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第十六章
断罪審議
しおりを挟む「陛下……」
君主に突き放されたタラン侍従長が、ゆっくりと両膝を床について倒れた。
気力をぬきとられた顔で去った後の祭壇奥を見つめる…。いつもの狡猾さはなりを潜めた。
代わりに、場をまとめようと手を挙げたのは侍従のひとり──サルジェ公爵であった。これまで唯一タランに反発してきた、国の権力者のひとりである。
「さて、帝国使者よ。話を戻すが貴公らの要望は何であったか?とるべき手順を飛ばした無礼をふまえた上で、申してみよ」
「ふっ…訪問が突然であった無礼は詫びよう、キサラジャの為政者よ。我らの要求は、カナート爆破を手引きした者の身柄だ」
「それであれば……引き渡すべき男の誰であるかは、疑いの余地もない」
「賢明な者もいて何よりだ。これで両国の和平は守られるだろうよ」
サルジェ公爵と話す帝国使者の男は、武官に指示を出してタランを拘束していく。
タランの取り巻きであった侍従も、王に連れてこられた裁判官たちも、…戸惑うばかりで止められない。
キサラジャ将官であるバヤジットも、連行されるタランを後ろから見ているしかなかった。
「…っ…待て」
両側からはさまれ神殿出口へ向かわされるタランが、最後の異論を唱えた。
「まだ言い逃れをするのか?ラティーク・タラン侍従長」
「私は…カナートを破壊していない…!」
諦めた様子のタランに抵抗の意思は無い。だが彼にとっての真実は違うのだ。この場の誰ひとり、もはや信じてくれないが。
「カナートを破壊した者は他にいる……!私をはめた者が他にいるのだ」
耳を貸されず響くだけの主張ほど虚しいものはないと、タランは初めて思い知ったに違いない。これまで彼自身が蹴落としてきた者達の悲痛な叫びを、今ここで身をもって知っただろう。
これまで……自身の利益の為に葬った
犠牲者達の、無念を
「‥‥‥‥!!」
この時、それら犠牲者のひとり──あの日の王族の少年が、タランの脳裏をよぎった。
“ そうかっ……貴様なのだな ”
優しく利発な王子だった。性格は明るくささいな事にも興味を持ち、吸収が早い。幼いながらも名君の素質を感じさせる王子は……だからこそ邪魔であったのだ。
「貴様が仕組んだな…。カナートも…地下と暖炉の爆発も…すべて…貴様が…。
コレが復讐というわけだ…!」
タランの不可解な言葉を理解できた者が、この場に何人いたろうか。彼の言う " 復讐者 " がそれに返事をしないので、誰への言葉かすら不明だった。
「──…ふっ」
「……」
「…だが私は後悔せんぞ…わかっていたとも、貴様が一番の障壁になりうる存在と。だから私は……貴様を……殺した。貴様は私に殺されたのだ!」
出口へ続く列柱廊──。長らく議会を掌握してきた侍従長が、大神殿の床を踏むのは今日で最後だ。
これからラティーク家がたどる道は没落であるのに、出口の光がまばゆく輝きタランを迎えているのは皮肉である。
帝国使者は目的の男を捕らえたので大人しく帰っていった。シアンもすでに用済みだ。その身柄はキサラジャに任せて置き去った。
「…っ…シアン…?」
放置されたシアンの身体を、隣のバヤジットが支える。
バヤジットが見たシアンの横顔は、連行されるタラン侍従長をじっと見つめ…その姿が見えなくなろうと表情は動かなかった。
笑みはない。
少なくともその顔に、復讐を達成した充足感は見てとれない。
「──……。……」
何かを口にしようとして唇をひらき、けれど……結局は言えずに押し黙る。
この瞬間に彼の感情を揺さぶるモノは何も無かった。
興味ない
はなからタランへなど興味がない
だって侍従長に貶められた憐れな王弟は、もうとっくに殺されたから。シアンがあの日に戻ることは……どう足掻いたとて不可能だ。
《 貴様は私に殺されたのだ 》
かつての宿敵が残した捨て台詞は、そんなシアンの境遇を嘲り、報われぬ刃を冷めた心に突き立てたのだ──。
───…
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