転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮

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本編 2

突撃!ハインツさんちのご飯 1

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 今日はハインツさんちへ行く約束の日。護衛にロキとロック、ラズとスミレ、リュイを連れて行くんだけど、今はハインツさんが寄越してくれる馬車待ちであ~る。
 ただ、心配事がひとつあるんだけど……。

「ロキとロックはハインツさんちに行っても大丈夫なの?」
<問題ない>
<悪さするわけじゃないから、大丈夫だよ、リンママ>
「それならいいけど」

 そう、その心配事とは、ハインツさんの種族が原因。ハインツさんの家は狼獣人なだけあって、ロキとロックの種族を崇めているのだ。特にロキは本当に珍しい進化をしたらしく、ロキを見たハインツさんが興奮してたんだよね。
 それもあり、ハインツさんのご家族がロキとロックに無体なことをしないかと心配している。
 まあ、二匹が問題ないと言っているから、本当に大丈夫なんだろう。
 そんな話をしていると、拠点に馬車が到着。馬車の扉が開くと、中にハインツさんがいた。

「おはよう、リン。今日はよろしくね」
「おはようございます。うまく行くかわかりませんけど、よろしくお願いします」

 ハインツさんと挨拶を交わしたあと、ロキたちも挨拶をしている。挨拶が終わればさっそく馬車に乗り、ハインツさんちへ出発。
 今日作るのはリクエストをもらった餃子と味噌を使った料理、他にも角煮とお菓子、料理人さんからリクエストがあればとということになっている。もちろん、材料はハインツさんちで用意されているので、私が持って行くものはほとんどない。
 とはいえ、やはり味噌だけはダメだったようで、事前に持ってきてほしいと言われ、持参している。

「本当にすまない、リン」
「しょうがないですよ。どうしてもダメなものってありますし。そういえば、院長先生はくさやの匂いがダメだったことを思い出しました」
「ふふ、そうですか」

 ハインツさんと顔を合わせ、笑い合う。転生した本人が目の前にいるけど、同じ馬車内にはハインツさん専属の執事さんがいるからね~。だからハインツさんも知らん顔をしている状態。
 他にも、私がいた施設の話と称して私のことだったり院長先生のことだったり、想い出として話している。話しているというよりは、執事さんに聞かせてるといった具合かな?
 だって、接点がなかったはずの私とハインツさんが、マルクさんと森に行ったりお茶したりしてるんだもの。マルクさんの紹介で知り合ったと話しているそうだけど、それにしたって無理があるよね。
 だけどそこにロキとロックが加わると話が違ってくる。なにせハインツさんもだけど、執事さんもロキとロックを見て、すっごく目を輝かせているからね。
 だから、彼らに会いに来たついでに、主人である私とも話をしたと言われてしまえば、納得するしかないみたい。
 だって、神獣ではあるが従魔だもの。従魔契約をしている私を抜きにして、単独で話すことはないのだ。
 いろいろ話しているうちに、ハインツさんちに到着。伯爵家とは聞いているけど、やっぱり大きい家だ。
 ハインツさんにエスコートされつつそのまま厨房に案内される。お互いに挨拶を交わしたあと、すぐに私は髪をくくってからエプロンを身に着ける。護衛としてきた従魔たちは、邪魔にならないよう小さくなったうえ、毛が飛ばないようにするためなのか結界を張ってすみっこへ移動している。
 本当にいい子たち!
 そんな私の心境を他所に、料理人さんたちはロキとロックを見て感動し、目をキラキラさせている。

「大旦那様からお話は伺っていたが……」
「まさか、この目で生のお姿を拝見できるとは……!」
「ああ……尊い……」
「確かに」
『ありがたや~!』

 ……気持ちはわかるけど、正直、ドン引きした。ロキとロックも居心地悪そうに、身じろぎしてるし。
 ま、まあ、悪さをするでもなく、崇めるといった感じなので、落ち着くまで放置しよう。
 五分もすると落ち着いたのか、料理人さんたちが謝罪してくれた。ここからが本番ですよ!

