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番外編
リンとエアハルトの○○
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エアハルトさんと結婚して二か月。蜜月を過ごしてすぐ、体調を崩してしまった。それを心配したエアハルトさんに付き添われ、一緒に父の診療所に来ている。
「パパ……」
「お義父さん……」
「うん……妊娠二か月ってところかな」
「「え……っ」」
「おめでとう!」
父の言葉に一瞬なにを言われたのかわからなかったけど、その言葉を理解すると、じわじわと嬉しさが込み上げてくる。それはエアハルトさんも同じだったんだろう。一瞬茫然としたあとで破顔した。
「優衣、よくやった!」
「エアハルトさん……」
「お義父さん、ありがとうございます! ああ、なにを用意すればいいですか?」
「とりあえず、今は栄養のあるものや軽い運動を。ダンジョンに行くのであれば、特別ダンジョンの一階で薬草採取のみだ」
「ええ~⁉ ビーン狩りをしたいし、下層や他のところにも行きたい!」
「その場合は、いつものように従魔たちと眷属たち全員を連れて、なおかつ採取だけ。戦闘はなしだ」
ガーン! 戦闘はダメだと言われてしまった。ま、まあ、それで流れたなんてさすがに罪悪感が出るから、しっかり守るつもりでいるけど、きっと信用されていないんだろうなあ……。
それを肯定するかのように、エアハルトさんが真剣な顔をして、父に話しかける。
「俺が一緒に行ったほうがいいですか?」
「ロキとラズに言えば大丈夫だろう。なあ、ロキ、ラズ」
<我らが動けばあっさりと倒せるしな>
<スミレと一緒に、リンをぐるぐる巻きにしてもいいよ>
<リンガ動カナイヨウニスルノ、手伝ウ>
「げっ!」
「ラズとスミレが一緒にリンを止めてくれるなら、安心だな」
ホッとしたように笑みを浮かべるエアハルトさんと、苦笑する父。くそう……こういうときばかりは、ロキもラズも、そして従魔たちも眷属たちも、〝私を護る〟というので一致団結してしまうから私の意見が通ることはない。
今のところは特になにもないからとそのまま店に戻り、留守番をしてくれた母にも妊娠したことを告げると喜んでくれた。そして父同様にロキとラズに「戦闘をさせるな」と言われていたので、つい凹んでしまった。
そのまま体調をみつつ店をやり、具合が悪くなりそうなら二階の寝室で寝なさいと母に厳命され、しっかり守った。そうじゃないと、店に出させないと母だけじゃなくエアハルトさん、従魔たちや眷属たちにまで言われてしまっては、守らざるを得ない。
そしてエアハルトさんはといえば、自宅ではとても激甘状態だった。
すっごく嬉しいのか、ことあるごとにキスをしてくる。唇だけじゃなくて、頬や額、鼻先や挙げ句には髪にまでキスをしてくる始末。しかも、朝起きてからはもちろんのこと、店に行くときやエアハルトさんたちがダンジョンに行くときは当然だし、一緒の休みのときは私を膝の上の乗せ、抱きしめたままでいたりするのだ……!
え……? 魔神族って、こんな状態になるの?
アントス様に聞いておけばよかったなあ……とは思うものの、後の祭り。ずっと照れっぱなしなのは癪だから、お返しにとエアハルトさんにキスをしたんだけど、それが煽る形になってこっちが余計に恥ずかしいことになったのは言うまでもない。
ドラゴン族以外は、前の世界と変わらない妊娠期間だそうで、まったく経験のない私は不安でしょうがなかった。だけど、近くには母がいるし、お義母さんもいる。そしてマドカさんも。
三人からどうすればいいのかなどのアドバイスをもらいながら日々を過ごし、順調にお腹の子は育っていく。
「あ、動いた! エアハルトさん、動きましたよ!」
「どれ……。おお、活発な子だな」
「ですよね~」
<ラズも触ってみたい!>
「いいよ。おいで」
<わーい!>
ソファーに座ってハーブティーを飲んでいたら、お腹に軽い衝撃が。ふと触ってみれば、中からポコンと蹴った感じがした。隣にいたエアハルトさんの手が伸びてきて私のお腹に触ると、感動したように破顔している。
そして興味津々なラズが触ってみたいというので触らせると、一瞬驚いたあと、ぴょんぴょんと跳ねる。嬉しかったみたい。
ラズを皮切りに他の従魔たちも寄ってきて、それぞれの方法で私のお腹を触っていく。神獣たちが祝福をしてくれているみたいで、とても嬉しかった。
そして臨月が来る前になると、私は店に出ることを禁止された。神酒さえ作ってくれればあとは母が全部見てくれるというので、お願いしたのだ。そして突然きた陣痛にエアハルトさんを呼び、父を連れてきてもらうようにお願いする。
この世界の医師は、産婦人科も兼ねているのだ。もちろんお産婆さんもいるけど、今回は前世の職業を生かした母が取り上げてくれるというので、安心して任せることができた。
