいじゃないか。もしよさそうな国なら、移住すればいいだけだろ? 俺たちは冒険者なんだから」
「そうだな。リンのこともあるし、国内にいないとなると、国外に目を向けるしかない」
「そうだな……。他のみんなはどうする?」
「移住しても構わないが、冬が過ぎてからだな。今から移動するのは危険すぎる」
タクミの言葉に、それもそうだと考える。国内をしらみつぶしに探しても見つからない以上、国外にいると考えたほうがいい。
そして誰が行くのかジャンケンで決めた結果、俺が勝った。あと二人くらい勝つかと思ったんだが、俺だけが勝ってしまったのだ。
一人旅か……と思いつつも旅の準備と、ライゾウが用意してくれた【無限収納】になっているマジックバッグをもらい、その中に旅に必要なものを詰めて出発した。
馬や馬車を使って行くよりも、自分で飛んだほうが早いからとドラゴンの姿になり、空を飛んで旅すること十日。アイデクセ国に着いた。国境からまた空を飛び、途中にあった町や村で新しい果物のことを聞くと、王都のダンジョンで採れたという話を聞いた。
それならばと王都に向かって飛び、その途中で疲れたからと着く直前の森で休憩をしようと薪拾いをしていたら、レッドベアに襲われてしまったのだ。二体までなら俺一人でも対処できたが、三体同時となるとかなりキツイ。
ヤバイ……誰か一緒に来てもらえばよかった――。
戦闘しながらそう思ったときに助けてくれたのは、大きなグレイハウンドの親ともうじき成人しそうな子ども、親の頭に乗っているデスタラテクトだった。その姿を見たとき、正直俺はここまでだと思ったんだが、彼らの首には従魔の証であるリボンが巻かれていた。
<大丈夫か?>
「あ、ああ。助かった。君たちは誰かの従魔か?」
<ああ。今、我らの主人を連れてくる。ロック、行ってくれるか?>
<うん>
<よし。そなたはそこで休んでいるといい。主人が来るまで、我らが警戒しよう>
「ありがとう。助かる」
念話を伝えてきたグレイハウンドにお礼を言い、水分を取る。もうじき王都だからと、ここに来るまでにポーションを使い切ってしまったのは失敗だった。
危うく死ぬところだったと思うと、ゾッとする。
休憩している間に、彼らの主人を連れて来てくれた。そして俺の怪我を見て、手当てしてくれた。
しかも、誰も作れないと言われているハイパーポーションを使って。
ましてや、ハイパーMPポーションまで持っているのだから、驚いた。
ぎりぎりだったMPが、一気に満タンになったのだから。
そのことでお礼を言い、お互いに名乗る。どこかで聞いた名前、そして見た顔だ。
転生者かもしれないと駐屯地と言ってしまったのだが、彼女が反応した。しかも、俺がいたことがある駐屯地の名前だ。
懐かしかったのだろう……突然彼女が泣き出してしまったのだ。
そして話を聞いてわかったことだが、彼女は俺たちが探していたリンだったのだ。
こんなに遠くの国にいたら、見つかるわけがない!
今度銀髪の神に会うことができたなら、ぶん殴ってやる!