「まず、味噌ですが、こちらになります」
「……」
「見た目はとりあえず我慢していただいて、味だけでも確認してほしいです」
「わ、わかった」

 まずは小指の爪くらいの量をスプーンで取り、それぞれ渡す。まずは味噌そのものの味を知ってほしかったのだ。
 ハインツさんが味噌料理を食べたいと言っている以上、料理人さんたちもなんとかしたいと思っていると聞いている。だけど、まずはその見た目を克服してもらわないと、味噌料理は作れないわけで。
 覚悟を決めたらしく、恐る恐るといった感じでスプーンを口に運ぶ料理人さんたち。味わって食べたあと、くわっ! と目を開けた。

「リンちゃん!」
「はっ、はいっ!」
「我らは、なんと食わず嫌いをしていたことか!」
「ええ、ええ! 損をしてたぜ!」
「しょっぱさの中にも大豆の味と香りが凝縮してて」
「なんともいえぬ優しい味がします」
『ぜひ、料理を!』
「は、はひっ」

 い、勢いがこ、怖い! なんて言ってられない!
 まずは基本の味噌汁からということで、出汁を取ってもらう。もちろん、クノール家にも鰹節が存在していて、削る道具も用意されていた。これは主に肉じゃがに使っているそうなので、削るのもお手の物らしい。
 それとは別に、時間のかかる餃子に取り掛かる。作り方はヨシキさんたちに教わってきたし、一緒に作ったよ!
 まずは小麦粉などの材料を用意してもらい、一緒に捏ねる。このとき、水ではなくぬるま湯を使うといいことも伝える。捏ね終わったら一旦寝かせ、餃子の種作り。

「今回はオーク肉を使いますけど、ボアでもディアでも美味しいです。ボアとディアとか、オークとディアとか、分量を半々にして一緒にしても美味しいですよ」
「ふむ……。リンちゃんのオススメは?」
「うーん、そのときの気分とか、冷蔵箱に入っている材料の残り次第なので、オススメというのはないですね」
「なるほど」

 冷蔵箱とは、冷蔵庫のこと。貴族の家には大型のものがあるんだって。もちろん、この家にも大きなものがあるし、それとは別に氷室になっている貯蔵庫もあるそうだ。
 ハインツさん一家だけじゃなく、使用人さんたちの数も多いだろうしね。だから、料理ひとつとっても、作る量が多いのだ。
 だから数を必要とする餃子を作るとなると、皮にしろ種にしろ、とにかく大変だ。焼き始めてしまえば楽なんだけど、それまでの準備がね……。
 一から手作りすると、日本にいたときは如何に楽だったのかを実感する。だって焼けばいいだけの状態で売っている冷凍ものや、焼いてあるものをレンチンするだけのもの、お惣菜として焼いた状態で売っていたんだもの。
 そんなことを思い出しつつ、種に入れる野菜を刻み、肉は挽肉にする。挽肉は料理人さんたちが包丁を二本使ってやっていた。そのスピードといったら、さすが本職だと感動した。
 刻み終わったら全部の材料をボウルに入れ、粘りが出るまで混ぜたら一旦冷蔵箱へ。その間に皮の状態を見て、丸く、そして薄く広げていく。慣れないと丸くならないけど、そこは本職。数枚やっただけでコツを掴んだらしく、綺麗な円形になっていたのはさすがだ。
 皮作りが終わったら、そこに種をのせ、皮の半分を水に濡らしたあと、ひだを作りながらとじていく。面倒だったらそのままでもいいと話した。それをたくさん作ったあと、焼いてもらう。
 蒸し焼きという方法を使うことと、熱したフライパンに油を入れ、そこに綺麗に並べてもらう。それからお湯を入れたあとは蓋をしてもらい、中火くらいでじっくり焼く。
 お湯を入れるのは、せっかく熱くしたフライパンの温度を下げないためだと説明すると、料理人さんたちは納得の表情をした。

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