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第二章
Case 25.発射すぞエリシアっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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数日の特訓を経て──私は、馬車で例の教会に向かっていた。もう少し研鑽したい気持ちもあったが……メイシアの被害者はさらに出ているようなので、可及的速やかに行動することにした。
「蜜……いや、蜜だけでは性的とは言えないか……愛の蜜で愛蜜……響きが微妙か……蜜液というのはどうだろう……安直か……体蜜……これは悪くない気がする……」
「……お前、何さっきから訳分かんねぇことボソボソほざきやがってるぷい?」
隣に座るカナタんが面妖なものを見るような目をしている。
今日は、彼女も付いてきていた。被害者の中にファンがいるから行きたいと、頼まれたのだ。
「結局、聖霊会の方では捕まえられなかったんですね……」
ワトソン君が、そんなカナタんに悲しそうな顔で話しかける。
「そう、何故か教会の中には入れるようにはなりやがったぷいだけど……ずっと入口に仕掛けられてたみたいなのを、自分の周りに纏ってて──近づいた瞬間、物語の中に閉じ込められるぷい。聖霊会は白崎 麗を筆頭に、剣士がほとんどだから相性は最悪ぷい」
それでも、メイシアは私にはチャンスを与えてくれた。前の戦いで、一応は、私の想いが伝わってくれたのかもしれない。
「……というか今になってもその謎のゲームが何の解決策になるか分からんぷい」
「創作物オタクには、創作物オタクのコミュニケーションがあるんだよ、カナタん」
作品の世界で生きることは悪くない。狭い鳥籠の中を心地いいと感じる人だって沢山いる。
それでも。
空を知ろうとしないのは、とても悲しいことだと思う。
私は心の中で気合を込めて、頭の体操を続けた。
◆
「まったく、またお客さん──って、君か」
教会に入ると、顔を歪めたメイシアだったが、私達であることに気づくと、少しだけ綻んだ。
「なに……この異様な光景はぷい……」
席に座り、恍惚と天井を見上げる人に駆け寄るカナタん。
「ん? 君は前居なかった──え、ちょっと待って、ITuberの子じゃん! うわ照れるわ~!」
彼女の存在に気づき、メイシアはそう言った。何故か照れていた。
「お前ら! 目を醒ましやがるぷい! カナタんの配信、見れなくてもいいぷい!? 腹パン会参加できなくてもいいぷい!?」
ファンである人に、次々と話しかけるカナタん。しかし、誰一人として微塵も反応を示さなかった。
「リスナーにお前らって言うとは、さては元二コナマ配信者だな?」
カナタんに近づくメイシア。またよく分からないことを言った。
「お前!! どうしてこんなことしやがるぷい!?」
怒りを全面に押し出し、歯を剥き出しにして、カナタんは食ってかかる。
「だから真なる救済だって」
しかし、あっけらかんと、返される。
話が通じないと思ったのか、カナタんは再び、ファンの元に一人一人、駆け寄る。
「辛いことがありやがるなら、カナタんが救ってやるぷい! お前も、お前も、沢山カナタんを応援してくれやがったじゃねぇぷいか! この世界じゃとてつもなく異質なことしてるカナタんを……お前らは最初からずっと……見守ってくれやがったじゃねぇぷいか!!」
決して、目は合わない。それでも、心根を訴えた。涙を零しながら、思い出を共有するように、話し続けた。感謝を伝え続けた。
「……君は、分かってないね。君がすべきことは、ファンの人全員に、真摯に向き合うことじゃない」
そんな彼女を、メイシアは退屈そうに見つめていた。表情にはどこか、呆れも刻まれている気がする。
「どういう……意味ぷい……?」
「さぁね。今までファンと触れ合っていれば、分かったハズだけど。……ってかそれより、ゲームしにきたんでしょ」
視線は、私の方に。
「君に想いを伝えるのに十分な創作スキルを養ってきたぞ、メイシア」
私はディアストーカー帽子のツバを上げる。そんな自分を、今日も探偵ぽいと思った。