そう心に決め、王都の門をくぐった。
リンが所属しているというパーティーリーダーに連絡を取ってくれて、宿を紹介してもらった。そしてリンがやっているという店も教えてくれた。
これは、ますますこの国に移住しなければと思った瞬間だった。
途中でリンとメアドを交換し、宿を取って落ち着く。そして商人ギルドに顔を出して拠点になる場所を探してもらい、購入した。
奇しくも、俺たちが欲しいと思って購入した広さの拠点予定地は、リンの店の近くだ。これならば仲間も喜ぶだろう。
そしてダンジョンに潜り、目当ての果物やマドカが探していたものを見つけたのでそれも採取した。そのままボスを倒してもよかったんだが、どのみち移住するなら、みんなと一緒のほうがいいだろうということで、ボス戦はしなかった。
マジックバッグがいっぱいになることはないが、全部採りつくすわけにはいかないからと転々としながらも果物を集め、ゆうに三か月はもつだろうという量を採ってダンジョンから出た。
そして帰る日はリンの店でポーションを買い、道中食べてとお弁当まで用意してくれたリン。マドカが気に入るはずだと納得し、帰りもドラゴンの姿になってドラール国へと帰ってきた。
「お帰り! リンはどんな様子だった? 容姿とか」
「容姿は前世のままだった。まあ、異世界転移したんだから、当然だな。それと従魔がたくさんいて、とても元気そうだったぞ?」
「従魔!? え、薬師なんだよな? なのに従魔がいるのか?」
「ああ。神酒が作れるそうでな……それで酷い怪我を治したら懐かれて、従魔になってくれたんだと」
『神酒!?』
リンの様子やリンがどうしているのかなどの話をしたら、やはり神酒のところで驚かれた。そうなるよなあ……と思いつつ、とにかくアイデクセに拠点を買ったこととリンの店に近いことも告げ、雪解けが来たらアイデクセに行こうと話し合った。
行くのは冒険者となっている、リンを直接知っている十人だ。他のメンバーはドラールに残り、生産を続けるという。
なので、ドラールでのリーダーを別の人間に任せ、もしなにかあったら連絡するように伝えた。必ず戻ってくるからと。
まあ、今のところなんの問題も起きていないようで、連絡はない。
そしてリンがこの世界に来た経緯を踏まえ、アントス神を殴りに行くことも決め、行動に移す。
結局俺は殴ることはしなかったが、みんなは喜々として殴っていたと言っておこう。
そして雪解けが来てすぐ、馬車に乗って移動する。空を飛んでもいいんだが、ミユキに子どもがいる以上、無理はさせられなかった。
それに、急ぎではあるが急ぐ旅でもない。リンが店を構えている以上、アイデクセの王都から逃げるようなことはないのだから。
「今後が楽しみだな」
御者をしながらそんなことを呟いた。
彼ら曰く、とある女性を見守ってほしいと言われたのだ。
「名前は、鈴原 優衣さん。この世界ではリンと名乗っているはずです」
「鈴原って……俺の妻が可愛がっていた後輩の名前じゃないか!」
「そうです。そして、貴方がいた駐屯地によく顔を出していた子ですよ」
その女性がのちに出会うことになり、そしてクラン結成の柱ともなった、鈴原 優衣さんことリンだった。通り魔に刺されて亡くなり、そのことで妻のマドカが半狂乱になって泣いていた女性の名前だ。
そして俺たちがいた駐屯地によくきていた女性の名前であることに、衝撃を受けた。最近見ないし、ニュースでその顔が流れて、「あれ?」って思っていたから。
いつも熱心に見ていたから、そのうち招待してみようか、なんて話していたところだったから、本当に残念だ。
そして神様たち曰く、俺の他にもマドカやリンを見守ってきた人たちを同時に転生させるつもりでいるから、彼らと協力してできるだけ側で見守ってほしいと。
その願いは叶えられたように見えたが、実際はとんでもないことになっていたのだ!
それはのちのちわかることだから、今は横に置いておくとして。
俺自身の前世の記憶が戻ったのは、十歳を過ぎたころだった。隣接する領地とは互いに、そしてそれぞれとも仲良くしており、その流れで周囲の領地で同年代の男女と知り合ったのだ。
それがアーミーズの初期メンバーであるマドカとライゾウ、タクミとミユキだった。それぞれが全員似たような雰囲気をしていて、誰かを探すようにどこか遠くを見ているときがあった。
それは俺自身も同じだったから、そのときは別になんとも思わなかったのだ。
彼らと出会ってなんだかんだと百年が過ぎ、リンを見つけられずにいて焦り始めていた。そんな中、全員が転生者だとわかったのは、ミユキの言葉からだ。
「優衣ちゃんはどこにいるのかしら……」
「ねえ、ミユキ! 今、優衣ちゃんって言った⁉」
「あ……え、ええ」
