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第二十章
誓い
しおりを挟む「キサラジャには太陽神と水神がいる」
寝台があるところからゆっくりと動いて、身廊の突き当たり……金模様の天蓋の前で、王は立ち止まった。
「太陽神は人間を支配し、君臨する。命を審判し、罰を与える。…崇敬とともに畏れられる、在るべき神の姿だ」
薄い天蓋の重なりが空気を含んで膨らむと、その隙間に窓からの斜光が織り込まれて煌めきを増す。
シアンの視点からは、アシュラフの輪郭を浮き立たせるその光が……残酷に美しく映えた。
「一方の水神は、恵みと慈悲をつかさどる存在故に、すがる人間こそいようとも畏怖の対象とはならない。弱い神だと……誰もが思っている」
「……」
「…だが、…忘れられてはいるが、水神にしか務まらない重役がある。水の神は……」
アシュラフが手を招いた。
シアンは、扉にかけた手をずるりと落とす。透明な紐で手繰り寄せられるかのように……足が動いた。
意思に反して前に進む。
本当は今すぐ後ろの扉から飛び出したいのに。
コツ....
コツ....
コツ....
シアンの重い靴音は、斬首台に上がる罪人のそれである。
行きたくはない。けれど後に戻る道もない。そして向かう先はひとつしかない──。
「水の神は時として……
陽の火を諫め、呑み込む」
「……っ……わかりま せん」
「……フッ」
口だけが、その場しのぎの言葉で反抗する。不器用な抵抗はアシュラフに鼻で笑われた。
「わからない?──…有り得んな」
コツ....
コツ....
コツ....
延々と続くように思える身廊も、その長さは有限。
本気で逃げ出したいと願うシアンの身体をアシュラフの前まで運んでしまう。
「……っ」
彼は頭を俯かせた
血が滲むまで唇を噛み締めた
息苦しさを覚え、自分が呼吸を忘れていた事に気が付いた
このままでは じきに指先の力を失うだろう
そうなる前にシアンは、腰に下げた三日月刀に手をかけた
───
素早く鞘から引き抜き、相手に向けて顔を上げたシアンの頬から涙が散った
「お前が国を守れ───……
……っ……あの 日 ‥‥俺に‥‥誓っ‥‥」
「──…!」
「‥‥ッ‥‥‥‥‥ハァ‥‥‥ハ‥‥」
胸を刃で貫かれたアシュラフが
血の塊を吐き出す
引き抜いた刀を背後に投げ捨てたシアンが、崩れ落ちるアシュラフの身体を抱き留める
「‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥、‥ッ」
「ぁ‥‥ぁ‥‥!」
ぐったりと…静かに身を預けるアシュラフを
震えながら…かき抱いた
嗚咽が込み上げる
「‥ッ‥‥‥!!‥‥‥そ、して」
「‥‥‥‥‥‥!?」
「俺を‥‥憎んで、くれ‥‥‥‥愚かな、兄を」
「‥‥‥‥」
「弟よ‥‥────」
アシュラフの声が…息が…遠のく。
最期のひと言は信じられないほど優しくて、胸の傷からドクドクと流れ出る血と同じくらい、温かかった。
こんなに温かいのに……!
それきり、言葉が続くことはない。
力が抜けて重みを増す身体を支え、シアンはゆっくりと床に膝をついた。
《 俺を憎んでくれ 》
「‥‥‥‥は い」
「───…」
「兄上は‥‥このうえなく‥‥愚かでした‥‥!!」
もう聞こえているのかもわからない。死にゆく兄を抱いて、哀れな弟が 涕泣する──。
それでも伝えなければならなかった。
「ですが僕は‥‥貴方を憎んではおりません‥‥
愛する貴方を憎んだことなど‥‥っ
ただの一度も、ありは しません‥‥‥‥!」
心から愛する兄は、この孤独な王宮で、たったひとりで戦っていたのだから。
ふたりきりの悲劇の兄弟は、長く長く続いた離別の果てに、遂に再会の時を迎えたのだった──。
──
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