まだ新鮮味があるのはいいことだ。
「へー、ここだけの話さ、ネットにもあたしと同じ思想の──逆に水と油の人も居なかったから、結構あんたとのゲーム楽しみにしてたんだ。ピンク髪ロリっ子だしあんた最高か?」
彼女も決めポーズと言わんばかりに、眼鏡のブリッジをくいっと上げる。
そして──。
「それじゃあ──デュエルスタンバイ、ゲートオープン解放!!」
私のリベンジマッチの、ゴングを鳴らした。
◆
「そういえば、この間中学校でさ、数学の先生が授業中に急にため息をついて、『俺、先生を辞めようと思うんだ』って言ってさ、もちろん教室がざわついて、クラスで一番イケメンの男子が理由を尋ねたんだけどその理由が『実際に先生してると、先生って呼ばれても何も感じないからだよぉおおぉ』って泣きながら言ってみんな『??』ってなったんだけど、あたしには分かったぞ。先生がブルーアーカ●ブにハマってることを……って話したっけ?」
「君この間大学のときの就活の話してなかったか!?」
「ってか異世界来て思ったんだけど、ツイッターできないのだけマジしんどくね?」
「いつも私を無視するな君は! いっぱい悲しいぞ!」
とにかく、メイシアには吐き出したいものが沢山あるのだろう。私はそう思った。
そして、前のように、私達の中央にウィンドウが浮かび上がり、ライフが表示される。前回と同じ1000だ。
「この場所もよく分かんねぇぷいけど……頑張りやがれ、シャーロット!」
カナタんの声援。私は彼女の方を向いて、こくりと首肯する。
「ルールは前回と同じ。今回も頼むぞ、あんこもん」
『任せるのら!』
この人工知能はあんこもんと言うことが判明した。
「じゃあ、今回もあたしが先──」
「私が先行だ」
食い気味に言った。先行が確実に有利なことは前回で分かったからだ。
そして……勝負が始まる。
最初のジャンルは──”web小説/異世界”だった。
これは、前回でコツを掴んだ。さらにエリザベスさんのお陰で、表現の幅が広がった。
特訓の成果を、見せてやる……!
「行くぞ。『どのルートでも必ず処刑される乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私、ワザッ●に書いてあったことを試したら本当に新ルートが開拓されて溺愛されるようになったのですが!?』!」
『67ポイントなのら!』
「……! ライフで受ける!」
「それ以外に選択肢あるのか!?」
「え、ちょっと待って、すごいじゃん。ワザッ●は、女性向けである悪役令嬢モノにマッチしない単語だけど、前より格段に上手になってる」
「すごいだろ、ぶへへへっ」
「……! 普段あんな尊いのにどうして笑顔そんななん!?」
怪訝な目で見られたが、出だしは順調だった。
どんなジャンルでも、ある程度対応できるようになっていた。
そして。
ラリーが続く。
しかし……先行のアドバンテージがあるも、徐々に差を縮められてしまう。
何回かの攻防を終え──ライフは私が538、メイシアが499になった。
やはり、メイシアはすごい……。流石は作家だ。このままじゃ、勝てるか勝てないか、ギリギリのラインだろう。
そして、そんな時……。
『ここで、新ジャンルを追加するのだ──するのら』
あんこもんがそう言う。ウィンドウに目をやる。
そこには──”ジャンル:アダルトビデオ”。そう表示されていた。
「なっ──試験外範囲だぞ!」
『…………』
「だから人工知能が無視するな!」
「シャーロットあんた、AVも知らないのか?」
「だって見ていい年齢じゃなかったもん!!」
「もん」
私は、酷く混乱していた。変な喋り方になってしまったくらいだ。
やはり、まだ名探偵の器ではないな……と思う。こういうときこそ、冷静に思考のスイッチを切り替えなければならないのに。
「なら、先手後手を交代するか? あたしが、見本を見せてやろう」
「なに……?」
なるほど、それなら、傾向と対策ができるかもしれない。……いや、駄目だ。ここで彼女に攻撃されては、私に勝機はない。
何を、慄いているのだ。私には、天稟の頭脳があるじゃないか。
ワトソン君、マキナ、エリザベスさんと、特訓したじゃないか……!
