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5巻

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 ま、まあ、うちの店の隣にある鍛冶屋のゴルドさんによると、神話の時代に出てくる大鎌と同じ名前だそうだから、納得ではある。
 ただね……ビルさんとローマンさん、途中で見学に加わっていた騎士たちがエアハルトさんに詰め寄って、私を見ながらひそひそと話していたのはなんでかな!? 
 すっごい気になるんだけど! 
 その後、正規の騎士の訓練も見学させてもらい、一緒にダンジョンに潜った人たちと話をしたりしてから訓練場を出た。
 ずっと見ていたかったけど、そろそろお昼になるとエアハルトさんに言われたのだ。
 どうりでお腹が空いてきたなあと思ったよ。
 ビルさんや他の騎士たちに「また一緒にダンジョンに潜ろうな!」って言われて嬉しかったな。私も一緒に潜って、こんなに成長したよ! ってところを見せたいけど、お店のお休み次第だからこればかりはどうしようもない。
 私は薬師であって、冒険者じゃないんだから。


 そんなこんなでお城を出ると、辻馬車に乗って中央地区に戻る。
 エアハルトさんが今回連れていってくれたのは、以前話していた従魔を連れて入れるお店だった。
 外観は白い壁で看板が鳥の形になっている。扉には『開店中』と書かれた木のプレートがぶら下がっていて、それは猫の形になっていた。おお、凝ってる~。
 ドアを開けるとチリリンと鈴の音が鳴り、「いらっしゃいませ~」と奥から女性の声が。

「あら~、エアハルト様~。お久しぶりねぇ~」
「久しぶり。二人と彼女の従魔が二匹なんだが、いいか?」
「あらあらまあまあ! こちらにどうぞ~」

 にこにこした女性は店長さんなのかな? 足を引きずっているのが少し気になるけど、とても姿勢がいい女性だ。おっとりとした雰囲気の細身の女性。
 エプロンをしているからわかりにくいけど、お胸様がすんごくおっきい! 
 歩くたびにたゆん、たゆん、と揺れるお胸様に、中にいた男性たちの顔がだらしないことになっている。エアハルトさんもなのかなあ、って思ってこっそり見たらそんなことはなく、私が見ているのがわかったのか、不思議そうな顔をしながらもにっこり笑った。
 その笑顔に、今度は店内にいた女性たちが反応している。
 気持ちはわかるけど……もやもやする~! 
 それはともかく、お昼時とあってか店内は満席だ。
 どこに行くのかと思えば店内を通り過ぎて、案内されたのは中庭だ。
 オープンガーデンのようになっていて周囲は樹木や花に囲まれている。
 こっちはまだそんなにお客さんがいないみたい。それに、人の近くには従魔なのか魔物たちがいた。

「このお席にどうぞ~。こちらは従魔がいる人専用の席だから、安心してね~」
「ありがとうございます。雨が降った場合はどうするんですか?」
「そのときは~、ここに~、パラソルを挿すのよ~。あと陽射しが強い夏もね~」
「なるほど~」

 試しにと腰に着けていたバッグから大きな傘を出すお姉さん。柄の部分をテーブルに挿し、突起を押すとゆっくりと持ち上がって広がった。
 おお~、本当にパラソルだ! 
 西の大陸からドラール国を通じて伝わった技術で、渡り人が伝えたものなんだって。
 凄いなあ、召喚された人って。傘の構造なんて知らないよ、私。
 お姉さんはメニューを置いたあと、店内から呼ばれて行ってしまった。

「さて、なにを食べようか」

 エアハルトさんはニコニコとしながらメニューを覗き込んでいる。

「おすすめはありますか?」
「冬の時期ならシチューをすすめるところだが……」
〈ラズはシチューがいい!〉
〈スミレモ!〉
「野菜たっぷりって書いてあるもんね。なら、私もそれにします」

 シチューにサラダとパンが付いたセットをふたつと、単品でスミレサイズのシチューを頼むことにする。飲み物はミントティーにした。
 ラズがかなり食べるから、セットのひとつはラズに、もうひとつは私とスミレでサラダとパンを分け合うことに。
 エアハルトさんは動いてお腹が空いているからなのか、ステーキのセットを食べるみたい。お肉はオークだって。
 食べるものが決まったので、近くを通りかかった男性店員さんに声をかけるエアハルトさん。
 おお、猫とは違うとがった耳だ~。尻尾の先が白くなっているから、キツネの獣人さんかな? 
 ラズとスミレを珍しそうに見ていたけど、笑顔で注文を聞いてくれるお兄さん。