マドカの突っ込みに、バツの悪そうな顔をしながらも頷いたミユキ。それに興奮したのは、その場にいた全員だった。
『もしかして、銀髪の神に何か頼まれたのか⁉』
と、俺を含めたタクミとライゾウがミユキに詰め寄り、全員で我に返ったのだ。もしかしたら、自分の他にも転生者がいるかもしれないと。
ただ、俺の家の敷地内にいるとはいえ、どこで誰が聞いているかわからない状況で前世のことを話すわけにはいかないからと、すぐに魔道具と魔法による結界が張られた。
そしてまずは俺から語り、マドカが俺の元妻、タクミとミユキが元夫婦、ライゾウもタクミたちを知っているという話を聞いて驚いた。しかも、それぞれが全員銀髪の神に会っていて、リンを見守ってほしいとお願いされたという。
「わたしたち、優衣ちゃんを……いいえ、リンを知っている仲間なのね」
「まさか、異世界にいるとはな……」
「てっきり死んだと思っていたから、また会えるのは嬉しいねぇ」
マドカ、タクミ、ライゾウがそれぞれ感想をもらす。そのどれもが、リンに対する愛情に溢れていた。
俺自身は直接会ったことはないが、マドカに見せてもらったリンの顔は、よく駐屯地のフェンスにしがみついて、俺たちをじっと見ていた子と同じ顔だったんだから、ある意味俺も知り合いということになる。
それを機に、俺たちはパーティーを組むことになった。それぞれが感じていたことだが、前世の記憶があるからなのか貴族に向いていないのだ、俺たちは。だからこそ両親や兄弟たちを説得してから貴族籍を抜け、五人でパーティーを組んだのが始まりだった。
パーティーの名前は【アーミーズ】。この世界にない言葉をパーティー名につけることと、リーダーが俺で元陸自の自衛官ということでそうなったのだ。
これならば、リンも気づいてくれる可能性があるからと。
そして活動している途中で、ソロで活動していたセイジと出会い、二人でパーティーを組んでいたキヨシとサトシ、同じく二人でパーティーを組んでしたミナとカヨに出会った。キヨシとサトシはお互いに自分たちが転生者であることと、同じ駐屯地にいた仲間と知っていて、【アーミーズ】という名前に反応してきたのだ。
お互いに前世の名前を名乗ると、セイジとキヨシとサトシが俺に向かって敬礼したのには焦ったが。
そしてミナとカヨは、ライゾウやタクミの関係者だった。リンがいた施設を安い値段で直していたそうだ。
そうして集まった俺たち十人は、パーティーからクランに変更した。他にも転生者が集まってきたのもあったからだ。まあ、他にもリンを知っている転生者もいたが、彼らは職人だったために、戦闘に加えることはしなかったのだ。
その関係で味噌と醤油、ビールと日本酒を造りあげたのには呆気にとられたが。
冒険者として活動しつつリンを探すも、見つからない。リンと出会わないまま、なんだかんだと五百年が過ぎてしまった。
どうしてこんなにも出会わないんだ……と何回も溜息をついた。そしてリンのことを忘れかけたころ、アイデクセから珍しい果物が輸入された。
それが欲しいと言い出したマドカに呆れつつ、高いものを買うよりは、アイデクセに行って買ったほうが安いと考え、情報を集めた。なんと、その出回っている果物は、ダンジョンから出たと判明し、それぞれが行きたいと言い出した。
「このマンゴー、向こうのよりも味が濃くて美味しいわね。あとイチゴも」
「ああ。直接採りに行くか?」
「それでもいいけど、どうせならその国に移住したいわ。そうすれば、無くなったらまたすぐに食べられるもの」
「待て待て、落ち着けって」
「だけど、一度はアイデクセに行ってみたいのよ!」
「わかってるが、まずは誰かが偵察に行ってからでもいいじゃないか。もしよさそうな国なら、移住すればいいだけだろ? 俺たちは冒険者なんだから」
「そうだな。リンのこともあるし、国内にいないとなると、国外に目を向けるしかない」
「そうだな……。他のみんなはどうする?」
「移住しても構わないが、冬が過ぎてからだな。今から移動するのは危険すぎる」
タクミの言葉に、それもそうだと考える。国内をしらみつぶしに探しても見つからない以上、国外にいると考えたほうがいい。
そして誰が行くのかジャンケンで決めた結果、俺が勝った。あと二人くらい勝つかと思ったんだが、俺だけが勝ってしまったのだ。
一人旅か……と思いつつも旅の準備と、ライゾウが用意してくれた【無限収納】になっているマジックバッグをもらい、その中に旅に必要なものを詰めて出発した。
馬や馬車を使って行くよりも、自分で飛んだほうが早いからとドラゴンの姿になり、空を飛んで旅すること十日。アイデクセ国に着いた。国境からまた空を飛び、途中にあった町や村で新しい果物のことを聞くと、王都のダンジョンで採れたという話を聞いた。
