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第八章
神に捨てられた子
しおりを挟むウッダ村で見た近衛兵や平民達とは似ても似つかない。
「醜いとは思わない……」
「……!」
「むしろ……むしろお前 は……」
「バシュ……?」
「……!!」
大きな体躯を丸めて、バヤジットが喉の奥で呻いた。
聞き取れない声で何か言った気がする。
逆にシアンのほうが心配になり手を伸ばしかけると、次の瞬間、バヤジットは立ち上がり寝台に背を向けた。
何もしていないのにバヤジットの呼吸は忙しない。
「バシュ…?あの、どうかされましたか」
「いや大事ない。…っ…危うくお前を変な意味で抱き締めそうになった。許せ」
「……変な意味?」
「許せ」
「………………」
おかしな沈黙が流れる。
シアンにとって、男のこの反応は予想できていなかった。
「……なら抱いてください。変な意味ではなく、上官として」
伸ばしていた片腕をそのままに、シアンはバヤジットを誘った。
「…は?何だその状況は聞いた事がないぞ」
「そうですか?傷を負った部下を上官である貴方が労わってください。…………変な意味ではなく」
「わ、かったからもう許せ……」
「許しませんよ。……バシュ」
「……っ」
後ろを向いて腕を組んでいたバヤジットが、おそるおそるシアンを見下ろした。
「バシュ……」
「そういう声で呼ぶな馬鹿者」
「平気ですから、僕はただの部下ですから」
「…ッ…よ、よし、いいだろう」
良いわけが無いと重々承知ではあるが、このシアンの挑発に、逃げては逆に格好が付かないと諦めたバヤジット。
落ち着け
上官としてだ、上官として……
決して、変な意味ではなく
「ん…っ」
「だからおかしな声を出すな馬鹿者っ…」
「ふふ……はい、申し訳ありません」
バヤジットはシアンを押しつぶさないように片手を寝台の縁に付けて、彼の上に身を乗り出した。
そして片腕をシアンの背にまわし……ぎこちなく、その身体を胸に抱いた。
「──…」
逞しい腕と胸に包まれ、その体温を感じる。
今のシアンは熱を帯びているから、バヤジットの肌はひんやりと心地良かった。
「不思議……ですね。貴方にこうされると……痛みがやわらぐ気がします」
「そうか」
「嘘ではありませんよ」
「わかったから、動くな」
「…っ」
シアンが首をひねってすぐ横の顔に話しかけようとすると、それをピシャリと止められた。
背に添えられただけで肌を撫でようとしない手が、力強くシアンを引き寄せる。その僅かな強引さに、がらにもなくシアンは驚いてしまった。
「動くな…」
「……は い」
いつにも増して凄みのある声で、囁かれる。
そんなバヤジットの腕はいつまでも固く、そして頑なで、シアンは思わず悪戯をしかけたくなってしまう。
でも──
「──…」
そうしたら焦った彼が離れてしまいそうで
この時間がすぐに終わってしまいそうで
「……」
まだもう少し──このままで、だから
シアンは大人しく瞼を下ろした。
「……シアン、お前の目は」
「──…」
「暗闇に閉じ込められようとも、赤くはならなかったのだな…」
「…そう、ですね」
寝かしつけるように小さな声で話しかけてくる男に、シアンはうとうとと、ゆっくりと言葉を返した。
「それだけが、他のギョルグとは、違いました」
「……」
「瞳の色だけは……変わらな かっ た……」
こんなに無防備な状態を、この男に晒すだなんて
間違っている。シアンは心の奥底で自答しながら、彼の腕に抱かれて眠った──。
──…
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