「スライムと蜘蛛は珍しいですね。飲み物はいつお持ちいたしますか?」
「先でいいか? リン」
「はい」
「先でお願いします」
「かしこまりました。って……リン? もしかして、薬師のリン様ですか?」
「え……?」

 なんで知っているんだろう、この人。
 そんなお兄さんを警戒したように見るラズとスミレ。
 そしてエアハルトさんに、慌てて「ち、違うんです!」って否定するお兄さん。
 なにが違うんだろう? 

「うちの店には従魔を連れた冒険者の方がよくおいでになるのですが、彼らがリンという名前の薬師が作るポーションの出来がいいと仰っていましたので、それで……」
「ああ、なるほどな。最近はテイマーじゃなくても、従魔を連れている冒険者が増えたし」
「そうなんです」

 情報元は冒険者かー! それはどうしようもないよね。
 それに、お兄さんの友達が冒険者をやっているそうで、その人が私の店でポーションを買うようになってから、目に見えて怪我して帰ってくる回数が減ったという。
 いつも心配していたから、怪我が少なくなって嬉しいと笑うお兄さん。

「そうなんですね! そういう話を聞くと、私でもお役に立てているんだなあって嬉しくなります」
「いえいえ。っと、すみません、長々と。すぐに飲み物をお持ちしますね」

 仕事中だったことを思い出したのか、お兄さんは慌てて店内に戻った。
 それと入れ違いで、「エアハルトとリン?」と声をかけられた。
 振り向くと、そこにいたのは、『あおやり』のリーダーであるスヴェンさんと、パーティーメンバーで魔導師のアベルさんだった。

「こんにちは」
「こんにちは。今日はこっちに来てたのか」
「はい。この街に来てからゆっくりしてないだろうって、エアハルトさんが誘ってくれたんです。お城の開放日だからと、さっきまでお城にいました」
「なるほどなあ。あ、同席してもいいか?」
「俺はいいぞ」
「私もいいですよ」

 四人掛けのテーブルだったので私が移動しようとしたら、エアハルトさんが隣に移動してきた。空いた席にスヴェンさんとアベルさんが座ると、さっきのお兄さんがドリンクを持ってくる。
 スヴェンさんたちはどうやら先に注文をしていたらしく、ドリンクが一緒にあるみたい。

「あれ? アベルたちとリン様は知り合いかい?」
「知り合いもなにも。リンの店の常連客ですし、ダンジョンで一緒に戦ったことがありますよ」

 キツネ獣人のお兄さんの言葉に、アベルさんが笑いながら事情を話す。

「アベルさんに魔法を教わりました」
「そうなんですね! あ、さっき話したボクの友達はアベルなんです。最近はアベルとスヴェンが店に来てくれるので、助かっています」
「そうなんですね。あと、様づけはやめてください。リンだけでいいですよ」

 平民だからと伝えると、頷いてくれた。いい人だな~。
 お兄さんが店内へ戻ると、従魔の話になった。
 アベルさんの肩には初めて見る鳥型の従魔がいる。
 初めて会ったときは連れていなかったからどうしたのか聞くと、今年に入ってから森の中で怪我しているのを発見したそうだ。魔法で治してあげたら懐かれて、従魔契約をしたんだって。

「スミレやロキたちみたいな話だな」

 懐かしむような表情をしたエアハルトさん。

「そうですね」
「スミレも怪我を治してもらったのですか?」

 アベルさんは鳥型の従魔を撫でながらスミレに話しかけている。

〈ウン。取レテタ脚モ、ソーマデ治シテクレタ〉
「そうですか。優しい主人でよかったですね」
〈ウン!〉

 嬉しい気持ちを隠すことなく喜ぶスミレに、アベルさんは優しげな表情で微笑む。
 そのあとで鳥型の魔物はブランクという名前と教わった。
 最初はラズもスミレも、もちろんブランクも魔物同士で警戒していたけど、すぐに打ち解けて仲良くなった。
 それからすぐに料理も来て、みんなで話しながら食べていると、ふとアベルさんが真剣な目を私に向ける。
 どうしたんだろう? 