それならばと王都に向かって飛び、その途中で疲れたからと着く直前の森で休憩をしようと薪拾いをしていたら、レッドベアに襲われてしまったのだ。二体までなら俺一人でも対処できたが、三体同時となるとかなりキツイ。
ヤバイ……誰か一緒に来てもらえばよかった――。
戦闘しながらそう思ったときに助けてくれたのは、大きなグレイハウンドの親ともうじき成人しそうな子ども、親の頭に乗っているデスタラテクトだった。その姿を見たとき、正直俺はここまでだと思ったんだが、彼らの首には従魔の証であるリボンが巻かれていた。
<大丈夫か?>
「あ、ああ。助かった。君たちは誰かの従魔か?」
<ああ。今、我らの主人を連れてくる。ロック、行ってくれるか?>
<うん>
<よし。そなたはそこで休んでいるといい。主人が来るまで、我らが警戒しよう>
「ありがとう。助かる」
念話を伝えてきたグレイハウンドにお礼を言い、水分を取る。もうじき王都だからと、ここに来るまでにポーションを使い切ってしまったのは失敗だった。
危うく死ぬところだったと思うと、ゾッとする。
休憩している間に、彼らの主人を連れて来てくれた。そして俺の怪我を見て、手当てしてくれた。
しかも、誰も作れないと言われているハイパーポーションを使って。
ましてや、ハイパーMPポーションまで持っているのだから、驚いた。
ぎりぎりだったMPが、一気に満タンになったのだから。
そのことでお礼を言い、お互いに名乗る。どこかで聞いた名前、そして見た顔だ。
転生者かもしれないと駐屯地と言ってしまったのだが、彼女が反応した。しかも、俺がいたことがある駐屯地の名前だ。
懐かしかったのだろう……突然彼女が泣き出してしまったのだ。
そして話を聞いてわかったことだが、彼女は俺たちが探していたリンだったのだ。
こんなに遠くの国にいたら、見つかるわけがない!
今度銀髪の神に会うことができたなら、ぶん殴ってやる!
そう心に決め、王都の門をくぐった。
リンが所属しているというパーティーリーダーに連絡を取ってくれて、宿を紹介してもらった。そしてリンがやっているという店も教えてくれた。
これは、ますますこの国に移住しなければと思った瞬間だった。
途中でリンとメアドを交換し、宿を取って落ち着く。そして商人ギルドに顔を出して拠点になる場所を探してもらい、購入した。
奇しくも、俺たちが欲しいと思って購入した広さの拠点予定地は、リンの店の近くだ。これならば仲間も喜ぶだろう。
そしてダンジョンに潜り、目当ての果物やマドカが探していたものを見つけたのでそれも採取した。そのままボスを倒してもよかったんだが、どのみち移住するなら、みんなと一緒のほうがいいだろうということで、ボス戦はしなかった。
マジックバッグがいっぱいになることはないが、全部採りつくすわけにはいかないからと転々としながらも果物を集め、ゆうに三か月はもつだろうという量を採ってダンジョンから出た。
そして帰る日はリンの店でポーションを買い、道中食べてとお弁当まで用意してくれたリン。マドカが気に入るはずだと納得し、帰りもドラゴンの姿になってドラール国へと帰ってきた。
「お帰り! リンはどんな様子だった? 容姿とか」
「容姿は前世のままだった。まあ、異世界転移したんだから、当然だな。それと従魔がたくさんいて、とても元気そうだったぞ?」
「従魔!? え、薬師なんだよな? なのに従魔がいるのか?」
「ああ。神酒が作れるそうでな……それで酷い怪我を治したら懐かれて、従魔になってくれたんだと」
『神酒!?』
リンの様子やリンがどうしているのかなどの話をしたら、やはり神酒のところで驚かれた。そうなるよなあ……と思いつつ、とにかくアイデクセに拠点を買ったこととリンの店に近いことも告げ、雪解けが来たらアイデクセに行こうと話し合った。
行くのは冒険者となっている、リンを直接知っている十人だ。他のメンバーはドラールに残り、生産を続けるという。
なので、ドラールでのリーダーを別の人間に任せ、もしなにかあったら連絡するように伝えた。必ず戻ってくるからと。
まあ、今のところなんの問題も起きていないようで、連絡はない。
そしてリンがこの世界に来た経緯を踏まえ、アントス神を殴りに行くことも決め、行動に移す。
結局俺は殴ることはしなかったが、みんなは喜々として殴っていたと言っておこう。
そして雪解けが来てすぐ、馬車に乗って移動する。空を飛んでもいいんだが、ミユキに子どもがいる以上、無理はさせられなかった。
それに、急ぎではあるが急ぐ旅でもない。リンが店を構えている以上、アイデクセの王都から逃げるようなことはないのだから。
「今後が楽しみだな」
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