謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く 【R18】

弓月

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第十七章

新しい風

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──…

 冷たい地下の牢で、床に座るシアンの顔があがる。

 高い位置にある窓から白い砂と一緒に風切り音が届く以外、物音のしない牢獄で、誰かの足音がしたからだ。

 壁にかけられた燭台の焔が揺れる。

 食事を与えに来る兵士は朝に一度来たはずだから彼らではない。少し身構えたシアンが待っていると…格子の向こうにバヤジットが現れた。

「バヤジット…様?」

「大事無いか?シアン」

 顔を合わせるのはタラン侍従長の断罪審議以来となる。あれから数日が経過しており、久しぶりに話すバヤジットの様子は少しぎこちなかった。

「聞け。タラン侍従長の密偵であったお前について無罪放免が決まった。異例だが…新しい侍従長の意向なんだろう」

「無罪?では…僕の王宮警備兵の職位は?」

「そのまま留任ということになる」

「それは運が良かったですね…」

 ラティーク・タランが秘密裏に進めていた火槍シャルク・パトでの武装計画について、暗躍していたとされるシアンの罪は問われなかったそうだ。

 国家反逆につながるのだから死罪が妥当だが、タランの後任であるサルジェ公爵が手を打ったらしい。

 サルジェ公爵……か。

 タランが連行されラティーク家は没落し、いまや王宮は、ハナム王妃の一族であるサルジェ家の一強体制になったということか。

 ラティーク家にすり寄っていた多くの貴族も一気に力を失う。

 新たな風が吹く王宮で、混乱のただ中に違いない。

「……あれから、帝国とはどうなったのですか?」

 取り出した鍵で格子の戸を開けるバヤジット。ギイッ…と錆びた音とともに身体を屈めて中へ入る相手へ、立ち上がろうともせずにシアンが問う。

「帝国との交渉も終わったところだ。向こうの提案をのんでカナート(地下用水路)の利権を渡すことになったがな」

「それだけですか?」

「ああ…、物資の支援と交易はこれまでどおり再開するそうだ。何より帝国と和解したおかげで街道に商人が戻り始めたのが、キサラジャにとって救いだな」

 答える間にも、バヤジットは自分の厚い外套がいとうの留め具を外していた。

 そして薄汚れたシアンに被せる。

 温かな体温が残るそれに包まれた身体が、そして宙に浮いた。

 何も言わずいきなり抱き上げてくるのはやはり、この男の不器用さというか…言葉の足らなさ故である。

「あの、僕は自分で歩けますが」

「いいから大人しくしろ…まだ痛むだろう」

「それは…っ」

 …そうなのだが。

 少しもためらわずシアンを抱いて牢を出たバヤジットは、見張りの兵士の前も堂々と通り過ぎた。

 外に出た後も当然 人の目がある。

 思わず振り返るいくつもの視線を意にかえさず、彼は黙ってシアンを運んだのだった。




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