「いや、それは無しにしてもらいたい。未知なるものを究明するのが名探偵だ。アダルトビデオの真髄を、真実を、解き明かしてみせよう──」
私は、頭をフル回転させた──。
「蜜……いや、蜜だけでは性的とは言えないか……愛の蜜で愛蜜……響きが微妙か……蜜液というのはどうだろう……安直か……体蜜……これは悪くない気がする……」
「……お前、何さっきから訳分かんねぇことボソボソほざきやがってるぷい?」
隣に座るカナタんが面妖なものを見るような目をしている。
今日は、彼女も付いてきていた。被害者の中にファンがいるから行きたいと、頼まれたのだ。
「結局、聖霊会の方では捕まえられなかったんですね……」
ワトソン君が、そんなカナタんに悲しそうな顔で話しかける。
「そう、何故か教会の中には入れるようにはなりやがったぷいだけど……ずっと入口に仕掛けられてたみたいなのを、自分の周りに纏ってて──近づいた瞬間、物語の中に閉じ込められるぷい。聖霊会は白崎 麗を筆頭に、剣士がほとんどだから相性は最悪ぷい」
それでも、メイシアは私にはチャンスを与えてくれた。前の戦いで、一応は、私の想いが伝わってくれたのかもしれない。
「……というか今になってもその謎のゲームが何の解決策になるか分からんぷい」
「創作物オタクには、創作物オタクのコミュニケーションがあるんだよ、カナタん」
作品の世界で生きることは悪くない。狭い鳥籠の中を心地いいと感じる人だって沢山いる。
それでも。
空を知ろうとしないのは、とても悲しいことだと思う。
私は心の中で気合を込めて、頭の体操を続けた。
◆
「まったく、またお客さん──って、君か」
教会に入ると、顔を歪めたメイシアだったが、私達であることに気づくと、少しだけ綻んだ。
「なに……この異様な光景はぷい……」
席に座り、恍惚と天井を見上げる人に駆け寄るカナタん。
「ん? 君は前居なかった──え、ちょっと待って、ITuberの子じゃん! うわ照れるわ~!」
彼女の存在に気づき、メイシアはそう言った。何故か照れていた。
「お前ら! 目を醒ましやがるぷい! カナタんの配信、見れなくてもいいぷい!? 腹パン会参加できなくてもいいぷい!?」
ファンである人に、次々と話しかけるカナタん。しかし、誰一人として微塵も反応を示さなかった。
「リスナーにお前らって言うとは、さては元二コナマ配信者だな?」
カナタんに近づくメイシア。またよく分からないことを言った。
「お前!! どうしてこんなことしやがるぷい!?」
怒りを全面に押し出し、歯を剥き出しにして、カナタんは食ってかかる。
「だから真なる救済だって」
しかし、あっけらかんと、返される。
話が通じないと思ったのか、カナタんは再び、ファンの元に一人一人、駆け寄る。
「辛いことがありやがるなら、カナタんが救ってやるぷい! お前も、お前も、沢山カナタんを応援してくれやがったじゃねぇぷいか! この世界じゃとてつもなく異質なことしてるカナタんを……お前らは最初からずっと……見守ってくれやがったじゃねぇぷいか!!」
決して、目は合わない。それでも、心根を訴えた。涙を零しながら、思い出を共有するように、話し続けた。感謝を伝え続けた。
「……君は、分かってないね。君がすべきことは、ファンの人全員に、真摯に向き合うことじゃない」
そんな彼女を、メイシアは退屈そうに見つめていた。表情にはどこか、呆れも刻まれている気がする。
「どういう……意味ぷい……?」
「さぁね。今までファンと触れ合っていれば、分かったハズだけど。……ってかそれより、ゲームしにきたんでしょ」
視線は、私の方に。
「君に想いを伝えるのに十分な創作スキルを養ってきたぞ、メイシア」
私はディアストーカー帽子のツバを上げる。そんな自分を、今日も探偵ぽいと思った。
まだ新鮮味があるのはいいことだ。
「へー、ここだけの話さ、ネットにもあたしと同じ思想の──逆に水と油の人も居なかったから、結構あんたとのゲーム楽しみにしてたんだ。ピンク髪ロリっ子だしあんた最高か?」
彼女も決めポーズと言わんばかりに、眼鏡のブリッジをくいっと上げる。
そして──。
