転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮

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番外編

アントスのやらかし

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 ゼーバルシュ世界の神、アントス。時空神と一緒に運営してはいるが、基本的にアントスが世界を見ている。時空神も同じ神格であったがために、時間と空間を維持するので手一杯だったのだ。
 そんなアントスと時空神の位は下級神。神になってまだ日が浅いのだが、下級にしてはよくやっているほうであった。
 ただし、時空神はともかくアントスは案外おっちょこちょいらしく、しばしばやらかしては上司である上級神に叱られていた。

「アントス、あなた、またやったわね⁉」
「え? なにか間違っていましたか?」

 隣の界にいる上級神であり、アントスの上司でもあるアマテラス。その手にはハリセンと呼ばれる、紙で作られた扇のようなものが握られていた。
 しかもハリセンの紙は厚紙を使ってはいるがダンボールくらいの厚さがあり、神の御業で壊れないようになっていた。
 そのハリセンを振りかぶり、アントスの後頭部に叩きつけるアマテラス。
 スパコーン! と小気味いい音がすると同時に、アントスが机に突っ伏し、その額を強かに打ち付けた。

「いっ……!」
「ゲームのような設定はあんたにはまだ早いって言ったでしょう! どうしてレベルだけじゃなく、スキルやパラメーターまでこの世界に導入したの!」
「あ、え? その、面白そうでしたから」
「確かに面白いし、それで成功している神もいらっしゃるわ。た・だ・し・! それは一度なにもない状態できちんと星を管理して最期までできた場合からであって、いきなりやれることではないの」

 レベルアップによるステータス管理――HPやMPだけならばまだ管理が楽だっただろう。だが、アントスはそこにスキルと他の要素を盛り込んでしまったのだ……素早さや器用さ、攻撃や防御の数値などを。
 それを、種族に関係なく統一すればいいものを、アントスは神の下僕に近い状態である魔神族や、ただでさえ身体能力が高いドラゴン族と獣人族に高い数値を割り振ってしまったものだから、あまり力の強くない人族が、一番弱い状態になってしまったのだ。
 その指摘を受け、アントスは青ざめる。

「種族に関係なく平等にしたのなら、まだよかった。けれど、ただでさえ高い能力がある三種族を余計に高くしてしまったら、いろいろな職業も含め、彼らに駆逐されるでしょ!」
「あ……!」
「さあ、考えなさい、アントス。彼らを駆逐させたいのか、弱体させるのかを」

 アマテラスに指摘され、アントスは考えた。医師はどの種族にも必要だし、魔力が寿命の長さを図っている以上、別の種族に仕えるというのも難しい。
 なら、どうするか。
 アントスは、必ず必要な職業に対し、どうしても必要なものとあまり必要ではない職業を考え、それは種族に関係なく〝できる〟ようにした。その中でも、今までは医師が薬師の役目を負っていたのを切り分け、冒険者が使うようなものはポーションに、そうでない場合は医師にかかるようにというふうに、仕事を分けた。
 その中でも薬師と鍛冶は必要ではあるが、もともと種族間でも差があったために、エルフと人族は薬師が得意な職業に、ドワーフは鍛冶が得意になるように調整したのだ。
 その種族もなれないことはないが、魔力が高ければ高いほどいいポーションや武器ができてしまうために、どうしても魔神族とドラゴン族と獣人族を不器用にせざるを得なくなってしまった。
 その事実にぶちあったアントスは、頭を抱えた。こんなはずではなかったと。
 もし贔屓せずに均等な能力、あるいは器用さはドワーフとエルフ、力は獣人、魔力は魔神族、身体能力はドラゴン族など、どれか一点を高いものしたのであればよかったのだろうが、アントスはそれすらもしなかったのだから、上司であるアマテラスが怒るのも無理はないだろう。
 運営前の実験段階であれば、そのような修正ができた。だが、すでに運営は始まっており、修正は神のルールで〝たった一度〟と決められている以上、直すこともできない。

 それが『二回目に』やらかしたことだった。

 初めてのやらかしは、大陸の配置である。一番大きな大陸を中央に置き、その東西南北に二回りほど小さな島を配置した。
 問題は特にあるわけではないが、その気候の配置を間違ったのだ。
 アントスが管理する星は一応球状ではあるが、配置が微妙なために、暑さ加減を間違えた。

 なぜ極点にあたる南大陸の最南端に砂漠があるのかとか。
 間に海を配置せず、橋で繋げられる距離にあるのかとか。

 悪いわけではないが、さすがにそれはダメだろう。まるで、大陸ごとに結界が張られ、隔離されているようになってしまう。そうすると温度を含めた管理が大変になってしまうのだ。
 それ故に、アントスはまたもや上司にハリセンでしばかれ、こんこんと説教され、現在の形になった。
 中央に大きな大陸と東西南北に小さな大陸が配置されているのは変わらないが、島のサイズを小さく変更して斜めなどにずらし、それぞれの大陸は船で二日前後、最長で一週間かかる距離まで離された。
 もちろん、地殻変動でそれぞれの大陸が離れたようにみせるため、近いところには間に大小様々な島も配置したのは言うまでもなく、気候も地球を倣った形に変更されたのは言うまでもない。