どれくらい陣痛と戦ったかわからないけれど、「おぎゃー!」という鳴き声が聞こえてきて、無事に生まれたことを知った。
「男の子よ、優衣」
「おお~、ありがとう、ママ、パパ……。あ、エアハルトさん……」
「よく頑張った、優衣……。今は疲れているだろうから、ゆっくりな」
「はい」
しばらくはベッドから出たらダメだと両親に言われている。この世界には機械などないし、立ち仕事はさせられないからと。そこは日本と同じ、らしい。
食事の支度はエアハルトさんと母がしてくれて、私はすることがない。ポーション作りすらさせてもらえなかったのだ。
こればかりは仕方がないけど、神酒が足りるか心配になってしまう。まあ、結局は、私が動けるようになるまで、在庫は大丈夫だったけどね。
お客さんである冒険者のみなさんがお祝いをしてくれて、義両親、そして義弟たちもお祝いしてくれた。みなさんがくれたものは産着や布団、布のオムツやおもちゃだ。そしてベビーベッドは【アーミーズ】がくれた。
どれもこれから必要なものだから、本当に助かった。
まあ、ここからが大変だったんだけどね!
ローデリヒと名付けられた長男は、とにかく元気な子だった。よく笑い、よく泣き、よく寝る子だった。
寝ている間はいいけど、起きるととにかく元気に動く。母が作ってくれたモビールを見て手を伸ばして触ろうするし、まだ起き上がれないというのに、起き上がろうとするし。
だから、私かエアハルトさんと二人の従魔たちが常に見張っている状態だった。
そして泣き始めるととにかく大きな声で泣く。防音の結界が張ってあるから外に漏れることはないけど、本当に大きな声で泣くものだから、喉が心配になってしまうくらいだ。
ただ、それは機嫌が悪いからなのか、おっぱいなのか、おむつなのかがわからない泣き方だったから、とにかくローデリヒの特徴を掴むまでは大変だったのだ。
どうしたらいいかわからなくて、母やマドカさん、お義母さんに聞いたこともあるし、手伝ってもらったこともある。
「あらあら。エアハルトのときと同じねぇ、ローデリヒは」
「そう、なんですか?」
「ええ。エアハルトもよく泣いて笑って、手足をばたつかせていたわね。さすが親子だわ」
懐かしいわ、と笑ったお義母さんは、エアハルトさんのときにしていた対処を覚えていて、それを私に教えてくれたのだ。それからだよ……ローデリヒの扱いがうまくなったのは。
エアハルトさんもそれを聞いて恥ずかしそうに耳を赤くしていたけど、庭で従魔たちと遊ばせるようになってからは、機嫌が悪くて泣く……ということが減っていった。
そして三年後に長女のクリスティンが生まれたが、比較的楽だった。母曰く、女の子というのもあるという。
さらに三年後ハーラルトが生まれ、もしかしら……と思ったけどそんなことはなく、ハーラルトはともおとなしい子だった。さらにその三年後に次女のアンナが生まれたが、アンナはローデリヒと同じだった。
それぞれが一度は経験した子育てが役に立ち、子どもを産むごとにどっしりと構えていられたのが救いかな。あと、アレクさんとナディさんたちの子どもたちや、私の弟妹にあたる子もいて、母を交えて一緒に相談しながら子育てをしたから助かっていたことも大きいと思う。
そうでなければ、きっとどこかで子どもにつらく当たったり、心が疲弊していたと思う。
そういう意味では、近くに【フライハイト】や【アーミーズ】のメンバー、両親と義両親がいてくれたのは感謝しかない。
彼らが大きくなって、それぞれがやりたいことを口にしたとき、性格が出たなあって思ったよ。
それぞれの子どもたちが自分の道を決めて、成人したあとは私たちに相談しながら歩み始めた。それまではとにかく大変で、だけど賑やかな楽しい家庭だった。
笑いが絶えないっていうのはいいことだなあって、このとき初めて思ったっけ。
子どもたちには孤児だったことは話したけど、転移してきたことは話していない。言ったところで、いまさらな話だし、意味がないから。
それは、エアハルトさんと話し合って決めたことだった。
懐かしい夢を見たなあ……って、神界から地上を眺める。視線の先には、薬師になって頑張っている孫とひ孫たち。
三人で一生懸命、薬草をすり潰し、神酒を作っているのだ。
「頑張ってね」
聞こえないとわかっていても、つい声をかけてしまう。けど、三人には聞こえたんだろう。きょろきょろとあたりを見回したあと三人で目を合わせ、力強く頷いていた。
「パパ……」
「お義父さん……」
「うん……妊娠二か月ってところかな」
「「え……っ」」
「おめでとう!」
父の言葉に一瞬なにを言われたのかわからなかったけど、その言葉を理解すると、じわじわと嬉しさが込み上げてくる。それはエアハルトさんも同じだったんだろう。一瞬茫然としたあとで破顔した。
「優衣、よくやった!」
「エアハルトさん……」
「お義父さん、ありがとうございます! ああ、なにを用意すればいいですか?」
「とりあえず、今は栄養のあるものや軽い運動を。ダンジョンに行くのであれば、特別ダンジョンの一階で薬草採取のみだ」
