謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く 【R18】

弓月

文字の大きさ
134 / 143
第二十章

誓い

しおりを挟む



──…


 冬の寒さが柔らんだように感じる朝。

 …どうやらそれは違って、窓にかけられた厚い布越しに伝わってきたのは昼の気配──。その隙間から、キサラジャの太陽が光を注いでいた。

 気怠さが残る身体を敷布に沈めたスルタン・アシュラフは、眩しそうに目を瞬かす。

「……?」

 長い夢をみた後のように意識がはっきりとしない。

 どんな夢をみていたのか……

 忘れたが、少なくとも悪夢では無かった。


「──…陛下、起きられますか?」

「……」

 そんなアシュラフの顔を覗き込んだ者。

「すでに昼の刻でございます。お食事か…、食欲がないようであれば湯浴みをされてはいかがでしょうか」

 彼はすでに王宮警備兵の隊服を着て、頭には帽子を被り、腰には護衛用のクルチ(半月刀)までしっかりと身に付けていた。

「シアン・ベイオルク、お前……」

 合点がいかないといった顔でまじまじと見るアシュラフに、いつもの整った顔で応えてくる。
 
「…お前には、余韻というものは無いらしい」

「護衛の身でありながらいつまでも寝てはおれません。朝には起きて、簡易にですが敷布も取り替えさせました」

「ハァ……そうか」

 ため息をつき、やや重い身体を寝台に起こしたアシュラフ王は、少し不服そうだった。

 それもそうだろう。

 はっきりとしない意識の中でも、昨夜の情事の記憶は残っている。それどころか手や肌に触れたあらゆる感触さえ……まだ生々しく思い出されるのだ。なのに

「ふん…小癪だな。慣れたものというわけか」

「……陛下。私はもともと その道 の者です。一夜に十人の相手をした翌日であれ休む暇など与えられません。壊れにくく、丈夫です」

「そのようだな」

 淡々と説明するシアンに、呆れと感心が入り混じる。

 シアンのほうはアシュラフの前に膝をつき、湯に浸した布をしぼると、てきぱきと王の身体を拭き始めた。

 湯浴み前の、簡易な浄めだ。

 裸のまま寝台に腰掛けるアシュラフは、柔らかな布で足を拭くシアンをじっと見下ろしていた。

 すでに自身は身体を洗ったのだろう。王宮で使われる石鹸がシアンの髪から香る。

 それに誘われて手を伸ばしたアシュラフは、サラりと柔らかな彼の髪を撫で、それから頬に触れた。

「……っ」

 普段と同じ冷静さで王の身支度を整えていたシアンが、ピクリと反応して手を止めた。

「陛下……」

「顔を見せろ」

 そっと顎に指をかけると、シアンが面をあげる。

 横から陽の日を浴び、白く反射する睫毛の奥で此方を見上げる瞳。

 言葉を言いかけて開いた唇は…ぽってりと紅く腫れていて、透き通る白肌は、砂金が混ぜられているかのような艶やかさを纏っていた。

 そこには今日だけの特別な色香があり、あの蜜夜が幻想ではなかったのだと、やっとアシュラフは確信できた。


「……あの、陛下」


「なんだ」


「昨夜の、私が犯した無礼については」


「気に留めるな」


「……」


 言いにくそうに切り出したシアンの問いに、即答する。

 それを受けて、シアンは安堵とともに、儚げに笑う。

 僅かな寂しさも滲ませて。


「寛大なご慈悲を…感謝致します。昨夜の過ちは、陛下もどうかお忘れください」


「──…忘れろとは命じていない」


「…っ」


 アシュラフがシアンの腕を掴んだ。

 そして彼を引き寄せて、腰に手を添える。

 寝台に片膝をついて乗り上げたシアンは、驚く間もなく唇を重ねられていた。

 口付けの合間に、アシュラフの片手がシアンの小さな頭を捉えた。意地の悪い指は耳に伸びて、感じやすい耳朶をくすぐる。

 はぁ…と色めく吐息を零した口に、角度を変えて丁寧に蓋をする。

 口内をひと通り堪能した後、舌先でシアンの下唇を舐めて離れた。

「わかったか?」

「かしこまりました…」

 見つめ合う二人。

 赤らんだ顔の輪郭をなぞるようにアシュラフの指が動く。

 ごく自然と、二人の唇が再び重ねられようとした時──

 窓の外でひときわ大きく鳥が鳴いた。伝令の猛禽もうきんが飛んできたのだろう。

 そのお陰で我に返ったシアン達は、互いにそっと顔をそらした。



「……それを渡せ。前は俺が拭く」

「は、はい」

 身体を拭く布を受け取ってアシュラフが立ち上がった。

 シアンは器から別の布をとり、こちらに向けられた王の背をぬぐう。

 それから無言の時間が続いたけれど、それは穏やかな沈黙だった。

 最後に、前開きの衣服をアシュラフの肩にかける。

 胸元があいたゆったりとした服を腰紐で固定し、身支度を終えた。


チャプ...


 湯をためた器を右手に持ち、シアンがその場を離れる。


「…何処へ行く?」

「外で待つ侍従に渡すだけです。私は陛下の護衛ですから部屋を離れることは致しません」

「そうか……ふっ、お前も息が詰まるな」

「どういう意味でしょうか?」

「四六時中、俺と同じ空間で、疲れるだろうと言っている」

「……?」

 呼び止められたシアンは、一瞬、わけがわからずきょとんとした。

 それから大真面目な顔で答えていた。

「──…陛下。かつて賤人せんにんであった私は……何をしようが、生きようが死のうが、そのすべてが己の自由でありました。つまり私が今ここにいるのは他ならぬ自分自身の選択です」

 スルタン・アシュラフは、嘘のない声でそう告げるシアンをまじまじと見る。

「…であれば、自由であったお前を王宮ここへ呼び寄せたものは何だ?」

「それは……」

「目的があったのだろう」

「勿論です、陛下」

 続く問答にも、シアンは即答だった。



「私の目的は、遠き昔の誓いを果たすこと」


「……」


「大切な人へ誓った──…大切な、約束です」







しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...