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第十三章
散花無惨(チルハナ ムザン)
しおりを挟む「なにを笑っている!? 死を前にして気がふれたか」
「…っ…僕は毒など飲ませていない」
仮に手口がすべてバレているとして
自らの落ち度であるから、大人しく死を受け入れる
……
……シアンにそんな気はさらさらなかった。
「──毒?ふっ‥…冗談はおやめ下さい」
「貴様…!」
「スレマン様のアレは…‥酒に溺れた末路です。一国の将官ともあろう御方が責務を忘れ昼間から酒を浴び……卑しいクルバンに熱をあげた結果がッ‥あの醜態だ」
弱々しい声で話すシアン。彼は相手が逆上するような言葉をわざと選んだ。
シアン達がいる貯蔵庫の扉は開いている。
男達に大きな声を上げさせ、地上にいる誰かが騒ぎに気付いて駆けつけないかと狙っているのだ。
「神の裁きがくだったのでは?」
「ふざけるのも大概にしろ!」
「‥ぐぁっ!!」
それによって、逆上した相手からさらなる痛みを与えられることになろうと、構いやしない。
シアンは蹴られ殴られながら、自分も大袈裟に声をあげた。
「…ハァ‥‥ハァ‥‥!!」
「薄気味悪いヤツだ…!」
「そ‥…こまで自信たっぷりに吠える なら…‥ッ…ナニカ、証拠があるのでしょうね‥‥…!?」
「証拠だと?」
三人がかりでシアンをいたぶる男達は、反論するシアンへ憎々しげに息を荒げた。
そんな彼等に向けてシアンは挑発を続ける。
「証拠もなしにベイオルク(王宮警備兵)を罰してみろッ……、後で必ず、追及を、受けますよ…‥っ」
「証拠……」
「…‥ッ‥‥" 毒 " というのも憶測でしょう…!? 本当は何も突き止めていないのでは……!?」
「証拠…───、くくく」
「…?」
「ははは!残念だったな悪党!証拠はあるんだよ」
「…!!」
「阿芙蓉だ」
男のひとりが勝ち誇った顔で口にする。
シアンは痛みで閉じかけていた上瞼をピクリと動かした。
「な んだと」
「医官にみせたと言っただろう?スレマン様の体内から毒の反応があったんだ──… 阿芙蓉という劇薬のな!」
「そんな筈が…ッ」
男のひとりがシアンの前にしゃがみ、彼の前髪を掴んで顔を近付けてくる。
相手を睨むのも忘れたシアンは困惑を隠せないようだった。
「阿芙蓉っていえば百年前に小国ひとつを滅ぼしたとも言われてる。こいつを過剰に服用したら一時は天にも昇る心地らしいが?アタマをやられて廃人になるという危ない薬だ」
「‥‥‥!!」
得意に語る男の話は本当だ。わざわざ説明されずとも大概の人間が知っている。
勿論シアンも、阿芙蓉の過剰摂取の危険性は承知だ。だからこそ利用するわけがなかった。
当然だろう?
そんなモノを使えば毒を盛ったと一目瞭然。真っ先に疑われるのはシアンなのだから。
「医官にっ…会わせてください…‥!これは何かの間違いです」
「なンだその慌てようは…。図星だな?さっさと罪を認めたらどうだ」
「…ち‥がう、僕ではない、阿芙蓉など…‥‥そんな、いったい誰が…──ッ」
誰が──!
髪を引っ張られ無理やり顔を上げさせられている中、シアンは目の前で尋問を続ける男のことなどどうでもよくなり
男の奥に透ける黒い影に……
顔も名も知らぬ黒い影に狼狽え、目を見張った。
「さらにだ、執務室に置かれた酒器を調べたところ酒にも阿芙蓉が混入していたそうだぞ?貴様が持ち込んだ酒だろう!? それをスレマン様に飲ませたのだな!?」
「……!!」
もしこの男の話が真実なら、シアンではない何者かが……酒に阿芙蓉を入れたのだ。
スレマンを殺す為ではなく、シアンを陥れる為
その " 誰か " がシアンを罠にかけたのだ。
「‥…僕を罠に……ッ‥…何故」
シアンの内側を気味の悪い感覚がめぐっていく。
「…ッ‥いったい誰が…‥」
さまざまな人間の顔面が交錯し、脳裏にへばり付く。それ等は決まってシアンを騙し、引きずり下ろさんとする穢い顔に変わって、彼を追いつめてゆく。
「誰が、僕を‥…・!?」
この感覚はシアンにとって初めてでは無い
だからこれほど強烈に彼は怖気立つのだ。
やめてくれ
いったい誰だ
僕を貶めんとするこの影は
お前は誰なんだ
僕はもう解放された
解放された、筈なのに
「…よぉし、なぶり殺される覚悟はできたか?」
「…‥ふざ‥けるな…‥ダレだ‥…‥コレを仕組ん だのは‥…!」
「…チ。まずはそのお綺麗な顔から切り裂いてやろう」
シアンを掴む男が、逆の手を仲間に向けて差し出す。笑ったもうひとりが腰の湾曲刀を男に手渡した。
「覚悟しろ」
ギラりと冷たい刃が自身に向けられる
「ク‥‥‥ッ」
やはりこの切っ先も──シアンにとって初めてでは無かった。
──
「──…オレだよ!!」
その直後、貯蔵庫の入口から──滑り落ちるようにはいってきた何者かが、張り裂けそうな声で叫んだ。
「──な!?」
「誰だそこにいるのは!」
「…っ…何者だ貴様!」
シアンをいたぶる三人の男が慌てて振りかえる。
「オレがやりました!」
「‥…ハァッ─…‥‥ハァッ‥…まさ‥‥か」
その声は、影に囚われようとしたシアンの頭を横から殴り付けるような…──からだ全体で抱きついてくるような無鉄砲さで響きわたる。
「オレがスレマンさまの酒に薬をいれました!!
…ッ…オレがやったんだ…──だからっ…
だからシアンを傷つけるなよ馬鹿やろおお!!」
丸みをおびた目元から大粒の涙を流して──
「…‥…どう して‥…君が」
オメルが立っている。
床に倒れるシアンは霞む視界で、自身を殺さんとする刃の向こうに、泣き叫ぶオメルの姿を目の当たりにした。
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