「リンは今、神酒ソーマを持っていますか?」
「ありますよ。どうしたんですか?」
「妻の怪我を……アリーセの足を治してほしいんです」

 アベルさんのいきなりの発言に、私は目を丸くした。
 突然の話だけど、まずは食事を終わらせてからということになり、先に食べる。
 というか、アベルさんに奥さんがいたことのほうが驚きだ。ダンジョンではそんな様子を一切見せなかったから。
 そんなことはともかく、さっさと食事を終わらせてアベルさんから詳しい話を聞いた。
 アベルさんいわく、彼が宮廷魔導師になったばかりのころ、先輩に連れてきてもらったこのお店で奥さんと知り合い、話しているうちに意気投合。
 数十年は友達付き合いをしていたけどいつしか恋愛感情が生まれ、お互い同じタイミングで告白しあい、付き合い始めたんだって。
 お付き合いを始めて二ヶ月くらいたったある日、お互いの休みを利用して出かけることに。奥さんがお弁当を作り、デートと称して森に遊びに行ったそうだ。
 そのときのアベルさんはデートで浮かれて油断していたそうで、ポーションもMPポーションも持たず、なんの警戒もせずにいたんだとか。
 近くの森だし、深いところに行かなければ、凶暴なボアやディアに出会うことはないからと。
 途中でご飯を食べたり休憩をしつつ、散策したり薬草を摘んだり果物を採ったりして遊んだそうだ。
 そうしているうちにいつもよりも遅い時間になってしまったので、急いで帰ろうと森から出る途中でホーンディアに襲われてしまったという。
 なんとかアベルさんが撃退したものの、二人とも怪我を負ったんだって。
 特に奥さんは大怪我を負ったんだとか。
 アベルさんの魔法で軽い怪我は治せたけど、それ以上綺麗に治すことができず、歩くことが困難な奥さんをおぶって帰ったらしい。
 当然のことながら、両家の両親から怒鳴られたと言っていた。
 元々の予定もあり、怪我が回復し、リハビリを経て歩けるようになってから結婚。
 奥さんはそのときに負った怪我で左足の指が二本ないから、いつも足を引きずるように歩いている。
 足だけではなく腰も一緒に痛めたみたいで常に痛そうにしていて、それからずっと医師の処方薬である痛み止めと湿布のお世話になっているそうだ。
 アベルさんはしばらくは宮廷魔導師としてお城勤めをしていた。
 だけど、そこを辞めて冒険者になったのも、奥さんのために上級や特別ダンジョンからごくまれに出る神酒ソーマが欲しかったからだと、とても辛そうに話してくれた。
 今はスタンピードを防ぐこともやりがいになっていて、冒険者を続けると言っている。
 そして奥さんは商人をしているそうだ。あと少しで商人ギルドのAランクに上がりそうではあるけど、ギルドランクは未だにB。
 私の店にはBランク以下は入れないから、一緒に店を訪れることができなかったそうだ。
 奥さんは冒険者として同じチームの仲間ではないし、使うと転売扱いになってしまうから、どうしようかとずっと悩んでいたらしい。

「リンが神酒ソーマを持っているのであれば、妻の怪我を治してあげたいのです。店で売っている商品を、個人的に買い取りたいなんて図々しいお願いだと承知しているのですが……」

 申し訳なさそうに目と顔を伏せるアベルさん。

「そういうのはもっと早く言ってくださいよ、アベルさん。全然図々しくないです。私たちは冒険者仲間じゃないですか」
「……! ありがとうございます、リン」

 アベルさんには魔法のことでお世話になったし、それくらいお安い御用ですよ~。
 そんな私の答えに、アベルさんは目を潤ませて頭を下げたので、慌てて普通にしてほしいとお願いした。
 アベルさんと話し合って、報酬は三回分の薬草採取依頼を一回分の値段で受けることになった。
 そして、四回目の採取依頼ではいつもの倍の薬草を持ってくるというので、それで頷いた。
 薬草総数の値段からすると、それでだいたい神酒ソーマ一本分の値段と同じくらいになるからだ。
 報酬が決まると、アベルさんが席を立って奥さんを連れてきた。
 なんとその奥さんはさっきの店長さんらしきお姉さんだった。
 そこでお互いに自己紹介。