「ええ~⁉ ビーン狩りをしたいし、下層や他のところにも行きたい!」
「その場合は、いつものように従魔たちと眷属たち全員を連れて、なおかつ採取だけ。戦闘はなしだ」
ガーン! 戦闘はダメだと言われてしまった。ま、まあ、それで流れたなんてさすがに罪悪感が出るから、しっかり守るつもりでいるけど、きっと信用されていないんだろうなあ……。
それを肯定するかのように、エアハルトさんが真剣な顔をして、父に話しかける。
「俺が一緒に行ったほうがいいですか?」
「ロキとラズに言えば大丈夫だろう。なあ、ロキ、ラズ」
<我らが動けばあっさりと倒せるしな>
<スミレと一緒に、リンをぐるぐる巻きにしてもいいよ>
<リンガ動カナイヨウニスルノ、手伝ウ>
「げっ!」
「ラズとスミレが一緒にリンを止めてくれるなら、安心だな」
ホッとしたように笑みを浮かべるエアハルトさんと、苦笑する父。くそう……こういうときばかりは、ロキもラズも、そして従魔たちも眷属たちも、〝私を護る〟というので一致団結してしまうから私の意見が通ることはない。
今のところは特になにもないからとそのまま店に戻り、留守番をしてくれた母にも妊娠したことを告げると喜んでくれた。そして父同様にロキとラズに「戦闘をさせるな」と言われていたので、つい凹んでしまった。
そのまま体調をみつつ店をやり、具合が悪くなりそうなら二階の寝室で寝なさいと母に厳命され、しっかり守った。そうじゃないと、店に出させないと母だけじゃなくエアハルトさん、従魔たちや眷属たちにまで言われてしまっては、守らざるを得ない。
そしてエアハルトさんはといえば、自宅ではとても激甘状態だった。
すっごく嬉しいのか、ことあるごとにキスをしてくる。唇だけじゃなくて、頬や額、鼻先や挙げ句には髪にまでキスをしてくる始末。しかも、朝起きてからはもちろんのこと、店に行くときやエアハルトさんたちがダンジョンに行くときは当然だし、一緒の休みのときは私を膝の上の乗せ、抱きしめたままでいたりするのだ……!
え……? 魔神族って、こんな状態になるの?
アントス様に聞いておけばよかったなあ……とは思うものの、後の祭り。ずっと照れっぱなしなのは癪だから、お返しにとエアハルトさんにキスをしたんだけど、それが煽る形になってこっちが余計に恥ずかしいことになったのは言うまでもない。
ドラゴン族以外は、前の世界と変わらない妊娠期間だそうで、まったく経験のない私は不安でしょうがなかった。だけど、近くには母がいるし、お義母さんもいる。そしてマドカさんも。
三人からどうすればいいのかなどのアドバイスをもらいながら日々を過ごし、順調にお腹の子は育っていく。
「あ、動いた! エアハルトさん、動きましたよ!」
「どれ……。おお、活発な子だな」
「ですよね~」
<ラズも触ってみたい!>
「いいよ。おいで」
<わーい!>
ソファーに座ってハーブティーを飲んでいたら、お腹に軽い衝撃が。ふと触ってみれば、中からポコンと蹴った感じがした。隣にいたエアハルトさんの手が伸びてきて私のお腹に触ると、感動したように破顔している。
そして興味津々なラズが触ってみたいというので触らせると、一瞬驚いたあと、ぴょんぴょんと跳ねる。嬉しかったみたい。
ラズを皮切りに他の従魔たちも寄ってきて、それぞれの方法で私のお腹を触っていく。神獣たちが祝福をしてくれているみたいで、とても嬉しかった。
そして臨月が来る前になると、私は店に出ることを禁止された。神酒さえ作ってくれればあとは母が全部見てくれるというので、お願いしたのだ。そして突然きた陣痛にエアハルトさんを呼び、父を連れてきてもらうようにお願いする。
この世界の医師は、産婦人科も兼ねているのだ。もちろんお産婆さんもいるけど、今回は前世の職業を生かした母が取り上げてくれるというので、安心して任せることができた。
どれくらい陣痛と戦ったかわからないけれど、「おぎゃー!」という鳴き声が聞こえてきて、無事に生まれたことを知った。
「男の子よ、優衣」
「おお~、ありがとう、ママ、パパ……。あ、エアハルトさん……」
「よく頑張った、優衣……。今は疲れているだろうから、ゆっくりな」
「はい」
しばらくはベッドから出たらダメだと両親に言われている。この世界には機械などないし、立ち仕事はさせられないからと。そこは日本と同じ、らしい。
食事の支度はエアハルトさんと母がしてくれて、私はすることがない。ポーション作りすらさせてもらえなかったのだ。
こればかりは仕方がないけど、神酒が足りるか心配になってしまう。まあ、結局は、私が動けるようになるまで、在庫は大丈夫だったけどね。
お客さんである冒険者のみなさんがお祝いをしてくれて、義両親、そして義弟たちもお祝いしてくれた。みなさんがくれたものは産着や布団、布のオムツやおもちゃだ。そしてベビーベッドは【アーミーズ】がくれた。
どれもこれから必要なものだから、本当に助かった。
まあ、ここからが大変だったんだけどね!
