謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く 【R18】

弓月

文字の大きさ
136 / 143
第二十章

誓い

しおりを挟む



「キサラジャには太陽神と水神がいる」


 寝台があるところからゆっくりと動いて、身廊の突き当たり……金模様の天蓋の前で、王は立ち止まった。


「太陽神は人間を支配し、君臨する。命を審判し、罰を与える。…崇敬とともに畏れられる、在るべき神の姿だ」


 薄い天蓋の重なりが空気を含んで膨らむと、その隙間に窓からの斜光が織り込まれて煌めきを増す。


 シアンの視点からは、アシュラフの輪郭を浮き立たせるその光が……残酷に美しく映えた。


「一方の水神は、恵みと慈悲をつかさどる存在故に、すがる人間こそいようとも畏怖の対象とはならない。弱い神だと……誰もが思っている」


「……」


「…だが、…忘れられてはいるが、水神にしか務まらない重役がある。水の神は……」


 アシュラフが手を招いた。


 シアンは、扉にかけた手をずるりと落とす。透明な紐で手繰り寄せられるかのように……足が動いた。


 意思に反して前に進む。


 本当は今すぐ後ろの扉から飛び出したいのに。



 コツ....


 コツ....


 コツ....



 シアンの重い靴音は、斬首台に上がる罪人のそれである。


 行きたくはない。けれど後に戻る道もない。そして向かう先はひとつしかない──。



「水の神は時として……
 陽の火を諫め、呑み込む」


「……っ……わかりま せん」



「……フッ」



 口だけが、その場しのぎの言葉で反抗する。不器用な抵抗はアシュラフに鼻で笑われた。



「わからない?──…有り得んな」



 コツ....



 コツ....



 コツ....



 延々と続くように思える身廊も、その長さは有限。


 本気で逃げ出したいと願うシアンの身体をアシュラフの前まで運んでしまう。


「……っ」


 彼は頭を俯かせた


 血が滲むまで唇を噛み締めた


 息苦しさを覚え、自分が呼吸を忘れていた事に気が付いた


 このままでは じきに指先の力を失うだろう


 そうなる前にシアンは、腰に下げた三日月刀に手をかけた





 ───





 素早く鞘から引き抜き、相手に向けて顔を上げたシアンの頬から涙が散った





「お前が国を守れ───……
 ……っ……あの 日 ‥‥俺に‥‥誓っ‥‥」




「──…!」




「‥‥ッ‥‥‥‥‥ハァ‥‥‥ハ‥‥」
 



 胸を刃で貫かれたアシュラフが
 血の塊を吐き出す



 引き抜いた刀を背後に投げ捨てたシアンが、崩れ落ちるアシュラフの身体を抱き留める




「‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥、‥ッ」




「ぁ‥‥ぁ‥‥!」





 ぐったりと…静かに身を預けるアシュラフを





 震えながら…かき抱いた





 嗚咽が込み上げる





「‥ッ‥‥‥!!‥‥‥そ、して」




「‥‥‥‥‥‥!?」




「俺を‥‥憎んで、くれ‥‥‥‥愚かな、兄を」




「‥‥‥‥」




弟よアジャ‥‥────」





 アシュラフの声が…息が…遠のく。


 最期のひと言は信じられないほど優しくて、胸の傷からドクドクと流れ出る血と同じくらい、温かかった。


 こんなに温かいのに……!


 それきり、言葉が続くことはない。


 力が抜けて重みを増す身体を支え、シアンはゆっくりと床に膝をついた。







《 俺を憎んでくれ 》







「‥‥‥‥は い」




「───…」




「兄上は‥‥このうえなく‥‥愚かでした‥‥!!」





 もう聞こえているのかもわからない。死にゆく兄を抱いて、哀れな弟が 涕泣ていきゅうする──。





 それでも伝えなければならなかった。






「ですが僕は‥‥貴方を憎んではおりません‥‥

 愛する貴方を憎んだことなど‥‥っ

 ただの一度も、ありは しません‥‥‥‥!」






 心から愛する兄は、この孤独な王宮で、たったひとりで戦っていたのだから。






 ふたりきりの悲劇の兄弟は、長く長く続いた離別の果てに、遂に再会の時を迎えたのだった──。















──










しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...