「え、貴女がリンちゃんだったの~!?」
「ええ。とても凄い薬師だと話しましたよね? リンの神酒ソーマを使えばアリーセの足や腰を治せます」
「でも……」

 躊躇ためらうお姉さんことアリーセさんをアベルさんが一生懸命説得している。
 そして初めて神酒ソーマを見たらしいアリーセさんは【アナライズ】を発動させたのか、その値段や効果の高さに震えながら、やっとの思いで一口飲む。
 すると、すぐにアリーセさんの左足や腰のあたりが薄紫色に光り、消えた。

「…………痛く、ないわ……。ああ、アベル!」
「よかった! 本当にありがとうございます、リン」
「ありがとう~!」

 アベルさんもアリーセさんも涙ぐみながらお礼を言ってくれた。
 こういうときに薬師でよかったって思うんだよね。

「どういたしまして」

 アリーセさんが言うには、相当前の傷だし、薬を飲んでも腰の痛みが消えなかったみたいで、もうこれ以上治らないだろうと諦めていたんだって。
 だけど神酒ソーマを飲んですぐに腰の痛みも消え、今はなんともないと喜んでいる。
 そしてアリーセさんに足を確かめてもらうと、ちゃんと指が生えていた。
 おみ足も美しいです、アリーセさん。

「まあ! まあまあまあ! 傷まで綺麗に消えているわ~!」
「よかったな、アベル、アリーセ」

 スヴェンさんはアリーセさんとも親しいようで、自分のことにように喜んでいる。

「ええ! 本当にありがとう~! リンちゃんのぶんはあたしのおごりよ~!」
「ダメですよ、ちゃんと払います!」
「嫌よ~。お礼も兼ねているんだから~」

 涙ぐみながらも破顔したアリーセさんは、「特別サービスよ~」と言って私にカフェオレとミルクゼリーを、そして従魔三匹と男性三人にミルクプリンを置いていった。
 ラズとスミレ、ブランクは喜んで食べていたけど、男性たちは苦笑しただけだ。
 まさか、こんなところでカフェオレが飲めるとは思わなかった。
 カフェオレは父がお土産でくれたもの以外飲んだことがなかったからね。
 アベルさんが教えてくれたんだけど、このお店はアリーセさんのひいお祖父さんの代からやっているんだそうだ。お店で使っている豆は南大陸からの輸入品で、最高級のものなんだって。
 そんなアリーセさんのひいお祖父さんは渡り人だったらしく、コーヒーの淹れ方やカフェオレなどの作り方を家族に伝授し、今に至るらしい。
 ひいお祖父さんに会って話してみたかったけど、もう亡くなっているらしい。
 アリーセさんもお祖父さんやお父さんに教わっただけで、会ったことはないという。
 会えないのはとても残念だけど、特殊な経緯で異世界にやってきた私と違って召喚された渡り人の寿命は、この世界の人々の寿命の長さに比べたらかなり短いってアントス様が言っていた。
 だからアリーセさんも会えなかったんだろう。
 それでも、アントス様から事情を聞いていたから、渡り人の中にも幸せに暮らした人がいることに私は安堵あんどした。
 だけど、同じように話を聞いていたエアハルトさんがなにやら悩んでいる。
 私の寿命のことか、もしくは別のことか。寿命に関して話したっけ? と思ったけど、話すにしてもアベルさんとスヴェンさんがいるので、今は無理だ。
 帰ってから話せばいいかと軽くエアハルトさんの手を叩くと、ハッとしたような顔をしてから頷いた。
 そこからまたしばらく話をしたり従魔たちと遊び、いい時間になったので私たちは帰ることにする。アベルさんとスヴェンさんは中央で買い物があるとかで、その場で別れた。

「また来てね~」
「はい!」

 帰り際、忙しいだろうにアリーセさんが声をかけてくれたので、返事をする。
 さっきは足を引きずっていたのに、今はそんなことなく元気に動き回っているのを見て、よかった! と胸を撫で下ろした。
 辻馬車乗り場に行く前に桜を取りにいき、そのまま西地区に帰ってきた。エアハルトさんが荷物をひとつ持ってくれて、恐縮しっぱなしだ。
 馬車の中で、西地区にも従魔と一緒に入れるお店があるかどうかエアハルトさんに聞いてみた。なんとさっき行ったお店の三号店があるんだって。
 おお、それはいいことを聞いた! 

