銀狼【R18】

弓月

文字の大きさ
8 / 63
銀狼

銀狼_4

しおりを挟む


 その男は確かに
 の形をしてはいた。


「──…!! 」


 だが……人と呼ぶにはあまりに、あまりに人外の美しさを放っていたのだ。


 切れ長の双眸。
 大きめな尖った耳。

 左目の下には暗紅色の刺青が…獣の爪痕の形に彫られていた。

 漆黒の長毛の衣を風になびかせ、そこから僅かに見える白く長い指が彫刻のような曲線美を描き

 大胆にひらいた胸元では、首からさげられた紺青色の宝石が妖しく光りを放つ──。

 喜びも悲しみも凍り付いてしまったかのような無の表情が、嫌みなく整った男の美貌を引き立てる。

 果たして本当に男は其処に存在しているのか……それすら疑いたくなる異質な空気をまとっているのだ。

 そして何より

 その見事な銀髪がセレナの目を釘付けにした。

 足までつきそうなほどの長い髪はひとつに結われ、それはまるでタテガミのごとく……

 狼のしなやかな尾のごとく

 月に照らされながらバサリと大きくなびいていた。


“ これが……銀狼の正体……? ”

 セレナは自分が見ているその光景に圧倒され、少しも動けずただ息を呑んだ。

 人の姿に化けるという話は覚えていた。でもまさか……その変化の一部始終を見守る日が来ようとは夢にも思っていなかった。

 それは誰ひとり入れない開かずの間の鍵穴から、中をこっそりと覗き見る感覚に近い。

 見ることは許されない……だからこその眩しさと魅力が此処にある。



スッ───…



「──…!! 」



 フイに伏し目がちの男の顔が下がり、その瞳が暗闇に隠れた彼女を捕らえた。

 長い睫毛に半分を遮られた瞳は、まるで雪深い山の泉のように、底が知れない……吸い込まれそうなグレーだった。


「‥‥ぁ‥ッ‥!! 」

「いつまで其処に身を潜めるつもりだ。
 ───…人間の娘よ」


 囁くような低い声は、小さい筈なのに……彼女の所まで真っ直ぐ届く。

 もう、逃げ道は存在しない。

 その声はセレナの本能にそう伝えてきた──。


 銀狼に見付かった瞬間、セレナは体重が軽くなり、周りの音がうつろになったような錯覚に陥る。

 そんな彼女の目に更に追い討ちをかけるように見えてきたのは……崖に空いた穴々からギラリと光る対の目。

 その凶暴な視線はあらゆる穴から次々に現れると、草むらに隠れるセレナ一身に注がれていた。


「…こ…、ここは…っ」


 なんてこと…

 わたしが来たのはよりによって、狼の巣窟。


「──…さてどうする?」


 銀狼は狼達にではなくセレナに問い掛ける。


「今から必死に此の場から逃げ出してみるか……?
 逃がす気はないが」

「…っ…!! 」

「……それとも私に命乞いでもしてみるか」

「い…命乞い…!? 」


……フッ


「許す気も無いがな……」


 男の表情は今、まさに

 獲物をいたぶる無慈悲な狼であった。












しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...