「それじゃあ──デュエルスタンバイ、ゲートオープン解放!!」
私のリベンジマッチの、ゴングを鳴らした。
◆
「そういえば、この間中学校でさ、数学の先生が授業中に急にため息をついて、『俺、先生を辞めようと思うんだ』って言ってさ、もちろん教室がざわついて、クラスで一番イケメンの男子が理由を尋ねたんだけどその理由が『実際に先生してると、先生って呼ばれても何も感じないからだよぉおおぉ』って泣きながら言ってみんな『??』ってなったんだけど、あたしには分かったぞ。先生がブルーアーカ●ブにハマってることを……って話したっけ?」
「君この間大学のときの就活の話してなかったか!?」
「ってか異世界来て思ったんだけど、ツイッターできないのだけマジしんどくね?」
「いつも私を無視するな君は! いっぱい悲しいぞ!」
とにかく、メイシアには吐き出したいものが沢山あるのだろう。私はそう思った。
そして、前のように、私達の中央にウィンドウが浮かび上がり、ライフが表示される。前回と同じ1000だ。
「この場所もよく分かんねぇぷいけど……頑張りやがれ、シャーロット!」
カナタんの声援。私は彼女の方を向いて、こくりと首肯する。
「ルールは前回と同じ。今回も頼むぞ、あんこもん」
『任せるのら!』
この人工知能はあんこもんと言うことが判明した。
「じゃあ、今回もあたしが先──」
「私が先行だ」
食い気味に言った。先行が確実に有利なことは前回で分かったからだ。
そして……勝負が始まる。
最初のジャンルは──”web小説/異世界”だった。
これは、前回でコツを掴んだ。さらにエリザベスさんのお陰で、表現の幅が広がった。
特訓の成果を、見せてやる……!
「行くぞ。『どのルートでも必ず処刑される乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私、ワザッ●に書いてあったことを試したら本当に新ルートが開拓されて溺愛されるようになったのですが!?』!」
『67ポイントなのら!』
「……! ライフで受ける!」
「それ以外に選択肢あるのか!?」
「え、ちょっと待って、すごいじゃん。ワザッ●は、女性向けである悪役令嬢モノにマッチしない単語だけど、前より格段に上手になってる」
「すごいだろ、ぶへへへっ」
「……! 普段あんな尊いのにどうして笑顔そんななん!?」
怪訝な目で見られたが、出だしは順調だった。
どんなジャンルでも、ある程度対応できるようになっていた。
そして。
ラリーが続く。
しかし……先行のアドバンテージがあるも、徐々に差を縮められてしまう。
何回かの攻防を終え──ライフは私が538、メイシアが499になった。
やはり、メイシアはすごい……。流石は作家だ。このままじゃ、勝てるか勝てないか、ギリギリのラインだろう。
そして、そんな時……。
『ここで、新ジャンルを追加するのだ──するのら』
あんこもんがそう言う。ウィンドウに目をやる。
そこには──”ジャンル:アダルトビデオ”。そう表示されていた。
「なっ──試験外範囲だぞ!」
『…………』
「だから人工知能が無視するな!」
「シャーロットあんた、AVも知らないのか?」
「だって見ていい年齢じゃなかったもん!!」
「もん」
私は、酷く混乱していた。変な喋り方になってしまったくらいだ。
やはり、まだ名探偵の器ではないな……と思う。こういうときこそ、冷静に思考のスイッチを切り替えなければならないのに。
「なら、先手後手を交代するか? あたしが、見本を見せてやろう」
「なに……?」
なるほど、それなら、傾向と対策ができるかもしれない。……いや、駄目だ。ここで彼女に攻撃されては、私に勝機はない。
何を、慄いているのだ。私には、天稟の頭脳があるじゃないか。
ワトソン君、マキナ、エリザベスさんと、特訓したじゃないか……!
「いや、それは無しにしてもらいたい。未知なるものを究明するのが名探偵だ。アダルトビデオの真髄を、真実を、解き明かしてみせよう──」
私は、頭をフル回転させた──。
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