「今度はそこに行ってみたいです! できればロキたちも連れていってあげたいですし」
「そうだな。そのときはまた案内しよう」
「ありがとうございます!」

 勢いで連れていってと言っちゃったけど、迷惑じゃないかな? 大丈夫かな? 
 だけどエアハルトさんは嬉しそうな顔をして頷いているから、大丈夫なんだろう。そんな顔を見てドキドキしていると、最寄りの停車場に着いたので降りる。
 ちなみに、辻馬車は一回につき銀貨一枚。かなり高めだけど、これには馬車の維持費と馬の餌代などが含まれているので、仕方がない。
 その代わりどこまで乗っても銀貨一枚なので、中央や別の地区まで行くときはとてもお得なのだ。
 まあそんな辻馬車事情はともかく、西地区に帰ってきたので、ついでに夕飯と明日の朝の材料を買って帰る。
 エアハルトさんも拠点に行かずに、そのまま私の家に来てもらった。

〈〈〈〈〈〈おかえり、リン、ラズ、スミレ!〉〉〉〉〉〉
「ただいま! ごめんね、遅くなって」
〈〈ただいま!〉〉

 庭に入ると留守番をしていた従魔たちとココッコたちがわらわらと寄ってきて、もふもふまみれになる。一匹ずつ丁寧に撫で回したあとエアハルトさんをダイニングに案内すると、レンとロキに結界を張ってもらった。
 それから従魔たちとココッコたちに飲み物や餌を与える。
 思い思いに座って食べたり飲んだりしている様子を見つつ、エアハルトさんにコーヒーを淹れる。
 あのお店で私がカフェオレを飲んでいるのを羨ましそうにしてたんだよね。
 どうして貴重な豆を持っているのかと驚いていたので、父たちがこの国に来たときのお土産や、お茶会で知り合った方の家で作られている特産品をいただいたり買ったりしたのだと話すと、納得した顔をされた。
 コーヒーを飲んで落ち着いたので、お店で話せなかったことを話す。

「もしかして、渡り人の話を聞いたとき、私の寿命のことを気にしていましたか?」
「ああ……」
「そこは大丈夫ですよ」
「え?」
「言いましたよね、私は神様のせいでこの世界の住人になったって。渡り人ではありますけど、この世界に転生したという扱いになっているんです」

 アントス様やアマテラス様によると、通常の渡り人は、召喚陣により魔力とスキルを付与されるけど、寿命までは付与されないという。
 だけど私の場合はアントス様に蹴躓けつまずいたことと、アントス様が関与していた穴に落ちてしまったことで〝死んで転生した〟という扱いになり、寿命も付与されたのだ。
 魔力が桁違いになってしまったのは想定外だけどね。
 そこまで言うと私の話を思い出したのか、安堵あんどしたように長い息を吐いたエアハルトさん。

「アントス様によると、あと四千年前後は生きるそうですよ?」
「そうか……。てっきり俺は、百年もしないうちに、すぐにいなくなってしまうのかと思って……」
「寿命のことを言わなかったみたいで、すみません」
「いいんだ。そういったことは言いづらいだろうしな」

 すまない、と謝ってくれたエアハルトさんに、大丈夫ですと答える。
 それから少し雑談をして、席を立ったエアハルトさん。

「今日は楽しかった」
「私も楽しかったです。誘ってくれて、ありがとうございました」
「そうか、それはよかった」

 一緒に下まで下りて、裏庭にある玄関からエアハルトさんを見送る。
 振り向いたエアハルトさんの顔が近づいてきたかと思うと額にキスをされた。
 エアハルトさんは「またな。おやすみ」と言って帰っていった。

「……え?」

 一気に顔が熱くなり、腰が抜けて思わずその場にへたりこんでしまう。

「……くそう、イケメンめ!」

 今日はやけにキスをしてくれたエアハルトさん。
 勘違いしそうだよ……エアハルトさんも私を好きだって。

「いやいやいや、もしかしたら貴族同士の挨拶かもしれないし!」

 そんな言い訳をしつつも、本当に好きでいてくれたらいいなあ……と思った。
 結局動けなくて、ロキに二階まで連れてきてもらった、情けない主人の私だった。


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