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第二十章
誓い
しおりを挟む「それが私の生きる意味でもありました」
シアンの真剣な眼差しが、男の胸を叩く。
「…では、外の侍従に渡して参ります」
けれどそれについて長く話すつもりはないようで、すぐにシアンは寝所の出口へ向かった。
器の中の湯が、冷たくなり始める。
器を左腕でかかえるように持ち直した彼は、あいた右手を取手にかけて、重たい扉を押した。
その後ろ姿をじっと眺めるアシュラフが
「──…」
健気で痛ましい彼の想いに、たまらず表情を曇らせる。
──
「やはりお前は……
誰よりも不自由だ。シアン・ベイオルク」
....
「───!?」
シアンが扉を押した瞬間
ちょうど同じタイミングで外から入ろうとした別の男と、正面からぶつかった。
「…っ…何事ですか」
その拍子に落とした器が床で跳ね返り、中身を周囲にぶちまける。
「合図もせず勝手に戸を開けるなど…」
「シアン・ベイオルク殿!!そうも言っていられぬ事態だ!」
こぼれた湯のいくらかを浴びた男は侍従のひとりで、濡れた衣を気にとめず大声で喚いた。
「帝国が挙兵し、我が領内に侵攻した!!」
「は…………!?」
「夜のうちに国境を超えたらしい…っ。たった今、伝令が……!」
「帝国が……侵攻……?」
まさか
瞠目するシアンが、すぐに言葉を返せず立ち尽くす。
侍従はなおも叫んだ。
「帝国に引き渡されたタラン様がっ……尋問のすえ、我が国が大量の兵器を隠し持っていると自白したらしいのだ!地下用水路の破壊も火槍の密造もすべて!陛下の命令によるものと言ったらしい」
「……!」
「帝国は大義名分をかかげて王都に攻め入るつもりだっ……これでは周辺諸国も手が出せない、どうすれば……」
いまや王宮全体が大混乱なのだろう。騒ぎはここまで響いてくる。
「と、とにかく陛下にはこちらに留まって頂いてっ……議会の決定を待たれよ」
侍従の男は慌ただしくそう言い残し、緊急招集されている大神殿へと走って行った。
シアンは、そこへ置き去られた。
何が……起こっている
そんな馬鹿なコトが、何故、このタイミングで
「──…何故ですか、ヤン」
シアンが吐息のような声で呟いた。
呆然としたまま、背後に振りむくことができなかった。
帝国の侵攻──。
現実味があるようで無いようなこの事態に対して、自身がとるべき行動が浮かばない。
……違う。本当は
とるべき行動が明らかだから、思考を放棄するのだろうか。
巡り、縺れ、矛盾する
そんな底なしの流砂に沈められたシアンを引き留めたのは
コツンと、石床を叩いた靴の音──。
「──…お前は知っているか?」
「………!?」
恐る恐る振り返ると、長い上衣の裾を引きづり、アシュラフが一歩ずつ此方へ進む。
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