ローデリヒと名付けられた長男は、とにかく元気な子だった。よく笑い、よく泣き、よく寝る子だった。
寝ている間はいいけど、起きるととにかく元気に動く。母が作ってくれたモビールを見て手を伸ばして触ろうするし、まだ起き上がれないというのに、起き上がろうとするし。
だから、私かエアハルトさんと二人の従魔たちが常に見張っている状態だった。
そして泣き始めるととにかく大きな声で泣く。防音の結界が張ってあるから外に漏れることはないけど、本当に大きな声で泣くものだから、喉が心配になってしまうくらいだ。
ただ、それは機嫌が悪いからなのか、おっぱいなのか、おむつなのかがわからない泣き方だったから、とにかくローデリヒの特徴を掴むまでは大変だったのだ。
どうしたらいいかわからなくて、母やマドカさん、お義母さんに聞いたこともあるし、手伝ってもらったこともある。
「あらあら。エアハルトのときと同じねぇ、ローデリヒは」
「そう、なんですか?」
「ええ。エアハルトもよく泣いて笑って、手足をばたつかせていたわね。さすが親子だわ」
懐かしいわ、と笑ったお義母さんは、エアハルトさんのときにしていた対処を覚えていて、それを私に教えてくれたのだ。それからだよ……ローデリヒの扱いがうまくなったのは。
エアハルトさんもそれを聞いて恥ずかしそうに耳を赤くしていたけど、庭で従魔たちと遊ばせるようになってからは、機嫌が悪くて泣く……ということが減っていった。
そして三年後に長女のクリスティンが生まれたが、比較的楽だった。母曰く、女の子というのもあるという。
さらに三年後ハーラルトが生まれ、もしかしら……と思ったけどそんなことはなく、ハーラルトはともおとなしい子だった。さらにその三年後に次女のアンナが生まれたが、アンナはローデリヒと同じだった。
それぞれが一度は経験した子育てが役に立ち、子どもを産むごとにどっしりと構えていられたのが救いかな。あと、アレクさんとナディさんたちの子どもたちや、私の弟妹にあたる子もいて、母を交えて一緒に相談しながら子育てをしたから助かっていたことも大きいと思う。
そうでなければ、きっとどこかで子どもにつらく当たったり、心が疲弊していたと思う。
そういう意味では、近くに【フライハイト】や【アーミーズ】のメンバー、両親と義両親がいてくれたのは感謝しかない。
彼らが大きくなって、それぞれがやりたいことを口にしたとき、性格が出たなあって思ったよ。
それぞれの子どもたちが自分の道を決めて、成人したあとは私たちに相談しながら歩み始めた。それまではとにかく大変で、だけど賑やかな楽しい家庭だった。
笑いが絶えないっていうのはいいことだなあって、このとき初めて思ったっけ。
子どもたちには孤児だったことは話したけど、転移してきたことは話していない。言ったところで、いまさらな話だし、意味がないから。
それは、エアハルトさんと話し合って決めたことだった。
懐かしい夢を見たなあ……って、神界から地上を眺める。視線の先には、薬師になって頑張っている孫とひ孫たち。
三人で一生懸命、薬草をすり潰し、神酒を作っているのだ。
「頑張ってね」
聞こえないとわかっていても、つい声をかけてしまう。けど、三人には聞こえたんだろう。きょろきょろとあたりを見回したあと三人で目を合わせ、力強く頷いていた。
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