 そして次にやらかしたのは、それぞれの大陸に召喚魔法を教えたことだった。
 初めは魔物がとても多く、〝冒険者〟という職業がなかった。騎士や兵士たちが魔物を狩っていたが、死ぬ数が多かったのだ。それを手伝ってほしいという願いから召喚魔法を教えた。
 が、中央と北以外の大陸はすぐにその危険に気づいたし、逆の立場になったらと考え、すぐに召喚陣と魔法を破棄して、二度ほど使った以外はすぐに使用をやめたり破棄したりして、二度と使うことはなかった。
 だが、北大陸は他の大陸の国々からその危険さを教わったというのに、結局召喚を止めることはなかったのだ。そして堕落し、いつしか簡単なことでも人を召喚することになってしまった。
 そうなってしまえば、なにもしなくなる。
 堕落して、他人任せになる。
 召喚された人たちが技術などを教えてくれるが、それを学ぼうとはしなくなってしまったのだ。
 そして些細なことでも召喚するようになり、隣の界を隔てている結界に穴が開いてしまった。
 召喚するということは別次元の人間をそこにぶことになる。
 アントス自身がまだ下級神のため、もし繋がっている世界が中級神や上級神が管理する世界なら、〝落とす〟ことになる。
 その危険を、ハリセンとともにアマテラスとツクヨミに指摘され、青ざめながらも時空神と協力して穴を塞いでいた。

 あと一回穴を塞げば終わりとなっていたが、その穴はとても大きかった。北大陸の堕落した国々が毎日のように召喚をしていたがために穴が大きくなってしまっていたのだ。
 穴が大きいと、召喚は簡単に成功してしまう。そして塞いでいる側から召喚している。これでは塞ぐどころの騒ぎではないと時空神と相談し、二千年前まで遡って召喚関連のあれこれを消滅・改変し、二度と召喚できなくした。
 のはいいのだが、穴を塞いでいる途中で髪飾りが落ちてしまい、それが原因で召喚とは比べ物にならないことをやらかしていたことに気づかなかったのだ。
 その事実に最初に気づいたのは、その人物の背後にいた守護霊でもある守護者だった。守護者は神に報告する義務があるため、守護者関連の神様にそのことを報告、そこからまた別の神に話が伝わる。
 その話に慌てたのが日本の神のお一人である、オオクニヌシだった。
 オオクニヌシは慌ててアマテラスに報告すると、彼女はすぐにツクヨミと一緒にアントスのところに行き、特大のハリセンを出すと、二人してアントスの頭と体を殴る。
 そしてアントスがやらかしたことを話すと、アントスは顔色を真っ白にした。すぐにいろいろと準備し、アマテラスはその対応をするために日本に戻ると告げ、ツクヨミにその場を任せたのだ。
 そしてすぐにメールを送って神界に呼び寄せ、土下座でお詫びしたのが、鈴原 優衣こと、リンである。

 その彼女の関連で、彼女をよく知っている人々を転生させると決めたアマテラスとツクヨミは、アントスに『必ず、優衣の近くに転生させなさい』と言い聞かせていたというのにそこでもやらかして、三貴人だけではなく他の神々すらも激怒させ、ハリセンから鉄扇に変えてアントスをはりたおし続けた。
 それがヨシキたち、リンに近しい者たちだ。しかも、親代わりでもあった一番近しいはずの院長にはリンのことすら説明せず、普通~に狼族に転生させたのだから、神々が激怒するのは当たり前のことだ。
 しかも、激怒したのは八百万の上位神たちすべてである。上級神である彼らから殴られたのだから怪我がそう簡単に治らなかったのは言うまでもなく、その醜態をリンやヨシキたちに見せたのも罰のひとつであった。
 そしてアントスのやらかしは、ヨシキたち【アーミーズ】とハインツの知るところとなり、迷惑をかけられた本人のリンだけではなく、彼らからも追加で殴られたのは当然のことであろう。

 そしてリンとエアハルトたちが神となり、その従魔たちが神の使徒や護衛となってからもアントスはたまにやらかし、新人の神二人や上級神にハリセンで殴られることになるのは、言うまでもない。

 アントスはおっちょこちょいなだけで、基本的には慕われている神である。ただし、現在地上にいる人間にはまったく影響がないため、その事実を知らないのだ。
 そんなアントスのやらかしを話したらどうなるんだろう……? と考えたこともあるリンとエアハルト、そして従魔たちと眷属たちだが、それは自分たちの神格も落とす行為になるとアマテラスから聞いてからは、そういったことは考えず、無言でハリセンを出すようになったのだった。

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